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魔法によって飛んだ空  作者: 元祖ゆた
運営会選挙編 
57/64

第五十六話 メイド探偵と見えないアリバイ <六日目>

魔法学園編 主要キャラクター


<愛の羽>

エーリ・アルンティーネ

主人公。本名は愛羽悠飛あいばゆうひ。何者かに襲撃されて行動不能。


メドナ

エーリに仕えるメイド。悪魔と契約した魔女でもある。『灰被り』の異名を持つ。誰かを支える人になりたい。


シェーナ・エストーナ

クラスメイトであり大切な仲間。たおやかで優しい少女。遂に運営会選挙に立候補。



<神帝>

フォルエッタ・サンダリア・ミリアーカイズ

通称『法王女』。愛称『フォル』。シェーナの友達。家族を生き返らせるためにシェーナを狙う。所在不明。


モデ・ミニャー

風紀委院長。司祭院。毒舌娘。エーリと信頼関係が築かれつつある?


ピサス・ライネス

戦士学科の屈強な男。助祭院。筋肉の動きで嘘をついているか分かる特技を持つ。濃い顔。


音楽委院長

背の高い少年。エーリに助けられ、入隊の協力をする。結構したたか。


フィレ・ディーノ

男子寮の先輩。司教院。商人学科二年。ワーグ族で狐ベース。捜索中。



<魔女の月>

ローニャ・エトーリア

通称『死女神』。戦乙女を率いる集団のボス。学園に眠る秘密の魔法を狙っている。ボケキャラ……?


フレンシア・ガルドバルゴ

戦乙女ナンバー2。戦士学科三年。信じやすく素直な性格。ウサ耳。闇鍋により吐血。


ジェノーヴァ・ヴァンジーニ

愛称は『ノヴァ』。聖女のボス。騎士学科五年。巨乳人魚。『聖天使』の異名を持つ。宇宙の神秘により闇鍋制覇。


ラージャ・ウンディウス

聖女の副ボス。剣士学科四年。ジェノーヴァの付き人。『結露』の異名を持つ。闇鍋により嘔吐。


ツァーチ・レンゲラ

戦乙女の中枢メンバーの一人。フードを深く被り、大きめのローブで正体を隠している。感情を操る。闇鍋により狂人化。


暗闇の魔女

魔女の月創始者にして、魔女を生み出す『真祖』。お菓子作りとぬいぐるみ編みが趣味。容赦なし。


蒼海の魔女

暗闇の魔女の友達。『魔女名』を持つ魔女の一人。マイクパフォーマンスが得意。プライベートは暗い性格。



<クラスメイト達>

キリコッテ・ジャバッツ

ワーグ族。猫耳少年。可愛い。愛しい。魅力的。可憐。なにより天使。


カテマ・ロフ

ジャイアント族。図体はでかいが、心はおおらか。ホラー苦手。ホモ疑惑。


リューイ・ガオーカ

ゴブリン族。男子のリーダー的存在。スケベ。ホラー苦手。エーリ襲撃犯の候補。


ヤスラ・アービー

ドワーフ族。褐色少年。影が薄い。ホラー苦手。エーリ襲撃犯の候補。


ゲンジューヤ・スウダリ

ハーピー族。通称ゲンジ。元スパイ。今はピサスの監視下。命の恩人エーリのために動く。


ケイシー・エナー

エルフ族。女子のリーダー的存在。エーリを可愛がるお姉さん的ポジション? ホラー平気。


リコプル・タティーシ

ノーム族。三つ編み少女。何故かエーリをご主人と呼ぶ。ホラー好き。



<その他>

アリア・ニグル・アクトゥース

レオの姉。担任教師。昔はやんちゃしてた。


ドランソー・レアヴォワ

入学試験の試験官その一。ロマンスグレーのおじさん。決断ができる人。


ハッチョー・アンダマウサ

監視のプロ。法王女の捜索と監視が仕事。チャラい。


アン・ディシポ

試験官その二。沈黙。


チフェロス・ナナン・ルートス

学園の理事長。魔王のような風格。




???

