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魔法によって飛んだ空  作者: 元祖ゆた
運営会選挙編 
60/64

第五十九話 疑心暗鬼に終止符を 後編 <六日目>

・『疑心暗鬼に終止符を 前編』の後編です。

・少し文量が多いです。

~前回のあらすじ~

「味方作って尋問アタック!」


………………<シェーナ>

容疑者達について、まとめて記述しておこうと思う。まずは、犯人候補。



犯人候補その一、リューイ・ガオーカ。

種族は十大種族テンバランスの一つ、ゴブリン族。かつては賢者学科一年男子で構成された男子連合軍のリーダーを務めていた。男子連合軍亡き今も、男子のリーダー的立ち位置で、女子のスカートめくりに勤しむ。

まさに、イタズラが好きで、小手先が利くゴブリン族と言ったところ。


犯人候補その二、ヤスラ・アービー。

種族は十大種族の一つで、数も多いドワーフ族。見た目は色黒活発系男子と言ったところだが、いかんせん地味。何をするにしても地味と言われ、先生にもたまに忘れられる悲しき少年。だが、成績は上位をきっちりキープし、集団訓練では他者を陰ながら支えるサポートタイプ。

小さい体格で力のあるドワーフ族だが、彼は縁の下の力持ちである。



以上である。次は、共犯者候補。



共犯者候補その一、リコプル・タティーシ。

種族は十大種族の一つ、背丈の小っちゃいノーム族。緑色の三つ編みが特徴的な彼女は、魔法に関して意欲が高く、いつも魔法同士の掛け合わせを研究している。ランクも成績も高く、クラスの中ではトリックスターのような活躍を見せる。

自然を愛する小人は、魔法も愛してやまないようだ。


共犯者候補その二、ケイシー・エナー。

種族は十大種族の一つ、有名で数多いるエルフ族。美しく腰くらい長さの金髪が魅力的な、女子達のお姉さん的存在。女子聖歌隊のリーダーだったこともあり、女子はもちろん、最近は男子からも羨望を集め始めた。成績は女子二位、総合三位のクラスの実力者。

魔法が得意なエルフ族の、見本のような優等生と言えるだろう。


共犯者候補その三、キリコッテ・ジャバッツ。

種族は十大種族の一つ、ベースによって多種多様なワーグ族。キリコッテのベースはキャットで、猫の耳や猫の尻尾が生えている。



エーリ曰く、天使。男子女子からも女の子扱いされる可愛い子。筆者である私も、たまに間違える。



共犯者候補その四、カテマ・ロフ。

種族は十大種族の一つ、巨体に似合わず温和な性格のジャイアント族。ヒューマン族を何倍も膨張させたような姿で、『ゴーレム』と呼ばれる魔物に間違えられることもあるらしい(本人談)。実技では好成績を叩きだす実践派。

攻撃・防御と隙のない戦闘能力に、優しい性格を併せ持つジャイアント族は、悪事に身を染めるのか?



以上が、共犯者候補だ。

舞台が整い、役者も揃った。『田舎貴族殺人事件』は、どのような結末を見せるのか。



果たして、犯人は誰なのか……? 



「……じぶん的には、ヤスラくんが怪しい」

「ぴゃあっ!?」


いつかの再現のように、不意に真後ろから話しかけられ、私は驚き本を落とした。

床に落ちた本を拾い、ペラペラとめくって中身を見ているのは、やっぱりと言うか、クラスメイトのカノラちゃんだった。ヒューマン族の、エーリくんより少し年上の幼い女の子。髪型はおかっぱって、言えばいいのかしら。綺麗に切り揃えられたショートヘアー。


て言うか、コレ見られちゃマズイじゃん私~っ!


「なーなー、これ何なのか? 何かの脚本かー?」

「あ、え、えっと……!」


何を言おうか必死に頭を働かすが、一向に正常に働かず、狼狽えながら本を奪うという手段に出てしまった。


本を取られたカノラちゃんは、通常通り眠そうな瞳だったけど、少し寂しそうだった。


「前隠した本だよな、それ。田舎貴族ってエーリくんのことか?」

「! よ、よく分かったわねぇ~」

「あ、そうなのか? 今じぶん、テキトーに言ったんだけど」

「……」


何自分から正解発表しちゃってんのよ!? 私の口のバカァ! アンポンタン!

いけない。完全に自分のペースが乱されている。カノラちゃんと話していると、作戦とか身の事情とかまで話してしまいそうだわ! 彼女、話術の天才ね……!


