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拠点組

「強ければ何をしても良いのか?」

「……は! 別にお前じゃ無くても鍛冶は出来なくはねえから良い。調子乗るんじゃねえぞ」

「調子に乗ってるのはどっち?」


 飛山さんが不快そうに眉を寄せる。

 調子に乗っているのは確実に谷泉だろう。


「あ? なんだよ? 文句でもあるのか?」

「あのね。谷泉君、狩りを終えて帰る時に魔物が沢山いる所に私がワザと送りつけたらどうなるかわかってるの? みんなで協力してこの状況を乗り越えようとしてるんだよ?」


 飛山さんは一歩も引かずに谷泉に異議を唱える。


「あ!? 何かまそうとしてんだ! 俺を脅したつもりか?」

「強いからって何をしても良い訳じゃないんだよ?」

「は! 何を言ったって無意味だぜ。俺達を脅そうったってそうはいかねえぞ!」


 谷泉は茂信に作ってもらった剣を茂信に向けて言い放つ。

 さすがに女の子である飛山さんには向けない様だ。


「こっちには能力複写の小野がいるんだからな」


 そう……戦闘組の中には変わり種の便利能力を持つ能力者がいる。

 そいつの名前が小野啓介と言う……転移後の世界で立場が向上した奴だ。


 小野は谷泉を初めとした学校の不良連中にイジメられている奴なんだが……自業自得な面が強い。

 校則を破っておきながら『権力には屈しない』とか教師に言ったり、誰かがイジメられているのを助けると『もっと速く助けろ』とか言い出して礼を言えない。

 かなりヤバイ奴だ。


 最初はみんな、谷泉を含めて不良に絡まれているのを助けようとしたんだが、そんな感じの事を繰り返した所為で誰も助けなくなった。

 小野自身に非がある訳だし、いじめて良い理由にはならないが、助ける理由を自ら放棄しているのだから見捨てるほかない。


 だが、転移後には複写能力を得たお陰で、ゲームに造詣の深い谷泉にとって都合の良い人材として受け入れられた。

 まあ目付きや行動の端々に谷泉を軽蔑してて、いつか下剋上をしようとか思っている節はあるが。


 ちなみに所謂ぼっち独特のネクラっぽさが小野にはある。

 なるべくしてぼっちになったと俺は分析していた。


「武具の作成は小野がいれば出来るんだよ。ポータルもな」

「……その彼の能力の制限は聞いたじゃないか」


 茂信が一歩も引かず、クラスメート達を庇う様に答える。

 小野の話では能力複写の効果時間は3時間。

 一度使うと再度複写しないと使用できない……らしい。


「射程範囲がどれくらいあるか知らないけれど、最悪俺が命を張る事で……谷泉、お前達の横暴を止める事が出来る事を忘れるな」


 つまり茂信がいなくなったら小野の能力は使えない。

 結果的に武器や防具を作れる存在がいなくなる。

 こういう、誰かの為に命を張れる所が茂信の魅力的な所だと俺は改めて認識した。

 そんな真似を俺も飛山さんも、拠点組のみんなもさせたくないと思っている。


「……け! 調子に乗るんじゃねえぞ!」


 今はまだ茂信に横暴な態度は出来ないと悟ったのか、不快そうに谷泉は離れて行った。

 とはいえ……クラス内で、どっちの派閥に付くかという認識が形成されつつあるのもまた事実。

 知的な日本の学生であった一週間前。

 今は力が支配する陰湿な空気が……この場所に充満していた。


「まったく……谷泉の奴、どうしてこんな横暴な事を……」

「どんどん状況が悪くなってる気がする……」


 飛山さんも嘆く様に呟いた。


「大丈夫?」


 咽る学級委員に姫野さんが拠点回復を施す。

 谷泉達のLv上昇による強さは目覚ましく、片手で人間を軽く持ちあげられる様になってしまっている。


 拠点の外にいる魔物は拠点組の能力では正直、素手で勝つのは難しい程強い。

 初日に倒したホーンラットでさえ、能力の使用なしでは倒すのが難しいのだ。

 基準で言えば序盤の雑魚なんだろうけど……そもそも情報が少ないこの状態で戦闘に向いていないのは相当不利な状況なんだ。


「どうにか俺達にも戦える手段があれば良いんだがな」


 すごく嫌な予感がする。

 このままLv差が開けば……既に暴走状態にある戦闘組の暴走は更に増長して行くのは明白だ。

 そもそも現在の空気は日本にいた時のとは異なる……押しが強くてみんなを先導している谷泉の方に傾き始めている。

