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能力

「ステータスだろ、これ!」


 そこで声高々に、若干嬉しそうな声をにじませながらクラスでも不良で通っている谷泉一樹が言い放つ。

 まあステータスだよな。

 それ位なら俺だけじゃなくて、ゲームをやった事のある奴ならみんなわかるだろう。


「ステータス? 周りの評価を気にする用語かい?」

「ちげぇって! ゲームのステータスアイコンだよ! 学級委員様はこんな事も知らないのかよ」

「ゲームをやった事無いんじゃねえ?」


 谷泉とその取り巻きが学級委員を蔑むように言い放つ。


「む……少しくらい嗜みはする。主にアクションゲームや知的遊戯、将棋やオセロなどを。最近だとマインスイーパーがマイブームだ」


 うわー……ゲームと言っても谷泉共の言ってるのとは系統の異なるゲームを胸を張って答えちゃってる!

 こんな化石みたいな人、実際にいるんだ。

 普通に世間話をする程度の人だから知らなかった。


「ともかく、こんなお遊びに付き合ってなんていられない。誰がどうやってこんな所に僕達を連れて来たか知らないが、早く人里の方へ出るとしよう」

「とは言っても……」


 若干期待に胸を躍らせる谷泉共とは別にして、俺達は辺りを見渡す。

 広場の先、森の方には道らしい道が確認できない。

 ヘリコプターか何かで山奥の秘境にでも送り届けられたかのような程、森の方に人の手が入っている気配が無い。

 まあ……遠目でしかわからないけどさ。

 結構、鳥が多く飛んでる。

 目を凝らして確認するが……遠くて良くわからない。

 でも、ちょっと大きい様な気がするのは気の所為か?


「何処へ行けば人里へ出るかわかる?」

「う……こ、こういう時は冷静になって地面に救難信号を書き、それから――」


 とまあ、災害マニュアルのテンプレートみたいな事を言い始める学級委員。

 あんた確か生徒会の書記辺りに任命されたはずだよな?

 次期生徒会選挙に出るとか胸を張っていたけど、いざって時にあんまり頼りにならなそうな匂いがしてるぞ。


「要約するとここで救助を待つ? 人里に出るって言ってたのに」

「う……その場合は山の斜面を見て、下って行くのが良い。方向は太陽を見ればわかる」


 頼りになるのかならないのか。

 とはいえ、言っている事はテンプレートなんだから信用は出来るよな?

 現在の状況が普通であれば、という前提が成り立てば、だが。


「じゃあまず辺りの調査をしよう。何があるのか調べないと始まらない。先生が森の方を少し確認してくる。みんなは安全だと思えるこの辺りを調べて居てくれ」

「はーい」


 とまあ、まばらな返事が起こり、生徒達は戸惑いながらもとりあえず辺りを調べる事になった。

 とはいっても……近所の野球場みたいな広場がポツーンとあるだけで、一クラスの人数が調べて回れば直ぐに終わってしまう。

 結果として見つかったのは石板と井戸……ただそれだけだ。


「幸成、何が起こっているのかわかるか?」


 茂信がそれとなく俺に聞いてくる。


「いろんな可能性が浮かぶけど、俺達が目を覚ます前に黒板に浮かび上がった仕掛けが非常に気になる」

「……そうだな。アレが原因だと俺も思う。だが……一体何なんだ?」

「茂信も心当たりと言うか、可能性が頭にあるんじゃないか?」


 俺も薄々違うんじゃないかな?

 幾ら何でもそんな事が実際に起こるはずがないと思いながら茂信と見つめ合う。

 多分、谷泉達が興奮気味なのはその可能性を期待しているからだ。


「まあ、な」

「うん。異世界召喚されたとか……そんな夢物語が実際に起こるなんてありえるかって話だ」


 状況証拠を突き詰めると、一番に出てくるのはそれだ。

 実際に目の前に自分にしか見えないステータスが浮かび上がるし、技能とかその辺りの項目が選択できる。

 まるでいつでも戦えると言っているかのように。


「頭から否定するのはどうにかしてる……と思うのは子供臭い願望が混じってるな」

「言うなって……だが……」


 誘拐されたと思い込んでいる奴はクラス内にもいる。

 さっきから落ちつきなく苛立ちを見せるクラスの女勢。

 男は異世界召喚物の物語とかゲームとかに慣れ親しんでいる時があったりするので、夢を膨らませているが、女子の方は犯罪に巻き込まれた被害者という思考が渦巻いている……様に見える。