「今は具合良さそうか?」

「う、うん! そうね、元気よ私は!」

「そうか。それは残念だ」

「残念……?」


具合が良いと残念って、一体どういう意味なのかしら? そう思っていると、カノラちゃんは杖を取り出し、詠唱を始めた。


「『オープン』」


先月に習った、初級・空間魔法・アイテムポケットで、別空間にしまってあった物が、この場に顕現する。


「こ、これは!」


縦八十センチ・横一メートル・厚さ二センチくらいの長方形の板に、四本の角材。角材は長さ三十センチ・幅五センチくらいの長方形。板の角それぞれに設置されており、板は床と平行している。

材質が木のようだけど、肌触りが良く、滑らかでザラザラしていない。上質な木を使用している模様。少し鼻を近づけてみると、森特有の清々しく爽やかな匂いが感じられた。


そう、これはまさしく、机だ。それも上等な机。


「けれど、何故?」


机をいきなり出されてもリアクションに困るわ……。『わぁ! 机だぁ! すっごぉい!』とか反応するべきだったかしら。そんな反応、やりたくはないけれどね~。


と考えていると、カノラちゃんは笑みを浮かべた。


「『机好き』のシェーナちゃんのために、上質な机を用意したの。ほら、シェーナちゃんの住む寮の裏に森があるだろー? 昨日星を見に行った時に、偶然いい木を見つけてな。切ってストックしておいたの。そこからこの机を作ったんだけど……どう? 恋しくなったか?」

「……」



『……大丈夫か? 具合よくないのか? 保健室つれていこうか?』

『だ、大丈夫よ。……そう、ちょっと突発的に机に抱き着きたくなって! ああ、なんて可愛いのこの机! 愛おしくってたまらないわ~!』

『……そ、そうか。まぁまぁ、机が恋しくなってしまうような、そんな日もあるか、うん。大丈夫ならいいか、うん』



あ、あぁ~……。


私は、無言で机に近づき、そして、


「わぁ! 机だぁ! すっごぉい!」


抱き着いて、頬ずりをした。それはもう、愛玩動物を愛でるかのように。


「そうかー、わざわざ用意したかいがあったかー、うん」


満足気なカノラちゃんを尻目に、自分が何か今後嫌な目に遭っていくのが容易に予想でき、心の中でさめざめと泣いた。


「気に入ってくれて何より。実はそれと、もう一つあるんだけど……」

「!?」


二個目!? ちょっと、さすがに二個目は私の心が号泣しちゃうわ! 阻止しなくちゃ!

とにかく、論点をずらしてしまおう! そう、今私は時間がないのだし!


