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私だけ帰れる日本転送

「ともかく実験しようぜ! 日本を行き来出来るんだったら一時帰還するのも悪くはねーし!」

「ニャ、ニャアアア……」


 ミケさんが萩沢くんの服を掴んで懇願するように目をウルウルとさせている。


「服を掴むなってーの!」


 萩沢くんはそんなミケさんの態度を知らないと言った様子で、手を跳ねのけようとしている。


「日本に帰れるの?」


 実がボスさんの顔を見ながら尋ねる。

 修業を始めて数日しか経っていないもんね。

 いきなり帰るのもどうかとは思うけど、私には異世界転送もあるから行き来はきっと出来る。


「たぶんとしか言いようがないわ」

「きっと出来ますよ!」


 聡美さんが出来ると言った様子で拳を握りしめて言う。


「どっちにしても実験は必要だね。めぐるさん、お願い出来る?」

「ええ」


 焦る気持ちを抑え、深呼吸をしてから私は日本転送を発動させる。

 が……。


「アレ?」


 指定した場所に何も起こらない。

 いえ……なんか一瞬だけど視界がぶれる。

 発動はしようとしているのだけど、何かが起こっている様な違和感。

 何だろう。能力を習得した事による感覚と言うのかしら?

 壁のようなモノに当たる感触がある。


「使用できない?」

「発動はしようとしているんだけど、何か……」

「結局使用できねーってオチかー?」


 萩沢くんの脱力した表情と、隠れて嬉しそうにしているミケさんの表情に申し訳なく感じる。

 期待はずれも甚だしい。

 みんなを集めて失敗って赤っ恥じゃない……。


「待ってください。共鳴を使用してもう一度やってみましょう」

「そうね。聡美さんと協力すれば発動できるかも」

「はい」


 私は聡美さんと手を繋ぎ、聡美さんが共鳴を発動させたのを確認してから日本転送を発動させる。

 く……異世界転送と同じく魔力の消費が大きいわ。

 だけど今の私ならそこまで負担にはならない。

 指定した場所に光の柱が発生した。


「おお!」


 萩沢くんを初め、茂信くん依藤くん黒本さん、この場にいるみんなが揃って声を漏らす。

 発動は良いとして……クールタイムが結構にあるわね。

 ゆっくりと再使用時間の砂時計が落ちて行っている。


「共鳴しないと使用不可……?」

「習得は出来ても発動させるのに力が足りないのかもしれない」


 などとみんなで考案をしていると突然萩沢くんが動いた。


「一番乗りだぜー!」

「ニャ!? ニャアアアアアアア!」


 ミケさんの制止を振り切って萩沢くんが光の中に飛びこんだ。


「ニャアアアアアアアアアアアアアアアア!」


 ミケさんの悲痛な叫びが木霊する。

 けど……。


「あれ?」


 光をすり抜けて萩沢くんが飛び出す。

 それから萩沢くんは何度も光りに手を入れたり出したりを繰り返していた。


「めぐるちゃん、これ失敗じゃね?」

「初めて使ったんだからわからないわよ」

「どうなっているんだ?」


 茂信くんも依藤くんも黒本さんも光を潜ろうとして萩沢くんのように首を傾げながら通り過ぎる。

 もちろん、実も試していた。


「聡美さんの話だと妨害をしている奴はいないはずなんだよな?」

「た、たぶん、皆さんが日本に帰れない様に所有して妨害は……していないと思います。現に私にはそんな項目は無いですし」

「その理屈ならこの世界の連中に実験に参加してもらえば良くね?」


 ここでラムレスさんが挙手をする。

 凄く早かった。

 ほとんど萩沢くんが言った直後だったわ。


「では私が立候補します! 今度こそ、異世界人の皆さまの世界へ行ってみたいのです!」

「汚いぞ騎士ラムレス! それは我等も同じだ!」

「そうだそうだ!」

「新たなゲームは我等もやりたいのだ!」


 騎士達が何やら醜い言い争いをしている。

 日本転送の実験をしてあわよくば日本に行ってゲームをやりたいって……私達の世界をどんな風に思っているのかしら。

 多分だけど、遊園地の様な世界と思われている気がする。


「だがハネバシ様が仰っていた実験ではラムレス、お前はこの世界の記憶を一度失ったそうではないか! 大丈夫なのか!?」

「ハネバシ様と同じくヒヤマ様が私を言葉巧みに誘導すれば戻って来れるはず! ですよね!」

