スタイリッシュ
「嫌々だが、やるしかねえな」
「ニャ!」
萩沢の言葉に応じる様にミケがサーベルに宿って、萩沢が戦闘態勢に入る。
「バウ、ワワワン?」
審判のファルシオンダックスフンドが間に立って、宣言する。
俺は実さんに目を向ける。
「審判しないの?」
「なんで?」
「え……」
いや、そこで不思議がられても……俺の時は凄く楽しげに審判をしてましたよね実さん!
もしかして無自覚なんですか?
「バウウウ……ワン!」
審判のダックスフンドが吠えると同時に、萩沢とボスが動き出す。
「バアアウウウ!」
ボスの方は……こう、野生的な剛剣って感じに剣を振り下ろして斬りつけて行く感じだ。
それでありながらもスタミナというのか、萩沢に向かって連続で切りつけて反撃の隙を与えない。
「やはり、そうですか」
ラムレスさんが納得した様に頷く。
「ラムレスさんだけ納得されても困るんですけど……」
「ライクス流剣術の中でも色々と型や流派があります。もちろん、誤差の範囲ではあるのですが、ファルシオンダックスフンドの好む型は連撃の様ですね。執拗に攻撃の手を緩めず追跡する、まさに犬の狩猟の様な剣技と言いますか。攻撃手段にコンボが途切れず行っているのでしょう」
「へー……」
俺の場合はどうだろう?
避けてフック放って、隙あらばストレート。
ボディ狙ったり顔面狙ったりと色々と手段はあるけど……ボスの攻撃にそこまで個性的な物があったか?
岩の拳を纏ったりとか色々とあったけど……ああ、パンチングベアーの場合はフックをこのんでいた様な気がしなくもない。
ただ、俺が相手をした奴等よりもしっかりと違いが出ている様な……。
「ハネバシ様の場合は相手が重量級でしたね。お話を聞いた所だと、重い攻撃を主軸とした相手ではありませんでしたか?」
ラムレスさんの指摘でなんとなく納得出来た気がする。
ああ、確かに……カンガルーとベアーだと違いがあった。
なるほどなぁ。
観客と実際とでは違いがあるって事なんだ。
軽い相手だとラッシュ攻撃とかして来るのかもしれない。
っと、試合試合っと。
見た所、萩沢は特にボスの攻撃に対して反撃らしき事をせずに回避を主体に動いている。
「ラムレスさん、サーベルキャットってどんな戦闘スタイルなんですか?」
「え? そうですね。どちらかと言うと一撃離脱を好むスタイルですが、時に豪快に振り下ろし等も使う、状況分析が的確な戦い方をしますね」
へー……と思いながら萩沢が動くのが見える。
鋭く相手の剣を持つ手を狙った突きと斬りつけだ。
ボスの方が焦った表情を浮かべて咄嗟に剣で受け止めたぞ。
「バウゥウウウ……」
「唸ったって、怖くは無いぜ? 目も大分慣れてきたしな」
忌々しそうにボスが呻く。
が、ボスは剣に手を添えて目を閉じて意識を集中し出した。
「む……」
何か仕出かしそう。
そう思っていると、刀身に何か魔法の様な物が宿り……ダックスフンドの姿をしたオーラが立ち上ってる。
「あれは!?」
「ああ……奥の手だな」
萩沢もわかっているのか、剣を持つ手を強める。
「ミケ、行くぞ!」
剣が震えてニャーンと鳴いた。
「ワオオオオン!」
ボスがそう叫ぶとダックスフンドの姿をしたオーラを纏った刀身が萩沢を追尾する様に跳ねて突撃して行く。
それを見切っていたのか萩沢は跳躍し、叩きつける様に剣を振りかぶる。
すると……なんだ?