「え、え~っと、カノラちゃん。何か用?」


無難で、当たり障りのない質問を言ってみることにした。


「……うんとね、久しぶりにご飯一緒に食べないかと思って」

「!」


そう言う彼女をよく見ると、右手に可愛らしい風呂敷に包まれた何かがあった。恐らく、お弁当だろう。

一緒にご飯かぁ……そう言えば最近、一緒に食べていない気がする。選挙前までは、たまに友達グループから抜けて、カノラちゃんやヒーコちゃんと一緒に食べていたわね。

そう思うと、この誘いは断りづらい……のだけれども、断らなくては。



この昼休みは、勝負するのだから。



私は膝に手を付き、前屈みになって、カノラちゃんと目線を合わせた。顔と顔が向かい合う状態になる。

彼女の瞳、揺れる私の姿が映る。


「ごめんね、カノラちゃん。私これから他の人と別の場所でご飯食べるの」

「……そうなのか。それはしょうがないか」


しょんぼりと、擬音が聞こえてきそうな程、落ち込みを見せるカノラちゃん。でも、次の瞬間には普通の眠そうな表情に戻っていた。


「じゃあ今度は一緒に食べようか」

「そうね。明日は……無理だけど、選挙期間が終わったら、一緒に食べよう!」

「うん!」


にっこり笑顔を見せるカノラちゃんを見て、私はこの子が強い子だと思った。こんなに幼いのに、感情の切り替えが早く、物分かりが良い。そして素直で可愛い子。


視界の隅で、仲間達がリューイくんだけを誘い出すことに成功し、ゾロゾロと移動を始めている。私もついて行かなくちゃ。


……と、その前に。


「ねぇ、カノラちゃん」

「ん? どうしたか?」

「なんで、ヤスラくんが犯人だと思ったの?」


私は気になったことを聞いてみた。

この本には事件の概要と、休憩時間に行ったアリバイ聴取、怪しい人のデータしか書いていない。これだけで犯人を特定するのは不可能。

だと言うのに、この子は、犯人はヤスラくんだと決めつけている。だから私は、気になって聞いてみたのだ。


すると、カノラちゃんは垂れているまぶたを向けながら、



「こういう時、怪しいのは地味で内心に何かを秘めている奴だから」



そう言った。


「つまり……根拠のない勘ね?」

「そうなるか」

「そうなるわね~」


まぁ、そうよね。この情報量だけで特定できる訳ないわよね……。ちょっと期待しちゃったわ。


「……あ、でも、気になっていることはあるか」

「え? 本当?」


コクリと頷くカノラちゃん。私はその眠そうな瞳が、一瞬鋭くなったように錯覚した。



「嘘をついている奴が、一人いる」





……。

…………。

………………。

メドナちゃん、私が先頭で、その後ろにリューイくん、そのまた後ろにリコプルちゃん、キリコッテちゃん、ケイシーちゃんが並んで歩く。

ちなみにゲンジくんは、教室でヤスラくんやカテマくんに合流し、見張り兼お昼ご飯を食べている。こっちばっかり気にかけてもマズイからね~。


少し落ち着きがないようで、リューイくんはしきりに周囲へ視線を彷徨わせていた。


「……なんだよコレ。一緒に飯食うだけじゃねぇんか?」

「いいから歩くの」

「そうだね、よそ見してると危ないよ?」

「まぁ、気にしないでよ」

「んなこと言われてもな……」


リューイくんの後ろを歩く三人の言葉に困惑しつつも、素直に従うリューイくん。犯人だったならこんなに落ち着いていられるかしら?

……いや、これは意味のない思考ね。メドナちゃんが言っていたように、犯人は私達のことを知っている。だから、逃げたらマズイことだけは理解できているはず。犯人も私達同様、腹をくくっているのかもしれないわ。


応接室まで歩を進めている途中、私は気になったことをメドナちゃんに小声で聞いてみた。


「なんでカテマくんは一緒に連れて来ていないの? 彼も共犯者候補でしょう?」


リコプルちゃん、ケイシーちゃん、キリコッテちゃん、カテマくんは同じ共犯候補なのだから、一緒に行動させていた方がいいんじゃないのかしら?


するとメドナちゃんは、僅かながら微笑んだ、


「いいんですよ。失礼ですが、カテマ様は罠にさせていただきます」

「罠?」

「はい、トラップです。もしかしたら、釣ることができるかもしれないので。可能性は低いですが……」

「そ、そうなんだ」


良くは分からないけれど、メドナちゃんには何かしらの策があるみたいね。なら、私が気にすることじゃないわね。


……ああ、それよりもちょっと聞いておきたいことがあったわね。この流れで尋ねてみましょうか。


「あの、メドナちゃん。さっきの私の説明どうだった?」

「説明?」

「ほら、さっき私が事件について三人に話したじゃない? 上手に言えていたのかしら、って気になって」


先程、私は共犯者候補の三人に、エーリくんが襲撃されたことについて本当のことを話した。

昨夜十時頃、エーリくんが何者かに自室で襲われたこと。敵の影の魔法の障害で、今も部屋で苦しんでいること。私達は犯人に何人か目星を付けており、探偵の真似事をしていたということ。


これらのことを、できるだけ上手く伝わるように一生懸命話したのだけれど……間違いとか過ちとかなかったかしら? それが気になって気になって。

だって、私一人の失態でエーリくんに負担をかける訳にはいかないのだもの。


「大丈夫ですよ」


けれど、そんな私の心配は杞憂だったようだ。頬を緩めたメドナちゃんが、私の顔をしっかり捉えた。


「上手く要点がまとめられており、わたし達の事情も隠せていました。本当にありがとうございました」

「い、いえいえ! そんな褒めないでよ~」


つい照れてしまった私は、顔を背けて両手を振った。特に意味のない行為だけれども、こうしていると恥ずかしさが落ち着くので、私にとって意味のある行為だった。


それにしても、メドナちゃんは凄いと思った。

こんな一回限りの重要なことをしなければならない状況なのに、落ち着いて行動している。考えは常に冷静で、エーリくんにかける思いは熱血だ。


わたしも、そんな人になりたいわ。論理的思考能力を持っていて、人間的な優しさを兼ね備えている人物になりたい。そうすれば、世の中を平和にできる力も、手に入りそう。幸福を大勢の人に分けてあげられるかもしれない。

