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強奪

「なんだこの壁!? まさか結界!?」


 逃げようとしたクラスメイト達が結界の壁に阻まれて驚愕している。

 くっ……結界が全員を一人一人、囲う様に張られている。

 俺達を今まで守っていた結界が、ここで最大の障害となって立ちはだかっている。

 やばいな……これじゃあ逃げられない。

 逃げられないなら、今の内に……。

 俺は視覚転移を使用して茂信の工房に置いてある武器を引き寄せる為の詠唱に入る。

 メタルタートルの剣ならこの結界でも壊せるかもしれない。


「わ、私は小野くんの味方よ。良ければ今夜、小野くんに奉仕するわ」

「私も!」


 引きこもっていた皆川さんと俺に色々と恵んでもらっていたにも関わらず俺を下位互換と罵倒した女生徒が小野側に付こうとする。

 しかし……。


「はぁ? ブスとビッチを俺がハーレムに入れる訳ねえだろ! 能力もゴミだし、お前等は最初から数に入ってねぇんだよ!」


 皆川には光の玉を飛ばし、俺を罵倒した女生徒には地面から棘が出現して貫く。


「きゃあああああああああああ!?」


 更なる悲鳴が上がる。


「皆川さん!」


 実さんが倒れる生徒達に手を伸ばそうとして結界に遮られる。

 拠点回復の範囲外で治療する事さえ出来ない様だ。

 くそ、俺は転移が完了するまでに足掻きとばかりに壁を殴りつける。

 硬い! 三週間に渡って魔物の侵入を防いでいた結界の強度に驚くしかない。

 しかも……結界能力者の結界よりも硬度が高いのが殴り付けてわかった。

 Lvなどが関係している可能性が高い。


「ああもう、うっせーな! 抵抗すんじゃねえよ!」


 抵抗するに決まってるだろ!

 むざむざと殺されるバカがどこにいるんだよ。


「小野おおおお!」

「やめるんだ!」

「お前はクラスメイトを何だと思っているんだ!」


 茂信を初め、みんな揃って小野に怒鳴りつける。

 その糾弾に拠点組、戦闘組という区別は無い。


「く! なんて硬い壁なんだ!?」

「――能力が使用できない!?」


 こんな時に戦闘組の奴等、結界を破壊しないで何をしてるんだよ!?

 そう思って視線を向けると、各々武器を振りかぶって結界を破壊しようとしているがビクともしていない。

 戦闘組の威力でも壊せない程硬いのか!


「ああ、プレイヤー気取りのお前等の能力は俺が順次、強奪で奪っている。もはやお前等は主人公でもプレイヤーでも何でもない。ただのクズ共だよ。大人しく消えろ。この世のゴミ共!」

「く……」


 小野が完全に舐めた目付きでクラスメイト達を見つめる。


「さて、みんな、男達は揃ってクズだ。生き汚いだろ? もっと状況を理解しろよ」


 手始めとばかりに近くにいたプレイヤー組の生徒を結界で閉じ込めて小野は剣で突き刺して仕留める。

 ガードをしたが、まともに動けない挙句、能力まで失った生徒は成すすべもない。

 それでもみんな諦めるはずは無い。


「拡張能力なら奪われても使えるみたいだ! ……みんな! 壁を壊すんだ!」


 小野が奪える能力はメインの能力だけなのか!

 それなら間に合えばまだ助けられるはずだ。


「はいはい。壊せると良いですねーその前に俺が楽にしてやるよ。この俺がみんなを救う事が出来るんだ。一時の迷いなんか捨てて、俺と一緒に森を出ようじゃないか!」

「誰が貴方なんかと!」


 温和な実さんでさえも拒絶の意志を見せている。

 当然だ。


「いずれわかるさ」


 そして小野は事もあろうにめぐるさんに視線を向け、結界を解除する。

 めぐるさんが自由になった所に小野は近寄って語りかける。


「前回は俺の誘いを断ったが、わかってるんだろ? 誰がここで一番か、そして誰が魅力的なのかを。さあ、めぐる、俺の魅力に目覚めろよ」


 めぐるさんは手を振るわせて……小野の頬を叩いた。


「貴方は何を勘違いしているの? 谷泉くん達を罵倒した口で、その手で何をしたのかわかっているの?」

「あ!? 俺が救ってやるってのにまだ言う事を聞かねえってのか!? 何が悪いってんだよ!」


 頬を叩かれて小野はめぐるさんを睨みつける。

 そういえば小野は……めぐるさんを狙っていた様な態度を見せていた。

 この場にいる女子の中で、小野の気に入っている女子は大塚達以外だと実さんとめぐるさんなのか?


「めぐるさん!」


 小野をそれ以上刺激しちゃダメだ!

 後少し、後少しで手元に武器を呼び出せる。

 だから!

