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戦闘組

 クラス転移から一週間が経過した。

 日本に戻った翌日、俺は念のために自分のクラスに戻って確認した。

 するとクラスには俺の机だけポツーンと置かれていて、クラス名簿も同様に俺の名前だけ書かれていた。

 通り掛かった教師に俺のいたクラスだけ俺の名前しかない事を尋ねると同様の何もおかしくないだろと言われた。


「確かに数はおかしいけれど、前からそうだったし……何かあったか?」


 とか不思議がっていた。

 しつこく突けばどうにかなってしまうのかもしれないが、また俺が転移するとその辺りの認識は曖昧になってしまいそうなので、指摘しなかった。

 というよりも状況があまりに不気味過ぎて、指摘出来なかった、と言うべきか。


「じゃあ狩りに行くぜー」


 谷泉は相変わらず調子に乗ってここの外を調べて来ると仲間を募って魔物退治に出かけている。

 茂信に武器や防具を作ってもらって楽しげだ。

 とりあえず、一週間で構築されたのは戦闘組と拠点組という括りだ。

 戦闘組は文字通り戦闘向きな能力を所持した者達。

 明らかになったのはステータスの項目内にあるパーティー機能。

 任意の者同士でパーティーを組むと経験値やポイントを共有できるそうだ。

 戦闘向きな、発動も早くて敵を攻撃できそうな能力の連中が率先して狩りに行く環境……完全にゲーム感覚だな。


「谷泉くん! みんな状況に付いていけないんだ。みんなを煽動するような真似をする前に話し合いをすべきだ」


 あまりにも早計な行動に出る谷泉を教師は注意したのだが。


「あ? 雑魚魔物相手に逃げ惑った癖にまだ教師面をしてえのか? ちょうどいいや、俺達とどれだけ差があるのか教えてやるよ!」

「え? 谷泉……ぐ、ううう……あつ! やめ、やめなさい! う……」


 そう言って谷泉は教師に能力を使い、袋叩きにした。

 みっちりと時間を掛けて、ここで誰が一番偉くて強いのかを見せつけるかのように怪力で持ち上げ、炎で炙る。


「何やってんだ! やめろ!」


 茂信が間に入って大きな声で怒鳴ったが、谷泉は拷問を続ける。

 完全に調子に乗っている感じだ。

 茂信は谷泉に掴み掛かって止めさせた。

 結局、茂信と同じく、良識のある連中が止めたのだが、谷泉の派閥は喧嘩慣れしているので肉弾戦でも不利……馬鹿に刃物という状態だ。


「何マジになってんだよ。現実を突きつけてやっただけだろ」

「ふざけるな! これは犯罪だぞ!」

「ハッ! 協調の輪を乱す奴がこの場では犯罪者なんだよ。コイツは俺達の輪を乱そうとしたんだ」

「はぁ……?」


 さすがの茂信も本気で呆れ顔だ。

 谷泉に常識は通じない。

 結局、茂信が間に入った事で教師への拷問が終わった訳だが、教師は心も身体も重傷で、逆らう様な事は言えなくなってしまっていた。

 元々教師って人種を信じていた訳じゃないが……大人が谷泉を注意する事は不可能。

 力によって押さえつけねば聞き入れそうにない。

 だが、この場にはそんな連中は居なかった。

 武道に心得のある者は総じて戦闘組、谷泉の言う事に筋があると思っている様だ。


「という訳で、文句がある奴はコイツと同じ目にあわせるからな」


 などと教師を指差しながら谷泉は言った。

 当然、茂信が文句を言った訳だが……谷泉は茂信には火炎能力を使わなかった。

 この時はわからなかったが、後々理由が判明する。


「ちっ……さーて、拠点組。ちゃんと仕事をやっておくんだぞ!」


 上から目線で言って去って行った。

 他に残された戦闘組の連中も不服に思いつつ魔物を倒しに行く。

 食料や物資の調達に必要な事なんだ。


「とりあえず、やる事はやっておこうか」


 などと拠点組も動き出す。

 拠点組は文字通り拠点での役に立ちそうな技能を持った者達の総称。

