第四話 勅令
ちょっと間をおいてから話を進めようか、当初の予定通りに進めるか迷いましたが、結局予定通りに進めることにしました。
ただ、書いているうちに9割がた書いたところでデータが飛んだときはショックで筆が進みまなくなり、書き直した結果若干変わってしまいましたが。
話の大筋的には変わらないから大丈夫でしょう。
夕暮れの町並みを歩く。
茜色に染まる空は穏やかに晴れ、太陽を背に受ける僕の影はずいぶんと長く伸びている。
日が暮れてきたので、今日の仕事は終い。
今日の食い扶持分ぐらいは稼げたのだから十分だろう。
ビギナーランククラスの仕事は簡単な分、単価はどれも安い。
数をこなさなければ、稼ぎは非常に少ない。
それこそ、その日の食い扶持を稼ぐのだって楽ではない。
まあ、それは、僕が昼ごろまでのんびりと寝て、昼になってから仕事をはじめ、日が暮れたらお終いという非常に暢気な生活をしているからだろう。
朝から夕暮れ時までやれば、貯める余裕はあるだろうし。
とはいえ、朝から動くのは疲れるからやりたくないし、夜も遅くまで遊んでいるので当然早起きなんてできるわけもない。
というか、本当に駄目な方向に向かっているな。
こんな様子だと、ランクアップもだいぶ先になりそうだ。
まあ、別段急いでいないし、才能のない僕が慌てて上がったところでいいこともないだろうから、このままでいい気もする。
最終的にAランククラスになれれば十分だ。
それ以上を求めるつもりはない。
とはいえ、いつまでもその日暮らしのような生活もいやだし、何かあったときに困る。
今、僕の手元にある預金ではせいぜい一月生活できる程度だ。
一応保険として社会人時代に貯めていたお金は半分は残しているが、それはあくまでも日本円で残しているため、すぐに使えない。
世界的に信用度が高く、いわゆるハードカレンシーと呼ばれる日本円ではあるが、さすがにここでは使えない。
というか、世界の基軸通貨である米ドルも使えない。
ここで使えるのはあくまでもプノーだけであり、それ以外の通貨は使えない。
そのため、最初にここに来るときに貯めていたお金の半分だけを両替したのだ。
残り半分は何かあって日本に戻らないといけなくなった場合にすぐに使えるお金として日本円も必要だろうと思ったので残しておいたのだ。
そういう意味では本当によほどのことがない限り手をつけられないお金であるため、ある程度金策も考えないといけないのだろう。
早起きをしなくてすむ程度に、だが。
赤く染まった町並の中にあるギルドへと入る。
まずは今日の仕事の成果報告が先だ。
今日もまじめに働いた成果なんだからきっちり報告しておこう。
「あら、こんちには。今日は遅番ですか?」
受付に居たのはいつもの僕に優しい子だった。
「ええ、そうです。今日も依頼ですか?」
「はい。暢気にやっているものなので」
「何事も無理は禁物ですからね」
「ははは、ありがとうございます。これ、お願いします」
「はい、かしこまりました」
そういって手渡したコアクリスタルを彼女は受け取ると端末につなぐ。
「今日は人が少ないですね?」
周りを見回してみても、人の姿はそんなにない。
いつもは人でごった返しているほどではないが、それなりに人は居るから多少の順番待ちはしないといけないのだが、今日はそれがいらなかった。
「それは、今日勅命の依頼が出ましたからね」
「勅命?」
聞きなれない言葉に思わず言葉そのまま聞き返した。
なんとなく、かなり上から発令されたものだというのは分かるが、詳しいことまでは分からない。
「王家発令の依頼のことを勅令と言われているんです。ただ、依頼という形ではありますが、その勅令を受けた人達は強制参加となりますのでどちらかというと命令になるわけですが。ただし、対象となる方々には資格設定があり、誰もが勅命を受けるわけではありません。ちなみに、今回の勅令の場所はユグドラシルの森です」
