第六十三話 新たなる作戦会議 <六日目>
あけましておめでとうございます!
注意
・初っ端グロテスク表現があります。
~前回のあらすじ~
「げ・ん・こ・つ!」
………………<シェーナ>
未だに、私は悪夢を見る――。
幼い私は戦場を駆け抜ける。
真っ黒な煙が目を、焼け焦げたような異臭が鼻を刺激する。……この臭いが、人の○○○○○臭いだなんて、思いたくはなかった。
あちこちで激しく火が上がり、剣戟の音がして、悲鳴と叫び声が響き渡っている。人の最期の絶叫なんて、聞きたくもない耳障りな音が、耳にべったりとこびりついて離れない。
最初の内は必死で耳を塞いでいたが、やがて目の前でそれが行われるようになり、聴覚ではなく視覚から入ってくる情報をどうにもできず、諦めた。
『殺せーーーーーーーーーーーーーーッ!!!』
『公国民は全て殺せ! 老若男女問わず殺せ! 生を受けし者全て殺せえええええええ!!』
『そこにあるもの全て壊せ! 壊して殺せ! 壊して殺せ!』
『『壊して殺せ! 壊して殺せ! 壊して殺せ!』』
私はその光景を、呆然と立ち尽くして見ていた。
そこは長閑な農村だ。住んでいる人達は優しく、暖かくて……私は全部好きだった。
……しかし、今はその全てが、壊れていた。
好きだった景色は、血と肉で装飾され、○○や○○がベットリと地面に張り付き、悲鳴の効果音付きで更新される。
いつの間にか、嫌いな景色として記憶していく。あんなに好きだったのに、今では思い出すことが苦痛なくらい嫌いだった。
好きだった場所は、知らない敵兵に蹂躙され、あるものがなくなる代わりに○○が転がり散らばっていた。中には、見覚えのある杖や装飾品が側に落ちてあり、○○が誰なのか特定するのが容易だった。
ここも、もう嫌い。来たくもない忌まわしい場所。
最後に、好きだった家族は――。
……許さない。全て許さない。許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない……。
『幸せに……幸せになりなさい。私達の分まで、きっと、幸せになりなさい。シェーナ……』
お母さん……。うん、私絶対幸せになるから。絶対に、幸せに――。
………………<エーリ>
教室では本日最後の授業が行われているであろう頃。僕ら愛の羽はそんな貴重な授業をサボり、メドナの部屋で駄弁っていた。
まぁ、ただ怠惰に駄弁っていた訳ではない。新メンバーが愛の羽へ加入したことにより、僕らの取れる選択肢も大幅に増えた。単純に人数が三人から六人に増えたというのもあるが、新メンバーの誰もが強力な魔法使いである。これを利用しない手はない。
そのため、新メンバー三人から、古参メンバー三人は自己紹介も兼ねて実力の程を聴いていた。
「わいはヤスラ・アービー。ドワーフ族で年齢は八歳。元々外部で魔法使いをやっていた。得意な魔法は闇魔法で、中でも影を操る影魔法に特化している。よろしくお願いする」
「よろしくー」
パチパチパチ パチパチ
まばらな拍手の中、立って話していたヤスラが座り、今度はケイシーが立ち上がる。
「わたしはケイシー・エナーよ。……なんか、今更自己紹介って恥ずかしいわね」
「まぁそう言うなよ。こういうことは形式としてやっておかなくては」
「でも、名前とか知っている相手に話す意味ってあるかしら?」
「あるよ。これは線引きの問題さ」
「線引き?」
ケイシーが不思議そうな表情をしたので、僕は説明するべく立ち上がった。自然と皆の視線が僕に集中した。
「現在、愛の羽は知人同士で構成されている。とは言え、れっきとした選挙団体ということを忘れてはいけない」
「坊ちゃま、愛の羽は選挙団体だったのですか?」
「名目上はそうなるよ。例え活動内容が違っていてもね。……これからはそうなる」
「これからですか?」
疑問を答えようとしたところ、更なる疑問が生じてしまった模様。
ふむ、丁度いい機会だ。まとめて答えることにしよう。
「シェーナが立候補した以上、愛の羽はもうこそこそと活動は出来ない。立候補している神帝のリーダーである法王女、魔女の月のリーダーである死女神に加え、我らがシェーナと全員がインペラトーレだ。第三の勢力として、注目されるのは確実だからね。だから今後は、シェーナが所属している選挙団体として活動する必要がある」