 まあ女子の中にも谷泉みたいな反応をしている奴がちらほらいるけどさ。


「少し宥めてくるよ」

「おう行ってこい。イケメン茂信」

「幸成!」


 若干ムッとしつつ、苦笑いをして茂信は女子を宥めに行った。

 まあ冗談を言うのに適した状況じゃなかったのは確かだ。

 とはいえ、冗談を言える程度には落ち付いているとも言える。


「大丈夫? 今は何が起こっているかわからないけど、早く家に戻れる様に頑張ろう」

「う、うん」


 元々クラス内でもカリスマのある茂信だからな、みんなの反応は善意的だ。


「しかし……なーんも無いな」

「何なんだろうな」


 クラスの男子勢が視線を泳がせる……間違いなくステータスを確認してるだろ。

 そんな感じで雑談をしている。

 俺も、まあ確認とばかりにしていたんだがな。

 能力の項目をクリック……あ、技能のカーソルがクイックで発動するみたいだ。

 ターゲットを指定して……。

 なんてみんな、半信半疑で弄ろうとしていたその瞬間!


「うわああああああああああああああああ!」


 悲鳴が森の方から聞こえて来て、教師が全力疾走でこっちに逃げて……なんだ!?

 教師の後ろには犬くらいの大きさをしたネズミ……と呼ぶにはおかしな、頭に角の生えた生き物が複数追い掛けて来ていた。


「きゃあああああああああああああああ!」


 女子共が悲鳴を上げる。

 うるさいな! 今は悲鳴なんて上げている暇ないだろ!

 あんなデカイネズミが襲って来てるんだぞ!

 つーかネズミだよな?

 意識を集中して睨みつける。


 ホーンラット


 視界にネズミの名前が浮かび上がる。

 まるでこれはゲームのチュートリアルですよ、とばかりのシチュエーションだ!


「任せろ!」


 一番に動いたのは谷泉。

 手に炎の玉を出現させ、勢い良くホーンラットに投擲する。


「うわ!」


 教師が谷泉の投げた火の玉を辛うじて避ける。


「ヂュ!?」


 そして背後にいた、教師目掛けて角で突進してきたホーンラットに命中する。


「ヂュウウウウウウウ!」


 ボッとホーンラットは燃え上がって断末魔の悲鳴を上げる。


「もういっちょ!」

「あ、ずっりー! 俺にもやらせろよ!」


 へらへらと谷泉とその仲間達が火の玉を初め、風の刃っぽい攻撃でホーンラットを仕留めた。

 教師は腰を抜かして頭を守る様に蹲ってる。

 だらしがないとも思うが、自身の身を守るには最適の体勢故に俺はバカに出来ない。


「はは! すげぇ! 本当に異世界に来たみてぇだな!」


 ホーンラット共を仕留めた谷泉達がホーンラットの亡骸を無造作に持ち上げて笑いながら答える。

 気持ちはわからなくもないが、どうにも引っ掛かるな。

 なんだその事故に遭遇して嬉しい、みたいな反応は。

 こういう奴が交通事故の被害者とかをスマホで撮るんだろうな。


「い、今のは一体……谷泉くん。君は……何を」

「何って……これは能力に決まってんだろ! 俺は……最強の力を得たんだ!」


 とまあ、力に目覚めて興奮したとばかりに谷泉一味が宣言したのだった。

 最強の力は言い過ぎだと思うがな。


「力……って能力の事だよな?」


 級友を庇っていた茂信が谷泉に確認を取る。

 というか茂信があの一瞬で級友達を庇おうと動いていた事の方が驚きなんだが……。


「そうだぜ! 改めて、みんなで状況を整理して確認をしねえとな。きっと……サバイバルをする事になるぜ?」


 仮にその状況が正しいとして……クラスの不良ポジションのお前等がなんで嬉しそうに最強を気取ってるんだ?

 完全にフラグだぞ。

 こいつ等、マンガとか読まないのか?

 いや、読んでいるからこその反応なんだろうか?

 しかし……順応性高いなぁ。

 こういう時の不良ってむやみやたら暴れまわって当り散らしてクラスの連中を支配しようとするのが物語の鉄板だが……。

 どうなる事やら。

 と、俺の冷静な部分が状況を分析していた。


「ヂュー!」

「お? 増援か! みんな返り討ちにしてやるぜー!」


 なーんて感じに新たに現れたホーンラットを相手に谷泉達は戦っていたのだった。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 先生…生徒いる方に真っ直ぐ逃げてきたのかな? 動転してたんだろうけど、それはちょったと……。
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