第六話 夜道
だいぶ遅れてすみません。
マイクラにMODを入れていたから遅くなったというわけではありません。
年末の忙しさと加筆の筆の重さが原因です。
今年中にもう一話ぐらい更新できるといいな。
『本日の戦闘は終了だ。君たちのご助力を感謝する』
森に、男の声が響いた。
おそらくアレックス近衛隊長の声だろう。
僕は思わずその場に座り込んだ。
「お疲れ様」
「よく頑張りましたね」
頭上から、二人のねぎらいの声が聞こえた。
「今日は本当にありがとうございました」
本当なら立ち上がるべきなんだろうけど、悪いがその余力すら残っていない。
本当に苦しかった。
普通に戦闘に入ったところで、足手まといにしかならないから二人がある程度ダメージを与えておいて、とどめを僕が差すという形になったんだけど、出てくるのはAランククラスの魔物で、当然なかなかダメージは与えられず一体倒すだけでもかなり苦労をした。
ただ、それもあって、というかあまりにもひどい状態だったので、魔法のコツというか要領を教えてくれた。
おかげで個々の魔法の威力も上がり、特にブレイブバスターとエンジェルウィングなんかは顕著で、ブレイブバスターは収束率を上げて貫通ダメージを与えられるようになったし、エンジェルウィングは消費魔力がずいぶんと減った。
魔力がそんなに多いわけでもない僕が、これなら十分実践に使えると自信を持っている言えるほどなのだから、ずいぶんと効率化出来たものだ。
そこから先は順調で、多少時間がかかりはしたがそれでもだいぶ楽に戦えた。
「いいえ、私たちも楽しかったですし」
「ただ戦うだけでは面白みがないですから」
彼女たちはそう言って苦笑する。
確かにただ戦うだけならば、二人にとっては退屈なものだろう。
僕にとってはAランクラスのダンジョンなんてまだまだ手も足も出ないレベルの場所だけど、彼女たちは違う。
二人して『SS+』ランククラスなのだ、こんな場所だって遊びに行くような感覚に近いものがあるだろう。
はっきり言えば、レベルとか格とかの問題じゃない次元が違う。
そんな彼女たちに師事できただけでも、普通に考えると僥倖だ。
『トクン』
不意に心臓が大きく脈打った。
それと同時に誰かに呼ばれたような気がした。
何かがささやいたような気がした。
だけどそれは決して嫌な気配ではなくて、むしろ穏やかで心地よい音色だった。
「どうかしたの?」
「あ、いえ、なんでもないです」
「ホントに?なんか、一瞬顔つきが変わったよ?」
どうやら、完全にばれているらしい。
「いや、本当になんでもないですよ」
だけど、それを僕は否定する。
いまだに気配は消えてなくて、それどころかかなり強くなっていて気にならないはずもないけれど、頭の外に追い出す。
ここは僕にはまだ早いレベルのダンジョンだ、下手な行動をするわけにはいかないし、それに彼女たちを巻き込むわけにはいけない。
「すみません。情けないですけど、もう体力的に限界なんでそろそろ帰りませんか?」
「そう言えばそうですね。ごめんなさい、気づかなくて」
「肩、貸しましょうか?」
「さすがに、それは遠慮しておきます」
それはあまりにも恥ずかしすぎるし、男としてのプライドも許せない。
何より、動けないほどではない。
「うんしょ」
掛け声とともにゆっくりと身体を起こす。
あちこちの節々や筋肉が痛み、悲鳴をあげている。
少し動かそうとするだけでも電気が走ったような痛みが走る。
「大丈夫ですか?やっぱり肩、貸しましょうか?」
「いや、大丈夫ですよ。そこまでやわな鍛え方はしていないですし」
「でも、今日のはかなり無謀なものでしたし、負担も大きいと思いますよ?」
「そうですけど、まあ歩くぐらいの余力は残しているから大丈夫です」
本当は立つっているのも辛いけど、そこは男だということで耐えるしかない。
まあ帰ったら、しばらくは動けないだろうが。
とりあえず風呂に入ったらさっさと寝よう。
「分かりました」
そう答えたアイシャさんはため息をついた。
やせ我慢だということぐらい分かっているんだろう。
顔は苦痛で歪んでいるだろうし、身体中あちこち震えているし。
「帰りましょうか。ただ私たちも少し疲れているんで、ゆっくりでいいですか?」
「……そうですね」
そう答えるしかできない。
完全に気を使われているとしか思えない。
それにしても、アイシャさんも意外と面倒見がいいというか、心配症というか、お姉さんみたいだ。
まあ僕のほうがずっと年上だから、お姉さんみたいだというのも変な話だが、それでも口を開かなければきれいに整った容姿と凛とした雰囲気からして冷静沈着でクールな情勢のイメージしかわいてこない。
まあとりあえずここは彼女の心遣いに素直に甘えさせてもらって、ゆっくりと帰らせてもらおう。