「なるほど、それで選挙団体と表現したのですね?」
「そういうこと。んで、そういうちゃんとした組織として活動するから、単なる友達同士の遊びじゃ引き締まらない。友達同士でガヤガヤとやるのは、印象が悪い上にいらぬ敵を作りかねない」
「『シェーナちゃんを核として設立したのに、あいつら友達同士ではしゃいでるだけじゃないか。そんなんだったらウチの組織に入るべきだ!』……って神帝や魔女の月に思われたくないものね」
「イエス」
本当はずっと隠れながら活動したかったけど、それは最初から無理な話だった。
こっそりひっそり活動し、最終的に法王女と死女神と上手く交渉できたとしても、きっとその場だけシェーナの安全が確保されるだけで終わりだろう。来年、再来年の選挙では、またシェーナは強引な勧誘を受けることになる。それはリーダーの代わった神帝、魔女の月もそうだし、新たな勢力が跋扈してくる可能性もある。
だから、どうしてもシェーナには立候補してもらい、運営会会長になってもらい、この学園を支配してもらいたい訳なのである。
……と、この辺の事情と言うか、愛の羽設立理由や過程等、今までの起きた出来事はついさっき新メンバーに話し終えたところだ。
皆好感を持ってくれたらしく、更にやる気を持ってくれる結果となってくれたのは嬉しい誤算だった。
「そう言う訳で、愛の羽として活動する際には、節度ある行動と態度を心掛けるように! 分かったかい?」
「了承したわ。そういうことなら、わたしも恥ずかしがらずに真面目にやるわ」
ケイシーが真剣な空気を醸し出し始めたので、僕は満足して座った。
「わたしはケイシー・エナー。エルフ族の十歳で、得意な魔法は天魔法。中でも一番のお気に入りは――」
うんうん。やればできるじゃないか。
……てか皆若いな。いや五歳の僕が言うことじゃないけれど。
「おらは決心したぞ、エーリ」
「唐突だね。どうした?」
自己紹介がゲンジの番にわたって来た時、ゲンジはそう言って難しい表情をしていた。
「おらは今まで、元スパイという立場で活動してきた。どんな目的で神帝に忍び込んだのか、誰に雇われていたのか、そういったことを尋問でも話さなかった。そして、現状では話さなくても許されている」
「僕によるピサスへの口添えと、神帝から得た情報を流さないという条件と、それを補完するための口止め魔法のおかげだったね」
「そうだ。それらの要素があったからこそ、おらは今自由に活動出来ている」
そう言って、ゲンジは右腕の手首をグルっと一周している魔法式を皆に見せつけた。この魔法式こそピサスが施したもので、神帝の内部情報を盗んだゲンジが自由に活動出来ているのは、これがあるからだった。
「確か、神帝のある特定情報を漏えいしようとすると発動するんだっけ?」
「そうね。意識を強制的に遮断させるらしいわ。『舌切る雀』とか言われる洗脳魔法だったかしら。通称『雀』」
「あー、雀か。雀だったら知ってるよ」
ヤスラとケイシーの会話を盗み聞きしつつ、ゲンジの方に意識を集中する。
「神帝の情報を漏らせない魔法に加え、おらは前から自身へ魔法をかけていた。それはおらの目的や飼い主について漏らさないためのものだった」
「徹底してるのね~」
「それがスパイってものなんだ。安っぽいプライドさ」
へぇ~、とシェーナは感心して聞いていた。もちろん僕もだ。
一応、スパイっぽく活動しているからね。ゲンジの心構えはとても参考になる。
「けど、おらは今激しく後悔している。それは愛の羽の活動目的について聞いたからだ」
「お、おう」
グッと拳を握り、熱がこもり始めるゲンジ。傍目から見てもテンションが上がってきていることが分かる。
「シェーナちゃんのために身を挺して活動しているエーリにメドナちゃん! そして辛い過去を乗り越えようとしているシェーナちゃん! なんとッ……なんと健気なことだろうか!」
遂には立ち上がり、涙を流しだす始末。いや僕らの事を称賛してくれるのは嬉しい、嬉しいけども。
なんで突然スイッチ入ったの? こんなキャラじゃないよね?
