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30歳から始まる魔法生活  作者: 霧野ミコト
第一章 紐解かれる神話
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第十話 声の主

とりあえず、三日連続!!

声が聞こえる。


誰かが呼ぶ声。


僕を優しく呼ぶ声。


誰だろう。


聞いたことはある。


優しく僕を導いてくれた声。


僕は目を開けた。


「あ、ようやく、目が覚めたみたいね」


「本当ですね。良かったです」


「ミィーナさんに、アイシャさん?」


覗きこむようにして、僕を見ている二人がいた。


「おはようございます。とはいってもまだ夜ですけどね」


「ちなみに、今は21時で、柊さんが倒れたのが17時ぐらいなんで、四時間ほど

眠ってました」


「えっと、もしかして、僕を運んでくれたのは二人ですか?」


『はい』


気持ちいいほどぴったりと二人揃って答えた。


見慣れた部屋にいるのは彼女たちだけで、僕の倒れた時間を知っているあたり、もしかしたらと思ったけど、本当にそうだとはどこまでも情けない話だ。


「ごめん。重かっただろう?それに、あちこち傷があったから服も汚れただろうし」


ワイバーン戦の時は、直接戦闘に参加していなかったけれど、それ以前はそんなことはなかったから、あちこち血や汚れが付いていた。


「ふふふ」


「あはは!!」


しかし、二人はいきなり笑いだした。


ミィーナなんかは、腰を折っての大爆笑だ。


「何がおかしいんですか?」


「いやいや、怒らないでよ」


「すみません」


ちょっとだけ頭に来たせいか、少しだけ言葉にとげがあったみたいで、笑うのをやめた。


「柊さんを連れて帰ったのは、ホントは私たちじゃないんです」


「亜種のドラゴンを片付けたあと戻ったら元の場所にいなかったんで探していたんです。そしたら、おろおろしてた人たちがいて、どうしたんだろうって思ったら、そこに柊さんがいたんだ」


「びっくりしてましたよ。まさか、Eプラスランククラスだとは思ってなかったみたいで」


「だろうね」


基本的にAランククラス未満の人がいないと思っているんだから当然だろうし、Eマイナスランククラスで、ワイバーンの心臓を貫くだけの威力のある魔法を使えるとは思わないだろう。


実際に使った僕だって、いまだに信じられないわけだし。


「でも、随分と無理したみたいですね。充填収束系の魔法はダブルAランククラスの魔法ですから、簡単に扱えるものでもないですし、普通なら無理ですよ」


「そうだね。今の柊さんの魔力制御じゃ、無理だと思うし」


当然、魔法のことをよく知っている彼女たちならなおさらだろう。


練習なしのぶっつけ本番で、自分の能力の限界を超えたところにある魔法なのだ、本来は成功するはずがないのに、それがなぜか成功したのだ、疑問に思わないわけがないだろう。


それに、僕がどうしてそんな身の丈に合わない魔法を使えたのか、それを知りたいはずだ。


「声が、聞こえたんだ」


『声?』


二人が訝しげな顔をしている。


まあ、いきなりそんなことを言われれば、当然だろう。


頭がおかしくなったと思われても仕方ない。


「うん。女の人の声だった。穏やかで優しい声で、ヒントをくれた。で、そのヒントの通りにやったら成功したんだ」


その言葉に二人は難しい顔をして黙り込んでしまった。


頭をかく。


失敗したのかもしれない。


適当な嘘も思い付かないから、本当のことを言ったんだけど、おかしな奴と思われたかもしれない。


そう思うと、かなりダメージがある。


「それは、たぶん、ノルンです」


「え?」


だけど、次に出てきた言葉は意外な言葉、というよりも、理解できない言葉だった。


「ユグドラシルの樹の中に女の人がいて、その人がノルンっていうんだ。まぁ、私も詳しいことは知らないんだけど、ユグドラシルの森に入ったら、声が聞こえたっていう人がいるんです。穏やかで優しい女の人の声が聞こえたって」


