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魔法によって飛んだ空  作者: 元祖ゆた
異世界冒険編 
9/64

第八話 四歳児の日常

~前回のあらすじ~

異種族の友達ができました。


桜が舞い散る季節となった。元の世界で表すと四月くらいか。

四月といえば様々なことが始まる頃だ。入園、入校、入社……。

最近の僕はといえば、四歳児だというのに意外と充実した生活を送っている。

これは、とある一日の話――。





早朝。

僕は朝早くに目を覚ました。清々しい朝である。

早起きは三文の得、なんて言葉があるが……なるほどその通りだ。昔の僕だったら一笑に付していただろう。

異世界に転生し、色々学ぶことが増えたのは喜ばしいことだ。

洗顔等をテキパキ済ませ、すっきりした頭で庭園へと足を向けた。

赤、黄、白、ピンクと色とりどりな花が咲き誇る花壇。お洒落なテーブルに椅子。そして、


「あ、エーリ坊ちゃま! おはようございます!」


箒でゴミを集めているメドナがいた。庭園にメイドは絵になるよなぁ。


「おはようメドナ。今日も目が早く覚めちゃってね」

「もー。坊ちゃまが自分で早く起きてくるから、わたしが坊ちゃまを起こす仕事できないんですよ?」

「ごめんごめん」

「しょうがないですね」


二人で笑い合い、僕はテーブルの側の椅子に腰を下ろした。


「何か飲みます?」

「いいねー」


メドナが掃除を中断し、紅茶を入れに邸宅へ戻る。僕が花をボーっと眺めていると、いつの間にか戻って来ていて、値の張るティーカップに香りの良い紅茶が注がれていた。

匂いを嗅ぎ、口に含む。


「うん、美味しいね」

「ありがとうございます」


口から香味が広がり、全身に染み込んでいく。さっきまで眠っていた体が、活発的になっていくのが分かる。

目で庭園の景色を楽しみ、鼻で紅茶の香りに酔い、口で味を感じる。これ以上の贅沢はないだろうか、いやない。

朝から貴族してるなぁ……僕は。


「……そう言えば坊ちゃま」

「ん?」


メドナが何かを懐かしむように、庭園から邸宅の廊下を眺めながら言った。


「わたし、赤ちゃんだった坊ちゃまが宙を浮いていたのを、ここから見たことがあるんです」

「!?」


一瞬ドキンとしたが、なんとか平静を装った。


「へ、へぇー。赤ちゃんの僕がねぇ。でも僕にはそんな覚えないし、見間違いじゃないのかな?」

「ですよねー。いくら坊ちゃまが天才でも、赤ちゃんの頃から魔法使えるなんてありえないですよね」

「そうだよそうだよ」


ふぅー、朝から冷や汗かいたよ。よくそんな昔のこと覚えていたなぁ。

僕は再びティーカップに口を近づけた。


「でもあれが見間違いだとは思えないんですよね。挙動がおかしかったんですよ」

「きょ、挙動?」


再び投げ込まれる爆弾。紅茶を吹き出しそうになったのを堪え、静かにティーカップを置いた。

な、なんだ今日のメドナは!? 随分と核心を突いてくるじゃないか。


「はい。赤ちゃん、最初は廊下をフラフラと浮いていたのですが、わたしの姿を見て、わたしが唖然としている姿を見てから逃げたんですよ。……変じゃないですか?」

「どっ、どこが?」

「わたしが唖然としている姿を見てから逃げたことです。普通、逃げるならわたしの姿を見てからですが、赤ちゃんはわたしが唖然としている反応を見てから逃げたんです。まるで――」

「メドナの反応で逃げなきゃいけないと思った?」

「そうです! きっと、わたしの反応で気が付いたのです。『今魔法を使っていることがバレてはいけない』と!」


やけに興奮した様子で言い放ったメドナ。対して僕は冷や汗が止まらない。

別に、メドナには僕が魔法を赤ちゃんの頃から使えると言ってもいいのかもしれない。しかしそうなると、頭の中で魔法陣を思い浮かべて魔法を使っている話に至り、家の本を読んでいないのに魔法陣をどうやって知ったのかという話になり、最終的には魔法大全やら異世界転生やら僕の秘密が一気にバレる危険性がある。

