第五十八話 疑心暗鬼に終止符を 前編 <六日目>
・思ったより長くなったので、前後編にしました。
~前回のあらすじ~
「おじさんが跳んだり跳ねたり殴ったり」
………………<メドナ>
午前の授業が終了し、昼休みに入りました。
この学園では午前に三つ、午後に二つ授業を行うのですが、その間のインターバルとして、一時間半の長い休憩時間が設けられているのです。これが昼休みです。
授業と授業の間にも休憩時間はありますが、そちらは十分なので、トイレへ行き、次の時間の準備をするだけで終わってしまいます。
だから、この昼休みが、生徒にとって心から休め、思うように遊べる時間で、
わたし達にとって、事件に決着をつける機会なのです。
そんな昼休みが始まってすぐ、わたしとシェーナ様は、教室の隅に集まりました。場所で言うと、長方形の教室の左上の隅です。教卓の方角を北としたら、北西の位置でもあります。
側には窓があり、水滴がびっしりと張り付いていました。確か、坊ちゃまから前に聞いた話だと、外と中の気温差によって生じる現象だとか。結露と言うそうです。
ああ、そう言えばラージャ様は暗闇の魔女に結露と呼ばれていましたね。この現象と何か関連性があるのでしょう。そう思うと、考察しがいのある現象ですよね、結露。
窓に指で触れ、水滴を潰して意味もなく文字を書きつつ、シェーナに向けて小さい声で話し始めました。
「最後の作戦会議をしましょう。この昼休みで、全てを暴くのです」
「そうね。これがきっと、最後のチャンス」
「ええ。放課後になれば皆バラバラになりますし、選挙まであと二日です。時間がありません」
「エーリくんをこのままにしておけないし」
「わたし的には、それが一番の理由です。エーリ坊ちゃまに狼藉を働いた奴に天誅を……!」
「顔が! すっごく怖い顔してるわ!」
シェーナ様に頬を触られ、ハッと我に返りました。ここで暗黒面に陥っている場合じゃありませんでした。
なんとなく咳払いをして、気をしっかり持ち直しました。
「では早速作戦内容について話させていただきます。よろしいですか?」
「そ、それはいいのだけれど……」
そう言って、シェーナ様は辺りをキョロキョロ見渡しました。心配そうな顔で、周囲を窺うようにです。
恐らく、ここで作戦会議をしてもいいのか、という疑問からくる行動でしょう。普段は応接室に忍び込んで、他の誰にも盗聴・透視等をされないよう警戒していましたから。
でも、今回はここでいいのです。だからわたしは、それを先読みして言います。
「大丈夫です。ここで話す内容は大したことありませんし、この行動もプレッシャーになり得ますから」
「ぷれっしゃー?」
「ええ、見えない圧力です」
「???」
小首を傾げ、なんだろうと考えだすシェーナ様。今は時間がないので、申し訳ないことですが、考える時間を与えずに話を進めていきましょう。
「いいですか。わたし達の状況はチャンスでもあり、ピンチでもあるのです。チャンスは言わずもがな、犯人候補が二人に絞れていて、容易に接触できる環境であることです」
「そうね、その通りね。じゃあピンチって言うのは?」
「このことが、相手にとっても同様であることですよ」
自分達の周囲へ視線を降り注ぎながら、はっきりと述べます。
「犯人にとって、エーリ坊ちゃまと一緒にいるわたしや、坊ちゃまが身体を張って守ったシェーナ様、坊ちゃまを助けたゲンジューヤ様は、わたし達で言う『共犯者』なのです」
「あ、そっか!」
納得していただけたようで、シェーナ様は笑みをこぼしておりました。
「そんなわたし達が、探偵まがいの推理ごっこをしているのですよ? 犯人からすると、それが犯人探しであると分かってしまうでしょうね。いくら劇でやるからと言っても、後付けの理由にしか聞こえないでしょう」
「確かに、私が犯人だったら真っ先にメドナちゃんとか警戒しちゃうわね~。加えて、休み時間に犯人探しなんてしていたら、もう……必死に取り繕うわ」
そう言って、シェーナ様はわたしと同じように、辺りを見渡しました。何となく、わたしの動作を真似しているように感じました。
……と、思っていたら、突然シェーナ様が何かに気が付いたようで、慌ててこちらに向き直りました。