 拠点組と分類されている連中の方が人が少ないからこそ……なんだろうけど、力が支配する環境で強さを見せている谷泉の発言力はそれだけに強い。


「その事なんだけど、もう少し物資が潤滑に回ってくれば……切り口はあるかもしれない」

「そうか……とはいえ、護身用のナイフくらいは持っている。これで戦えるかもしれないぞ」


 俺は日本に帰る事が出来る能力を持っている。

 谷泉が今使っているのは魔物の骨を使って作ったボーンソードと言うものだそうだ。

 切れ味なら俺が日本で買った携帯用のナイフの方が勝ると思う。

 密かに茂信に渡した代物だ。


「それも手だけど……まずはどれだけ怪我をしないで済むかの防具が重要なんじゃないか? 日本とは常識が違うのはわかる」


 茂信がそう答える。

 何でも谷泉達もその辺りの認識はあるそうで、防具の注文の方がうるさい。

 馬鹿に出来ない要素なんだろう。


「谷泉が持ってくる物資が常にギリギリだけど、そろそろ魔物の乱獲をして行くと思うんだ。そうなれば素材を誤魔化してみんなの防具を作れるかもしれない」


 前線組のおこぼれを頂いて、俺達は強力な装備に身を固めて後ろから追いかけて行く。

 ……谷泉はその暴挙を許すかかなり怪しいがな。

 言わば谷泉にとって楽しい王国が現状構築途中な訳だ。


「幸成……ここ一週間、お前は周りのみんなに食べ物を分け与えていただろ」

「私も聞いたよ」


 飛山さんが優しげな笑みを浮かべて俺の手を握る。


「凄く立派な事だと思う」

「まあ……」


 料理はあるにはあるんだが、配給される量が少ない。

 谷泉はその辺りを察しているのかいないのか、自分達が殆ど食べて、残りを拠点組に明け渡している。

 連中の持ってくる魔物……植物型の魔物もいるし肉になる魔物もいるのだが、その魔物が現在の食料となっている。

 それしか食べ物が無い以上、それを食べるしかない訳で。

 俺? 飯は全部、家で食べているが何か? 昼飯は母さんの弁当だ。


 ……ともかく拠点組の連中は料理をする能力者と茂信、結界能力者以外は飢え気味だ。

 茂信と飛山さんは食料の一部をみんなに分けているから、実際は結構こたえているはずだ。

 谷泉達の理屈だと働かざる者食うべからず、だそうだがお前が働けない様に導いている様にしか見えない。

 そういう訳で少ない食料を俺が消費するのは忍びないので、周りにまわしている。


 そもそも戦闘組で固めてどうするんだよ。

 拠点組もせめて荷物持ちとして連れて行けよと思うし、茂信も進言するが聞き入れる気配が無い。

 おそらく、谷泉は拠点組のLvが上がって制御出来なくなるのを恐れているんだろう。

 だから食料を少なくする事で拠点組を追い詰めている。


「すまないと思ってる……谷泉の暴走を止められない俺を憎んでも良い」

「何を言ってんだ。俺は食べなくても良いから他の連中に回してるだけさ」


 そっと俺は表面に英語の文字が書かれた徳用のブロックチョコレートのバラを茂信と飛山さんに渡す。

 家に置いてあった、母さんが買った奴を何個か拝借してきた。

 この程度の量なら持っていても不自然じゃないしな。

 今の級友達だったら泣いて喜ぶ品だ。

 それだけみんなの日本に帰りたい、という気持ちは高まっている。


「まだカバンに入ってたからさ。腹が減った奴に内緒で食わしてやってくれ」


 俺が菓子類を配るのは初めてじゃない。

 この一週間、何か理由を付けてはお腹を空かせている奴に渡していた。

 どこかで見られたのか、あるいは内緒だと言って渡していたのをバラした奴がいるのか。

 いや、俺が菓子を配っているという話が周知になる事自体に不満は無い。

 周知になって問題なのは、配れる量に限界が出来てしまう事だ。

 既に相当な量を配っている訳で……今は極限状態で気にならないかもしれないが、ちょっと考えれば持っている量がおかしい事に気付く。

 どんだけ学校にお菓子を持ってきているんだって話だ。


 ……失敗したな。

 早い内に能力を使って日本から物を召喚出来る、とか言っておけばよかった。

 今更、ポイントを消費して日本から物を持ってこれる、と言ったら今まで隠していたのか? となる。

 谷泉や小野に目を付けられない様に、と警戒し過ぎた。


 後から気付いたんだが……とか言って、せめて食料位は提供するか?