 俺もここにカテゴライズされている。


 拠点防衛という訳じゃないが、俺達が意識を取り戻したこの広場が住処となっていて、複数の家が作られた。

 工作という、鍛冶とも違う能力を持った奴が材木を利用して作りだしたのが始まりだ。

 戦闘組が材木を調達してきてさっそく家を作らせて住み始めた。

 実際に作った拠点組を押しのけてな。


「俺達はお前等の為に戦っているんだよ。だから優先して家に入る権利がある」


 とか谷泉の奴は言い張ったが、俺達の為じゃなくて自分の為だろ。

 自分達がどれだけ行けるか魔物を倒して見定めているのは一目瞭然だ。

 まあ……森の木を伐採して運べば家はどうにかなるから良いんだけどさ。

 俺の転移で伐採済みの木を運ばされたっけな。

 その事自体は不満じゃないが、日に日に谷泉への不満が溜まってきている。


 ヒステリックだった大塚は三日目辺りでヒステリーから泣きに変化した。

 奴の能力は戦闘向きだそうで戦闘組に強引にねじ込まれて戦いに出されていたから、それが加速したのかもしれない。

 谷泉も良くやる。


 茂信と親しい戦闘組の話だと、俺を殴り飛ばした時に度胸というか戦える気概があるのを見ていたらしい。

 ま、この大塚は二日目に力を合わせて能力を使えば帰れるかもしれない、と飛山さんと俺を使って実験させ……帰ろうとした。


 力を合わせるって漫画みたいな事が出来たら良いんだけどな。

 どうやるかわからないし、手を合わせたり意識を合わせる……大塚を元の世界にー……っとイメージしたが失敗した。

 結果、大塚は再度暴れて俺と飛山さんは被害を受けた。

 何かあったら相応の報いを受けさせてやるつもりだ。


「飛山さん」

「何? 羽橋くん」

「元の世界に帰還させられる様に転送出来ない? 具体的には自分だけとかみたいな感じで足元に出してさ」

「え? うーん……やってみるね」


 それとなく飛山さんに俺の帰還方法を実験させてみたんだが……。


「うーん……出来ないみたい」

「そっか、変な事聞いてごめん」

「ううん、良いの。何でも実験するのは大事だよね」


 という感じで失敗している。

 どうやら飛山さんには出来ないらしい。


 で、拠点組の中には結界生成という任意の相手以外を拒む領域を作り出す能力を持った奴がいる。

 そいつがこの広場に魔物が入れない様にしてくれたお陰で、火の番とかせずにみんな休む事が出来る様になった。

 まあ……俺は転移で自宅に戻って飯と温かな布団、風呂の入浴でゆっくりさせてもらってるけどさ。

 少しずつ谷泉達が帰ってくる時間が遅くなって来ている。

 その分遠くへ行っているようだ。


 この日は任せられた材木運びを終えると陽が沈み掛けていた。

 そんな頃、谷泉が帰って来た訳だ。

 きっとまたウザイ事を言うんだろうな。


「そろそろ往復するのが面倒になって来たな」


 帰って来るなり谷泉が飛山さんを見つめて言い放った。

 ほらな。きっと碌でもない事を考えているんだろう。

 拠点の周りに出てくる魔物が雑魚化して倒す価値も無いとか思っているのは明白だ。


「明日から飛山は俺達と一緒な」

「良いけど……」

「なんだ? 俺の案が不服ってのか? なら何か良い案を出してみろよ。反対だけじゃ何にもならねえぜ?」

「そういう訳じゃない」


 という訳で飛山さんは俺と違って戦闘組に混ぜられ、Lvも上げてもらっている。

 きっと遠くに行っても帰ってこられる様に飛山さんを連れている、とかだろう。

 飛山さんを移動道具として扱っているのに対し、谷泉は俺を視界にすら入れなくなった。

 それはそれで傍観者でいられるので楽だけどさ。


 ちなみに飛山さん自体はいつも俺達に対して申し訳なさそうにしている。

 特に俺に対して気を使っている節がある。

 ……下位互換とか言われてるし、自分が気を使わないと、なんて思っているんだろう。