一歩一歩踏みしめるたびに体中に痛みが走る。
怪我自体はしていない。
というよりも、怪我をしても彼女たちが治してくれたので多少の擦り傷程度はあってもそれ以上のものはない。
この痛みは単なる筋肉痛だ。
こちらに来てからすぐにダイエットと同時に筋トレをしていたので、それなりに筋力と体力はついたがそれでもそれ以上の負荷をかければ当然身体は悲鳴を上げる。
魔法を重点的に訓練したが、それでも身体を動かさないでいいわけではない。
むしろ剣を使うことを前提にしている以上、鍛えた魔法を組み合わせられる程度の体術が必要になるわけで、魔法レベルをあげれば、その分だけ体術も引っ張り上げていたのだ。
おかげで今まではなんとなく振り回していただけだった剣も、多少はさまになるようになってきた。
「だいぶ歩きましたから、少しやすみませんか?」
「あ、私ちょっと飲み物買って来るね?」
そういったミィーナは近くのお店へと向かう。
ユグドラシルの森を抜けて、ようやく城外へとでたところだが、だいぶ身体が重い。
彼女たちもそれに気づいたのだろう。
「すみません、ご迷惑をかけてしまって」
「いいえ、構いません。むしろ私たちのほうこそすみません。柊さんって飲み込みが早いので教え甲斐がありましたので、ついつい無茶させてしまいましたし」
「いえ、おかげでだいぶ動けるようになりましたし。あ、すみません、少し座らせてください」
「はい」
彼女が頷くのを確認するとちかくのベンチに腰をかける。
まだ、夜とは言ってもそこまで遅い時間ではないため、人通りは割と多い。
先ほどまで、一緒にユグドラシルの森に居たであろう冒険者たちも意気揚々と口々に自分の戦果を誇りながら店に入っていっている。
「それも二人は僕にとっては命の恩人です。ありがとうございました」
そういうと頭を下げる。
彼女達がいなければ、僕は確実に死んでいただろうし、その後放っておかれていればその後どうなったのかも分からない。
彼女たちのおかげで死なずにすんだし、戦えるだけの力も手に入れた。
文句を言う筋合いなんてない。
「いえ、目の前で困っている人が居たら助けるのが当たり前ですから」
「でも、その当たり前を誰もがやってくれるとは限りませんよ」
彼女たちにとっては当たり前なのかもしれないが、その価値観が万物普遍ではない。
もし、あそこで僕を見つけてくれた人が彼女たちでなければ、助けてくれなかった可能性だってある。
生きるも死ぬも自分次第。
自分の命も自己責任。
それがここでのルールだ。
だから、それもまた仕方ないということで見捨てられる可能性は大いにある。
「だから、僕にとっては感謝しかありませんし、アイシャさんも気にしないでください」
「ふふ、ありがとうございます」
「いえ、というかお礼を言うのは僕のほうですよ」
まだまだ年若だというのに力を持ちながらも非常に腰の低い人だ。
まだ20歳を超えていないというのに、ずいぶんと落ち着いている。
「ただいま。て、あれあれ、なんかいい雰囲気だね」
飲み物を買ってきて帰ってきた彼女が開口一番そういうとにまにまと笑みを浮かべる。
「別になんでもないよ」
「ええ、お礼を言っていただけですよ」
「そうかな?アイシャちゃんが初対面の男の人に和やかに会話をしているところなんてあんまり見たことないから妖しいんだけど」
「別にそんなことないよ。私はいつも通りだよ。ただ、柊さんが話しやすい雰囲気をしてるからついつい言っちゃうだけだよ」
「そうかな?いや、確かに柊さんて年上の大人の人にしては話しやすいというか親しみやすい気はするけど」
「だから別に他意はないよ。それより、何を買ってきてくれたの?」
「そう?買ってきたのはお茶とオレンジジュースだよ。アイシャちゃんはオレンジジュースね。柊さんはお茶で良かった?」
「あ、ありがとう。もらうね」
「うん、お茶で構わないよ」
お互い受け取るとふたを開けてのどを潤す。
紅茶の爽やかな香りが鼻腔を満たす。
日本人にとってお茶といったら緑茶とか麦茶になるけれど、こっちでは紅茶系統のことをさす。
慣れないうちは違和感というか、緑茶とかが飲みたくなったが最近はそれしかないというのも分かっているのでだいぶ諦めがついてきた。
「だいぶ休めたよ、ありがとう」
「いえ、私たちものどが乾いただけですから」
「ええ、気にしないでください」
「そっか。そろそろ宿に向かおうと思うんだけど大丈夫かな?」
すくっと立ち上がると歩き出す。
重かった身体も多少は軽くなった。
これなら、宿に戻るまでは動ける。
「はい。大丈夫ですよ」
「ええ、私もです」
「なら、行きますか」
無事に宿に着いたのはそれから30分後のことだった。