メドナちゃんはまさにそれね。今もクールだし、やっぱりすごいわね~。


「そう言えば、応接室にはどうやって入るの? いつもはエーリくんが開けてくれるじゃない?」

「……あ」


一瞬、眉がピクリと動いたのを、私は見逃さなかった。


「……メドナちゃん?」

「……外に行きましょう。ほら、賢者棟前に庭園があったでしょう? 確か、ベンチとかあったので、そこがいいですね」

「メドナちゃん……」


こういうおっちょこちょいな部分も、彼女の魅力だと私は思うのだった。





「では、いきなりですが始めましょうか」

「そうね~」

「……え? 何? 飯食うんじゃ……」

「ご飯は食べますよ? これが終わったらですが」

「……もしかして、また劇の続きか?」

「そうですね。……そうです、悲劇の続きです」


昼休み序盤。少し日が照って温かい外。賢者棟前の庭園。ベンチにて……。


探偵役のメドナちゃんと、助手の私による、尋問が始まった。



「先程と同じ質問になりますが、ご了承ください。昨夜十時ごろ、リューイ様は、何をしておりましたか?」

「何って……そりゃさっきと同じだぜ? カテマとキリコッテの三人で魔法の特訓してた。そこにいるキリコッテに聞いてみろよ」


そう言うと、リューイくんは、私達から少し離れた位置にいる三人の中の一人――キリコッテちゃんを、後ろを振り向いて指差した。


そもそも、私達それぞれの位置は、三人用ベンチの片側端っこにリューイくんが、もう片方の端っこにメドナちゃんが座り、私はメドナちゃんの側に立っている。リューイくんの後ろの方に、味方の三人が少し距離をとって並んでいる。

この並びなら、リューイくんや後ろの三人をじっくり観察できるという、裏事情があるのだけれども……皆には内緒ね。


「どうなのですか?」

「うん、リューイくんの言う通り、本当のことだよ。ぼくとカテマくんは、リューイくんから魔法を教えてもらっていたんだ」

「そうですか……」


少し考え、メドナちゃんはすぐ別の質問をする。


「では、その教わっていた魔法というのを、教えていただけませんか?」

「いいぜ。いいよなキリコッテ?」


リューイくんの問いかけに、キリコッテちゃんは頷く。

今の所、二人の間に動揺は見られない。


「基本的な魔法だ。低級の基礎魔法を幾つかな。年末にテストするって噂があったから、最近はそればっかだ」

「基礎魔法ですか。詳しく聞いても?」

「お安いご用だ。今は火魔法の『赤色吐息レッドブレス』を練習している」

「どのような魔法なのですか?」

「簡単に言うと、口から火を吐くんだ。かっけぇだろ?」

「口から……火ですか……」


メドナちゃんの顔色が真っ青になる。何かトラウマでもあるのかしら?

でも、次の瞬間には普通の顔色に戻っていた。良かった。


「な、なるほど。では、そんな特訓はいつから行われていたのですか?」

「んーと……四日前くらいから毎日だな。放課後っつーか夕方か? 放課後よりも遅い時間なんだが……そのあたりから集まってやってるぜ」

「そうなのですか?」


チラリと、キリコッテちゃんの方を見るメドナちゃん。キリコッテちゃんは再び無言で頷いた。


「そうですか。分かりました」

「おっ? 終わりか?」

「いえ、まだです」

「そーかい。腹減ってるから、早く頼むぜー」


はぁ、とため息吐くリューイくん。その顔は面倒臭そうだけど、私やメドナちゃんの雰囲気から、何か真面目な話だと勘付いている模様。空気を読んでくれている、言った方がいいかしら。

だから、彼は一切悪ふざけをしていない。お茶を濁らすことなく、しっかり受け答えもしている。それはこの件に関係していないから? 知らないから自然に振る舞えているのかしら? それともこの件に関係していて、既にこの展開になるのを予想していて、心構えができているから?


今の所、リューイくんに怪しいところはない。キリコッテくんという、アリバイ証明してくれる大きな存在がいるからか、彼のアリバイに破綻はない。


「……」


メドナちゃんは顎に手を当てて考えている。何を考えているのか、私にはまったく分からない。次の手を模索しているのかもしれない。


少しの沈黙が訪れたところで、メドナちゃんは次の手に出た。


「別の質問をします。よろしいですか?」

「別にいいぜー」

「ありがとうございます。では早速……昨日の放課後、つまり特訓が行われるまでの間、リューイ様はどこで何をしておりましたか?」


先程の返答の、隙間を縫うような鋭い質問が放たれる。

なるほどね~。確かに事件は夜十時頃発生したけれど、その前に何かしらの罠を仕掛けることができた可能性もあるものね。


死亡時間偽装なんて、推理小説じゃよくあることだもの。


「そうだなー……」


リューイくんの表情が、少し硬くなった。恐らく、その時間帯はアリバイがないからだろう。

アリバイがない、ということはもっとも恐れること。自由に自身について説明できるとはいえ、矛盾があったら一瞬で破綻する上、信憑性がない。


まぁ、私達側にとっても、アリバイがない意見は決定力に欠けるのだけれども。


しばらくリューイくんは記憶を探るような動作をし、ゆっくり口を開いた。


「自分の部屋で寝てた。一人で」

「……そうですか」


これまた、決定力に欠けるアリバイが出てきたわね~。誰にも証明することができず、また本人も証明できない最凶のアリバイ。


同時に、この質問の追及が意味をなさないことになった。キリコッテちゃん達に合流するまで、部屋で寝てたのだから突っつきようがなく、何を聞かれても寝てたのだから、答えようもない。逆に完璧なアリバイという訳ね。


