クラス転移
「ふわぁああああ……ねむ……」
その日、俺はあくびをしながら、通い慣れた通学路を通って学校へと登校していた。
なんて言うのだろうか、変わりばえの無い日常。
その日常を浪費して大人になって行くのかという単純な日々……嫌だとも思わないし、何か面白い、複雑な日々、刺激を欲する様な煩悩は中学生辺りには嫌という程あった。
もちろん、中学生独特の精神状態を振りかえって悶絶する様な黒い思い出として心の内に閉まっているのは、誰もが経験する一幕であるとは思う。
さて、俺の名前は羽橋幸成。とある高校に通う二年生だ。
身長は中肉中背、顔も平均的だと自分では思っている。
若干、ぼんやりしてるとか言われる事があるけど、どうなんだろうな?
部活は特にやっていない。
やる意味を感じないし、やりたいとも思っていない。
何か部活でもやれば青春の一ページになるのかも知れないが、生憎と運動も勉強も人並みでこれと言った個性も無いつもりだ。
だが……友人曰く、要点が掴めないが困った時に頼りになるとか言われる。
教室の自分の席に座り、またもあくびをする。
「よ! おはよ! 相変わらず朝は弱いな。幸成は」
俺に話しかけてきたのは小学校時代からの友人……うん。
俺を友人と呼んでくれたら少しは嬉しく思える人物だ。
名前は坂枝茂信。
スポーツ万能成績優秀、性格も良く友人も多い。
クラス内でも仲の悪い人を探す方が難しい完璧超人。
背も高く、なんて言うか全てにおいて恵まれていると表現すべきか。
顔も、俺の基準だと良い。
それを時々冗談で言うと、謙遜をする様に照れる。
俺は今まで茂信と付き合って嫌味な返答をされる事は無かったと思う。
「眠いんだよ」
「またゲームでもやっていたのか? 気持ちはわかるけど程々にしておかないとテストに響くぞ?」
「わかってるって」
こう……高頻度で同じクラスになる不思議な縁って奴があるだろ?
そういう縁で割と幼馴染って呼べるくらいの付き合いのある友人。
それが茂信だ。
俺は恵まれていると思う。
茂信がクラス内での班行動とかで班長をやり、当然の様に俺を誘ってくれるおかげで、特に孤立するとかした事が無い。
進級や進学によるクラス内での派閥形成とかでも茂信のお陰で苦労というのを今の所感じないのが幸運か。
逆に茂信がいない所……ネットゲームとかだと巡り合わせの運はあんまり良いと言えない……気もする。
「何か遅れがちの授業とかあるか?」
「んー……特に無い。つーか眠い。朝礼まで寝てるかな」
「10分やそこらで仮眠って……まあ、幸成っぽいな」
なーんて感じに、今日も変わらず日々が過ぎていくのだと、この時の俺達は思っていた。
授業が始まって二限目だっただろうか?
「で、あるから、ここの公式は――」
教師の授業をノートに写していると、黒板に何やら幾何学な模様が突然浮かび上がって行くのが目に入る。
なんだあれ?
「な、なんだ!?」
教師も事態の異常さに気づいて黒板に浮かび上がる幾何学模様を消そうと黒板消しを滑らせる。
「い、一体なんだ!?」
「誰かのいたずら?」
「なんなのよ!?」
だが、幾何学模様の……魔法陣みたいな物は消える事無く……鮮明に浮かび上がり、閃光を放った。
「うわ!」
「ま、まぶし!」
「み、みんな落ちついて! 何かあるか分からないけど念のために避難――」
茂信がそう言い終わる前にフッと……まるでスイッチを切ったかのように俺の意識はブツリと途切れてしまった……。
「ん……」
なんか鼻を刺激する植物臭……どうやら倒れてしまっていたっぽい。
眉を寄せながら目を開け、体を起こす。
どういう状況なのかよくわからないが、どうやら原っぱっぽい所で無造作に寝かされていたようだ。
というか……何処かのキャンプ場か?