 声を絞り出すのだけどめぐるさんは止まらない。


「貴方はみんなを何だと思っているの? 称賛してくれるだけの存在で、女の子はみんな彼女だとでも言うつもり!?」

「俺を説教する気か!?」

「説教? 違うわ。貴方を心の底から軽蔑しているのよ! 男の子達はクズ? 谷泉くん達の暴走に異を唱えなかった貴方はクズじゃないとでも言うつもり?」


 とめどなくめぐるさんは小野を弾劾する。

 大塚達が異議を唱えているようだが、めぐるさんの声の方が良く通って聞こえる。

 それだけ、強い意志を彼女は宿していた。


「俺がここで一番なんだ! 俺に逆らうってのがどういう事かわかってんのか?」

「そうやって逆らった人を殺して回るの? やっぱり貴方は谷泉くんよりも遥かに下衆な人だったのね。自分の事しか考えていない、最低の人だわ!」

「啓介様になんて事を言うのよ!」


 大塚がめぐるさんに食って掛かる。

 しかし、めぐるさんはそんな大塚を見た後、小野に言った。


「啓介様? クラスメイトに様付けで呼ばせて恥ずかしくないの!」


 めぐるさんは小野を更に弾劾する。


「貴方は自分の事しか考えてない! 谷泉くん達が森の出口を隠していた? ならどうしてそれをもっと早く言わなかったの?」

「そ、それは……」

「怖かったからでしょう? 今日みんなに話したのだって、谷泉くんを倒せ……いえ、殺す算段が立ったから言ったんじゃない!」

「なんだとぅ!?」


 大きく息を吸っためぐるさんは凄い眼光で小野を睨みつける。


「ゲームの様に能力を使って遊び、殺人にまで手を染める人なんかに私は微塵も魅力を感じない」

「俺は谷泉からみんなを救ったんだぞ!?」

「誰が谷泉くんを殺せって言ったの!」

「あんな奴、死んだ方が良いに決まってる! 俺は誰にも出来ない事をしたんだ。俺なら谷泉みたいなクズ、何人だって殺せる! 普通、女なら惚れる場面だろ!」

「誰が人を殺すのが得意、なんて人を好きになるのよ!」


 ニュースで殺人を犯した人物に惚れる奴がいたら、狂気を感じる。

 それが男でも女でも。

 だけど、そんな言葉が通じる相手じゃない。

 しかも小野は既に何人も手に掛けている。

 下手に刺激して、殺意がめぐるさんに向いたら……。


「言わせておけばずけずけと……俺はみんなを谷泉の呪縛から解放した最強の能力者だぞ! 絶対に許さねえ!」

「許してくれなくていい! 許されない事をしたのは貴方の方でしょう!」

「これは必要悪だ。選ばれた者だけがこの森から出られる試練なんだよ。めぐる、お前は選ばれたんだ。大人しく俺の所に来い。そうすればさっきの事は許してやる」

「何が試練よ、この人殺し! 貴方に屈服する位なら死んだ方がマシよ! 例え死んだって私は私を曲げない!」

「めぐるさん! 早く逃げて!」


 俺の声に気づいてめぐるさんは視線をこっちに向ける。

 そう……めぐるさんの能力は転送。

 こんな状況でも辛うじて逃げ遂せる事が出来る能力者だ。

 小野の魔の手から逃げれば……かなり絶望的な状況だけど、生き残る手段はある。


 後30秒で、俺の手元にあの剣が出現する!

 遅い! 30秒も待っていられない!

 俺は何度も結界を殴り付けるがビクともしない。

 少しずつ磨耗している様な気はするが、何度も殴っている所為で腕が痛む。

 だが、殴るをやめない。


「早く能力で――!」


 逃げろ! と言うのとほぼ同時だった。

 小野が血走った眼で笑みを浮かべて俺に向かって手をかざしていたのだ。


「ああ、もしかしてめぐるは羽橋の……能力か何かで心を奪われているんだな? 心変わり、転移にはそういう力でもあったんだな? なんて非道な奴だ!」


 なんだその因縁は!

 転移にそんな力があったら俺が谷泉やお前に使わないとでも思ってんのか!

 強引に理由をでっちあげて関連付けて俺に狙いを絞るんじゃねえ!

 大方、めぐるさんと親しい俺が攻略の障害だとか思いこんでいるんだろう。

 ふざけやがって!


「羽橋、光栄に思えよ。強奪にはこういう使い方があるって事をな!」


 小野の手から谷泉の能力である炎が出現し、風を纏って業火となって大きく膨れ上がる。

 俺の意図を察してめぐるさんは逃げようとした所で何をするかを察して硬直した。


「めぐる。お前は下位互換の羽橋を気に掛けていたな。今からその未練を断ち切ってやるよ! そうすれば俺に忠誠を誓うに違いない!」


 ありえねえよ!

 めぐるさんはお前の人格を嫌っているんだ!


 と言うよりも早く小野が俺に向かって太陽の様な業火を投げつけてくる。

 く……間に合わない!

 まさかこんな所で果てるなんて……くそっ! もっと早く、手を打つべきだった!


「幸成くん!」


 諦めかけた走馬灯の中で、めぐるさんが転送の光を出現させて……俺を守る様に目の前に出現する。


「な――」


 俺が手を伸ばすとめぐるさんは俺に向かって……優しく微笑んでいた。


「幸成くん……ごめんね。日本に戻ったらって約束――」


 直後、俺の視界を光が支配し熱波が肌を焼く。

 吹き飛ばされそうになるのだけど、結界がそれを許さない。

 ホワイトアウトした視界が元に戻った時、肌を焼く痛みと共に目の前の光景に……俺は――。


「あ? 死んだか。顔と身体が良いから生かしておいてやろうと思ったが、まあ良いか。俺を散々罵倒した奴だから死んで当然だしな。この俺に意見するなんてビッチも良い所だ」


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嘘やん
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