何か、その寝ていた時間帯に、部屋の外に出ていなければ知り得ないことがあるのなら、それを聞いてみて反応を見ることができるのだけれども……生憎、私はその時間中央棟の方に行っていたからね~。メドナちゃんも、その時間帯は魔女の夜会ナイトパーティに備えて準備していただろうから、外を歩き回るなんてことはなかっただろうし。


私の考え通りなのかは分からないけれど、メドナちゃんは口を閉じたままだった。場が少し静かになる。


「……そう、ですか」


長いようで短いような時間が経過し、やがてメドナちゃんが小さく呟いた。その声音は暗く、どこかがっかりした様子が含まれているようだった。まぁ、これ以上話を広げることができないものね。


となると、攻めるのはキリコッテちゃん達との合流後ということになるけれど……。


「?」


そぞろにキリコッテちゃんに目線を送ると、小首を傾げ不思議そうな顔をしていた。こういう仕草がとても可愛らしい。これこそ天使。


そうなのよね。合流後はキリコッテちゃんというアリバイ証明してくれる存在がいるから、何を言っても真実味があるのよね~。


もし、リューイくんが犯人だとしたら、確実にキリコッテちゃんが共犯者ということになる。そうだった場合、今二人は口裏を合わせていることになるけれど。

これから突くとしたら、そこよね。二人の口裏に潜む矛盾……そこを見つけていかなければ。


「ふぅ」


無意識に、ため息を吐き出していることに気が付き、慌てて口を押さえた。

きっと、これから行う緻密で骨の折れる作業を推測し、行う前から疲れを感じてしまったのね。

いけないわ。私が疲れてちゃ、助手として立つ瀬がないというもの。頑張ろう。


「なら、三人が合流した後について、一つ一つ、じっくり聞かせて下さい」


凛としたメドナちゃんの声だけが、この疲弊した空気の中で、元気だった……。





数十分をかけ、尋問は終了した。

結果……。


「じゃあなー」

「はい、本当にありがとうございました。貴重なお時間を割いてしまって……」

「いいって。なんかマジっぽっかったしよォ。何あったか知らんが、話せるようになったら話してくれよ?」

「もちろんです。それでは」


手を振って、私達は賢者棟へ帰っていくリューイくんを見送った。庭園に残ったのは、私とメドナちゃん、そして共犯者候補の三人。


そう、リューイくんを捕えることなく解放し、私達がこの場に残っているということは、


「分かりませんでしたね……」


尋問は、失敗したことを意味していた。

いや、失敗というのは早計かもしれないわ。だって、尋問自体は問題なく滞りなく行われたのだから。


「いくら聞いても犯人だという証拠がなくて、だからと言って、犯人じゃない証拠もないっていう感じだったからね~」


ただ、特にめぼしい情報は得られなかったのだ。不要な情報と疲れだけが、蓄積した気がするわ。


「(それに、リューイくんやキリコッテちゃんの表情に動揺や焦りはなかった……)」


私は人の心を読む魔法や、思考を盗む魔法を使っている訳ではないけれど、それでも、彼らに後ろめたさや警戒心がないことが素人目にも分かった。


限りなく白に近い犯人候補、と私は思った。


「どうだった?」


一人考え込んでいるメドナちゃんに近づき、耳打ちをする。メドナちゃんはゆっくり顔を上げ、私と同じように耳打ちをした。


「とりあえず、供述内容に怪しさは感じ取れませんでしたが……だからこそ怪しいとも言えますね」

「と言うと?」

「魔法、です。二人は何らかの魔法を使い、精神を強化している可能性があります。または洗脳魔法で、共通の内容を脳に刻み込んでいる可能性もまたあります」

「でもでも、二人にそんな素振りなんて……」

「だからこそ魔法です。魔法ならば、犯人じゃないと見せかけることができます」


魔法……ね。これが魔法の効果だとしたら、私達のような素人には見つけ出すことは不可能なんじゃないかしら?


そう質問する前に、メドナちゃんが私の思考を先読みした。


「ゲンジューヤ様ならば、精神系の魔法に造詣が深いと聞きました。これから教室に戻って、リューイ様とキリコッテ様を見てもらいましょう。それで何らかの反応があれば――」

