~第一話~
もしも。あの日、俺があんな事で怒らなければ。あの時、俺があんな態度をとらなければ。あの朝、俺があいつにあんな言葉を吐き捨てなければ。あいつはこの世界で元気に暮らせていたかもしれないのに。
こんなことを思ってしまうのは何回目だろうか。今さら後悔をしてもどうにもならないって事くらい、分かっているのに。だって、あいつはーー俺、萩原椋の妹『実李』は、
死んでしまったのだから。
……そう。妹はもうこの世にはいないのに。いないはずなのに。
「おっはよう!お兄ちゃん!」
朝起きると、何故か死んだはずの妹が満面の笑みでモーニングコールをかましてきた。
「いやぁ~今日もいい天気だねぇ~早く起きないと遅刻するよ…って、お兄ちゃん!?なんでまた寝ちゃうの!?」
夢だ。これは夢だ。それも相当タチの悪い夢だ。まあ最近、家族を失った事によるショックみたいな何かで、よく妹の夢をみるようになってしまってはいたのだが。まさか朝起こしてもらうなどという超リアルな夢をみてしまうほど悪化していたとは。
なんだか声の聴こえ方とか生々しく感じるが、これは紛れもない夢だ。そうだ。夢なんだーーってヘブゥ!?か、体が動かない!?いきなり起こった非常事態に、俺の頭はパニックになる。
状況を把握できていないまま、無理矢理目を開くと、そこには馬乗りになってものすごい形相でこちらを睨んでいる妹がいた。
「もぉ~…起きろって言ってんでしょぉぉ‼」
「ぐ、グアアア‼ヤバい、これは本当にタチの悪い夢だ‼し…死んだはずの妹が悪霊化して実の兄を金縛りにあわせるだなんて…」
「何寝ぼけてるの!これは夢なんかじゃないんだよ!現実現実‼」
「現実な訳ないだろおおお‼てかなんで夢の中でこんなに会話ができるんだ‼ああああもう俺は末期だあああああ」
「落ち着いて‼確かに私は幽霊だけど、悪霊とかじゃないし!むしろ、良い方…なのかな?」
なんだか妹(?)が結構ズレた事を言ってきたので、俺は少し落ち着きを取り戻した。
「ハアア!?意味分かんねえし…まず金縛りかけてくる時点で良い方とは言えないだろ…しかも口の端から血が垂れてるし、怖いわ‼」
「むう…それはまあしょうがないとして」
しょうがないものなのか。そんな俺の心の声は届かず、妹(?)はコホン、と咳払いをして話を続けた。
「私は特別にたった一日、この世ーー現世に来る許可を得たの。寂しがりのお兄ちゃんのためにね」