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30歳から始まる魔法生活  作者: 霧野ミコト
第二章 開かれた神話
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第一話 神教国家ヴァナヘイム

休憩をちょっと挟んだおかげで少しゆっくり出来ました。

うそです。

めっちゃ忙しくて、暇が取れませんでした。

とりあえず、今回も連続更新出来るところまでがんばります。

夜闇の通りを空を見ながら僕は歩いていた。


ぼろぼろになっていた身体は完全に癒えた。


退院許可が下りたのは、殿下と会ってから一週間が経ってからのことだった。


怪我自体は二日後に直ってはいたが、体力の方はまだ完全とは言えなかったので、大事をとって長居することになった。


そして、退院許可が下りると同時に僕は荷物をまとめると、列車に乗った。


行き先はヴァナヘイム。


ニダヴェリールに行くには、まずヴァナヘイムを経由しないといけない。


飛行機でも使えればあっという間に到着するだろうけど、飛行系の魔物がいるため、飛行機の類は使えない。


もちろん、全くないというわけではないが、護衛機をつけたり、迎撃システムをつけないといけなかったりと、どうしても採算が取れないため、一部の特権階級しか使えず、一般には開放されていない。


とはいえ、僕にとっては、大助かりだと思っていた。


ヴァナヘイムまでは、丸一日ぐらいで到着するし、そこからさらにニダヴェリールに行こうとすると、更にもう丸一日使う。


要するに二日間かかるわけだが、ヴァナヘイムで一泊するので、それを足すと三日間も時間がある。


入院中に答えが出せなかった僕にはその三日間が非常に大きかった。


彼女たちに会うべきか会わないべきか。


あれから一週間が経った。


けれど、それでも答えは出なかった。


いや、違うか。


答えを決められなかった。


いくつか浮かんでは即座に否定をして、結果心を決めることが出来なかった。


普通に考えれば、アレックス隊長に従うべきなのは分かっている。


始祖竜相手に時間稼ぎをし、挙句には翼を引きちぎったりして殿下を守ったが、あくまでもようやくBマイナスランククラスになったばかりで、一人前とも言えない半人前の魔法剣士なのだ、王族に近しい貴族だったのに貴族でいられなくなってしまった彼女にかかわるべきではない。


血なまぐさいことがあったに違いないことぐらい容易に想像できるし、下手に付き合い続けて巻き込まれてしまったら、目も当てられないし、自分の身を守れる保証だってない。


自分の身の安全を考えるのならば、アレックス隊長の言葉に従うべきなのだ。


だけど、やはり、それでは、心が納得できないのだ。


彼女たちは恩人だし、いい人だった。


何の力持たない僕を助けてくれた上に、鍛えてくれた。


殿下を守って負傷した時も、彼女たちが助けてくれなければ死んでいた。


僕は彼女たちに二度も命を助けられた。


その恩人のことを自分の身の保身のために切り捨ててしまうのは、男として人として最低だとしか思えてたまらない。


それに、身の危険だって、あくまでも僕がアレックス隊長の言葉から推測した程度のことで、実際に起きうるかどうかは不確定なのだ、そんな不確定なものを理由に及び腰になってしまうのもどうかと思えた。


それに、ここに来て初めてできた知人だ。


それ以外に、友人と呼べるような人はいない。


基本的にソロで行動するつもりではあったが、だからと言って、友人が全く欲しくなかったわけではない。


一人というのはやはり寂しいので、話し相手になってくれる友人が欲しかったし、せっかくできた友人とお別れだなんて言うのは寂しい。


そういう意味では、本当にシャリーアという存在はありがたかった。


彼女が居なければ、完全な孤独だっただろう。


だけど、だからといって彼女一人というのも寂しいものだ。


そのため、その三日間で答えを出そうと思っていたし、ずっと汽車の中にいるのだ、やがては答えが出るだろう、そう思っていた。


ただ実際に乗ってみれば、時間はあっても本を読んだり、新しい魔法を作ったり、ぼーっと窓を見たりと、結局答えを出すどころか、まともに考えようともしていなかった。


だいたい、窓の外には、ほとんど線路以外に人工物は何も見えないのだから、見る必要なんてない。


アースガルズやヴァナヘイムの国内であれば、人口の建造物はちらほら見えたが、国内に入ったところで、都市部まで行かなければほとんど建造物なんていうものはない。


他の町だって、中心部以外は建物なんてなく、自然のままの土地に魔物がいるのが見えるぐらいだ。


そもそも、アースガルズとヴァナヘイムは直接つながっておらず、その間にはウトガルズがある。


というよりも、ウトガルズという魔物の世界を海とたとえると、人の住むアースガルズ、ヴァナヘイム、ニダヴェリールは浮島のように存在している。


だから、当然人が住める場所ではないから物なんてなく、こうして他の国へと行き来する人間のために線路が作られているだけで、見るものなんてあるわけがないし、窓の外をわざわざじっくりと眺める人間なんていない。