「それに比べておらはどうだ? 自分のしてきたことを話さずに救ってもらい、のうのうと暮らしている。あまりにも間抜けで、愚かで、情けないッ!」
「ま、まぁ、スパイだったんだから話せないっていうのは当たり前じゃないか?」
「それだ! それなんだよエーリ!」
「……な、何がでしょう?」
ビシッと指を指され、大きな声を投げかけられた僕は、思わず敬語になってしまった。敬語になるのも仕方ないと思ってしまうほど、ゲンジは色々と熱かった。熱血マンだった。
「そういう甘い言葉に甘えて、おらは自分を正当化してきたんだよ! 『当たり前』、『しょうがない』という砂糖水のような甘ったるい言葉の海で、おらは呑気に沈んでいたんだ!」
「なんか詩的な表現ね」
「ポエムかな?」
ケイシーやヤスラの茶々にも動じず、ゲンジは熱弁を繰り広げる。もう止まらないし、止められない。
「エーリ、あんたのおかげでおらは自由の身になれた。命の恩人と言っても過言では決してない。エーリのために死んだって構わない!」
「お、おいおい」
そんな命かけられても僕は困るんだけど……でも、だからと言って茶々を入れられるような雰囲気ではなかった。
ゲンジは本気だ。本気で僕に感謝しているのだ。
「ひゅー! こりゃ告白かぁー?」
「!? や、ヤスラ様、これはこ、ここ、告白なのですか!?」
「命をかけるってことは、その人に一緒ついていくってことともとれるんだぜ、メドナちゃん。つまりゲンジはエーリに付き従う夫婦も同然ってことさ」
「で、でも、二人は男同士じゃ……」
「愛し合う二人に、性別の壁なんて脆いもんさ。無いも同然」
「あ、あわわわ……!」
「とんでもない展開になってきたわね~」
「……嬉しそうですね、シェーナ様」
「ホモかしら? ホモなのかしら?」
……外野がすごくうるさいけど無視しよう。
「あのな、エーリ」
「ああ……」
僕はゲンジの真剣な表情から、この後何を言おうとしているのか勘付いた。ゲンジと同じように、立ち上がって向かい合った。
「……いいのか?」
「ああ。決意したんだ」
「そっか」
フッと、ゲンジから笑みがこぼれた。
その表情は複雑で、何をどう思っての笑みなのか分からなかったけど――
「分かったよ、ゲンジ」
「……ありがとう」
――後悔だけは、ないようだった。
「!? こ、こここ告白を受け入れたあああああああああああああ!」
「ぼぼぼぼ坊ちゃま!? 早まってはいけませんッ! その道は修羅、地獄への道です! 絶対にダメですぅッ! こ、こうなったらわたしが女の魅力というものを坊ちゃまの体に教えて差し上げなくては……!」
「こ、これが禁断の恋~! 何かしら、この胸の内から湧き上がる変な感情は! 何故だかヨダレが……」
「ホモ祭りよ! ホモ祭り開催よ!」
「お前ら少し黙れ」
僕の『愛羽家直伝☆スーパーげんこつ』が飛び交い、場が静かになった頃。
ゲンジが決意したことは、スパイとして何故活動していたのか、そういったことの暴露だった。
話を簡単にまとめると、ゲンジは魔女の月のスパイだったらしい。
予想通りと言うか、最も可能性の高いところに着地したと言うか。
魔女の月は魔女によって構成されている。つまり、スパイや間者、諜報員が神帝に忍び込むとしたら、自然と女が忍び込んでくると誰もが予想できる。当たり前すぎて議論に上がらず、神帝は自然と新しく入ってくる男ばかりを警戒していた。
そして、その『スパイが送り込まれるとしたら女』という固定観念こそが、魔女の月側からしたら絶好のポイントだった。
魔女の月の黒魔女である戦乙女は、外部の魔法使いだったゲンジをスカウトし、学園に入学させたということらしい。
……てか外部の魔法使い多いな。新メンバー全員外部組なんですが。
このことを突っ込んでみると、