テントとかは無いが、広場っぽい空き地と囲むように林……大分深そうだから森か。
「な、なんだ!?」
声の方に視線を向ける。
するとそこにはクラスメート全員がむっくりと起き上がる瞬間だった。
「一体何あったんだ?」
誰かがそう呟き、似た様な言葉が続いている。
「んー……何処だここ?」
「そうよ! 何処よここ!」
「みんな落ちついて……」
立ち上がった教師が辺りを見渡しながら答える。
「落ちついてなんていられるか!」
「気が付いたら山奥に送られているのよ!」
確かにそうだ。
一体どういう経緯で俺達はこんな所にいるんだろうか?
だが、状況が状況だ。
「念の為に点呼するぞー! 一番から――」
という事で教師が生徒の名前を一人一人呼んで行く。
えっと、まずは状況の整理が必要だよな。
服装は授業を受けていた状況そのままに学生服、カバン……中には弁当が入っている。
財布と生徒証、それと親に買ってもらって一年経つスマホ……。
一応、授業中に入るのか?
不謹慎だと思いつつスマホの画面を見る。
……圏外だ。アンテナが立っていない。
「お、おい……ここ何処だよ」
俺と同様にスマホを弄っていた奴が呟く。
「ナビも機能していないぞ」
昨今のスマホにはGPS機能もあって、現在位置を割り出せる事がある。
だが……それさえも機能していないとは相当の山奥に連れ去られたと見て……良いのだろうか?
「集団拉致!?」
クラスの女子が声を上げる。
確かに、そう考えるのが無難だよな。
しかし、本当に拉致なら犯人がいないと成立しない。
「みんな落ちついてくれ!」
生徒達の点呼を終えた教師が手を叩いて注目を呼びかける。
「何が起こったのか先生もわかっていない。だけど、ここでパニックになっても良い事なんて無い。みんな冷静に状況に対処するんだ」
まあそうだよな。
そう言われて級友達は一応に落ちつきを取り戻す。
「ん? なんだこれ?」
そこでみんなが視線を向けた先に俺も目を向ける。
広場の真ん中に……何かモノリスみたいな黒い石板がそびえ立っている。
「何処かの芸術品か何か?」
「あー……芸術の森とか? テレビか何かのサプライズ兼、ドッキリみたいな感じで」
「そうなのか?」
なんて雑談をしながら石板を凝視する。
するとそこに文字が刻まれているのを理解した。
「……ん?」
その石板には……上から順に級友達の名前が刻まれている。
最初の方は少し遠くて確認できないが、下の方には名前が書かれているのが確認出来る。
もちろん級友達も気付いた。
そして石板の中には俺の名前も刻まれている。
羽橋幸成 能力 転移
……転移? なんだ?
みんな石板が何なのかを首を傾げながら確認して行く。
で、上の方に書いてある文字が何かわかった。
能力一覧。
「能力一覧?」
隣に立ってい茂信と見合わせる様に話す。
能力って何だよ?
俺が思うと同時にピコンという音が頭に響き、視界に……謎のウインドウが出現する。
「な、なんだ!?」
「どうした!?」
「なんか音がして視界に……茂信には見えていないのか?」
「え? あ、音が聞こえた。うわ! なんだ?」
どうやら意識すると出現する物で、他の人には見えない何か……一人一人浮かび上がる物の様だ。
とりあえずクラスメイト中がざわめく中で俺は浮かび上がった謎のウインドウを確認する。
羽橋幸成 Lv1
Lv? なんだそのゲームのお約束みたいな項目は。
というか……このウインドウ……完璧にゲームとかでよくあるステータスアイコンじゃないか?
よく確認すると詳しい能力値まで記載されている。
まあ……Lv1だけあって、能力値は一桁みたいだけどさ。
「よく出来てるけど……どうやってんだ? 仕組みが分からないんだが……スモークでも焚いてる訳じゃないし」
「んー……なんか違くないか?」
どうにも科学的な現象には思えないんだよな。
俺の意義に茂信はすぐに考えを改める。
「確かに……」
「何なんだこれは!」
学級委員をしている生徒が異を唱える。
気持ちはわかるが、声がでかいぞ。
「さあ……?」
詳しく説明しろと言われても説明のしようが無いだろ。
この場にいる誰にも説明なんて出来ないと思う。
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