襲撃犯。シェーナを監視し、エーリを襲った者。『陽炎の鎖』でエーリを闇の海へ沈める。

~前回のあらすじ~

「失われたマジック≪魔法≫を求め、冒険家たちは遺跡へ挑む! ……ことはなかった」


………………<シェーナ>

厳しい寒さの続く十二月。師走とも呼ばれる月。

肌を刺すような寒さもさることながら、年末という一年の活動を総決算する月であるため、誰もかれもが忙しく走り回り、駆けまわる。十二月はそういう季節である。


そこに例外は存在しない。もちろん、アブルーニャ学園であってもだ。


ナフィー帝国の従属国、ジンピューロ王国にある大都市ピレオス。そこには、名門と名高い魔法使い育成機関があった。

アブルーニャ学園。様々な種族、地位の者が、『魔法を学ぶ』というたった一つのシンプルな目的を果たすために、お互い平等に接し、切磋琢磨し合う教育機関。


あらゆる面で規格外とされるこの学園では、生徒主導による学園自治がなされている。

運営会。選ばれた生徒によって構成される運営組織。学園に法をもたらし、秩序を与え、自由に従えさせることができる規格外な権力を持つ。

その性質上、暴力的権力を悪用されかねないため、学園ではこの時期にある行事を行う。


運営会選挙。運営会の長に立候補した者の中から、自分達学園の支配者となってくれる者を、自分達の責任で選ぶ行事。

現在、学園はその運営会選挙の真っ最中である。師走であろうとなかろうと、忙しくない訳がない。

こうして、書に記している時間も惜しい程、忙しいのであるのだが……そうも言っていられない。


何故なら、今、早急に解決しなければならない問題があるからだ。そしてその過程、結末を後世に残していかなければならないのだ。



『田舎貴族殺人事件』



その犯人と真相を、ここに記す――



「……何書いているのか?」

「ひゃう!?」


突然真横から話しかけられて、私は慌てて本を閉じて隠した。机に覆いかぶさる形で。


話しかけてきたのはクラスメイトのカノラちゃん。この学園にやって来た頃、最初に声をかけてくれたヒューマン族の女の子。容姿はまだ幼くあどけない少女だけれど、クラスの中でも頭がいい。

彼女はいつも眠そうにしているけれど、今日も例に漏れず目蓋が垂れ下がっている。


「あ、あはは。なんでもないよ~」

「……?」


この本の存在がバレてしまうのは色々とマズイのよね。特にクラスメイトの子に見られるのは……。

何とか誤魔化そうと、私は多少震えながらも笑いかけた。


ニコッ!


「……大丈夫か? 具合よくないのか?」


声が震えてしまったのが良くなかったのか、心配されてしまう結果に。

何か適当に理由を付けて追い払った方がいいのかもしれないわ。えぇ~と……。


「保健室つれていこうか?」

「だ、大丈夫よ。……そう、ちょっと突発的に机に抱き着きたくなって! ああ、なんて可愛いのこの机! 愛おしくってたまらないわ~!」


そう言って、私は机に覆いかぶさったまま頬ずりし、笑みを浮かべた。なるべく苦笑いの類にならないように。


「……そ、そうか。まぁまぁ、机が恋しくなってしまうような、そんな日もあるか、うん。大丈夫ならいいか、うん」


相手が苦笑いをする結果となってしまったけど、彼女は私の元から去って行った。

なんとか、追い払うことには成功した。


「……」


代わりに、大切な何かをなくしてしまったような気がするわ。カノラちゃんが困惑という言葉の擬人化かと思ったくらい戸惑っていたわね。うぅ、なんでこんな奇策を実行してしまったのか……。


