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30歳から始まる魔法生活  作者: 霧野ミコト
第一章 紐解かれる神話
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第十六話 お見舞い

病室に戻ると、ベッドに寝転がる。


相変わらず、身体のあちこちが痛いが、痛み以上に、イライラが身体中をめぐっている。


言うまでもなく、理由はただ一つ。


近衛隊長の言葉だ。


『もう一度言う。彼女たちに関わらない方がいい。もちろん王家ともだ。君は君のいるべき世界で過ごす方がいいだろう。それでは失礼する』


その言葉がずっと、頭の中でもやもやと渦巻いているのだ。


彼がああ言ったのには、それなりに理由はあるのだろう。


なければ、そんなことを言わないはずだ。


なら、一体何があったのだろうか。


王族と親しく付き合えるほどの貴族が、貴族でなくなってしまうほどのことだから、相当なことだということぐらいは分かる。


あの時、アレックス隊長が言ったことから考えられるのは、それぐらいだ。


もちろん、もしかしたらそうじゃないのかもしれないが、今一番可能性が高いのはそれだろう。


ベッド脇に生けてある花を見る。


名前は知らないけれど、可愛らしい空色の花で、それは昨日彼女が持って来てくれた花だ。


彼女は、今日の朝も顔を出してくれた。


そして、見舞いの言葉を残すと、そのまま自分の国へと帰った。


気持ち的には、完治するまで一緒にいたかったのだけれども、事情があっていつまでもミィーナだけに任せておくわけにはいかないらしい。


だから、申し訳なさそうにしていたけれど、こっちにしてみたらこうして今日までいてもらったのだって悪いと思っているんだから、それ以上なんて言うのは以ての外だ。


寂しいのには違いなかったけれど、気持ちよく送り返した。


懐から、コアクリスタルを取りだすと眺める。


限界を超え続けて使ったせいで、いたるところに亀裂が入っていて、壊れる寸前になっていた。


この状態では、もう使えない。


ヒューエルさんのところに持っていって見せた途端に、こっぴどく怒られた。


『コアクリスタルがこんなになるまでの負荷がかかるほどのリミット解除をするバカがいますか!』


あの時の怒り具合と言ったらすごいものだ。


まさしく烈火のごとく、といった感じだったが、わけを話すと納得してくれた。


思いっきりため息を吐かれてしまったが。


まあ、呆れてもいたんだろう。


だけど、ため息を吐いた後、彼女に自分では治せないと言われてしまった。


さすがに、ここまで破損してしまっては、彼女にはどうにもできないらしい。


彼女はあくまでもエンチャンターであって、整備士―リペアラーではない。


多少の破損なら修復は出来るが、使えなくなるほどの損傷は本職ではないと無理だということらしい。


懐から別のものを取りだす。


それは小さな便せんで、中には紹介状が入っている。


紹介してくれるのはエンチャンターだけど、彼女の師匠であり、エンチャンターだというのに、本職のリペアラーに引けを取らない技術を持っているらしい。


そこで直してもらって、さらにエンチャントをしてもらえ、とのことだった。


ただ、問題が一つある。


そのエンチャンターがいるのが、ニダヴェリールにいることだ。


このユミールに普通に人が住んでいるのは、今僕がいる行政国家アースガルズと神教国家ヴァナヘイム、技術国家ニダヴェリールの三つだけで、彼女の師匠がいるのはその技術国家のニダヴェリール。


要するに外国ということなのだ。


当然、出国するにはBランククラス以上でなければならない。


とはいっても、問題はそこではない。


コアクリスタルが壊れているとは言っても、あくまでも武器や防具が出せないだけで、データが破損しているわけではないので、データの抽出をした後更新をして、晴れてBランククラスになっている。


というのも、宮殿からの帰りに最初にギルドに寄ったのだ。


僕のコアクリスタルがボロボロになっていて、それをどうやって直したらいいのか、それをきくために寄ったんだけど、そこでコアクリスタルを直してもらうには、エンチャンターかリペアラーに頼むしかないと聞かされたのだ。


なら、何が問題なのかと言うと、その国にアイシャやミィーナがいるのだ。


あまりにも、タイムリーなのだ。


まるで、会いに行けとでも言われているかのように思える。


アイシャやミィーナには迷惑をかけたのだから、近くに行ったなら、顔見せぐらいはするべきだろう。


それに、二人と仲のいいサミューさんのことだから、きっと僕がそっちに行くことを言っているだろう。


それで行かなかったら、冷たい人間だと思われるかもしれないし、サミューさんだっていい顔をしないだろう。


だけど、今の僕には、彼女たちと会っても、どうしたらいいのか分からない。


そもそも、会っていいのかも分からない。


どうしても、アレックス隊長の言葉が頭の中から離れないのだ。


僕はそっと息を吐く。


とりあえず、今日は寝よう。


どちらにしろ、身体を治すことが先決だ。


ただ、治ったらすぐに行かないといけないが、それでも、着くまでには、さすがに答えが出ているだろう。


もし、答えが出なかったときは、その時だ。


流れに身を任せればいい。


半ばやけっぱちにそう決めると、僕は服を着替えると、布団の中にもぐりこんだ。


その瞬間にコンコンとドアをノックする音がした。


誰かお客さんだろうか?


