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魔法によって飛んだ空  作者: 元祖ゆた
異世界冒険編 
6/64

第五話 化物討伐隊 前編

また前後編です。

~前回のあらすじ~

メイドがデレた。


陽気な日差しと爽やかな風が吹く穏やかな午後。

四歳になって数ヵ月、僕はとうとうアルンティーネの邸宅から外へ出た。

実は堂々と家の外に出たのは初めてだった。


「(今まではミラージュデコイ、ミラージュコートありきの無断外出だったからなぁ)」


門から出て、外の道を歩く。何度も通ったので馴染みのある道だが、


「いいですか坊ちゃま。足元に気をつけてくださいね」

「お、おう」

「あっ! あんなところに蜂が! 坊ちゃまこっちへ!」

「うむむ」


世話焼きのメドナが甲斐甲斐しく注意してくれる。

うーん、過保護だなぁ。





前々回の誕生日パーティ以来、僕とメドナは秘密の特訓と称して魔法を練習し始めた。

あの日、僕は偶然読んでいた魔法の本から魔法を使ったという嘘をついた。するとメドナは、


「わたしも魔法を覚えたいです!」


と言い始めた。

そこで僕は折角だから二人で勉強しようか? と提案すると、


「ぼ、坊ちゃまと二人きりで……? やります!」


この子は一体どうしたのだろうか。

とにかく、三歳になったあの日から、僕とメドナは二人でこっそり魔法の勉強を始めた。

正直、僕は魔法大全丸暗記という力技によって、魔法はあまり勉強する必要はないのだが……これはこれで楽しい。

それと一緒に、この世界について軽く勉強を始めた。

一応、過程教師みたいな人がいるのだが、教えてくれるのは貴族としての云々。

僕は今までこの世界について知らなかった。この世界に慣れるために数年はかけようとは思っていたが、そろそろいいだろう。

知識を蓄えて、経験を積んだら、ベリーチェを捜そう。

僕はそんな目標を立て、勉強をすることにしたのだった。





この世界は二つの大陸から成り立っている。『ディメヴィア大陸』と『ラミヴィア大陸』である。


ディメヴィア大陸は十の国からなる大きな大陸で、周囲が海で囲まれている。『ソラセット帝国』、『アーキュリ公国』、『ヴィス王国』、『ルムーン公国』、『ボルマー王国』、『ピトーヤカ王国』、『ガサセ王国』、『セビトロ帝国』、『ナフィー帝国』、『ジンピューロ王国』の十の国だ。主にソラセット帝国、セビトロ帝国、ナフィー帝国の三大帝国と、それ以外の従属国で十の国だ。


ラミヴィア大陸は生き物が住むには難しい大陸。知性の持たない魔物がたくさん住んでいる。未踏の地が多く存在する。


僕の住むロズー村はジンピューロ王国にあり、ジンピューロ王国はナフィー帝国の従属国である。


……うーん、ちょっと覚えるのが多いな。

とりあえずここがロズー村で、しばらくはジンピューロ王国を活動することにしよう。


「坊ちゃま、何か考え事ですか?」

「ん? うん、まあね」


そして今はロズー村の散策である。

ここロズー村は貴族の住む『貴族領域』と、それ以外の人が住む『平民領域』。更に、人以外の種族が住む『流民領域』というらしい。各々北東、中央と東と南東、南西にその領域がある。