今度は誰にも見つからないよう辺りを見渡し、再び本を開いた。

一ページ目にはデカデカと、田舎貴族殺人事件、と書かれている。題材はもちろん、エーリくん襲撃事件のこと。

別に殺人でもないのに殺人事件と書かれているのは何故か、田舎貴族なんて酷い言い方をしているのは何故か。どちらも私が単独で決めた訳じゃない。


実は、エーリくんの指示によるものなの。そう、これも作戦の一部――


「シェーナ様、お待たせいたしました」

「あ、メドナちゃん」


メドナちゃんが私の元までやって来た。先程までエーリくんの様子を見に行っていたの。

私は、エーリくんの容体を聞こうとしたけれど、言葉を喉の辺りで止めた。メドナちゃんの暗い表情を見て、察したから。


そっか。やっぱりエーリくん、まだ眠ったままなのね……。あの一回、私達に犯人候補の名を告げ、作戦を伝えたあの奇跡の一回以降、エーリくんは目覚めていない。

眠り姫の如く、眠り続けている。


「頑張りましょう、シェーナ様」


私よりも辛いはずなのに、気丈に振る舞うメドナちゃん。私はそんなメドナちゃんの手を取った。


「うん! 『助手』として、精一杯サポートするわ~!」

「ありがとうございます。わたしも、『探偵』として頑張らせていただきます」


私達は微かに笑いあい、そして決意した。



エーリくんを襲った犯人を、絶対にあぶり出す、その決意を。





回想。

昨夜、エーリくんは犯人と思しき者の名を挙げた。

リューイくんとヤスラくん。どちらかが、もしくは両方ともが、犯人らしい。


ベッドに寝たままの状態で、エーリくんは饒舌に話す。


「家に来たことがあるのは、メドナ、シェーナ、ゲンジ除いて、この二人以外いないからね」

「では、その時に転移系魔法の着地点を作ったということですか? この展開を見通して?」


メドナちゃんの疑問に、ゲンジくんが、いやいや、と言って割り込む。


「多分犯人からすると、こういう展開を見通して作ったというか、レベル8のヴィチェレであるエーリんち入る機会があったからとりあえず作っとこう、みたいな感じだったと思うぜ。ヴィチェレは十分戦力になるし、着地点は多い方がいいだろうし」

「有事の際は、今回みたいに襲撃して捕獲し、交渉で自軍に引き込むことだってできそうだ」

「なるほど、そういう考え方がありますか」


頷き、謎が解けて少し表情が緩むメドナちゃん。私も、会話を聞いていてようやく理解した。

戦力になるから、ただそれだけの理由で、自分の部屋に何か仕掛けられていたとしたら、たまったものじゃないわよね。


なんとなく、私はメドナちゃんの部屋を見渡した。そして自分が見渡している理由に気が付くと、止めた。

例え何かが仕掛けられていたとしても、私にはどうすることもできないことを悟ったから。


「では、これからどうします? もちろん犯人候補であるお二人はフルボッコにしますが」


にっこりと、微笑むメドナちゃんだけど、ドス黒い何かを感じずにはいられないわ。

見える。メドナちゃんの背後で轟々と燃える黒い炎が見えるわ!


「フルボッコて怖ッ!」

「別に怖いことじゃありませんよゲンジューヤ様。主が殺られたのです。しかるべき報復しないでどうするのですか」

「別に僕は死んでないけどね……」


思わず仰け反ってしまうような、そんな迫力のメドナちゃん。これが大切な人を失った者に宿る『復讐』という力なのかしら……!


「くふふふ……奴らにどのような罰を与えてやろうか……?」

「なんか別のキャラになってない?」

「まずは二人の臓物を○○○いて、眼球を○○○して……指の爪を――」

「グロい! 表現がグロイよメドナ! もっと表現柔らかくいこうよ!」

「何をおっしゃるのですか坊ちゃま! 坊ちゃまを襲った不埒な輩は、アルンティーネに伝わる『メイド拷問コンボ』にかけてもまだ甘い……」

「初めて聞いたよ、メイド拷問コンボ」


いつもの主従コンビの軽快な掛け合いとは思えない程、会話の内容が物騒だった。

復讐は人を狂わせる、なんて聞いたことがあるけれど、まさにそれだと、私は思った。


「メドナは一旦置いといて、作戦についてなんだけど」

「作戦って、一人ずつ問い質せばいいんじゃねーか? これなら片方が犯人、両方が犯人でもいけるしよ」

「そうね。それが常套手段だと思うけれど……」


友達を問い質す時点で常套手段ではないのだけれども、今の私にはそんなことを考える心の余裕はなかった。


私のせいでエーリくんが襲撃されてしまった、この事実が、私の中の平和を求める感情に封をしていた。

今の私を支配する感情は、ただのドロドロした復讐心だけだった。


「ま、普通ならそれでいこうと思うんだけど……今回はそうもいかない」

「? と言うと?」

「敵の規模が分からない」


エーリくんは寝ている体を上半身だけ起こし、私達の顔を見渡した。


「本当に、犯人はこの二人だけだったのかな?」

「……え?」


思わず疑問の声が漏れた。だって、エーリくん自分でさっき……。


「言い方が悪かったか。犯人は多くて二人だけで、他にはいないのかなってこと」


う~ん? リューイくんかヤスラくん以外ってことかしら?