「犯人ってことね」

「ええ」


そう言えば、ゲンジくんはそういうの強いって聞いたわね。なら、二人を見てもらって、反応があれば即逮捕という流れが作れる。


「その精神的魔法がいつまで持続するか不明ですが、発動している内にゲンジューヤ様に見てもらわなければなりません」

「! そ、そうね! なら急がないと!」


急に焦りに襲われた私達は、とっととその場を移動しようとして――


……その前に。


「ねぇ、探偵姉妹はどう思った?」


尋問をずっと聴いていた二人に尋ねてみることにした。もちろん、探偵姉妹とはリコプルちゃん、ケイシーちゃんを指す。


「うーん。ちょっとリューイくんが犯人とは思い難いの」


と、言うのはリコプルちゃん。


「それはどうして?」

「どうしても何も、ちゃんとアリバイがあったの。それと……ねぇ、シェーナちゃん。敵は影の魔法の使うんでしょ?」

「そうね」

「なら、やっぱりリューイくんには無理なの。影を扱う魔法は、魔法等級マジッククオリティが高くて一年じゃ習得は無理なの」

「それはそうだけれど」


リコプルちゃんの意見は理にかなっている。けれど、そう言い切るには確証がない。一年には無理だと、そう言われているだけで、可能ではないだろうか?


なんてね。


「だからリコは、リューイくんは違うんじゃないかなーと思うの」

「なるほどね~」


リコプルちゃんの意見に、私も近い意見を持っているからか、納得できた。


「じゃあ、ケイシーちゃんはどう思った?」


今度は、ケイシーちゃんに聞いてみることにした。ケイシーちゃんは前髪をかきあげてから、話し始めた。


「わたしはリューイくんが犯人だと思うわ」

「へぇ」


リコプルちゃんとは違った意見に、私は少なからず驚いた。私とも違う意見だからというのもあるけれど。純粋に、詳しく聞いてみたいと思った。


……純粋に。


「わたし自身が、ヤスラくんのアリバイがあるのを知っているから、どうしてもヤスラくんが犯人だと思えないのよね」

「ああ、お二人は昨夜一緒にいたんでしたっけ」


メドナちゃんが話に加わる。その顔に別の好奇心が入っているような気がした。

意味深長に尋ねられ、ケイシーちゃんが顔を赤らめ、慌てて否定を始めた。


「違うわよ!? 別に何もなかったから! 付き合っているとかそんなのないから!」

「えぇ~? そうなのぉ~?」


リコプルちゃんが、茶化すような口調に。露骨に嫌そうな顔をするケイシーちゃん。


「本当に違うから! 本当に!」

「はいはい」

「適当に返事しないでよ! 本当にないんだから!」

「なぁ~のぉ~」


しまいには息を荒くし、リコプルちゃんの両肩を掴んで激しく揺さぶった。それでもリコプルちゃんは楽しそうだけれど。


「うふふ……」


私も、つい妄想して楽しんでいたことは秘密。


「たまたまヤスラくんのサイフ拾ったから届けに行っていたの。なきゃ大変でしょ?」

「そんな夜遅くに?」

「拾ったのが遅かったからよ。届けて、ついでに勉強教えてあげて――」

「『なぁ、わいに教えてくれないか?』『な、何をよ』『こっちの方の勉強を……さ』『ヤスラくん……!』」

「コラァーッッ!!!」


リコプルちゃんの冷やかしに、遂に大きな声をあげて怒るケイシーちゃん。顔はもうまっかっか。


「うふふふふ……」


そして私の妄想も止まらない。超特急でノンストップ。


「と、とにかくそういうことよ。わたしはヤスラくんにアリバイがあることを知っている」

「なるほど」


リコプルちゃんがケイシーちゃんに絞められ、地面に倒れ伏しているのを尻目に、私はケイシーちゃんの意見の耳を傾けた。


「勉強を見てあげたから彼の成績も知っている。とてもじゃないけど、彼の成績で陽炎の鎖ジール・シールは無理ね」

「……」


確かに、影の魔法は難易度が高いから、頭が良くなきゃダメよね~。上級だったわよね。今の私には到底無理――


……ん? あれ?


「だからわたしは、もう一人のリューイくんが怪しいと思ったのよ。消去法ね」

「……そうですか」


何か、私は違和感を覚えた。

なんだろう……こう、あれなんでって、感じの……。言葉にならない感覚っていうものは、どうしてこうももどかしいのか。


「なるほど、分かりました。お二人の意見、参考にさせていただきます」

「うん、いいよー」

「こんな意見でよければね」


探偵姉妹の二人に感謝の言葉を述べるメドナちゃん。このままだと、私のこの胸中のモヤモヤを残したままになってしまう。


『嘘をついている奴が、一人いる』


……今、かしら。この切り札を出すのは。いやでも、これはタイミングが合わなければ容易に躱される。

どうしよう。この違和感、カノラちゃんの証言、どうすれば――



「あ、そう言えば」



そう言って、メドナちゃんはある人物の目の前に立った。その顔は、決意に満ちた清々しい顔だった。

空気がピリッとし、張りつめていく。今、本当の尋問が始まるんだと、私は思った。



「どうして、影の魔法が、『陽炎の鎖』だと知っていたのですか? ケイシー様」



私の違和感が、一瞬にして氷解した。


「……え?」

「確か、シェーナ様の説明では、影の魔法としか言っていなかったはずです。そうですよね、シェーナ様?」

「え、ええ! 私は敵の影の魔法を浴びてしまったとしか言っていないわ!」


そうだ。私の感じたおかしな点は、そこだった。

何故、ケイシーちゃんは、私が影の魔法としか言っていないのに、それが陽炎の鎖と特定できたのか?