「でも、そうだとしたら急がないといけないんじゃ? 犯人自身、自分が疑われているって分かったら、逃げ出しちゃうわ!」
「……ああ、そういうことですか」
あまりの慌てっぷりに、わたしも内心ドキッと焦ってしまいました。
気持ちを落ち着かせる意味で、僭越ながら、わたしはシェーナ様の肩に手を置きました。なるべく、優しく、です。
「逃げたなら逃げたでいいんです。その時点で、犯人は確定です。わたし達が推理ごっこする必要はなくなりますから」
「で、でもでも、フォル――法王女みたいに逃げて隠れちゃったら……!」
「そういう時の為に、ゲンジューヤ様が見張っているのです」
「……え?」
わたしは、無言で対角線上を見ました。教室を上から見た場合、右下に相当します。
「あ!」
つられてシェーナ様も目を向け、見つけたようです。
右下の隅の角、そこにはゲンジューヤ様がいて、ジッと何かを観察している様子が目に移りました。
続いて、そのゲンジューヤ様の目線の先には、談笑するリューイ様、ヤスラ様、カテマ様がおりました。
そうです。彼はずっと、怪しい二人を監視してくれているのです。
キッと鋭く睨みつけ、威圧を与え続けてくれています。犯人からしたらたまったものじゃないでしょうね。
彼の役目は、推理ごっこで言うと警察。犯人候補を監視し、怪しい動きがあったらすぐに取り押さえられるように、待機しているのです。
……。
「(そもそも、警察とはなんなんでしょう……?)」
今まで知っている体でしたが、わたしよく知らないんですよね。警察の仕組みが。
一応、坊ちゃまから軽く説明を受けたのですが、この世にそのような機関は存在しません。アルンティーネの書斎にある推理小説に書いてあったと言っておりましたが……どの小説なのでしょう。
まぁ、守護者、くらいに思っていればいいでしょう。役割としては、それに近いですし、知らなくても不便はありません。
今度坊ちゃまから詳しい話をお聞きしてみたいですね。
そんな警察の話は一旦置いておいて。
「そう言えば、ハーピー族は目が良いらしいですよ。鳥の血が入っているからでしょうか?」
「でも、夜盲症のことを鳥目って言うわよね? 鳥は目が悪いんじゃないかしら」
「フクロウは目が良いですよ。あとヨタカもです」
「それは夜行性だからでしょう? 昼行性の鳥はどうなのかしら」
「どうなのでしょう。そもそも、夜盲症と言うのは、夜に目が悪くなってしまう症状のことで――じゃなくて」
鳥の話も一旦置いておいて。
「話が脱線しましたね。つまり、こういうことです。犯人はわたし達が犯人探しをしていることを分かっています。犯人候補を二人に絞っていることも、わたし達が二人しか聞き込みしていないことから分かるでしょう。犯人としては逃げたいところではありますが、逃げたくても逃げられない。何故なら、ゲンジューヤ様が見張っているからです。つまり……」
「この時間は確実に捜査できるってこと?」
「そうです。とは言え、昼休みという時間は限られてはいますが、確実に捜査できるというのは、こちらにとってチャンス以外の何物でもありません」
「なるほどね~」
うんうん、と軽く頷きながら、納得した様子のシェーナ様。理解が早いのは、さすがクラスの女子一位だからと言ったら、嫌味臭いでしょうか。
「更に言うと、こうして教室の隅で作戦会議をしている姿は相手の目に映っている可能性があり、危機感を煽ることができます。何をしてくるのだろう? 何を話しているのだろう? という警戒心は、表情や仕草に出やすいですからね」
「あ、それが見えない圧力ってやつね!」
「その通りです」
これこそ、わざと教室で作戦会議をする意味です。仕掛ける側のわたし達にとっては、圧力をちゃんと与えられているのか見えませんが、相手にとっては目に見えない圧力を感じてしまう……かもしれません。
だから、見えない圧力なのです。
「では、肝心の作戦について話してもいいですか?」
「ええ!」
前置きが終わったところで、わたし達は五分程作戦について話し合いました。
昨夜、坊ちゃまはわたし達に作戦を話しましたが、意識が朦朧としている部分があり、作戦が曖昧だったのです。
それを御自身でも悟ってか、坊ちゃまはわたしにこう言いました。