「あー……私はそこまで器用じゃないですけど……がんばるわ」


 嘘を吐くのって苦手なのよね。

 とはいえ、ラムレスさんに頼まれたのなら、やるしかないわね。


「そもそも異世界からこの世界に来た際に認識が改変されるのならば、何故異世界側の知識を保有して異世界人の皆さまはやってくるのでしょうか? その説明が無いです」

「召喚のされ方とか、いろんな原因が左右される……からか? 俺達もその原理を把握してる訳じゃねえからなー」

「では、実験として私も行かせてもらいます!」

「それでは我等も!」


 勢いに任せてラムレスさん達騎士が私の出した光りに流れ込む。

 けど、萩沢くんと同じく光りにすり抜ける。

 もしかしてコレってただ、光を出すだけの失敗能力?


「物質転送みたいにモノだけ日本に送るとか……」


 と、茂信くんが石を光の中へ投げ入れるけど、やっぱり貫通する。


「失敗……なのかしら?」

「うーん」


 聡美さんも光の中を潜り抜けて顔を出す。


「綺麗ではありますよ」

「光りを維持していると少しずつ魔力が減るんだけどね……キャンプファイアー代わりにしか使えないのかしら」


 なんて思いながら聡美さんと手を繋ぎ私も光の中を通り過ぎる。

 するとフッと一瞬で、普段使っている転送と同じく視界が切り替わった。


「え!?」


 一瞬前まで繋いでいた手の感触が無くなる。

 辺りを確認すると……日本転送を発動させる時にイメージしていた異世界に行く時にいた公園だった。


「これって……!?」


 思わず私は千里眼を使って茂信くんの工房を見る。

 すると聡美さんが焦った表情でみんなに何かを説明している状況が見える。

 みんな揃って何度も頷いているけど……なんか興味半分って様子ね。

 その中でミケさんだけ、聡美さんの味方と言うか後押しをしてる感じだけど……。


 待って……ちょっと待って。

 私だけ異世界から帰れるって、まんま幸成くんと同じ状況?

 いえ、前回の異世界転送を考えると、聡美さんがいないと発動できないんじゃないの?

 気持ちを抑えて、私は異世界転送を発動させる。

 すると呆気なく異世界転送は発動した。


 急いで飛び乗る。

 すると私は千里眼で見ていた異世界側へと移動する。


「という事で、飛山めぐるさんは――めぐるさん! 帰って来たんですね」

「え、ええ……私も焦ったわ」

「めぐるさん! 帰って来たんだね」

「えーっと……これって羽橋の時と似た感覚がするぜ」


 萩沢くんが頭に手を当てて答える。


「つまり纏めると、単純に日本転送をめぐるさんだけでは何故か使用できない。だけど浮川さんと共鳴すると発動可能。但し、この転送で帰る事はめぐるさんだけ……って事?」


 茂信くんが恐る恐ると言った様子で尋ねる。


「たぶん……しかも聡美さん。貴方の様子から考えるに私が日本に行った際、みんな私の事を忘れていたんじゃない?」


 私の質問に聡美さんは頷いた。

 やっぱり……幸成くんと同じ状況だと思って間違いない。


「はい。めぐるさんが消えたと言ったら、ミケさん以外のみんなが知らないと首を傾げました。過去の勇者だっけ? とか……伝承の人の名前と認識していました」

「完全に羽橋と同じ状況じゃねーか。とは言っても、なんでめぐるちゃんだけ?」

「この世界の人達も行き来出来ないとなると、誰か所有者が居て拒否をしている訳じゃなさそうね」


 黒本さんも状況を冷静に分析している。

 幸成くんの時は、聡美さんの話を参考にするとクラスメイトみんなの所有権を持っていて、幸成くんの転移を拒否していたから……が転移が上手く行かなかった理由だそうだ。

 そして所有権を持っていないこの世界の人達は行き来出来た。

 だけど私の場合は何故か私以外は行く事が出来ない。


「私だけしか帰れない拡張能力……って事なのかしら?」

「幸成君と同じだね」


 実の台詞に、内心、私も同意する。

 そもそも似た能力なのは確かなのよね。

 前々から可能性自体はあったけど、ここまで明確にされると少しばかり考えさせられる。


「わからないが……おそらくそうなのだろうとしか言いようがないな」


 なんとも厄介な問題ね。


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