『神帝が外部からスカウトしてるんだ。魔女の月だってやっていてもおかしくはないだろう?』
『それもそうだけど』
『戦乙女は戦乙女で、教員と繋がりがあるみたいなんだ。だから図書委院みたいにおらも裏口入学できたんだ』
『ちょっとセキュリティガバガバじゃね?』
『教育機関なんてそんなもんだろ。金や権力さえありゃどうにでもなる』
『……頑張った奴がむくわれない世界だよねぇ、こっちもあっちも』
という、ちょっと切ない答えが返ってきた。
それどころか、
『……てか、エーリは何者なんだ?』
『!? な、何者とは?』
『まだ幼いって言うのに、やけに聡明じゃないかと思って』
『ゲンジもそう思っていたか。実はわいも疑問に思ってたんだ。エルフやノーム、ゴブリンならその歳でその頭の良さの奴が極稀に、ホントたまーーーーにいるけど、ヒューマンでその頭の良さは珍しいよな』
『そうね。その上、司教院様――いや、司教院が言うにはインペラトーレ以上のランクらしいし』
『その話、本当なのですか? 坊ちゃまはレベル8ヴィチェレと判定されていますが』
『そうなのよね~。でも前に、オール・フォー・ワンの訓練中に魔力逆流起きちゃったけれど、明らかに皆の魔力量以上のエネルギーが放出されているのよね~』
『言われてみれば……おかしいわよね?』
『『『『『……』』』』』
『お、おふぅ』
という、僕のトップシークレットに触れるようなところを突っ込まれてしまった。
今までこの世界で生きてきて、あの時の空気以上に息苦しいものはなかった。冬なのに汗が止まらなかった。本当心臓が止まるかと思った。
『い、いやいや。まぁ、えーっと』
『坊ちゃまはすごい方なんです!』
『へ?』
『坊ちゃまは昔からすごいお方だったのです!』
『メドナ?』
……まぁ、なんか適当に色々言って、メドナのフォローもあって、どうにか外部の魔法使いじゃないと言うことは証明できたけど。
おかげで僕が、『幼いながらも強力な魔法が扱えるインペラトーレ以上の天才児』という設定が付いてしまった。ただの高校生がどうしてこうなった。
とは言え、嘆いていても仕方がない。プラス思考で考えてみると、これからはある程度出し惜しみなく魔法が使えると言うことではないか。上位互換的魔法が使えるにも関わらず、あえて下位互換的魔法を使う必要がなくなったのだ。窮屈な思いが多少緩和されたのだ。
一応、この場にいる人以外では今まで通り自重していくつもりだけどね。変に噂が立っても嫌だし。
……話を戻そう。
そうしてスカウトされたゲンジは、魔女の月の手引きで入学し、早速スパイとして神帝に潜入。魔女の月が有利になりそうな情報を、神帝の構成員情報を管理している管理委院に所属し集め、正体がバレてしまうまで魔女の月へ情報を垂れ流し続けていたということだった。
『魔女の月は女性しか入れないという制限がある以上、どうしても人数に差ができてしまう。だから魔女の月は、神帝にはどんな魔法使いがいるのかを知り、その対策を練る必要があったのさ』
ゲンジはそう言い、肩を竦めたのだった。
主に盗んだ情報は構成員のプロフィール――特に、使用する主力魔法について情報を集めていたらしい。何を使ってくるのか、それを知るだけでも戦闘では大きな強みになるから当然と言える。
残念ながら、『雀』が発動中なため、情報の内容については話せないらしい。これが得られれば色々と策を立てることができたからなー。本当残念。
とは言え、僕は一応神帝の一メンバーである。どう管理委院に登録されているのか気になっていたところだったので、この際ゲンジに聞いてみた。もちろん、情報漏えいに当たらない範囲でだ。すると、
『「蹴りまくる」って偽名、テキトーに決め過ぎだろ』
そう僕はゲンジに耳打ちされたのだった。