「王家発令の強制参加依頼ね」
「今回の勅令は毎年のことで、普段は入ることのできない奥のほうまで入れるということですから、腕に自信のある方たちにとってはこれとない機会なので、対象になる方は早々にヴァルハラ城付近に宿を取りに行って、そこに拠点を構えているいたいですね」
ユグドラシルの森はランククラスAの人間がパーティを組んでいくような場所だ。
出てくるモンスターは多種で、弱いものも居れば、奥に行けばかなり強いものもいるらしい。
ワイバーンやサラマンダーなど亜種の竜種だけに限らず、深部に行けば竜種の始祖であるドラゴンなんかもいる。
始祖ドラゴンなんかは、パーティ組んだところでまともに勝てるような相手ではないけれど、ワイバーンとかなら装備を整えれば勝てるらしいし、儲けもかなりのものになるらしい。
そういう意味では稼ぎイベントなのかもしれない。
まあ、僕にはまったく縁のない話だが。
「特に今回は次期国王となる第一王女殿下もご出陣なさるということで、王宮のほうも盛り上がっているみたいですね」
「王族の方々も出られるんですか?」
「はい。そもそも、こんかいの勅命は護衛のためのものですから。神事を行う際にモンスターが邪魔にならないように討伐する。そのための依頼ですから」
「近衛隊は出ないのですか?」
王国の懐刀にして、最高戦力。
特に近衛隊の長は、この国にて最強の人間といわれている。
「もちろん出撃します。ですが、ユグドラシルの森は広いですから、彼らだけでは防衛線を網羅できませんし、何より最深部の守護以外をする余裕はないみたいです」
おそらく、最深部までいけば亜種の竜種なんかは普通にいるだろうし、ドラゴンと相手することもあるか知れないだろう。
さすがに、そうなってしまっては、彼らもすべてを抑えきれるわけもないだろうし、何よりすべての隊員が近衛隊長のように強いわけではない。
というか、彼が特別なのだと考えるほうが普通だろう。
「王族か。どんな人なのだろうか」
僕がイメージするのは、王族じゃなくて皇族だけど天皇陛下だったり、イギリスのエリザベス女王とかだ。
欧州諸国にはいくつもの王家があって、王族もいるらしいが普通に生活していたら、そういう話にはあまり触れない。
「あ、それなら私も王家の血を引いてるんですよ?」
「え?」
「とはいっても、かなり昔の祖先に王族の末弟や愛妾の子供がいたらしいという程度の話なので、どこまで本当なのか分かりませんが」
その話が本当ならば、確かに王家の地をひいているのだろう。
まあ、見栄を張りたくて、話に嘘を盛ったりする事もあるので、あてにはできないが。
「姫様、と呼んだほうがいいですか?」
「ふふ、せっかくですが遠慮しておきます」
「それは、残念です」
お互いに笑みを浮かべあう。
こういう話は笑い話で済ませておくのが一番だろう。
「まあ、とりあえずは早く出られるようにがんばります」
今の僕じゃ呼ばれることはないだろう。
「そうですね。がんばってくださいね」
「はい、ありがとうございます。まあ、先はだいぶ長そうですが」
そう言いつつ苦笑する。
本当にいつになるのやら。
「大丈夫ですよ。すぐには無理かもしれませんが、かならずいけますよ」
「ははは、ありがとうございます」
その気遣いに感謝する。
「それではお疲れ様でした。コアクリスタルをお返ししますね」
「うん、ありがとう」
手渡されたコアクリスタルを受け取る。
明日には入金されているだろう。
「それじゃ、また今度」
「はい、お待ちしております」
にこやかな笑顔に見送られながら僕はギルドを後にする。
☆★☆★☆★
軽く食事を取ってホームに帰ってくる頃には日は完全に落ちていた。
「お疲れ様です」
「おう、お疲れさん」
いつもの彼に声をかける。
まあ、相変わらず名前は呼んでもらえないが。
「それと、これはお前への勅命だ。中に日時と集合場所が書いてあるから来るようにと言われてたから、ちゃんと見ておけよ」