 ……とはいえ、俺が持ってこれる物にも限界はある。

 さすがにクラスメイト全員の食費を賄える程の金銭を俺は持っていない。

 日本の物を持って来るには、当然日本の金が必要だ。

 今ですら小遣いを切り崩して回している訳で、一介の学生である俺が回せる金銭には限界がある。

 転移の能力を使って万引き、なんて事も考えたが、さすがにそんな事は出来ない。


「いや、でも……」

「気にするな。えっと……あれだ。俺は甘いの苦手だからさ」

「幸成……」

「羽橋くん……」


 茂信が涙ぐんでる。

 飛山さんも何か感動した顔をしてるがやめて欲しい。

 凄い罪悪感。

 実は毎日腹いっぱい飯を食っている、なんて言えねぇよ……。


 だが、ここでみんなに俺の秘密を話す訳にはいかないんだ。

 茂信や飛山さんの事は信じているし、疑っている訳じゃない。

 だけど何処から秘密が漏れるかわからないんだ。

 お菓子を配っている事が漏れた様に、な。


 谷泉は自らの王国の支配をしておきたい。

 大塚は帰りたい。

 他の連中もそれぞれ思っている事があるだろう。


 そんな中で俺だけ帰れる事実を知ったら、みんなどんな顔をする?

 羨ましがるだけならまだ良い。

 確実にそれだけじゃ済まないだろう。

 谷泉にしたら帰る手段を出せる危険な存在で、大塚からしたら帰る方法を独占している卑怯者。

 小野辺りも狙って来る可能性がある。アイツは信用できない。

 果たして本当に複写なのか怪しいもんだ。

 

 というのも、それとなく小野にコンタクトを取り、俺の能力を使わせた事がある。

 小野自体は面倒そうな顔で嫌々って感じだったけどな。

 それはともかく、意識を誘導して自分に転移を使える所までは持っていけた。

 ……しかし、小野は日本に帰れなかった。

 小野が日本に帰還した事で俺も認識が外れたのかとも思ったが、特にそういう事はない。

 なんせ小野本人が俺の能力をゴミ扱いしたし、谷泉にもそう報告していた。

 しかも無駄な時間を取らせるな、とか文句まで言われたしな。

 転移可能範囲も飛山さんを遥かに劣るとか言っていたが、俺が試した感じだとそんなはずはないんだが……。


 これはどういう事なんだろう?

 小野の能力、複写に限界の様な物がある、とか?

 そういえば茂信の能力である鍛冶を複写出来るはずなのに、谷泉は可能な限り茂信に能力を使わせている。

 ……ポイントの消費量が本物よりも掛かるとか作れる物のランクが下がる、とかかもしれない。

 同じ理由で、小野が俺の能力を使ってもいくつかの制限を受ける、とかだろうな。


 ……ともかく、俺はどうにかしてこの状況の打開を模索しないといけない。

 が、戦う術がない。

 日本に帰る事は出来てもみんなを救う手段はない。

 信用できる戦闘組の奴にLv上げを手伝ってもらうという手もあるが……谷泉の支配の所為で勝手な行動は命の危険を招く。


 しかも戦闘組も拠点組みたいになりたくないだろうから、協力は絶望的だ。

 教師も重傷を負わされた所為か、怪我が治った後も、注意所か誰かが近付くのさえ脅えを見せている。まああんなの受ければ誰でもそうなるだろうが。


「……」


 案外、サバイバル時って人間の本性が明らかになるな。


「とりあえず待っていて欲しい。俺達もどうにかするからさ」

「うん。羽橋くんがみんなの為に出来る事をしてるんだもの。私達もがんばらないと」

「俺の事は気にしなくて良いから、二人……姫野さんも入れたら三人かな? は、作戦の為にがんばって欲しい」

「もちろん」

「ええ」


 茂信が物資とポイントをくすねる余裕が出てくるのを待って一週間経過する事になった。


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