タイトルマッチ
そんな感じに遠征は進みLvが38まで上昇した。
まだまだ伸びそうではある。
そうして宿への帰り道での事。
「羽橋、何Lvになった?」
「ん? 38だが」
「……もう少し欲しいか?」
依藤がポツリと零す。
なんだ? 何を企んでいる?
「それよりもクマ子のLvだな」
「ガウー?」
そう、クマ子のLvが30から上がらなくなった。
グローブの方は拡張能力って訳じゃないけどボクサーの技能のLvも上がらない。
ラムレスさんの話じゃユニーク武器の技能というのは持ち主のLvで左右される物じゃないそうだ。
で、クマ子に関して言えば、近い問題としてグローブの許容できるLvギリギリになってしまったからなんだとか。
ちなみに30で覚えた拡張能力はハニーハント。
ラムレスさんの話では蜂蜜で回復する効果が物凄く伸びるとかなんとか。
俺達とLv差が開き始めているのは多分、よくない傾向だと思う。
「グローブの強化をしないのか?」
「そう言えばそこまでやってないな」
確か、+5で止めていたはずだ。
面倒だった訳ではなく、安易に魔物を呼んで良い物じゃないからと思って、あまり使わずにいた。
「じゃあ姫野さんもいるし、やった方が良い」
と、依藤が妙にプッシュしてくる。
なんだ? 何が目的なんだ?
ほんと、依藤は俺に対して構い過ぎる傾向がある。
で、茂信に何か囁くと茂信も頷いた。
「そうだな。少しでも戦力を増強する為にクマ子のグローブは強化しておけ」
「はあ……わかったけど、何をするんだ?」
まあ流れ的に強化をさせようって所だろう。
近くにタイトルマッチがあるのか……。
「気にするな。結果的に幸成の為になる事だから」
「うーん……」
「ガウ?」
「じゃあ、とりあえずやってみるか」
「ガウー!」
俺の意図を察して、クマ子がベルトを外して掲げる。
ちなみに今、俺達がいるのは海岸で、村の結界から少し離れた所だ。
さすがに結界内ではベルトについてるメダルも発動しない。
キラっとメダルが光り、魔物を呼び寄せる。
「「「ガウー」」」
……俺達は声の方に目を向ける。
なんだあれ!?
「うわ! 何だあれ! ギャハハハハハハハハハ! ゲホ……やっべ、気管に入った! ゲホ!」
先に村に戻って海岸で休んでいたらしき萩沢が、現れたパンチングベアー達を指差しながら爆笑している。
咽るほど笑うなよ。
俺も凄く呆れてはいるんだからさ。
そう……パンチングベアー共は何故か揃ってサーフボードに乗り、サーフィンをしながら俺達の方へやって来ているのだ。
器用に腰を振るな気色悪い。
クマ子もサーフィンするのだろうか。
「わークマのサーフィンですね」
「魔物が自由すぎる……」
「えっと……生息地域から離れた所へ呼び出すとこういう事が起こるそうです」
ラムレスさんも対処に困ってるって感じだ。
近くにいたクラスメイト達は揃って笑いを堪えている。
「アイツ等を倒すのか?」
「出来れば避けたいが、そうらしい」
「ガウ!」
という事で俺はクマ子をグローブにしてパンチングベアーに挑んで行った。
まあ、Lvもあったお陰で楽に倒せたけどさ。
うん、ほんとLv差で余裕になった感じだ。
武器は若干火力が足りない……のかもしれないけどよくわからないな。
で、グローブは強化された訳だ。
そんな夜の事。
「羽橋」
「ん?」
夕食を終えて宿で休憩を取っていると依藤が俺に声を掛けてくる。
あ、茂信や萩沢、実さんも一緒だ。
「何? 何かあったか?」
「いや、これからみんな夜の狩りに行こうって話になってな」
「え? まあ別に良いけどさ……みんな?」
「ぶっちゃけ昼間に話していた事でもあるんだ」
「何を……?」
「幸成もなんとなくわかってるんじゃないか?」
「まあ……」
「ガウ?」
なんとなくだけど依藤や茂信達が何をさせようとしているのかわからないはずもない。
タイトルマッチだろう。
「これから行く目的はな――」
と、依藤が答える。
案の定、そうだった。
「事前準備は万端って言うか、この為にこの海岸を選んでたとかなのか?」
「いやー……それもあるが、色々と好条件が重なっただけだよ」
