下位互換
「これで失敗して森の何処かへ行ってしまっただけだと俺は殺人者扱いになる気がするんだけど」
そんな前科がこの状況で起ころうものなら俺だけ碌な目に合わないぞ。
間違ってもそんな責任を俺は取れない。
「なんでよ! やりなさいよ!」
大塚がまたも俺に詰め寄って襟元を掴んでガクガクと揺らす。
状況が状況だからされるがままだが、日本だったら強引に引き剥がしてるぞ!
「じゃあ実験をして、失敗しても羽橋を殺人者にしないって事で良いかー?」
おいおい、軽いな不良。
実際に起こったら犯罪者扱いするんじゃないだろうな?
「まあ……帰りたいし、羽橋が出来るんだったら誰かで試すしかないと思う」
「大塚も帰るためにはどんな手段にも飛びつく気だし、失敗も辞さないなら良いんじゃない?」
「そうよ! 帰しなさいよ!」
なんて同調する声が大多数となった。
俺は溜息を漏らす。
外国の映画のハエ男みたいに転送後に凄い事になったらどうするんだよ。
「上手く転移が出来るなら乗り物代わりになるしな」
ポツリと呟く谷泉……お前日本に帰る気ないな!
夢の異世界を満喫ってか?
「じゃあやってみるぞ」
俺は大塚をターゲットに指名して飛ばす先で日本をイメージする。
うん。しっかりと飛ぶ先が見える気がした。
決定をイメージすると砂時計が浮か……ばない。
「えっと……無理みたい」
「薪は飛ばせたのに、大塚は無理となると生き物は無理とかかもしれねえな」
「なんですって! この役立たず!」
大塚が握りこぶしを作って俺を思い切り殴り飛ばした!
「ふげ!?」
「幸成!」
イッてぇ! どんだけ力こめてんだよ。
錐揉み回転しながら吹っ飛んだぞ。
うー……いてぇ。
頬がはれ上がってるじゃねえか。
つーか、陥没してねえか?
すげえズキズキ痛む。
「大丈夫か!?」
茂信が心配して駆け寄ってくる。
おいおい、いくらなんでも殴る事は無いだろ。
「だ、大丈夫?」
そこにクラスでも人気の高い美少女の姫野実が俺に駆け寄って手をかざす。
こう……小柄なんだけど、なんか可愛らしいと言うか、目が大きくてキラキラしてるというか、他の人とは何か違う感じがする。
肌は張りがあって、髪はふんわりとしてる。
他の女子とは作りが違うんじゃないかって感じの女の子だ。
ああ、大塚も一応美少女枠だけど、度重なるヒステリックな行動と暴力で俺の中で女子カテゴリーから外れた。
あの野郎……。
「少し実験させて。多分、大丈夫だと思うから」
姫野さんの手から淡い光が出現して俺の頬近くに添える。
すると徐々に痛みが引いて行くのを感じた。
「ああ、姫野は拠点回復って能力みたいだな。他にも回復の能力がいたが何が違うんだ?」
「わかりません。どっちにしても大塚さん。羽橋くんに謝ってください」
「そうだぞ! 幸成だってがんばったのに殴るなんて無いだろ!」
「ふん! 期待させたのが悪いのよ!」
と言いながら大塚はずっと俺に謝らずに腕を組んで蔑みの視線を向けてくる。
くっそ……もう許さねえぞ。
仮に日本へ帰る手段を俺が見つけたとしてもお前だけには教えてやらねえ!
つーか茂信と姫野さん、もう一人……飛山さんだったか? 以外がギャグで済ましやがったぞ!
……覚えてろよ。
「じゃあ次、飛山」
その飛山さんの番となった。
俺の中ではギャグで済まさなかったというだけで、評価がうなぎ上りだ。
「えーっと、私の能力は転送みたい」
何? 被ってんぞ!
そういう能力はバラけさせておけよ。
……ゲーム的思考だな。
現実的に考えたら似た様な能力、あるいは同じ能力者がいてもおかしくはないか。
「羽橋と同じ事になりそうだな」
「じゃあやってみる」
「私を使いなさいよ。失敗したら羽橋の刑よ」
「俺の刑って何だよ! 飛山は女だぞ!?」
まあ、女を殴れるのは女位だろうけどさ。
だからといってお前が人を殴って良い理由にはならないだろ。
「……失敗できない!」
って訳で俺と同じっぽい能力……飛山さんが能力を使用する。
やる気の具合を見るに殴られるのは嫌らしい。
当たり前だけどさ。
「えい!」
飛山さんは割と気合を入れて能力を使った。
すると目の前に光の柱が出現した。
「家に帰れるの!?」
大塚が大興奮で光の柱に突撃する。
すると柱の右から少し離れた所に瞬間移動した。
発動も早かったぞ!