『ダメだ、また、沈む……。メドナ、悪いんだけど……』
『はい、なんでしょう』
『細かい部分の策はキミが決めてくれ』
『わたし、ですか? でも……』
『キミは機転が利く。ピサスを相手にした時、キミは抜群の推理力を見せてくれた。キミならできる』
『こんなわたしでも、何も支えられないわたしでもですか?』
『ははっ! キミが支えてこなければ、今僕はこの学園にはいないさ。何も知らないこの世界で生活できているのは、キミが奉仕してくれているおかげなんだ。またいつものように、僕を支えてくれよ。仕えてくれよ。メイドとして』
『……坊ちゃま』
『僕のメイドはメドナだけだよ』
その言葉と共に、坊ちゃまは再び眠りへ落ちていきました。
……昔、わたしが貴族様に奴隷として連れて行かれそうになった時、坊ちゃまはわたしを助け、こう言ってくださったことを思い出しました。
と言いますか、この言葉を忘れたことはありません。忘れられるはずがありません。
わたしがメイドとして、一生エーリ坊ちゃまに仕えていきたいと心から思ったのは、その言葉のおかげなのですから。
『坊ちゃま……ッ!』
わたしは、いつの間にか泣いておりました。主人をこんな目に遭わせてしまった悔しさからかもしれませんし、わたしの思い出の言葉を再び仰ってくれた嬉しさからかもしれません。
でも、今は泣いている理由などどうでもいいのです。
わたしはメイドで、エーリ坊ちゃまは主人です。
彼を支えるために、わたしはやるべきことを果たすだけです。
――途中、シェーナ様を何度も驚かせることになりましたが……作戦会議自体スムーズに進みました。
その間ずっとひそひそと小声で会話し、チラチラと犯人候補である二人を見たのですが、効果があったのかは分かりません。
分かるのは、これからということでしょうね。これからです。
早速、わたし達は行動を始めました。
わたし達が向かったのは、もちろんリューイ様、ヤスラ様、カテマ様の三人が話しているところ――ではなく、その他の方々が集まっているところです。
言わば、共犯者候補の方々の集まっているところです。
「そろそろ昼ごはん食べに行くのー!」
「そうね。今日はどこにする? 久しぶりに外食も良さそうだけど」
「外食となると、飲食区域かな。ケーキの美味しいお店なら知ってるけど」
「ケーキ!? いいねー!」
「ケーキはデザートじゃない?」
「小麦を使っている以上、主食として問題ないの!」
「なるほどね。それなら確かに……いや問題あるわよ」
リコプル様、ケイシー様、キリコッテ様がワイワイと楽しそうにお話をしておりました。内容はお昼をどうするかのようです。
わたし達は、そこへ入っていきます。
「あの……ちょっとよろしいですか?」
「あれ? メドナちゃんにシェーナちゃんどうしたのー?」
「珍しいわね。最近は昼休みになると早々にエーリちゃんと三人でコソコソ出ていくのに」
「そうなの! 最近付き合い悪いのー」
わたしより、坊ちゃまよりも背が低いリコプル様が、わたしに抱き着いてきました。プンプンと頬を膨らませて怒りながら、上目遣いで見つめられ、素直に可愛いと思ってしまいました。
「申し訳ありません」
「ご、ごめんね~。ちょっと色々あってね~」
何となく、二人で謝罪を口にしました。本気で怒っている訳ではないでしょうけど。
選挙が始まるまでは皆さんと一緒に食べていましたからね。それが急に一緒に食べなくなったら、付き合いが悪いと思われても仕方がありません。
「リコすっごく寂しかったの! 三人がいなくなって、食事が喉を通らなかったのー」
「重症ですね……。教室では普通に会話してましたよね?」
「そういうのじゃないの。そんな見かけ倒しじゃなくて、えっと、常に一緒にいたかったと言うか……」
「ものすごく重症じゃないですか」
「そうなの重症なの! 死ぬまで一緒にいたいの!」
「重いです! 重症というか思いが重いです!」
リコプル様から精神的依存を感じるのですが……。まぁ、多分冗談でしょうけど。
何故なら、そう言いながらも、すんなりとわたしから離れたからです。依存症だとしたら抱き着いて無理やり連れて行くくらいはしそうです。