僕の秘密はできるだけ隠しておきたい。その方が、荒波を立てずにこの世界で過ごせそうだからだ。

メドナは僕の反応を伺うようにじっと見つめる。僕はとぼけた顔をし続ける。


「どうです? 坊ちゃま?」

「んー。やっぱり見間違いじゃないかな。僕にそんな記憶ないからさ」

「……そうでしょうか?」

「そうだよ、ありえないよ。もし赤ちゃんの頃から魔法使える奴がいたら、僕はメドナの言うこと何でも聞いてあげるよ。約束する」

「ちょっ、坊ちゃま!?」

「ま、そんな奴いないだろうけどね?」

「……そ、そうですね」


多少強引だったが、話を終わらせた。

赤ちゃんで魔法使うなんて話聞いたことないし、僕さえ認めなければ、メドナの言うことなんでも聞いてあげる約束は無効になる。


「見間違いじゃ、ないと思うんですけどねー……」


その通り。すまんなメドナ。





朝。

朝飯を食った後、家庭教師の人から貴族について学ぶ。帝王学のようなものだ。


「貴族は平民の代表にして導く存在です。エーリ様はこれからアルンティーネの後継として、あらゆる結果を残さなくてはいけません」

「……」

「だからこそ日々貴族としての……」

「……」

「起きなさい」

「……うぅん、起きてますよ」

「貴方は目を瞑って鼻提灯をしている人を起きていると認識するのですか?」


毎日頑張って勉強しています。





休憩時間。

メドナと共に魔法の練習。場所はゴミ捨て場。


「うーむむむ!」


メドナの声と共に、空気の壁が出来た。風魔法のエアーウォールである。僕とメドナの周囲を円になって囲っている。


「すごいね! 遂に無詠唱でできるようになったじゃん!」

「はぁ、はぁ、はぁ、そう、です、ね」


メドナはずっとこのエアーウォールだけを練習してきた。彼女曰く、いつでもお坊ちゃまを守れる力が欲しくてこの魔法を覚えたい、らしい。


「でも、まだまだです。もっと、強度が欲しい……」


ウチのメイドは上昇意欲があって良いね。僕も頑張らなければ!





午前。

我が部屋に侵入者が! 窓が大きな音と共に開け放たれた。


「エーリ! 今日も遊びに行きまちゅわよ!」

「こ、こんにちはエーリ様」


ラズとそのフットマンであるガラトだ。今日もガラトはラズに振り回されている様子。

毎日やって来るので僕とメドナも慣れたものだ。


「おー。今日は何するの?」

「騎士ごっこでちゅわ!」


仁王立ちでそう宣言するラズ。最近このポーズが板に付いてきた。

とりあえず、僕とメドナは侵入者と一緒にいつもの広場へ移動した。広場にはこれまたいつものようにレオとウィートが待っていた。


「やぁ、おはようございますエーリ、メドナ、ラズ、ガラト」

「……」

「はよー」

「おはようございます」

「おはようでちゅわ!」

「お、おはようございます」


気軽な感じに挨拶を済ませ、僕らは六人で遊ぶことにした。

六人で遊ぶ際、メドナ、ガラト、ウィートは立場的に貴族へ謙るのが絶対だが、それを嫌がった僕らの命令によって、立場関係なく遊ぶことになっている。

基本的に遊びを考える会議に参加はしないが、年相応のメドナを見れるのはこの時だけなのだ。


「騎士ごっこしまちゅわよ!」

「またですか?」

「最近ハマっているらしいよ」

「なるほど」


顎に手をやって頷くレオ。彼もこの仕草がしっくりくるようになった。

ちなみに騎士ごっことは、一人が魔物、残りが騎士になり、魔物に捕まらないよう逃げるゲームだ。魔物は騎士に触れることで仲間にでき、騎士を魔物にするよう動く。騎士は魔物に捕まらないよう逃げまくる。ここまでだと単なる増やし鬼、ゾンビ鬼のようだが、ここからが違う。最後に残った一人の騎士こそが勝者となり、魔物から逃げる必要がないのだ。つまり魔物は最初から勝者になることができない。