剣先が三つに分かれてダックスフンドのオーラを切りつけて火花が散る。
「キャン!」
あ、ボスが一撃を受けて両膝を地に付けて、仰け反る。
どうにか受け止めたって感じだ。
「ご自慢の追尾攻撃だが、それも俺達の剣技の前じゃ意味はねえな」
「ライクス流剣技外の……サーベルキャットの技ですね。確かトライスラッシュだったかと」
「パンチングベアーで言う所のアースクラッシュ?」
俺の問いにラムレスさんが頷く。
使いやすそうな攻撃だな。
こっちは地響きを立てたり、衝撃を放つしか出来ないってのに。
「ファルシオンダックスフンドが放とうとしたのは追跡剣という、避ける相手を何処までも追尾する強力な技でしょうね。その追跡剣が発動した瞬間を狙ってハギサワ様がトライスラッシュで斬り付けたのでしょう」
萩沢も考えて戦っているって事だろうな。
つーか、専用技って奴か。
ファルシオンダックスフンドのボスはこう……犬としてのスタミナを駆使した剣技で、萩沢とミケは猫としての剣技って事か。
ヒット&アウェイを重視する萩沢ならば有利に戦える。
そう思ったのだが、ボスがにやりと笑いながら萩沢の剣を受け止めた。
「ワオオオオオオオオオオオオン」
すると剣が遠吠えの様な音を放ち、萩沢の剣が振動、萩沢も耳を抑える。
「く……やりやがったな」
「ハウリングソードを使用した様ですね」
「遠吠えの振動で相手を怯ませるとか?」
「それもありますが、ハギサワ様が今、ハウリングソードの影響で三半規管が麻痺して目が回っていると思われます」
混乱効果のある技か。
何か厄介な攻撃が続くなぁ。
ファルシオンダックスフンドのボスが勝利の笑みを浮かべながら萩沢に向かって剣を振りかぶる。
が、萩沢は――。
「なんてな」
まあ、装備してるのが魔法効果に強力な耐性を持つメタルタートルの胸当てを付けている。
敢えて相手の攻撃で麻痺している様に見せかけるくらいは俺だって考えるさ。
萩沢はファルシオンダックスフンドのボスが剣を振りおろす隙を突いて、素早く急所を突いて背を向ける。
「さて、面倒な戦いは終わったな」
絶句する形相でファルシオンダックスフンドは、剣を振りおろしたまま、前のめりに倒れた。
何かボスが萩沢に向けて語ろうと目を向けてるけど……無視かよ。相手してやれよ。
可哀想だろ。
とは思うが……萩沢の試合なんだからしょうがないか。
「ワオオオオオン!」
審判のファルシオンダックスフンドが萩沢に手を向けて遠吠えをした。
勝者が決まったって事だろう。
萩沢の持っていた剣が光り輝き、ファルシオンダックスフンドが所持していた剣に変わる……けど、形状がちょっと違うな。
なんとなく犬じゃなくて猫っぽい。
「わー……」
凄く疎らに拍手が起こる。
「バウウウウウウウ」
あ、ファルシオンダックスフンド側がブーイングしながら解散して行く。
こういう反応もあるんだな。
「拍手がすくねー、俺ががんばったんだからもっと褒めてくれよ!」
萩沢も自覚していたのか賞賛の声を望んでいる。
「とは言ってもな、手に汗握る戦いって感じじゃなかったし」
「強くはあったけど……なんか物足りない」
とかクラスメイトに言われてしまって萩沢は絶句する。
「なんで羽橋みたいな喝采が無いんだよ!」
「はい!」
あ、実さんがクマ子に寄りかかって手を上げている。
また何か言うつもりか?
この二人は微妙に相性が悪いな。
「対戦相手への敬意が無いからだと思います! 特に最後の倒した後の態度が羽橋くんと違って見ている相手にグッと来ないんです!」
そんな堂々と言われましても……。
「ガウー」
クマ子も同意な訳?
まあ、対戦相手のボスも凄く悔しげに、不服だけど渋々お前の勝ちを認めてやるみたいな感じだったもんな。
それを萩沢は無視した訳だが。
「意味がわからねえ! くっそ! どうすりゃいいんだよ」
「いえいえ、ハネバシ様のような盛り上がる戦いも稀ですよ。大体がハギサワ様の様な終わり方ですから」
ラムレスさん、それは全く萩沢を慰める言葉になってませんよ。
「幸成くんだったらきっと相手の技を満足に出させて尚、受け止めて『お前は十分強かったぜ。防具とLvで強引に勝った様なもんだしな』と言って相手に後悔の無い戦いをします! なので萩沢くんの戦いは盛り上がらなかったんです」
「あんなの受けていたらキリがねえだろ! スタイリッシュに倒して何が悪いんだよ!」
「エンターテイメントなんだよ!」
と他のクラスメイトが言い放つ。
えー? そういう路線な訳?
俺はスタイリッシュ路線も結構好きなんだが。