その線路だって、魔物に襲撃されないようにと結界が何重にも張られているし、警護もされているから安全ではあるが、その分武骨でお世辞にも建築美なんてものがあるとは言えなかった。


だけど、結局無為に時間を過ごしてしまった。


答えが出ることはなく、ヴァナヘイムについてしまった。


着くとすぐに予約しておいたホテルに荷物を置くと、外に出て食事を済ませた。


ホテル内ですませるのもいいかと思ったんだが、次の日の昼にはニダヴェリール行きの列車に乗る予定だから、せめてもの観光をと思ってヴァナヘイムで有名なレストランに行ってきた。


まあ、かなり懐が温かいから、随分と豪華なディナーになったんだけれど、もともと中流階級の人間で、その手のものに縁のなかった僕には、あんまり味は分からなかった。


確かにおいしいのはおいしいんだけど、値段に見合うものなのかなんていうことは全く分からない。


とりあえず、背伸びなんかするな、ということだろう。


不意に風がびゅうっと拭いた。


今は、食後の散歩をしている。


目的地は、神殿。


ヴァナヘイムの王城の一部であり、巫女や神官たちが祈りを捧げる場所で、一般に公開もされている。


すごく綺麗な場所だし、ヴァナヘイムに来たんだったら絶対に行った方がいい場所だと、ヒューエルさんが言っていたので、見に行っているのだ。


随分と大きな建物らしく、辿り着くにはまだもう少し時間がかかりそうなのに、目の前いっぱいにどんと聳え立っている。


その姿は王城に相応しく威風堂々としていて、圧倒的な威圧感を放っている。


不意に吹く風は少し冷たく、空気は凛としている。


アースガルズとはまた違った空気、どこまでも静かで厳かで神聖な世界を形作っている。


もちろん、昼間になればまた違うのかもしれないが、夜のヴァナヘイムは神教国家という名に相応しい。


道を踏みしめる足跡が響く。


まだ夜としてはそんなに遅い時間ではないはずなのに、人通りはない。


おかげで、余計な思考が頭の中をめぐりだす。


アイシャとミィーナのことだ。


まあ、本来は正しいことなのだろう。


もう時間はそんなに残されていないというのに、答えが出ていない。


楽しかった時間。


彼女たちと過ごした時間は確かに楽しかった。


過ごした時間は短かったとしても、大事な友達なのだ。


だから、これからも、やはり大事な友達でいたい。


でも、立ち止まってしまう。


やっぱり、怖いから。


彼女と一緒にいる限り、危険と隣り合わせの生活になってしまう。


僕は確かに特別な存在になりたくて、ここに来た。


でも、それと同時に、穏やかな時間も過ごしたい。


いきなりユグドラシルの森に連れて行かれたり、ワイバーンや始祖竜と戦ったりしたいわけじゃない。


自分の身の丈に合った生活をしたい。


自分の考えが及ばない世界には行きたくない。


きっと対処できないから。


そして、対処できなければ死んでしまうから。


だから、僕は、及び腰になる。


心のどこかで死ぬことを望みながらも不安になりおびえている。


自信を持って、彼女たちに会いたいと言えない。


せめて、力があれば。


最低限自分のことを守れる力があれば、それも叶うのだが、せいぜいBマイナスクラスの僕じゃ、遠い未来の話だ。


こつこつとランククラスはあげていくしかない。


普通に考えて、今回みたいなことなんてありえないし、現実にそういうことばかりでは、身体が持たない。


いまだに、体のあちこちが、思い出したように痛む。


不意に風がやんだ、と思ったが違った。


ようやく、着いたみたいだ。


大きな扉が目の前に広がっており、三人の女神の彫刻が施されている。


確か、ウルズ、ヴェルザンディ、スクルズの三人だったと思う。


そっと、扉を開け、中に入る。


そして、その瞬間に僕の中の時は止まった。



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