なんという生まれ持っての敗者。負け犬である。

そんな騎士ごっこにラズがハマっているのには理由があった。


「ラズは将来騎士になるんだよね?」

「そうでちゅ!」


即答である。なんという揺るぎない意志。

ラズの家――シュガーネ家は代々優秀な騎士を輩出している名家だ。既にラズの上の兄妹が何人か、騎士として名を轟かせているらしい。

ラズも早く上の兄妹たちのように、名を轟かす誇り高き騎士になりたいのだろう。だからこそ、騎士ごっこをいう遊びにハマるわけだ。

自身の夢のために一直線なラズに、僕は感心していた。しかし、隣にいるレオは難しい顔をしていた。


「どうしたのレオ? なんかややこしい顔しているけど」

「ややこしい顔ってなんですか……。いや、ラズが騎士になるってことでちょっと……」

「何? 何か文句あるのでちゅか?」


レオの言葉に、不機嫌そうな顔で突っ込むラズ。一気に剣呑な雰囲気である。


「いやいや、文句はありません」

「じゃあ何? ちょっとってなんでちゅか!」

「えー……と」


困惑顔のレオ。ここまで突っかかられるとは思ってなかったのだろう。


「ええとですね。現状、騎士は主に男性が占めています」

「……それがなんでちゅの?」

「だから女が騎士になると、周囲になめられたり、生きていく上でふべ――」

「そんなの、わたくちは気にしないでちゅわ!」


毅然とした態度で、レオの言葉を切り落とした。その姿に、僕は不覚にもドキッとしてしまった。

そうだよ、ラズという女の子はこういう子なのだ。確固たる自分を持っていて、そのために邁進する子なのだ。これが四歳児とは思えないよね。

僕は困惑しているレオの肩をポンと叩いた。


「心配はいらないさレオ。ラズは強い子だから」

「……そうですね。失念していました。すいません」

「分かればいいでちゅわ!」


そして和解。喧嘩から仲直りまでが早いのも子供の特徴か。まぁ、喧嘩っつーか、レオが折れた形だけど。

一連の様子をハラハラしながら見守っていたガラトも一安心といった表情だ。

さて、ようやく騎士ごっこが再会されるかと思ったが、ここで予想外な言葉が放たれた。


「そういえば、上の兄様に聞いたのでちゅが、数年前にブラックドラゴンを倒した赤ちゃんを見たらしいでちゅ!」

「!?」


あれ、おかしいな。なんか汗が出てきたよ? それに背後からメドナの視線を感じるような気がする。


「話によると、赤ちゃんは魔法で空を飛び、姿を消した上で、上級魔法の翼竜落としを使ってドラゴンを仕留めたらしいでちゅわ!」

「ほぅ、それはすごいね。本当なのですか?」

「上の兄様は信頼できる方でちゅので。実際に見たって言ってまちた!」


手汗が半端ない。なんでこのタイミングでこんな話が!

