第七話 経験と油断
クエストの目的地は随分と森の奥深くにある池のほとりだった。
そして、そのほとりでドラゴンがのんびりと寝そべっている。
勝機があるとするならば、その隙を狙うこと一点のみ。
普通に戦って勝つ可能性はない。
視界の開けた場所で遠くから見える場所に居てくれるので、狙撃する。
唯一の救いと言えば、一応離れた場所でヴィゼッタがいて、危険な状態になったらすぐに助けに入ってくれるので、死を恐れなくてもいいことだが、その時点で試験は落第なのでどうしようもない。
木の陰に隠れて目を閉じると、集中力を高める。
そして、目を開けると、魔法陣を展開する。
使う魔法は当然、ディバインカタストロフ。
威力を最大限に高めた一撃で貫き倒す。
陰に隠れてこそこそとやるのは随分と卑怯だが、勝たなければどうしようもない以上、この際方法に綺麗も汚いもない。
魔力を充填させ終わると、一気に収束させる。
最初使っていた頃は随分とおっかなびっくりで、制御にもかなり難があったけれど、随分と使い込んだおかげで、扱いにもだいぶ慣れてきた。
さすがに、ミィーナレベルには達してはいないけれど、ここに来て数カ月の人間が使う魔法にしては、かなり高レベルの魔法だろう。
そっと木の脇からドラゴンを覗く。
大きな翼を持ったワイバーンで、素早さに関しては始祖竜を除くドラゴン族では一番の敏捷性を持っているが、こうして寝そべっていれば、それも関係ない。
狙いを定めると、
『ディバインカタストロフ』
一気に放つ。
高圧力の一筋の光の直線は、あっさりとワイバーンの心臓部分を貫く。
「よし、ミッションクリア」
ワイバーン相手だと少し怯んだが、態勢を整えれば大したことはない。
いくら圧倒的な力を持つワイバーンとて、隙をつかれて即死レベルの攻撃を食らえばひとたまりもないのは当然のことだ。
怯える必要なんてなかった、ということだろう。
ワイバーンのそばまで歩み寄ると、一応生死を確認してみるが、ちょうど僕がすっぽりと入るか入らないかぐらいの穴が胸に綺麗に開いているあたり、確認する必要もなく死んでいると判断していいだろう。
戦々恐々としてしまったが、その割には味気ないクエストだったものだ。
今まで経験したバトルがやはり、特殊だったのだと考えるべきなんだろう。
踵を返し、ヴィゼッタたちのところへと足を進める。
「があああああああああ」
けれど、その瞬間、咆哮が響いた。
思わず音の方へと身体を向けると、思い切り何かにたたきつけられたかのような強い衝撃を全身に受ける。
「がはっ」
そのまま勢いよく地面にたたきつけられてしまう。
一応防御服を展開しているが、そんなものが無意味ではないかと思えるほどの衝撃を身体に感じた。
とはいえ、いつまでも倒れこんでいても危険なだけだ、痛みでふらつく身体でなんとか立ち上がり、顔を上げる。
「がああああああ」
途端に再びに咆哮が響く。
「……冗談、だろ。いや、冗談じゃないんだろうが、勘弁してほしいんだけど」
それは、僕を奈落の底に落とす光景だった。
先ほど倒したワイバーンの隣にある大きな影。
もう一体のワイバーンの姿があった。
『ディバインオーラ』
身体能力向上をさせるために、発動させる。
分は明らかに悪い。
背後から受けたダメージが思いのほか大きく、足元がふらつく。
万全の状態でさえ、勝てるかどうかも分からない相手なのだ、勝てるイメージがわかない。
だけど、こうして戦闘になってしまった以上、逃げられないだろうし、これもクエストの一部だろうし、ここで逃げては、試験は落第になってしまうだろう。
『エンジェルウィング』
ただ、救いなのは、あくまでもワイバーンであること。
何度か戦ってきたことがあるだけに、戦い方のイメージがある。
今のところは勝ちのイメージがわかないけれど、それでも、戦い方次第では、倒すための手段が思い浮かぶかもしれない。
身体中を覆う金色の圧縮された魔力を更に圧縮させる。
まだまだアイシャさんの域には達してはいないけれど、圧縮率も随分と良くなった。
そして、圧縮させた魔力を足に集め跳躍。
「がああああ」
ブレス攻撃を何とかよける。
『ブレイブバスター』
ダメージはないだろう、だけど、それでも構わない。
「ぎゃあ」
突如横っ面を殴られたかのようにのけぞるとたワイバーンはたたらを踏む。
ダメージはやはりないが、態勢を崩すことができただけでも十分。
『アークライトジャッジメント』
光の洗礼の一撃を与える。
けがれたものを打ち払う光がワイバーンの体にたたきつけ、その威力に土ぼこりが起きる。
僕はそのまま、木の陰に隠れる。
残念ながら、あの程度で倒れてくれる相手ではないだろう。
僕の魔法の中では二番目に威力を誇る魔法だが、ワイバーンの固いうろこを貫くほどまでの威力はない。
ディバインカタストロフでなければ、貫けない。
ならば、とる手段は一つしかない。
ワイバーンは、その場で周りを見回している。
どうやら、僕の居場所が分からず、探しているみたいだ。
これなら、大丈夫だろう。
いきなりの対峙で思わず驚いて動転してしまったが、態勢さえ間違えなければ、戦えないこともないということだろう。
もう一度魔法陣を展開させると、チャージする。
これが最後の一発だ。
ワイバーンの鱗を貫くだけの魔力を込めるのだから、もともとの魔力総量の少ない僕では二発が限界だ。
とりあえずこれが外れればもう後はない。
その時点で勝利はなくなるが、さっきもうまくいったから大丈夫だろう。
いくら知能の高いドラゴン種族でも始祖竜ではない以上、人の気配を感じることまでは出来ないみたいだ。
隠れて、隙をつけば、確実に勝てる。
木の陰からこっそりと覗きこむ。
「があああああ」
相変わらず咆哮を上げながら僕のことを探し回っているが、どこにいるのかは分かっていないみたいだ。
チャージした魔力を今度は一気に収束させる。
そして、木の陰から飛び出すと
『ディバインカタストロフ』
ありったけの魔力を注ぎ込んだ一撃を放つ。
まばゆいきらめきをあたりに散らしながら一筋の光は一瞬でワイバーンを貫いた。
「ぎゃあああああ」
響き渡る悲鳴。
舞い散る潜血
腕が肩からどすんと落ちた。
そして、その光景を見て、僕は凍りついた。
「があああああ」
響き渡る咆哮。
辺りに潜血を振りまきながらも、その目で僕を捉えた。
背筋が凍る。
倒せなかった。
心臓を目がけてはなった一撃はかわされ、左肩を落とすことしか出来なかった。
二発のディバインカタストロフを打って、そんなに魔力は残っていない。
勝ち目なんてない。
油断し過ぎたのだろう。
さっき成功したからと言って、今回も成功するとは限らないのに、慎重さが足りなかった。
確実に仕留めるようにしなければいけなかったのに、それを怠った。
『ナインズソード』
九つの光の剣を生み出す。
無駄なあがきだが、何もしないわけにもいかない。
何もせずに死ぬわけにはいかない。
左肩にディバインカタストロフを受けて、ダメージはあるが、まだまだ余力のあるワイバーン相手に勝機はなかったとしても、それでも戦わないといけない。
ぐっと剣を握る力を強めると、ワイバーンへと向かっていく。
もう、ディバインカタストロフは使えない。
『シャイニングブレード』
手に持った剣が光り輝く。
ならば、得意とは言えないが、剣でどうにかするしかない。