うん、まぁだよね。テキトーだよね。でも、意外と変に思われないんだよなぁ、ケリ・マクルとコブシデ・ナッグール。異世界っぽく名乗っているからかな? ゲンジは最初から穿った目で見ていたからオカシイと気付いたようだけど、普通の人は名前まで突っ込まないし。
そうそう、ゲンジが行った大きな工作は情報収集と漏えい以外にもう一つあった。運営の妨害だ。
前回の選挙では神帝が勝利し、学園を自由に運営できる権利を得た。このことは、魔女の月にとっては最悪の事態と言えよう。
監視会がいるとはいえ、自由に学園へ法をもたらすことができる運営会になったのだ。天下を取ったのだ。そうそう手放したくはないと思うのが人だろう。
だから、神帝は常に自分たちが運営会になれるような法を作り、施行しようとしていた。
『おらのやったことは単純だ。法を決める会議を妨害し続けたんだ。法さえ決まらなければ発表もされないしな』
『具体的には?』
『どんな法にするか話し合うよりも、重大な議題を匿名で提出し続けた。例えば、「実は法王女は女の子ではなく男の子だった!?」とか、「司祭院であり風紀委院長でもあるモデ・ミニャーの毒には、不死の効果があることが判明!」とか』
『そこはかとなく三流記事っぽいね。よくそんなので騙せたなぁ』
『おらの文章能力が凄かったっていうのもあるけど、魔法でちょっと補助をね。おらと三十秒間見つめ合うと、おらの言葉を少しだけ信じたくなる魔法をかけたんだ。そしたら今まで取り合ってくれなかった連中が真面目に会議し始めちゃってるんだ。もうビックリ』
『それほぼ魔法の功績じゃねーか! 文章能力関係ねぇ!』
と、そんなツッコミを入れざるを得ないことを、ゲンジは言ったのだった。別にふざけている訳ではないと思うけど……。
また、ゲンジは『重大な議題を匿名で提出し続ける作戦』――ゲンジ曰く『議題提出作戦』以外に工作を行っていた。それは『人間関係崩壊作戦』。
内容は読んで字の如く、運営に関わる人達の人間関係を壊して会議どころじゃなくしてしまうように行動すること。
例えば、Aという男がいて、Bという女が好きだとする。また、Cという女がいて、Dという男が好きだとする。そこでゲンジはA男に、『B女はD男のことが好き』だという偽の情報を伝える。続いてC女に、『D男はB子のことが好き』とこれまた嘘っぱちなことを言う。
この時点で昼ドラ展開が予想されるが、更に話をこじらせるために、B女に『A男はC女が好き』、D男に『C女はA男が好き』と伝える。
これにより、この四人の関係はギスギスすること間違いないだろう。ゲンジにはゲンジの言葉を少しだけ信じたくなる魔法があるし可能だろう。
そう、要するに、意図的に泥沼関係を発生させて、雰囲気を悪くしてしまおうという作戦なのだ。なんとも恐ろしい作戦だぜ。
……議題提出作戦じゃなくて、人間関係崩壊作戦の功績じゃね? とまたまた僕はツッコミしてしまったので、もしかしたらゲンジはふざけていたのかもしれない。
「よし、げんこつしてやろう」
「なんで!?」
後は僕の知っている出来事へと繋がる。結局、色々としゃしゃり過ぎたため、スパイということが神帝側にバレてしまい、牢屋に捕えられてしまう。そこへ偶然情報を得ることができた僕が助けにやって来る……と。
何と言うか、とても劇的な人生を送っているなぁゲンジは。悲劇でもあり、喜劇でもある。
「苦労してんだね、ゲンジは」
「人の頭殴っといてなんだよそのセリフ!」
はしゃぐゲンジを見ながら感嘆していると、ケイシーが話し合いの続きを促した。
「ゲンジのことは分かったから、これからの話をしない?」
「なーんか、おらのこと興味ない風に聞こえるよ?」
「実際あまり興味はないわね」
「……そんな真面目な顔で言われると尚更傷付くぜー」