そういって渡されたのは一通の封筒。
勅命という言葉に背中にいやな汗をかく。
思い出されるのは先ほどのギルドの受付での言葉。
ユグドラシルの森で行われるクエスト。
そっと深呼吸をする。
普通に考えれば勅命と言えばそれしかないだろう。
それ以外の勅命が同時期にあるとは思えない。
特に、僕は入ったばかりのビギナーであり、無名もいいところだ。
こんな人間にわざわざ指定して出されることもないはずだ。
だけど、それでも僕はビギナーだ。
ユグドラシルの森の勅命を受けるには資格があるといわれた。
ユグドラシルの森はAランクのダンジョンだ。
僕が入れるような場所ではないし、普通に入ろうとすれば門前払いもいいところだろう。
だから大丈夫。
半ば自分に言い聞かせるように心でつぶやくと封を開ける。
中には簡素に用件だけが描かれていた便せんと招待状。
ちょうど今から1週間後の15時にヴァルハラ宮殿グロリー広場に集合とだけ書かれていた。
おそらく招待状は通門証だろう。
ヴァルハラ宮殿と言えば王族の居城であり、そんじゃそこらの貴族ですら入ることができない。
当然僕なんか言うに及ばず、追い返されるどころか不審者で捕まってしまうだろう。
「大変なものに呼びつけられてしまったみたいだな?」
「やっぱりそうですか?」
「まあな。行ってみたら、分かるだろうから、細かくは言わないが、お前さんのようなど新人がいくようなところじゃないな」
どういったものなのかといった中身は書かれていない。
けれど王族の居城に勅命で呼ばれるのだから、たいしたことのないものでは決してないだろう。
おそらくは、想定どおりのことだろう。
わざわざ念を押すようにそう言われているわけだし、諦めるしかないだろう。
ただ、はっきりとしたことは言わないから、まだ確定とはいえない。
九割九分九厘そうなのだろうが、絶対とは言い切れない。
もったいつけなくていいから、何がどうなっているのか教えて欲しい気もするが、だからと言って聞きたくない気持ちもある。
「まぁ、怨むなら二つの属性を欲張って取った自分を恨むんだな。呼ばれる条件はただ一つ。二つ以上の属性を持つ人間。それだけだ。ほら、いつまでもここに居ないで自分の部屋に帰りな」
そう言って、しっしと手を振る。
これ以上話す気はないようで、これ以上ここに居ても仕方なさそうだ。
「分かりました。失礼します」
そういって、お辞儀をすると自分の部屋に向かう。
それにしても、まさか自分がヴァルハラ宮殿なんかに行くことになるとは思わなかった。
もちろん、いけたらいいなとは思っていたし、いつかいけるようになるつもりではあったけれど、こんなに早くそんな機会が回ってくるとは思わなかった。
ヴァルハラ城に入ることは一種のステータスみたいなものだ。
普通の人間では入ることが出来ないところだから、自慢することだってできる。
ただ、今は自慢する気は全く起きないけれど。
確定していないとはいえ、分不相応な勅命を貰って不安で、自慢する気なんて起きるわけがない。
自分が欲張ったから、二つの属性をいきなり覚えたからいけなかった。
彼はそう言っていた。
確かに、本来二つの特化属性を持つのは、今の僕のような新人にはできない。
Aランククラスの魔法使いでないと難しい。
しかし今の僕はビギナーランクで、本来なら二つの属性を扱えるようになるにはまだまだ遠い未来の話だったはずなのに、欲張ってずるをして二つを手に入れようとしたからそういうことになった、ということだろう。
とはいえ、もう過去のことは変えられない。
ひどく後悔しているけれど、自分で臨んだことなのでどうしようもないし、どうしようもないならこれからをどうにかするしかない。
とりあえず、宮殿で何があるのかは知らないが、恥をかくようなことだけはしないでおこう。
そのために準備だけはきっちりしておこう。