一気に、私とメドナちゃんの疑惑の目が、ケイシーちゃんに突き刺さる。


「……あ、あれ? 言ってなかったっけ?」


当の本人は、少し狼狽えつつも、普段どうりな反応だった。普段の優等生な彼女の反応。

でも……。


「そ、そう! 影の魔法って言ったら、陽炎の鎖だって固定観念があったから! それでそう言っちゃったのよ! ほら、陽炎の鎖は有名じゃない? ねぇ?」

「……いや、リコは少なくとも知らなかったの」

「ぼくも……」


ケイシーちゃんの問いかけに、リコプルちゃんとキリコッテちゃんが困惑しつつ否定する。その反応に面食らいつつ、ケイシーちゃんは必死に続ける。


「でも上級生の間じゃ有名なのよ! わたし、上級生に友達いるんだけど、その人から聞いたの! それでつい出ちゃったのね! まったくわたしったら!」

「……」


疑惑が、強まっていく。ケイシーちゃん以外の皆の目が、不審を露わにし始める。

いつも凛としている彼女が、言い訳めいたものを、垂れ流し始めたからに他ならない。普段の彼女ならば、その話は信用に値するろうけれど……。


今は、ただその場凌ぎをしているようにしか見えない。


「……そうですか。まぁ、上級魔法らしいですし、有名かも知れませんね。偶然知っていてもおかしくはありません。ケイシー様は勉強熱心な方ですし」


メドナちゃんが、鋭い視線を向けつつ、


「なら何故、『もう一人のリューイ様』と言ったのですか? わたし達は別に、犯人になりうる者の人数については教えておりませんが?」

「……ッ!」


そう、無慈悲な程に強烈なことを切り出した。思わず固唾を飲む。


「あなたは確かにおっしゃいました。『もう一人』や『消去法』と。あなた、何故犯人候補が二人いるということを知っていたのですか? わたし達以外には、リューイ様やヤスラ様、そしてカテマ様もいると言うのに」

「……そ、それは」


私はここで納得した。理解した。これが、メドナちゃんの言っていた、罠……!


「それだけじゃありません。クラスメイトはもっといますし、教員の可能性だって無きにしも非ず。シェーナ様は、坊ちゃまが何者かにに襲われたとしか言っていないのに……何故、二人だと特定できたのですか?」


畳み掛けるような、メドナちゃんの口撃に、ケイシーちゃんは後ずさりする。

メドナちゃんは、この場の空気を完全に支配していた。思考が高速に流されていく。


「ケイシーちゃん? まさか……」

「……」


リコプルちゃん、キリコッテちゃんは、ゆっくりケイシーちゃんの後方に移動していた。

私には、逃げられないよう囲んでいるように見えた。


「……は、何言ってるのよ? だってさっきの休憩時間に、リューイくんとヤスラくんしか尋問してなかったじゃない」

「単に時間がなかっただけです。別に、二人だけを尋問するとは、口に出しておりません」

「……はは……」



風の音、虫の声だけになり、しばらく静まり返る庭園。太陽が、私達を仄かに照らしてくれる。



「は、ははは」



昼休みも終盤へ向かっていることだろう。もうすぐ、終わる。



「ははははははは!」



そんな穏やかな環境が、ゆっくりと、動き始めた――。



「何!? わたしが犯人だって言うの!? 証拠は!? 証拠はあるの!?」



声を荒げ、普段の余裕はいざ知らず。ケイシーちゃんは、怒りを体現していた。


「わたしが犯人だっていう証拠出しなさいよ! はっ! ないわよね! だってそうよね! わたしは昨夜、ヤスラくんと一緒にいたんだから! アリバイはあるわ!」

「ケ、ケイシーちゃん?」


彼女の激変に、戸惑うキリコッテちゃん。そりゃそうよね。私だって、驚いているんだから。今この場にいる人で、驚かない人はいないはず。

でも、こういう時こそ、パニックに陥っている時こそ攻め時なのかもしれない。


「アリバイがある以上、わたしは犯人じゃないわ! そうよ! アリバイが崩せるのなら! このアリバイが違うって崩せるっていうの?」



「……アリバイなら、崩せるわ」

「!?」



切り札は、今だと思った。私はメドナちゃんの隣に立ち、ケイシーちゃんの前に立つ。


「昨日の夜十時頃、ケイシーちゃんをレベル10インペラトーレ専用高級女子寮の裏の森で見かけたって、カノラちゃんが言っていたわ。あそこ、人が入れるような場所じゃないのだけれど、その中に、魔法使って堂々と入っていった姿を、寮の屋上から見かけたって。随分と慣れた様子だったとも言っていたわ」