「はい、どうぞ」


そう扉の外の人に声をかけると、いそいそと身体だけを起こす。


「どうも、シャリーアです。具合のほうはどうですか?」


中に入ってきたのはいつもの受付の子だった。


「あ、ありがとうございます。わざわざ、すみません。具合なら、ギルドで会ったときと変わらないですよ」


「そうですか。ギルドに居たときは忙しくて、ほとんど仕事の話しかできませんでしたから、少しでもと思いましてお邪魔させてもらいましたが、良ろしかったですか?歩けるほどには回復しているから、大丈夫だろうとは思って勝手に来てしまいましたが」


「構いませんよ。ちょうど話し相手がほしいところでしたから」


「あ、こちら良かったらどうぞ」


することもないし、暇していたのは事実だ。


「これは焼き菓子ですね?」


「はい、王都でも人気なんですよ。もしかして、甘いもの駄目でした?」


「いえ、むしろ大好物です」


三食の内一食がケーキだけになるときがあるぐらい大好きだ。


まあ、めったにしないけど。


「そういえば、ミィーナさんたちはもう帰られたんですか?」


「はい。いつまでもこちらに滞在しているわけにも行きませんし、僕自身も悪い気がしますからね」


「でも、身体はあちこちまだ痛むんですよね?お世話とか大丈夫なんですか?」


「それなら大丈夫ですよ。ある程度のことなら自分で出来ますし、無理な場合は看護師の方が手伝ってくれますから」


一応王家にゆかりのある病院だ。


そういったサービスもかなり行き届いている。


「そうですか。もし、何かあったら、私に言ってくださいね?まだ、しばらくはこっちに居ますから」


「ありがとうございます。いつごろあちらに戻る予定なんですか?」


彼女も気を使ってそういってくれるが、実際に手を借りることはないだろう。


「あと一週間ほどはこちらでお手伝いをします。勅令が終わって一月ぐらいは忙しいですからね」


「すぐに帰るわけじゃないんだね」


「拠点をよそに構えている人も多いですからね。王都でしか受けれないターゲットのクエストとか買えない品物だってありますし、終わった後は観光資金を稼ごうとする人だって居ますからね」


「確かに、こうして初めて王都に来たけど、目新しいものばかりですぐに帰るのはもったいない気がするね」


「外に出られるようだったらおいしいお店もご紹介してあげたいところですが、残念ですね」


「ありがとう。なら、今度ホームに戻ったときに、ホームのお勧めの店を教えてくれないかな?甘いものとか好きなんだけど、ちょっと男一人で入るには勇気が行ってさ。駄目かな?」


「いえ、大丈夫ですよ。いくつかお勧めのお店があるので、ぜひとも一緒に行きましょう」


そう答えた彼女は嬉しそうだった。


やっぱり彼女といると落ち着く。


背伸びはそれなりにしているが、無駄に気をはらなくてもいい。


アイシャ達と居るときは、大人の男として情けないところを見せたくがないがために無理に虚勢を張ってしまっている部分がある。


本来の自分は適当で面倒くさがりで堕落した人間だが、彼女達の前ではしっかりとした大人を演じてしまう。


彼女達が期待してくれるから、その期待に応えたいがために余計にがんばってしまう。


カノン殿下ならなおさらだ。


圧倒的な存在に非常に肩身が狭く、居心地が悪い。


一緒に居れば居るほど自分が矮小な存在に見えてくる。


だけど、彼女にはそれを感じない。


情けないときの自分を知っているというのもあるし、言い方が悪いかもしれないが彼女は僕に何も期待していない。


せいぜい無事に生きて帰ってくることぐらいだろう。


それも受付としてで、それ以上でもそれ以下でもない。


多少話すことが増えて仲が良くなっても、それは変わらない。


だから、それが心地いい。


こんな自分でもいいんだと思える。


「戻ったらお祝いもしないといけませんね。なんといってもBランククラスまで行ったわけですから」


穏やかな時間が過ぎていく。


そのままの自分で居られる時間が過ぎていく。


「でも、これからはこんな無茶はしたら駄目ですよ?安全が第一ですからね?」


そういった彼女が病室を後にしたのは日が完全に落ちてからだった。




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