「ほー……」
「日本じゃないじゃない!」
鉄拳制裁をしようと大塚が飛山さんに殴りかかろうとした所で谷泉が間に入って止めた。
大塚がウザ過ぎてストレスが溜まるんだが。
女子だからなんでも許されるとか思っているんじゃないだろうな?
「よく考えろ。羽橋は生き物を飛ばせないが、飛山は飛ばせる……ポータルの力があるんだぞ。移動に便利だ」
ふふんと谷泉は俺と飛山さんを交互に見る。
いや、なんだよ、その偉そうな態度。
「飛山は羽橋の上位互換みたいだな」
俺が下位互換だと!?
すっげー馬鹿にされているのを感じる。
育成ゲームでいう所の俺はフラ○ゴンで飛山はガブ○アスってか!?
メガも与えられずに絶望して生きていくしかない存在とでも言う気か!
異世界という状況で少しは楽しいかもしれない、なんて状況が思い切り萎んで行く。
「あの……ごめんなさい……」
飛山さんも俺を馬鹿にする態度を取っていたら我慢も出来なかったが、謝られた。
どうやら飛山さんは極々常識的な人間のようだ。
……聞いてみるか。
「飛山さん、日本に帰るとか、そういう事は出来る?」
「どうだろう? やってみる」
飛山はもう一度光の柱を出そうと能力を使っている。
しかし出現気配は無い。
「ごめん、無理みたい。なんか行った事がある場所じゃないとダメっぽい」
「あれか、能力を使える様になってから行った事のある場所って事か」
「多分……」
うわ……そんなに期待はしていなかったが、帰還は難しいみたいだ。
所謂RPGなんかの移動魔法とか、そういうタイプなんだろう。
「まあどっちにしても羽橋よりは性能が高いな」
「いい加減にしろ谷泉!」
茂信が俺を庇う様に前に出る。
「なんだ? 俺は事実を事実として言っただけだ。発動まで時間が掛って、しかも生き物を飛ばせない羽橋と発動は一瞬で生き物を移動させられる飛山、どっちが優秀な能力だ?」
「いや、羽橋くんだって私とは違う特徴があるはず」
飛山さんが俺を庇う。
くう……飛山さんがまともなだけに、スゲーみじめ。
大塚と谷泉め、後で覚えてろ。
「……どうやら私の場合は再使用に時間が掛るみたい。次は羽橋くんがやったみたいに薪を飛ばしてみる」
で、飛山の能力の再使用時間が過ぎ、飛山は薪だけを光の柱の中に投げる。
薪は柱を貫通してカコンと音を立てて地に落ちた……。
これはつまり……。
「ダメだった」
「つまり幸成の能力は物を搬送する事に向いていて、飛山さんは人を移動させる事に向いているんだ。やっぱり違いがあるじゃないか」
「ハ、それこそ誰かに物を持ってもらって飛ばせば飛山の制限は無いに等しいだろ。ま、羽橋も何か裏技的な使い方で化けてくれよ。あるならな」
何処までも谷泉は俺をカースト扱いにしたいみたいだな。
まあ火炎能力者だから調子に乗っているんだろう。
創作物の火炎能力者は当て馬という法則があるのにな。
「どっちにしても日本に帰してくれないなら意味は無いわ!」
大塚もいい加減にしろ!
いつまで発狂してんだよ!
うっぜー……飛山さんが良い人なのが唯一の救いだ。
「ま、残飯処理や掃除係辺りを任命してやるから楽しみにしておけ。魔物相手じゃ役に立たないだろうし」
完全に戦力外通告じゃねえか!
谷泉はその後も下位互換になってそうな能力者にヅケヅケと言い放って行った。
その犠牲者は姫野さんも混ざっていた。
「おお!? 姫野よりも回復が早いみたいだな。こっちの方が使えそうだ」
拠点回復と回復との違い。
それは拠点回復は治療に時間が掛るが回復の方はすぐに効果が出る。
谷泉が馬鹿にする目線を向け、茂信がその度に不快そうに睨み返す。
そんなこんなでクラス全員、教師を含んで能力の把握が済んだ。