はぁ……と俺は深く溜息を吐く。
頃合いだと思ったし、日中に俺のLvを上げてくれたのには理由があると思っていたが、ここまでお膳立てされると凄く悪い気がしてしまう。
「さあ、行きましょう! クマ子ちゃん!」
「ガウ!」
「今回はクラスのみんなで行く予定だ。十分に……」
「娯楽になるって事だろ?」
もはや生贄にされた羊のような心境だけど、クマ子のこれからの為に乗り越えなきゃいけない問題らしいからやるしかないだろ。
要するにグローブの強化モンスターがこの辺りに生息しているんだ。
依藤やラムレスさん、茂信辺りが夜間にちょっと出かけて行ったのを覚えている。
ボスが出現したか確認しに行ったという所だろう。
「みんな準備を終えているなら、さっさと行くぞ」
「すまないな、羽橋」
「気にするなって、むしろサプライズにするのはやめてくれよ。痛いのは俺なんだから」
「ああ、次からはそうする。ちなみに二段階上のユニークボスだから十分に注意してくれ」
「段階飛ばしで挑めるのか?」
「その辺りはチェック済みだ。パンチングベアーは同階級のグローブ系のモンスターでは上位だから一段飛ばしで対応してくれる」
宿を出るとクラスメイト共がぞろぞろと付いてくる。
団体で移動とか、何かバカバカしく思えてくるから不思議だ。
……村の連中とか騎士とかも一緒に来ないでほしい。
娯楽じゃないんだから!
そう思いながら依藤達の案内で海岸沿いを歩いて行く。
俺達が狩っていた海岸とは反対だな。
やがて、整地しているかのような岩の大きなテーブル……リングが見えてくる。
多分、近付くと出てくるんだろうな。
「今のLvなら間違いなく勝てるはずだ。防具は十分に付けろよ」
「茂信……お前なぁ」
茂信がここぞとばかりに俺にヘルメットを付けさせる。
現地の魔物で作ったヘルメットか?
と、思ったらこれ、パンチングベアーの毛皮じゃねえか!
完全に何かの冗談に見える。
「すぐに出てくる! 気を付けろよ!」
「ああ」
と、俺がリングになるであろう岩場に近づくと、ニョキッとリングのコーナー辺りにサンゴが生えて、海藻がロープとなる。
ザバッと海中から何かが這って出てくるのを確認した。
「ヴォウウウウウウウウウウウ!」
オットセイっぽいけど若干トーンが低い。
そんな声を上げてグローブを着用したオレンジグローブナイトウォールラスってオレンジ色のグローブ付けた……セイウチじゃねえか!
しかも何の冗談なのか、全員パイレーツみたいなバンダナを頭に巻いてるし!
「ヴォウウウウウウウウウウウウ!」
ドスンと音を立てて海中から一際デカイ、オレンジグローブナイトウォールラスがリングの上に着地した。
もはや何でもありだな。
なんでコイツは船長の帽子を被っているのだろうか?
牙が長い!
「うわぁ……おっきなセイウチさんですねー」
実さんがオレンジグローブナイトウォールラスのボスを見上げて言い放つ。
「あれ? あんなにでかかったっけ?」
おい、依藤!
そのセリフはどういう事だ!
不安になってきたぞ……。
「アレと戦うのか」
「ガウー!」
クマ子が戦いの気配を悟って毛を逆立てて威嚇している。
倒すべき敵だと理解しているのか?
「ヴォウ? ヴォウヴォウヴォウヴォウ!」
オレンジグローブナイトウォールラスのボスが俺とクマ子にグローブを向けてから馬鹿にするように鳴く。
部下のオレンジグローブナイトウォールラス共も合わせて手を叩いて指差して笑ってるぞ。
相変わらずこのタイプの魔物は態度が悪いな。
何がそんなにおかしいんだ?
「勝負はしてくれるでしょうが、一段階飛ばしている為に馬鹿にしているのでしょう」
ラムレスさんも冷静に分析しないで欲しい。
で、オレンジグローブナイトウォールラスは再度俺達を爆笑した後、リングに上がる様に指示を出してくる。
どうする? 受けるか?
それとも逃げるのか負け犬? 身の程を知れよな?
みたいな挑発をしてきやがる。
どうしてこの手の魔物は挑発を絶対に忘れないんだろうな。
武士道とか騎士道……せめてスポーツマンシップの様な物を持っていて欲しい。
……そんな事を魔物に言っても無駄か。