グダッと前のめりに落ち込んでいるゲンジの肩を軽く叩きつつ、ケイシーに顔を向けた。
「そうだね、順番に片づけていこうか」
「? 順番って、何から話すのエーリちゃん」
ケイシーは首を傾げ、綺麗な金髪の髪が同時に揺れた。その光景に僕は目を惹かれつつ、話を続ける。
「一番近いことからさ。さっきの事件の後始末」
「あ」
思わずといった風に、両手で開いた口を隠すケイシー。この様子じゃ、すっかり忘れていたようだね。
「とりあえず、庭園での乱闘騒ぎについて、納得のいく理由を考えることから始めないと。クラスメイトの皆が納得してくれるような奴をね。あと、ケイシーやメドナはともかく、キリコッテやリコプルに対する説明も必要だ」
「あ、あはは。そうね、そうだったわねー……」
「派手にやっちまったからな」
事件の主犯であるケイシーとヤスラが、器用にも苦笑いしつつ落ち込んでいるようだった。
ま、しょうがない。
「まだ時間はある。じっくり話し合っていこう!」
「はい!」「ラジャ~!」「おう!」「ああ!」「了解!」
過去を嘆く前に、未来へ向けて歩き出すとしますか。
……。
…………。
………………。
その後、僕らは時間いっぱいまで話し合った。熱弁し合った。
事件の後始末をどうするか。最終日である明日に向けて、スパイである僕とメドナの身の振り方。それと、事件の後始末をどうするかの話し合いで急遽決まった『パレード』について。そして――
「そうそう、詳しい話は明日と言ったけど、話しておかないことがあったわね」
「ほう。それは何かな?」
「司教院の根城へ向かうメンバー選考についてよ」
「!」
ケイシーの一言は、場の空気を上気させるには十分だった。
その言葉は、闇の中に降り注ぐ一筋の光のようだった。暗雲を吹き飛ばし、晴天を拝むことができる。
先程フィレ先輩の居場所を教えてもらったが、その時同様の感動が、僕の心の中で再び蘇ってきたのだ。
「司教院の場所へ通じる扉があるんだけど、その扉には特殊な魔法が施されていて普通は開けることができないわ。けど、わたしとヤスラなら、その扉開けるための鍵を持っている」
ゴクリ、と誰かが生唾を飲む音が聞こえた。それは案外、他ならぬ僕だったのかもしれないが、今はどうでもいい。
遂に……遂にフィレ先輩の場所まで行けるのだ! 会えるのだ! あれだけ渇望したフィレ先輩の居場所が分かるのだ! これを喜ばずしてどうするんだよ!
千載一遇のこのチャンス、僕は力強く拳を握った。
「坊ちゃま! やりましたね!」
「やったわね~!」
メドナとシェーナに目を配ると、彼女達も同じ気持ちだったらしい。ほぼ同時に喜びの声を上げた。
「苦節二十年、遂にたどり着いたか……」
「いやいや坊ちゃま、まだ数日しか経っておりませんよ」
「でもそういう気持ちじゃない? なんとなく漠然とそう思わないかい? この数日間は二十年分だったと!」
「た、確かにそう……言えなくもない、ですね」
「なら、実際に二十年経ったと言っても過言ではない!」
「! 確かに!」
「『確かに!』じゃないわよメドナちゃん。なんでつられてボケているのよ……」
ジトーッとこちらを睨んでいるケイシーを見て、メドナは少し恥ずかしそうに目を逸らした。あの真面目なメドナですら、僕のボケに乗ってくれるほど、浮かれていると言うことだ。それほど、司教院の居場所が分かるという事実は大きな衝撃だったということ。
「司教院はその場から動かずにいるから、会えるのは容易でしょうね。ただ、道中トラップが仕掛けられていて、たどり着けるかどうか……」
「トラップ?」
「ああ、トラップ。罠だ」
トラップか。そりゃ自分の身を守るためにトラップくらい仕掛けるか。ま、今の僕達にはその程度で絶望するほど心が弱くないぜ。なんせ苦節二十年だからな!