私が頭を捻って悩んでいると、ゲンジくんが小さい声で呟いた。


「……協力者――共犯者がいるかもしれないってことか?」


この言葉に、エーリくんは頷く。


「この二人は怪しい。着地点を作ったという点で犯人だろうさ。しかし、だからと言って外部に共犯がいないという証明にはならない」

「なるほどな。犯人の他に、犯人と手を組んでいる者がいてもおかしくはないか……」

「最悪、容疑者二人はトカゲのしっぽ切りみたいに、切り捨てられるかもしれない。可能なら、実行犯と、その共犯者も捕えたい」

「つまり、これから話す作戦で共犯者を引っ張り出すということだな?」

「うん、そうだね」


ここまで聞いて、私は共犯者の可能性を知った。

確かに、リューイくんもしくはヤスラくんが犯人だった場合、彼らのバック――所属組織について聞き出さなければならなくなるわ。

その結果、単独犯ではなく、神帝や魔女の月所属だった場合、手引きした共犯者の存在が明らかになる。

神帝の場合はエーリくんが所属している風紀委院以外の、一番怪しい図書委院が上げられ、魔女の月だった場合、メドナちゃん所属の聖女ジャンヌダルクではなく戦乙女ワルキューレが上げられる。


そう、この作戦の成果によって、もしかしたら今後の展開を左右することになるかもしれない。

私は固唾を飲んで、エーリくんを見つめた。


「さて、それじゃ本題の作戦を伝える」


この一言に、室内が静まり返る。誰かが息をのむ音が聞こえる程だ。

暗黒面ダークサイドに堕ちていたメドナちゃんも、今では我に返り、真面目な表情で作戦が話されるのを待っている。


普段おちゃらけた言動が多いゲンジくんも、真剣な眼差し。黒い羽は既に収納済み。


たっぷり間を取り、エーリくんは、ニヤリと笑いながら、こう言った。



「推理小説ごっこを、やってもらう!」



……。

…………。

………………。

回想終了。


「私は助手。私は助手。私は――」

「自己暗示でもかけているのですか?」

「そうよ~。こうでもしないと、私の立ち回りを忘れてしまいそうだから」


私は本を脇に持ち、椅子から立ち上がった。


「私が探偵の助手役で、メドナちゃんが探偵役。それで、ゲンジくんが警察役と」

「そうですね。坊ちゃまから与えられた役を、精一杯こなしていきましょう」

「うん!」


次の授業までまだ時間がある。早速、推理小説ごっこ、初めて行きましょう!





まず、実行犯候補の一人、リューイくんの元へ。


「リューイ・ガオーカ。ゴブリン族の男の子。男子の中でもリーダー的存在で人望も厚い。よく女子にちょっかいを出し、ブラックリスト殿堂入りしている」

「犯人ですね」

「早ッ!? まだ何も聞いてないわよ~!」

「……そうでした」


メドナちゃんにツッコミを入れつつ、私達はリューイくんの目の前に立った。


「……何か用か?」


さすがに当惑した様子のリューイくん。普段の調子が出ていない様ね。

と言うか、妙にそわそわしているわね~。私と目が合うと、頬を赤くして目を逸らすようだし。

もしかしたら、エーリくんを襲った罪悪感に駆られているのかも……?


とりあえず、じっくり観察するべきね。自分だけに見えるように本を開き、リューイくんの様子を事細かに記すことに。


「実はですね、今度劇をするんです。『田舎貴族殺人事件』と言う、原作が推理小説なんですけど」

「へ、へぇ。それで?」

「私が探偵で、シェーナ様が探偵の助手。その練習をしているんですが、ちょっと付き合っていただけませんか?」

「はぁん。それで犯人とか言ってんのか」


ふーん、と納得したようなことを言いつつ、チラチラと私の方を盗み見るリューイくん。

これはどういうことだろう? エーリくんを襲い、エーリくんに仕えるメドナちゃんに申し訳なさやバレやしないかという恐怖を抱くのは分かるけれども、私に対して何らかの感情を抱くことはあるのかしら?