「へえ」


ユグドラシルの森が特別だというのは知っていたが、まさかそこまで特別だとは思わなかった。


下手したら怪談話のようにも聞こえるけれど、体験したことを考えると、守り神のようにも思える。


「二人は聞いたことあるの?」


「いえ、私たちはないんです」


「そうなんだ」


意外だった。


僕にも聞こえたんだから、彼女たちも聞いたことがあると思ったんだけど。


「ノルンの声は、男の人しか聞こえませんから」


「だから、ノルンは男好きっていう噂もあるけど」


「ああ、そうなんだ」


思わず、笑いそうになったが、抑える。


「でも、ノルンに感謝しないとね」


「ええ、柊さんが倒れているのを見た時は、本当にびっくりしたんですから」


「えと、ごめん」


「反省してくれるならいいですよ」


「まあ、それに、無理やり引っ張って行ったあの人たちも悪いしね。すっごく謝ってたよ。無理させておまけに無茶苦茶言ったって」


「確かに」


思わず苦笑する。


覚えている限りでは、本当に無茶苦茶言われてたし、聞こえていなかったときも、言ってたんだろうから、相当なことになっただろう。


聞こえなくて本当に良かった。


「明日、イベントの時に謝りに来るそうですよ。休んでいるところに押しかけるのもどうかと思うからと言って」


「それは助かります」


あまり仲がいいわけでもない人に、疲れている時に会うのはちょっとしんどい。


「ふふっ、よく言うよ」


だけど、不意にミィーナが笑いだした。


「帰ったんじゃなくて、アイシャが帰したんでしょ。あの時の剣幕はすごかったもん。向こう、完全にびびってたよ」


「もう、そんなんじゃないよ」


どうしたものだろうかと思ったけれど、それもすぐに氷解。


「そんなんじゃなかったら、どんなんなのかな?『怪我人のところに大勢で押し掛けてくるのは一体どういう了見ですか。悪いと思うのでしたら、まずはゆっくり休ませてあげて、体調が良くなってから出直してきなさい』そんなことを言ってたのは誰かな?」


「……もう、負けでいいです。ええ、確かに、私はすごい剣幕でまくし立てて、追い返しました」


そう言った彼女はそっぽを向いてしまった。


どうやら、照れてるんだろうけど、確かにその姿は今まで見てきた彼女のどの姿にもなかった。


どちらかと言うと、普段の彼女は随分と落ち着いた印象があったし。


「ありがとう。そんなに心配してくれたんだ。嬉しいよ」


そう思うと、すっごく嬉しかった。


まだ、出会って二日目だと言うなのに、こんなにも心配してくれているだなんて思っていなかったから、素直に嬉しいと思う。


「うわぁ、二人ともラブラブだね。もしかして、私邪魔かな?」


「そんなんじゃないよ!」


そう言って頬を染めるアイシャ。


たぶん、僕の頬を見たら、少しだけ朱に染まっているだろう。


「ほら、帰ろう。柊さんだってダメージはまだ癒えてないんですから」


「そうだね。アイシャの大事な柊さんになにかあったら、大変だもんね」


「そんなんじゃないって言ってるでしょう。ほら、帰ろう。柊さんもゆっくりと休んで下さいね?」


そう言った彼女は優しく微笑んでくれる。


そう言った心使いが本当に嬉しくて、胸があったかくなる。


「世話好き女房で良かったね、柊さん」


「ミィーナ!!」


まあ、それを彼女が思いっきり台無しにしてくれるが。


「まあ、冗談よ。今日一日休んだら、明日には完全に回復していると思うから、また、明日も頑張ろう。明日で最終日だし」


「その最終日が一番つらいんですけどね」


確かに、7時間耐久はかなり辛いだろう。


おまけにこっちは病み上がりなわけだし。


「まあ、でも、私たちがサポートするから大丈夫だよ。それに、今回のでたぶんまた随分と上がるし」


「そうですね。特にワイバーンを倒したポイントは大きいですし。マイナス査定は、ほとんどないでしょうし」


「あっても、魔力切れぐらいだろうけど、ちゃんと相手が倒れたのを確認していたんだから、ほとんど影響ないから心配ないし」


どうやら、あの時の戦い方は、随分と評価されるものらしい。


まあ、限界を超えての攻撃だから、評価してもらわないと、それはそれで骨折り損のくたびれ儲けになるから困るのだけど。


「だから、明日も頑張るためには、今日はちゃんと休んでね?」


「遊びに出掛けたりしたらだめですよ?」


「心配しなくても、身体中のあちこちが痛くて動けないよ:


動かそうとするとあちこちが痛むんだから、遊べるわけがない。


「それもそうだね。じゃあ、私たちは帰るね。お大事に」


「それじゃあ、また明日。集合場所と時間は今日と同じギルドで待ってます」


そう言った二人は、帰った。


ゆっくりと身体を倒すと、布団を羽織り直す。


相変わらず身体中があちこち痛いが、疲れもあって瞼が重いから眠ることは出来るだろう。


ゆっくりと目をつむると、頭の中にもやがかかり、何も考えられなくなる。


どうやら、かなり疲労がたまっているらしい。


ここは、大人しくさっさと寝てしまおう。


そう思ったのが、最後。


いつの間にか、眠りについてた。




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