「下手したら死ぬかもね」
「……」
……ま、マジすか? 一瞬心がヘタレた気がする。
「ていうか、何も準備しないで行ったら確実に死ぬわね」
「……よし! 今の内に遺言残しておくか! メドナとシェーナもどうだい?」
「そうですね。そうしておきましょう」
「いいわね~。世界が平和になりますように~っと」
「きみ達絶望に染まるの早すぎよッ!」
だって確実に死ぬとか言われたらねぇ……? 前向きに後ろ向きなことを提案してしまった。
「下手したら、よ。大丈夫、わたしとヤスラがいれば突破できるはずだから」
「フラグにしか聞こえないんだけど」
妙に自信満々な表情もフラグにしか見えないぜ。大丈夫が大丈夫に聞こえないんだよなぁ。
そんな僕の心配をよそに、ケイシーは話を続けた。
「そういう訳で、司教院への道案内はわたしとヤスラがやることになるわ。これに何人かついて来て欲しいんだけど……」
「なるほど、そのためのメンバー選考だね?」
「ええ。それなりに危険が付き纏うから、最低限自分の身を守れる人じゃないとダメだわ」
ケイシーの言葉で、場の空気が少し引き締まった。
まったく、ただ会いに行くだけだってのに危険なのかよ。すごい用心深い人だねフィレ先輩。
「これでメンバーを決めて、明日そのメンバー達で詳しい話し合いを行うから。……そういう段取りでいいかしらエーリちゃん?」
「ああ、いいよ」
さすが女子聖歌隊を率いていたリーダー様だ。場の仕切りや段取りに慣れているところが見受けられる。カリスマ、というものだろうか。凛とした目が、声が、表情が、この人についていきたいと思わせる力を持っている。人を惹きつける何かがあるんだ。
「よし、なら僕が行こう。今の僕ならフラグを折れるはずだ」
「ふらぐ? は分からないけど、エーリちゃんが行くのは分かったわ。後は?」
「じゃあおらも行くよ。あんた達だけじゃ心配だ」
「……それはわい達じゃトラップに引っかかっちまうってことか? それともわい達がまだ司教院と繋がっていて、わざとトラップへ導くって疑っているからか?」
「両方だ」
「……ほう」
両者の間に、火花が散った気がした。堂々と、実は僕も内心思っていたことを不敵な笑みと共に言い放つゲンジ。
そう、彼らが未だフィレ先輩と繋がっている可能性。一応、今までは本音で話していたようだけど、操られている可能性もないからね。
でも、
「まあまあ、大丈夫だよゲンジ。彼らは強いし、何より僕がいる。ね、ヤスラ」
「あ、ああ」
「……エーリが言うならいいけどさ」
今険悪な仲になるのは一番マズイ。操られていたのなら正気に戻してやればいいだけだけど、険悪な雰囲気は魔法じゃどうしようもないからなー。
どうどうと二人の間に入って宥めてやると、多少は空気が緩和した気がした。
「坊ちゃま、わたしはどういたしましょう?」
「私じゃ足手まといになりそうね~」
二人が不安げな表情でこちらを見ていたので、なるべく優しい笑みを浮かべた。
「キミ達には他に、やってもらいたいことがあるんだ。とっても大事なことさ。キミ達にしかできない」
「そうなのですか?」
「うん。だからそっちをやってもらいたい。いいかな?」
「分かりました。お任せください!」
「頑張るよ~!」
よし、二人とも元気になったようだな。満面の笑みで了承してくれた。
この最終戦も近い局面で、足手まといだと思って欲しくはないからね。今この愛の羽で不要な人なんて一人もいないんだ。それを分かってもらいたい。
「大変よね。まとめ役は色々と気を配って」
そっと、ケイシーが僕だけに聞こえる声で耳打ちしてきた。
「……まったくだ」
