5
夕方5時頃。
今日は、白い空間に行くことは一回きりだった。
酷い日には、2回から4回ほど行くこともあった。
そのメカニズムは全くと言っていいほど解明されていない。
ただ、彼の体調や、精神の具合によるものと曖昧にはわかっている程度だった。
それでも、1日に1回は必ずその世界に引きずり込まれる。
しかし、それも今日で終わりのようだった。
だんだんと夜は近づいてくる。
いつの間にか、外は赤みを帯び、太陽はもう沈み切ろうとしていた。
夜の9時頃。
消灯の時間が迫ってきているのか、昼のような慌ただしい看護婦の声も聞こえない。
夜の病院と言うのは、基本的に閑静で静寂が支配するものである。
故に、灰海はそれがとても恐ろしく感じ、いつも夜は嫌いだった。
それは入院する前からのことで、今更だったが『病院』というステージで余計に苦手になった。
ぶっちゃけ、嫌いだった。
自室のカーテンを少し開ける。
今日はどうやら満月らしく、月が神々しい様である。
少しの隙間でも大変明るく照らされた。
彼の病室からは月がよく綺麗に見えるのだった。
数分してから灰海は床に伏せようとした。
瞬間、脳裏にあの世界にいた青年の言葉を思い出した。
ドクン
心臓が跳ねる。
ドクンッ
次は大きく跳ねた。
「はぁっはぁっ…!」
息が詰まるような感覚に陥る。
しかし、心臓の方はお構いなしに早くなる。
ドクンドクンと、止む気配はない。
次第に意識は薄くなり、すべてを放棄したくなった。
(あぁ、俺はここで死ぬのか…)
それを最後に灰海昇の思考は停止し、彼は意識を放棄した。