「折角だし、お昼一緒にどう? このメンバーで、外で食べようか話していたんだけど」
ケイシー様がそう提案します。今日は時間がなく、わたしもシェーナ様もお弁当が用意できていなかったので、外食に賛成です。
……けど。
わたしは、一つ疑問に思い、聞いてみることにしました。
「そう言えば、リューイ様やヤスラ様、カテマ様は一緒じゃないんですね」
話を聞くに、昼ごはんにはこの三人のメンバーで行く予定のようです。今まではこの三人に、男子三人加わっていたはずなのですが。
わたし達からすれば、犯人候補が別でありがたいことなのですが、もし、これが今日からだとしたら、明らかに怪しいことです。
と、考えていると、女子の皆様が困った顔をしているのに気が付きました。
「あー、その、えっとね。男子達と一緒に食えていたのは、エーリちゃん、メドナちゃん、シェーナちゃんがいたからなのよ」
「え? わたし達、ですか?」
「どういうこと~?」
思わずシェーナと顔を見合わせます。お互い特に思い当たる節はありません。
「ほら、リコ達女子と、男子って対立してたじゃん? メドナちゃん達は知らないだろうけどさ、あれ結構長かったの」
「確かに和解はしたわ。でもそれは、聖戦を終結させたシェーナちゃんの存在はもちろん、男子や女子に分け隔てなく平等に接するエーリちゃん、メドナちゃんがいたからなのよ」
「だからこそ、あのご飯食べるグループが成り立っていたの。でも、掛け橋的三人が抜けちゃったら、ちょっとキツいの。男子と女子には、対立当時の遺恨が今も残ってるから、居心地が少し悪いの」
「わたし達的には、仲良くしたいって思っているんだけど」
「中々上手くはいかないの」
そう言って、はぁとため息をついてしまうお二人。側にいるキリコッテ様も、哀しそうな表情です。
「ぼくとしても、またあのメンバーでお昼食べたいんだけどね。三人が抜けてから、食事中どうも会話が成立しないというか……また対立していた頃に戻っちゃう時があって」
「口喧嘩しちゃうの?」
「まぁ、うん」
「そうでしたか……」
わたしは、思ったより深い事情を聞いてしまったようで少し後悔しました。
確かに、わたし達が入学してきた日に、教室で男女が争っていましたからね。あれが毎日のように行われていて、急にピタリと中断してしまったら、何かモヤモヤとしたものは残りそうですよね。
それと、もう一つ。事情を聞いて後悔していることがあります。
「(この空気……話を切り出しにくいですね)」
これからする作戦が、少しやりにくくなってしまったのです。こんなどんよりした雰囲気は想定していませんでした。もう少し明るい雰囲気だったなら、勢いだけでいけたかもしれません。
墓穴を掘ったとはこのことでしょうか。話の切り出しはわたしではなくシェーナ様が行うので、シェーナ様には迷惑をかけてしまいました。
しかし……。
チラリと、シェーナ様に目で合図をします。少し状況が悪く、もう一人の共犯者候補のカテマ様がいませんが、時間もないのでやるなら今しかない、と。
するとシェーナ様は、分かった、とウインクをしました。
「あの、こんな時に言うのもあれだけれど、三人にちょっと頼みことがあって……」
「「「頼みたいこと?」」」
三人の声が見事に被り、三人の間が気恥ずかしい雰囲気になったところで、シェーナ様はこう切り出しました。
「エーリくんを襲った犯人を、一緒に捜して欲しいの!」
……。
…………。
………………。
「打ち明けましょう」
「何を?」
「共犯者候補に、坊ちゃまが昨夜襲われたことをです」
「なるほど……って、えぇ!?」
作戦会議で、わたしはそう発言しました。シェーナ様が驚きの声を上げ、周囲を気にしてすぐに小声に戻しました。
「そんなことをしていいの? 敵に情報を与えちゃうんじゃないかしら?」
「情報なら、犯人自身から得ているはずですよ。実行犯と共犯は、実際に被害を与えるか、間接的に被害を与えるか、その程度の違いしかありませんから」
わたしにとっては、坊ちゃまに対し何らかの被害を与えたのならその時点で同罪です。間接だから罪は軽いとか思いません。罪は罪です。絶対に許せません。
……私情はこの辺りで抑えときまして、口を動かしましょうか。