「……!」


これが、私がさっきカノラちゃんから教えてもらった切り札。最初は半信半疑だったけれど、今の状況では信じる材料となる。


「てか、なんで屋上に? それもレベル10の寮って。カノラちゃんレベル10じゃないよね?」


まぁ、そう思うわよね。リコプルちゃんの疑問に私が答える。


「カノラちゃん、天体観測が趣味なの。ほら、私の住んでいる寮ってでかいじゃない? だからずっと前に、わたしの権限を貸して、屋上を使わせてあげているの。普段は屋上なんて誰も出入りしないわ」


ずっと昔の話だ。それはもう、入学して一週間くらい前。懐かしい思い出ね~。


「つまり、屋上という誰も利用しない場所だったからこそ、森へ入るケイシー様が見られたのですね」

「ケイシーちゃんも、まさかと思ったんじゃない? 利用者のいない屋上から、森へ入るところを見られていたなんて」


そう言って、私はケイシーちゃんに意見を求めるが、答えてはくれなかった。


代わりに――


「嘘よ! カノラは嘘を言っているんだわ! ヤスラに聞いてみればいいわ! 一緒にいたって」


更に激高し、拒絶して否定して噛みついてくる。彼女の本性が、理性を壊していく。


「『カノラ』に『ヤスラ』。呼び捨てですか……相当動揺していますね。普段は呼び捨てする仲なのですか? だとしたら……」

「何よ悪い!? 呼び捨てしちゃ悪いの!? 誰かが言った? 悪いって、罪だって、悪だってぇっ!」

「悪くはありません。むしろ名前で呼び合うと言うのは親しい仲を表しますから、喜ばしいことだと。しかし」

「しかし何よ! わたしは犯人じゃないし、ヤスラも犯人じゃない! 犯人はリューイよ! あいつに決まっているわ! いつもセクハラしてるし! あのゲスがやったことなのよ!」

「……ケイシーちゃん、もしかしてヤスラくんのこと庇ってるの? なんか、リューイくんを犯人にしたいみたいだけど」

「んなっ!?」


リコプルちゃんの言葉に、ケイシーちゃんの言葉が詰まる。


「お互い呼び捨てるくらい仲がいいのはいいことです。しかし問題なのは、今この状況で、仲が良くて庇っている風にしか聞こえないことです」

「く、くぅ……!」


そうね。ケイシーちゃんが怒り始めた時点で、彼女がヤスラくんを庇い始めた風に、私も感じてしまった。


「何か、反論はないの? 森にいた理由、ちゃんと教えてくれればアリバイになるかもよ?」

「……」


リコプルちゃんの言葉に、ケイシーちゃんは黙ったまま。顔を伏せ、強く拳を握るだけ……!


と、ここでメドナちゃんから、思いがけないことを聞くことに。


「……まぁ、言えないでしょうね。シェーナ様を監視するため、とは」

「え?」

「!?」


私を、監視するため……?


「怪しくはないですか? 夜遅くにシェーナ様の住む寮の裏の、立ち入るような場所じゃないところに入っていったのです。しかも堂々とです。そんな場所に入るには、所見では勇気のいることでしょう。つまり、入ることに慣れていたと捉えることができます。では目的は何か?」

「……何度も森に入っていたとしたら……しかも寮の裏……私の部屋はすぐ側に森があるわ!」

「ずっと監視していた、そうは考えられませんか?」

「……」


鳥肌が立ったのを感じた。まさか、私は監視されていたの? でも、魔法無効石があるから盗聴や透視は――

あ、そっか。別に室内を監視する必要はないわね。家から出た後は、魔法が使い放題なのだから、私がどこへ行くのか、監視すればいいわね。


すると……そうすると。彼女がフォルの……。


「教えてくれませんか? 何故、深夜に森に入っていたのか」

「「「……」」」


皆で彼女を囲む。

もう逃げられないし、逃がさない。この質問に答えられない彼女は、限りなく黒に近い犯人候補。


アリバイを崩された監視人ケイシーちゃんは、ここで捕えるッ!



「……はぁ、しょうがないわね。友達相手にやりたくはなかったのだけど」



長い沈黙の後、彼女はそう言って深く息を吐いた。


追いつめられた犯人が、どんな手に出るか知っている。予想できるわ。

ケイシーちゃんは、ゆっくり、伏せた顔を上げて……



「皆には悪いけど……口封じ、させてもらうわね?」



いつものような笑顔で、杖を取り出した――。

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