僕もケイシーと同じく耳打ちで返した。その際、僕の方がケイシーより背が低いため、全力の爪先立ちをすることになったけど。
少しだけ、女子のリーダーであるケイシーの気持ちが分かった気がした。ふぅ、と息を吐きいて意識をはっきりさせる。引き続き気を配っていこうじゃないか。なぁ、ケイシー。
「それじゃ、わたしとヤスラとエーリちゃんとゲンジで行く?」
「あ、それに僕の友人も加えていいかな?」
「仲間?」
「ああ。愉快で爽快で頼りになる友人達だよ。きっと力になってくれるはずだから」
まぁ、何でも防ぐ筋肉マッチョマンと、超排他的毒舌娘のことなんだけどね。いい戦力になるだろう。
「分かったわ。それじゃ、明日の午前にそのメンバーで話し合いましょう。明日は選挙前で授業は休みなはずだから」
「あ、そうだったっけ」
「そうなのよ。エーリちゃんは知らなくても当然かもしれないわね。初めて選挙を体験するんだし」
選挙の前日に休みか。これは最後に票を獲得できるチャンスのために設けられているのかな。だとすれば、学園は太っ腹だ。
……そうだなぁ。明日メンバーに話をするなら、今日中にピサスとモデに話した方が良いな。ちょうどこれからの身の振り方について結論が出たしね。
果たして、僕がスパイだと話したら二人はどんな反応をするのかな?
「明日、そうね……エーリちゃんの部屋で詳しい話をするわ」
「ん、僕んち?」
「ええ。ついでに割った窓ガラスとか直させて欲しいの。ダメかしら?」
「それは是非ともお願いします」
「ならエーリちゃんの部屋でいいわよね?」
「まぁ、いいよ」
「ありがと、エーリちゃん!」
嬉しそうに僕の手を握りながら感謝するケイシー。
なんか、窓ガラスを理由に上手く僕んちの入室を許可させられた感があるけど……まぁ、いいか。何かあっても、今度は油断しない。警戒心マックスでお出迎えしようじゃないか。フフフ。
「ということで、僕の部屋で会議するから。いいよねゲンジ? ヤスラ?」
「無論だよー」
「わいも異論ない」
いつの間にか、ゲンジは先程の喧嘩腰な感じもなく、落ち着いているようだった。ヤスラも冷静な表情だ。
元々二人は友達同士だし、険悪な空気もすぐ直る、か。
ふと窓の外を見ると、もう日が暮れかかっていた。この部屋に入った時はまだ昼過ぎだった。結構長い時間話し込んでいたみたいだ。
「じゃあ、話し合いはここで終わりとしようか。大体の事は話せたしね」
「そうですね。短い時間でしたが、とても有意義な話し合いでした」
メドナの発言を機に、各々が立ち上がった。僕も立ち上がる。
「んじゃ、これから皆やらなければならないことは分かるね? メドナとシェーナは……」
「わたしは聖女の皆さんをお連れしてきます」
「私は教室近くで待機ね」
古参メンバーの二人がしっかりと頷いた。うんうん、自分の役割をちゃんと理解しているようだ。
次に、新メンバー三人へ目を向ける。
「ケイシー、ヤスラ、ゲンジも分かってるね?」
期待に満ちた目で、三人を見てみた。すると三人も真剣な眼差しで、
「わたしとヤスラはさっきの事件の後始末と『パレード』の下準備よね」
「ああ、そうだな」
「んでおらがキリコッテちゃんとリコプルちゃんにさっきの事件のフォローだなー」
「その通り」
とても頼もしいと感じさせる返答だった。
うんうん、中々いいチームなんじゃないか僕らは。元々敵同士だったからぎこちない面もあるけど、この感じだったら最終日も上手くいきそうだ。
「それじゃあ、解散!」
この日の作戦会議はお開きとなった。
とりあえず、放課後の『パレード』頑張るか!