そもそもこの世界の『人』というのは、ヒューマンという種族に当てはまるらしい。つまり僕はヒューマン族の貴族ということになる。ややこしいね。


「さすが坊ちゃま! どんな時でも思索に耽っているのですね!」

「……ねぇ、メドナ」

「はい、なんでしょう?」


メドナはすごくニコニコしている。うん、笑顔が素敵なのはいいことだ。いいことだが……。


「なんか僕のこと持ち上げすぎじゃないか?」


メドナを助けたあの日から、僕は彼女に好意を持たれているのは知っている。まるで憧れの存在を崇拝するような。


「そんなことはありません! エーリ坊ちゃまは優秀です。なんせ三歳の時に本を見ただけで魔法を扱っていましたからね。なによりわたしの大好きな主人ですから!」

「……異性として大好き、じゃないよね?」


僕がそう言ってみると、メドナは顔を沸騰させ、


「そっ! そそそ、そんなこと、ありませんじゃないです!」

「え、なんて?」

「も、もう! 坊ちゃまにはまだ早いです!」


ぷいっとそっぽを向かれてしまった。ははっ、おませさんだねメドナは。

これで僕が本来の、高校一年生の姿だったとしたら……。

九歳のメイド服着た少女をからかう十五歳の少年。

うん、逮捕だな。


「しかし平和だねー」

「……それはそうですよ」


一つ咳払いをし、ちょっと赤く染まった肌に手で覆いながら、メドナが説明をしてくれた。


「ここ貴族領域は有力貴族の方々が住まわれております。権力、武力、組織力、名声……そういう莫大な力を持っているのが貴族です。そんな強力な貴族が何人も住まわれています」

「武力均衡か」

「そうです。強すぎる力と力はお互いに牽制し合い、均衡状態となる。それが内的平和になります」

「そしてそんな強すぎる力が集結している地には、外からは攻撃しづらい、と」

「さすが坊ちゃま。そうです、それが外的平和となるのです」


貴族領域は内、外の平和が実現している。だからこんなにのどかなんだ。


「それにしても坊ちゃまは博識ですね?」

「本を読んでいるからねー」


返しが雑になってきているのは仕方ない。


「とりあえず貴族領域を見て回りたいんだけど、いいかな?」

「分かりました。このメドナに任せてください!」


うんうん、存分に頼りにさせてもらおうか。





貴族領域は高級住宅街のようだった。どの家も大きく絢爛だ。一度赤ちゃんの頃に見ているとはいえ、やはり自分の両足で立って見るのとは違う。

あの頃から早くも四年か……。なんか感慨深いなぁ。

もし異世界と元の世界が同じ時間軸だとしたら、妹の陽鳴は十六歳。今頃女子高生真っ只中だろう。

すぐ帰るって言っておきながらもう四年。僕は陽鳴に対して、どうすれば許してもらえるのだろうか。

いや、もう覚悟しておかなければならない。この陽鳴に対する罪悪感を背負って死ぬことを。

進もう、自分の選んだ道を。


「右の方は畑です。大体畑は対面にある邸宅の貴族様が所有しておりますね」

「なるほど」

「畑の向こうに見える林はペット用の林です」

「ペット用?」

「はい。邸宅で買うには大きすぎる、凶暴で他の貴族に害をなす可能性がある……そういったペットが飼われている林です」


おいおい、そこまでして飼うのかよペットを。多分戦力になるとか、遠くの街へ移動する時に馬車代わりに使うとか、そういう理由からだろうけど。

しばらく道なりに歩いていくと、見覚えのある門が見えてきた。やっぱり五メートルはあるだろう。


「ここまでが貴族領域となり、ここから先は平民領域となります」

「貴族領域がロズー村の北東で、平民領域は東にあるから……僕らは南方向に真っ直ぐ歩いてきたことになるのか」

「そうですね。アルンティーネの邸宅は最北と言ってもいい位置にありますからね」


家から門までそれほど時間はかかっていない。が、ここから先はもっと時間がかかるだろう。

平民領域はロズー村の中央地帯、東地帯、南東地帯を占めているらしいからなぁ。

てか村なのに広すぎ!


「ちなみに、門の先へは行ってもいいの?」

「可能でしょうけれど……その」


メドナはとても言いにくそうな顔をしている。その顔で僕はピンときた。


「仲悪いの? 貴族と平民」

「う……はい、そうなんです」

「まぁ、だろうね」


貴族と平民。元の世界でもこの両者は対立していた。戦争だって起きた。立場の違いによる紛争なんて良くある話さ。


「貴族は平民を見下し、平民は貴族に嫉妬しておりますので……その、この先進むのは危険なんです。もちろん、全ての貴族が見下している、全ての平民が嫉妬しているわけではないですよ? 現に、エーリ坊ちゃまは侮蔑する気はないですよね?」