「作戦はこうです。まず、昨日あったことを、共犯者候補――すなわちリコプル様、ケイシー様、キリコッテ様、カテマ様に打ち明けます。とは言え、わたし達が神帝や魔女の月に所属していることや、シェーナ様が選挙に立候補したことは話しませんが」
「昨日襲われた事実だけを話すのね?」
「そうです。『昨日の夜十時頃、坊ちゃまが自宅で襲われた。どうやらリューイ様かヤスラ様のどちらか、または二人ともが坊ちゃまに襲いかかった疑いがある。だからわたし達は推理ごっこをして、怪しい二人に聞き込みを行っていた。でも思うように話してくれない。だから協力してはもらえないか』と、このような感じのことを話します」
「随分と直接的だけれど、協力はしてくれそうね~」
「休憩時間の推理ごっこは、この作戦のための布石みたいなものでしたからね。キリコッテ様やケイシー様がノリノリで参加してくださいましたし、協力してくださるでしょう」
反応を見る目的もあった休憩時間の推理ごっこは、上手くいったということです。
「共犯者にとっても、協力の打診は断ることができないでしょう。断ることにより、犯人と共犯している可能性が高まり、わたし達に疑われることになりますから」
「そうね~。友達が誰かに襲われたというのに、何か深い事情でもない限り断れないものね」
まだ数か月ではありますが、わたしと坊ちゃまはこのクラスの方々と仲良くしてきたつもりです。心情的に、犯人探しに協力したくないとは思いづらいですよね。
申し訳ないことですが、そこも利用します。良心が痛みますが、我慢です。
「協力をいただけたところで、作戦は第二ステージへ移行します。それは、協力してくれた皆様と一緒に、犯人候補を一人一人尋問するのです」
「尋問? それってさっき休憩時間にやったこととどう違うの?」
「これには三つ違いがあります。まず、遊びじゃなくなります。坊ちゃまが実際に襲われ被害を受けたという情報を与えることで、協力してくれる皆様も本気で問い質すでしょう」
本気過ぎて、乱闘にならなければよいのですが……そうならないよう誘導するしかありませんね。
「次に、じっくり尋問できることです。場所を移し、人気のないところで一人一人行う予定なのですが、協力者と一緒に犯人候補を囲み、問い質します。これで、邪魔はほどんど入らないでしょう」
「教室とは違うものね」
「教室では周囲の野次馬騒ぎがありましたからね。そういうのを排除するために、親しい友人が邪魔しないよう協力者につけ、静かなところで囲ってしまうのです」
「……なんか、悪いことしているみたいね~」
「ですね」
シェーナ様の言うように、見方によっては悪いことです。
でも、坊ちゃまの部屋へ無断侵入し傷害を負わせた犯人よりはマシだと思います。
……悪いことにマシもないとは思いますけどね。
「最後にもう一つ、違いがあります。それは、犯人を尋問している場合、協力者の中に共犯者がいたら、何かしらボロが出る可能性があることです。それは犯人を擁護するような態度だったり、逆に切り捨てる態度だったり、無関心なフリをしたり……。どちらにしても、反応があるはずです。完全に無関係だと割り切って、臨めるとしたら、それはもう共犯者じゃないです。その時点で害はないですから、本命の犯人候補を思う存分尋問できます」
「なるほどね、理解したわ」
迷いのない表情のシェーナ様を見て、彼女が本当に理解したと思いました。この時間のない中、シェーナ様の理解力が高くて本当にありがたいです。ありがとうございます。
以上のように、この作戦は犯人候補を尋問しつつ、共犯者の反応も見れる作戦なのです。効率的でもあり、成功する確率が高いと思われますし、何より画期的な作戦だと思います。
しかし、
「確かに最後の違いを聞くと、この作戦は犯人と共犯者が特定できて一石二鳥だと思うのだけれど、犯人に気を遣ったり協力者に意識を向けたりで……上手くいくかしら?」
そう、シェーナ様の言う通り、多くの事に気を回さなければならなくなり、一つ一つのことが疎かになりそうだということです。
わたしが器用貧乏ならいいのですが、残念ながらわたしは一つの事に集中する一極集中型なので、上手く機能するか不安です。これがこの作戦の一つの欠点だとも思っています。