 人格者だし、突然豹変でもしない限りは信用できる人だ。

 むしろ毎日、谷泉と一緒に行動させられて哀れに思えてくる。

 機会があれば助けてあげたい。


「良い感じに魔物を仕留めて強くなれて来てるし、良い傾向だぜ。俺が最強だ!」


 谷泉は終始こんな感じで調子に乗っている。

 多分、異世界を一番楽しんでいるのコイツだ。



 で、俺は何をしているかと言うと……。


「はぁ……お腹空いた……」


 昼間、谷泉達戦闘組がいなくなってから、俺はお腹を空かせて溜め息を吐いているクラスメイトに近付いてこう言った。


「これ、食べる?」


 転移で日本から持ってきた菓子を見せる。

 するとクラスメイトは表情を変えた。


「い、良いの?」

「ああ」

「羽橋くん、ありがとう!」

「あ、でも、この事はみんなには秘密な?」

「うん!」


 そう元気に頷くと周りに見えない様に、クラスメイトはお菓子を食べ始めた。

 こんな感じで、密かにクラスメイトに食べ物……怪しまれない為に、お菓子を配布している。

 だから谷泉達戦闘組からは無視されているが、拠点組からは悪く言われていない。


 やる事が小さい気もするが、しょうがない。

 日本に帰還出来る事を公言していないのだから、あれこれ持って来る事は出来ない。

 結果、俺が出来る事にも制限が出て来る。

 なんか名案が浮かべば……。

 などと考えている内に谷泉が指揮している戦闘組も少しずつ変化してきた。


「おい、お前等俺に奉仕しろよ。お前等を守ってやってんだから」


 なんて谷泉と一緒になって横暴な事を言い始めた。

 何かあると谷泉は最強とか騒いだ挙句、クラスの女子に色目を振りまく。

 女子の一部もそんな谷泉に対して魅力的に感じている匂いがするんだよなぁ。

 これが所謂、極限状態という奴なのかもしれない。


「何を言っているんだい谷泉。指揮も何も民主的多数決をして方針を決めるのが文明人だろ?」


 学級委員が谷泉に不快感を示しながら答える。

 言っている事はもっともだが、相手が悪いと思う。

 俺個人としてはその意見に賛同するが、今の状況では誰も頷かないだろうな。


「は? 何言ってんのお前? ここは日本じゃねえし、民主的多数決? 強い奴が偉いに決まってんだろ。文句があるなら俺に勝ってから言えよ」


 当然の様に谷泉は自分の優位性を見せつけて言い放つ。

 つーか、学級委員の胸倉を掴んで脅迫まがいに言うんじゃない。

 俺が文句を言っても良いが、谷泉の中では俺の能力は飛山さんの下位互換。

 俺が話しかけても基本無視しかしなくなって来た。

 おそらく存在価値は無いとか思っているんだろう。


「暴力をするのはやめるべきだ!」


 学級委員も谷泉の態度には脅えを見せつつ、言う事は言う。

 結構精神的にタフな学級委員だと思う。

 そういう意味で、俺は彼を尊敬している。


「……そうだ。いい加減にした方がいい」


 そこに……茂信が不快そうに谷泉を注意する。

 拠点組の中で戦闘組の生命線になっているのは茂信だ。


 茂信は現在、拠点組の中で戦闘組に意見出来る立場にいる。

 さすがに素手でいつまでも魔物と戦えないし、持ち帰った魔物の死骸や物品で装備を作ってくれる茂信の機嫌を損ねたらどうなるかを谷泉も理解はしている。

 だから文句を言う茂信を火達磨にしなかったんだろうし。

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― 新着の感想 ―
[一言] お前を殺すことなんて簡単だってことをちゃんと理解させないと駄目だろ 特異な能力を持っていようが人間なんて簡単に殺せるだから 寝込みを襲ってもいいし、後ろから殴るでもいい 飲食物に毒物を混ぜ…
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