いつの間にか、側にメドナがいた。彼女はゆっくりとした動きで、


「約束、覚えてます? 『もし赤ちゃんの頃から魔法使える奴がいたら、僕はメドナの言うこと何でも聞いてあげるよ。約束する』」


そう耳打ちをした。


「赤ちゃんで魔法が使えることだってあるんでちゅもの! ならわたくちだって最強の騎士になることだって可能でちゅわ!」

「ええ、ラズなら可能ですよ。頑張ってください」

「もちろんでちゅわ! でもその前に騎士ごっこ、頑張りまちゅわよ! ……ってエーリ、顔色悪いでちゅわよ?」

「ああ、うん。魔物役に徹するためにメイクしたんだ」

「さっすがエーリ! わたくちが見込んだだけはありまちゅわ!」


騎士ごっこ中、僕はずっと魔物だったのは言うまでもない。どうも、負け犬でーす。





お昼。

昼食だてら家庭教師によるマナー講座である。


「貴族の食事は常に優雅に振舞うものです」

「ガツガツ」

「……音が汚いですね。もう少し咀嚼音を静かにしなさい」

「パクパク」

「音を可愛くしなさいとは言っていませんが」

「ゴクゴク」

「今日の食事には液体系の料理はないはずですが……っ!?」


毎日美味しい食事で僕は満足です。





午後。

本来なら自室にてお昼寝の時間であるが、例によって僕はいない。


「う、うおおおおおおおおおおおおッ!」

「……おお!」


メラメラと小さな炎が宙に浮く。時間にして数秒だったが、確かに魔法だった。


「はあっ、はあっ……へへ、どうだ!」


木に背中を預け、肩で息をしているのは、狼男の少年。名前はライル・クリース。

彼とは数ヶ月前に友達になった。初めての異種族の友人だ。

種族名は『ワーグ』。簡単に言うと獣人だ。全身もふもふしていて触り心地が良い。ショートヘアーでトップだけ逆立っている。見た目がすごくワイルドでカッコイイ。


「うん、合格だ」

「! そ、そうか! よっし!」


ライルが嬉しそうにガッツポーズをした。見ているこっちも嬉しくなる。


「んじゃ次、ティノ」

「よ、よし! やるわ!」


ライルと入れ替わって僕の前にやって来たのは黒髪少女。名前はティノ・ノーケン。

ライル同様、数ヵ月前に仲良くなった。異種族である。

種族名は『ドワーフ』。元の世界でも有名な種族の一つだ。手先が器用なパワーファイター。ドワーフの女は幼いという話を聞いたことがあったが……確かに彼女は小さい。褐色の肌に黒い髪をポニーテールにして活発なイメージ。

ティノは右手に小さい杖を持ち、左手はパーにして手のひらを上に、目を閉じて静かに詠唱を始める。


「『放て! 清き水の雫を!』」


すると、左手のひらから、チョロチョロと水が溢れ出した。


「で、出た! 出たわよ!」


歓喜の表情でこっちを見る。僕は頷き、


「もちろん、合格さ」

「~~ッ! やったやったぁ!」

「おっとと」


僕が合格と言うが早いか、喜びのあまり抱きついてきた。慌てて受け止めてあげた。


「ねぇユーヒ、あたし才能あるかな? あると思う?」

「才能あるかどうか決めるのはまだ早いけど……今のところはいい筋してると思う」

「そう! そっか! えへへ、嬉しいっ!」


ティノは僕から離れ、ピョンピョン跳ねて嬉しそうだった。見ていて和む光景である。

魔法というのは莫大な集中力と体力が必要となる。もちろん、魔力などの先天的な力も必要だが。

集中力の続かないこの幼い頃から、魔法が発現できるのは本来すごいことなのだ。僕は精神年齢高いからよく分からないが、幼い精神年齢でこの子たちは奇跡を実現してくれやがった。