でも……と、わたしは口にし、感情的に話してしまいます。
「……この作戦で、共犯者と犯人同時に捕まえることができるかもしれません。わたし達はプロではありませんが、全員のことを知っています。友人の些細な変化に気付かないなんて、浅い関係でもありません。髪を切ってきたら気付きますし、落ち込んでいたら表情で分かります」
「そうね。一緒に勉強してきた仲間だもの。感情を読むことくらい、私にだってできるわ。それに、犯人を見る人、共犯者を見る人で役割分担したらいいことだものね」
「ええ、そうです」
一つの事にしか集中できないのであれば、一つの事に集中することに専念し、他の人が代わりに見ればいいのです。人は、支え合えるのですから。
「犯人、または協力者もこのことは承知しているでしょう。だからそれを補うために魔法で何かしているかもしれませんが、それはゲンジューヤ様が見破れます」
「そうなの?」
「ええ。なんでも、自身へ結界魔法をかけることを勉強してきたそうで、相手が自分と同じようにかけているなら何となく分かるそうです」
「それはすごいわね~!」
わたし的には、ゲンジューヤ様をそこまで信用していいのかと考えてしまいますが、坊ちゃまを助けたのは彼ですし、坊ちゃま自身ゲンジューヤ様を警戒していないようなんですよね。
ならば、メイドであるわたしも、ゲンジューヤ様を信じていきましょう。はい。
「ふぅ」
ここで一度、一呼吸を置いてから話しました。このままだと、本当に感情だけで話してしまいそうだったので。
「長々と話させていただきましたが、要するに、味方を増やして問い質すというだけです。それで怪しいところがあったら捕まえます」
「確かに……考えてみればそうね」
話は簡単なのです。
怪しい人が二人いる。そして他に仲間がいるかもしれない。ならばその二人と他の仲間かもしれない人達を問い質せばいい。
それだけなのです。たった、それだけです。
「本当は、こんなまどろっこしいことをしていないで、一人一人拷問でもして無理やり吐かせたら早いのですが……」
「……可愛い顔して怖いこと言うのねメドナちゃん」
ちょっとシェーナ様が引いているようでしたが、気にしないで話し続けます。
「でも、そんなことをしたら、事件に関係ない人まで巻き込んでしまう可能性があります。……それはいけません。坊ちゃまは今後この学園でお世話になっていくのです。そんな学園での大事な友人を、拷問によって失ってしまうなんて、わたしは悲しいです」
「失ってしまうって……その、こ、殺しちゃうってこと!?」
「殺しなんてしませんよ。違います。拷問にかけるような人と、友達になりたいか、ということです」
「あ、ああ。なんだ、そうだったの。安心したわ~」
「……わたしは殺人鬼じゃありませんよ?」
シェーナ様が何か、わたしに対して激しく誤解していたようで、それが解けて良かったです。
「とにかく、なるべく穏便に、そして確実に行わなければなりません。協力してもらう身で偉そうですが、どうか許して下さい」
「偉そうなんてそんな……元々は私が原因なの。喜んで協力するわ!」
「……ありがとうございます。シェーナ様」
……。
…………。
………………。
シェーナ様が作戦通り、昨日の経緯を告げていきます。
共犯者候補の皆様は、それぞれ違った反応を見せました。深刻そうな表情の人、犯人に対し怒りを見せる人、坊ちゃまを心配する表情……。
どれもいつものクラスメイトの顔で、どれも坊ちゃまに対する優しさが窺えました。
でも、この中にいるかもしれない。坊ちゃまの敵が。
「分かったわ! 是非とも協力させて!」
「そうなの! リコがいたら百人力なのー!」
「ぼくも協力するよ。エーリくんを助けてあげたい!」
三人とも協力してくださるそうで、力強く協力宣言してくださいました。
「ありがと~!」
「ありがとうございます」
これで準備は整いました。そして、作戦はもう始まっています。
「では早速、リューイ様を呼びましょう。そうですね……応接室なんてどうでしょうか?」
もう、クラスメイトを疑うのは終わりにしましょう。犯人を暴き出しましょう。
疑心暗鬼に、終止符を打ちましょう――
・次回、後編です。




