幕間
「今回の勅令も何とか無事に終わったみたいね」
暗い室内に女性の声が響く。
「無事に終わったといっても、アースガルズの近衛隊の被害は甚大だろう?」
別の声が響く。
今度は男性の声。
「二桁の始祖竜が現れたんでしょう?むしろきっちり神事が出来ただけでも十分だと思うわよ?」
「とはいっても、最後戦線を持ちこたえてくれたのは素人といってもいいほどのBランククラスの人間。いや、そのときはまだEランクでしたかね」
「素人と言っても欠片を持つものだ」
また、別の男性の声がする。
先ほどの男性よりかは年上のようだ。
「そう言えば欠片の力を使ってたみたいね」
「始祖竜の翼をちぎった魔法のときですね」
「そうじゃなければ、引きちぎれないわよ。あのレベルの魔法使い程度ではね」
「アースガルズ一のエンチャンターがエンチャントしたものでもですか?」
何かを揶揄するような、少しいたずらを交えたような弾んだ声が響く。
「あの子自身はそんなふうには思っていないし、実際まだまだ勉強すべきところは多いわよ。あっさり出力に耐え切れず壊れてしまったところとかね」
「厳しいですね。むしろ、あの出力をあのレベルのエンチャントで出せるほうが不思議ですけど、まあここはあなたの顔を立てておくことにします」
「含みのある言い方ね」
「いいえ、別に、何も」
「まあ、いいわ。で、その彼はあたりなのかしら?」
「そうですね。そこのところはどうなんですか?」
「完全に答えが出たわけではない。ただ、可能性はある。欠片の力に、ノルンの声、そして殿下の気に入り方。どれをとっても条件には適合する」
「そして、アイシャ・ヴェーノンも気に入っている、そうでしょう?」
「ええ、そうみたいね。でも、確定ではないわけね?」
「過去にこれと似たようなケースがなかったわけではないらしいからな。決め付けるのは良くないだろう」
「なら、次は私のところですかね」
「そういえば、壊れたコアクリスタルを治しにニダヴェリールに来るのよね」
「だから、必然的にヴァナヘイムには来ることになるだろうし、うまく誘導していますよ」
「本当に来るのかしらね?たきつけた人がいるらしいし」
そういった彼女は年上の男性のほうに視線を向ける。
「私の与り知らぬことだよ。コアクリスタルの修復が必要ならば必ず行くだろうよ」
「まあ、彼が当たりなら行くでしょうね」
「そういうふうに歩んでしまいがちでからね、欠片もちは」
「ええ、そうよ。かわいそうな子達よね、欠片もちって」
「力の代償と考えれば仕方ないですよ」
「ええ、まあ、そうね」
年若の男と女の顔が少しだけ曇る。
「なんにせよ、経過見の形は変わらないということでいいかな?」
「ええ、構わないわ」
「構いません」
「では、会合はこれで終わりにしよう」
「それでは、また今度」
「お疲れ様でした」
次の瞬間、ふっと三人の姿は消える。
元からそこには誰も居なかったように消えたのだった。
これでとりあえずは一章終了です。
もしかすると、ちょっとだけ休憩入れるかもです。