「もちろん。皆同じ尊い生き物じゃないか」

「ですよね。ふふっ」


僕の答えに笑みを零すメドナ。まったく、何が面白いんだか。


「さすがは坊ちゃまです! わたし感動しました!」

「だから持ち上げすぎだっての」


メドナに軽くチョップをし、とりあえずその場を後にした。

もちろん、ただの撤退ではない。


「(いずれ一人で変装でもしてこっそり来よう)」


そう胸に誓った。





帰り道、小さな井戸のある広場に、同年代の子供が集まっていた。

四人の子供たちが、何やら楽しそうに遊んでいる。


「ははっ、子供たちが無邪気に遊んでるなぁ」

「……坊ちゃまも子供ですが」


それもそうだった。


「せっかくですし、交流でも深めます?」

「うーん、そうだな……」


同年代の子供――つまり四歳から六歳くらいの子供なのだが、そういった子供とはどういう感じで遊べば良いのだろうか。それも貴族だ。

そうして思考していると、子供の仲の一人が僕に気が付いた。


「あっ! エーリじゃありまちぇんの!」


うおっ、僕の名前を知っているなんて何者だ! と構えていたが、その姿が見たことのある子供で構えを解いた。


「どうちまちたの? 散歩でちゅの?」


クリーム色の長い髪を振り回しながらやって来た少女は、馴れ馴れしく話かけてきた。


「わたくちは探検ちていたの! この辺りには化物が出るという噂があったから!」


うん、聞いてないのに自ら説明してくるとは。子供特有の『話したがり病』だな。

僕の記憶が正しければ、この子は僕の家の隣に住んでいる女の子だ。パーティにも毎年顔を出していた気がするけど……話したことがない。一度も話したことがない相手にここまで話せるのは、やっぱり子供だからだろうか。思えば自分も子供の頃は、よく知らない地域の子とも話せたなぁ。

ていうか、今まさに子供の頃なんだが。


「へぇー。化物ってホント?」


とりあえずのってあげることにした。途端に少女の目が輝く。


「そうでちゅ! そうでちゅの! 恐ろしい化物がこの井戸に潜んでいるんでちゅの!」

「ふむふむ」


この舌っ足らずなお嬢様口調が病みつきになりそうなのを堪えながら、適当に相槌を打つ。


「わたくちはその化物を退治するために、こうやって見張っているのでちゅ!」

「なるほど」


少女はひとしきり喋ったら満足したのか、さっさとこの場を離れて井戸へと向かった。

いなくなったところで僕はメドナに尋ねる。


「今の子誰?」

「知らないで会話してたんですか!?」


メドナ、今日一のビックリだった。


「てっきりお友達かと思っていましたが……」

「今日初めて喋ったよ」

「そ、そうですか」


当惑しつつも、メドナが説明してくれた。


「彼女はシュガーネ家のご令嬢で、『ラズナティーニ・シュガーネ』と言います」

「シュガーネ、か」


どこかで聞いたことのある名字だ。


「アルンティーネの邸宅の隣に邸宅を設けており、言わばお隣さんです。アルンティーネの旦那様や奥様共に仲が良いですね」

「ほー」


そんな風に話をしていたら、またラズナティーニがやって来た。


「エーリ! 今お暇でちゅか? 暇でちゅよね?」

「まぁ、暇っちゃ暇だけど」

「なら化物退治メンバーに入れてあげるでちゅわ!」

「え? いや――」

「さぁ、行くでちゅよー」


ラズナティーニが突然僕の手を握ったかと思うと、無理やり引っ張って進んだ。僕は彼女に成されるがまま引きずられていく。

ふぅ、まったく。人の話を聞かない子供だ。


「ほら、そこのメイドも来なちゃい!」

「わ、わたしもですか」


引きずられる僕と、その後ろを負うメイド。なんだこの光景。

ま、たまには童心に返って遊ぶのも一興か。そう思い、受け入れることにした。


「レオ! ウィート! ガラト! 新入りでちゅわ!」


ラズナティーニが僕たちを井戸の側に連れてきた。そこには、同年代の子供が三人。

その中の一人、レオと呼ばれた少年が僕の前に立った。そして、


「やぁ、また会いましたね?」


そう言って握手を求めてきた。

……うん、誰だろう。彼に至っては一度も見たことがないんだけど。

困惑する僕と、にっこりしているレオ。

まさかこのレオが、今後僕のライバルとして張り合っていくことになるとは、この時は思わなかったのであった……。

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