今のところ、魔法の才能についてはティノの方がライルよりはありそうだ。魔法使用後疲れていないのがその証だ。

さて、それでは最後だ。


「よーし、最後。ベルル、やるよ」

「……ッ!」


最後の挑戦者が僕の前にやって来た。美しく輝く金髪に、白い柔肌。先の尖った耳がピクピク動く。

彼女はベルル・ナーヴォク。友人の一人。


種族名は『エルフ』。これまた有名な種族だ。長寿で美形の種族である。ベルルはティノ同様幼い顔立ちをしている。……まぁ実際幼いからね。

ベルルは右手で首にかけているペンダントを握り締め、左手は大きく広げて地面へ突き出す。


「……『放て! 堅き大地の一端を!』」


詠唱と共に、ベルルの左手から土の塊が生じた。形を保てず、すぐに崩れた。


「……どう、だった?」


心配そうな顔で僕を見る。しかも上目遣い。なんだこの可愛い生き物は。

……じゃなくて。僕は少々驚いていた。


「早いね、詠唱から発動までが」

「つまり?」

「合格」

「……ッ!」


ベルルは顔を綻ばせ、僕と目が合うと恥ずかしそうに顔を隠した。

まだまだ照れ屋で恥ずかしがり屋のようで、口数も少ないが、こういう感情表現が豊かなのは良いことだ。

ベルルの側に、ライルとティノが並ぶ。


「約束通り三人共合格したぜ! 目当ての魔法、教えてくれるよな?」

「それはもちろん。けど良かったの?」

「何が?」

「キミたちの覚える魔法だよ」





あの日、僕がライルを助けて彼らに魔法を教えることになった。魔法を教えるにしても漠然としすぎて教えるのが難しい。

なので、彼らが貴族ペットを懲らしめる際、使用したい魔法、それに類する魔法を教えることにした。

ライルは、


「あのペットが爆死する魔法」

「なんて攻撃的!」


ティノは、


「ペットの飼い主が爆死する魔法」

「飼い主の方かよ!」


ベルルは、


「世界が滅亡する魔法」

「キミには魔法を教えない方がいい気がするよ!」


これは無理。彼らの欲望を満たす魔法は教えられない。

そこで僕は魔法の中でも『基礎魔法』と呼ばれる四つの魔法、火・水・風・土から一つ選んでもらい、一番簡単な魔法を教えることにしたのである。

じゃなきゃ世界滅亡しちゃう。





「ライルが『火魔法』、ティノが『水魔法』、ベルルが『土魔法』だけど」


今日は一番簡単な魔法が発動するかをチェックするテスト日。これができたらペットを倒せる程のちょっと上の魔法を教えるつもりだった。


「何か問題でもあるのか?」

「いや、ないけど」

「ならいーじゃん!」


うーん。僕のイメージでは獣人が水魔法、ドワーフが土魔法、エルフが風魔法なんだけどなぁ。


「魔法ってすごいわね! なんか世界が変わったみたい!」

「……そうね。わたしも久しぶりに楽しい気分」

「これならあいつに勝てるぜ!」


でも、三人がワイワイ楽しそうにしているのに水指すのは悪いな。

この三人、家が近い幼馴染三人組らしい。こういうのって良いよね。見ていてほっこりする。


「なーにニヤニヤ見てるのよ! 早くこっち来て教えてよね!」


む、ニヤニヤしていたか。いかんいかん。


「オッケー。キミたちをバシバシしごいて一流の魔法使いにしてあげよう!」

「別に、そこまでしなくても……」


いつか、幼馴染四人組とか呼ばれたら嬉しいな、とか、そんなことを思いながら輪に入って行った。





夕方。

夕食を食べた後は護身術の鍛錬である。教えてくれるのはもちろん家庭教師である。


「もっと足捌きを早く! 動きが鈍いですよ!」

「……ふんッ!」

「だから鈍いです! っていうか貴方、さっきから執拗に私の弁慶狙ってきますね……?」

「どりゃーっ!」

「いいですね。フェイントを織り交ぜての攻撃は有効ですよ。ただこれが弁慶を狙うものじゃなければの話ですが」

「せいや!」

「貴方は弁慶に両親でも殺されたのですか……っ!?」


毎日鍛錬で体を鍛えています。





夜。

寝る時間ではあるが、いつもと様子がちょっと違う。


「ねぇ、ホントにこれで良いの?」

「いいです。これじゃなきゃダメです」

「メドナが良いなら良いけどさ……」


僕のベッドに、僕とメドナが一緒に寝ていた。男女同衾がなんたらとかぶっちぎりで破る行為である。

あ、でも健全です。なんせ四歳と九歳ですからね。姉と弟という感じです。


「自分の仕える主人の寝床に、一緒に寝ること自体が許されない行為なんです。こういう機会でもなければ無理なんです。だから、どうか……」

「そっか、そうだよね」


僕はメドナの頭を撫でてあげた。メドナは嬉しそうに目を細めた。

メドナと交わした約束により、僕は彼女の言うことを何でも聞いてあげることになった。

一体、どんな無理難題を言われるのだろうと戦々恐々していると、


「エ、エーリ坊ちゃま……。あの、あのですね。あの……い、一緒に寝ても、いいですか?」


こんな微笑ましい願いだった。僕は即了承した。


「わたし、坊ちゃまといると安心するんです。ドキドキもしますが、なんか、包み込まれている気持ちになるんです」

「そうなんだ」

「四歳の子に包み込まれる気持ちになるとか……おかしいですよね」

「……おかしくなんてないさ」


だって僕は四歳じゃないんだ。キミより年上なんだよ。だから、そんな気持ちになるのも頷ける。

……なんて、口では言えないけど。


「坊ちゃま。わたし、こんな変なメイドですが、坊ちゃまに仕えていいですか?」


前も同じようなことを聞かれたのを思い出した。普段あんなに堂々と家事をこなしているのに、やっぱり年相応の子供だって再確認されられる。

ギュッと、メドナの手を握る。自分より大きく柔らかい。


「僕のメイドは、キミだけだよ」

「坊ちゃま……」


メドナの安心した顔を見ていたら、いつの間にか睡魔がやってきていた。

そう言えば、小さい頃は陽鳴も良く僕の布団に潜り込んできていたなぁ。

なんていうか、懐かしいな……。

こうして僕は眠りに落ちる。今日が終わり、明日が始まる。

次回、遂に五歳になる?

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