あ、もしかして、本来は私を狙っていたのだけれども、着地点がエーリくんの部屋にしかなかったから仕方なく襲撃したことで、次は私を狙うぞという犯行予告的視線!


……あるわね、その可能性。本に書いておこうっと。


「ま、まぁ、別に付き合ってやってもいいけどよォ……」

「ありがとうございます!」

「よろしくねぇ~」

「お、おう」


私が微笑むと、リューイくんはあからさまにそっぽを向いた。

怪しい……怪しいわ。一挙手一投足に注意を払わないといけないわ。


「んで、オレは何をすりゃいいんだ?」

「えーと、ですね。殺人犯でお願いします。わたしが探偵として色々聞きますので、普通に答えて頂けたらいいありがたいです」

「いいぜ」


エーリくんの策にまんまとのせられるリューイくん。そう、これこそエーリくんの作戦、『推理小説ごっこ』!

探偵、助手という役で劇をするため、その練習に軽く付き合ってくれと言われて、断れる人は少ない。それも殺人犯ではあるけど、質問に答えるだけの簡単過ぎる仕事! これなら尋問にかけるよりも、後腐れなく情報を得ることができるわ! さすがエーリくん!


ちなみに警察役のゲンジくんは、私達のやり取りを遠くから監視し、怪しい動きがあったら取り押さえる役目なの。今も教室の入り口辺りからこちらを見ている……はず。


「それでは、始めますね。……ある晴れた昼下がりのことだった。わたし、売れないメイド探偵メドナは、今日も事件を求めて街を歩いていた。『やぁやぁメドナ。今日も仕事がないのかい?』。『ああ、八百屋のおっちゃんか。そうだねぇ、仕事がないってことは、世の中平和ってことなんだろうけどねぇ』。『そりゃそうだ。つまり、メドナが餓死するときゃ、真の平和が訪れたってことなんだろうぜぃ』。『言えてらァ』。そう言って、おっちゃんはリンゴを私に投げた。いつものことだ。売れ残った腐りかけのリンゴを、わたしに恵んでくれるのは。わたしはそんなリンゴに齧り付く。うん、今日も歯茎から血が出る程美味しいなぁ。できたらリンゴをウサギカットして欲しいところだが、贅沢というもの。わたしは血を垂れ流しつつリンゴを食った――」

「……えっと、そのプロローグ欲しいか? 長い上にリンゴ食う描写いらなくね?」


楽しそうに喋っていたメドナちゃんは、リューイくんのツッコミに少し残念そうな顔をしたけど、すぐに表情を切り替えた。


「コホン。では……犯人はあなたです!」

「今度はド直球だな……な、なんだと!?」


なんだかんだノリノリなリューイくん。このテンションならば、いけるかもしれないわね。


「昨日の夜、貴族の一人息子であるエーリ坊ちゃまが殺されました……。その時、あなたにはアリバイがない! よって犯人はあなたです!」

「被害者役エーリかよ! ……ん? だから今日学校休んでるのか?」

「坊ちゃまはただの風邪です」

「なんだ」


一瞬素に戻った二人だけれども、すぐに役に入り込む。

ちなみに、メドナちゃんの言う通り、エーリくんは風邪でお休みということになっている。


「アリバイならあるぜ。オレは昨晩、キリコッテとカテマと三人でいたからな」

「妙な組み合わせですねぇ?」

「妙でもねぇよ。キリコッテとカテマって元々魔法使えないグループで一緒だったろ? 最近は魔法使えるようだが、まだまだでな。男子の中じゃ、オレは早いうちから魔法会得したから、教えてやってんのよ」

「ほほう」


確かに、キリコッテちゃん、カテマくん、エーリくん、メドナちゃん、私って最初は魔法使えないグループ

だったのよね。

不審ではない、ありうる理由ね。


でも、ちょっと疑問点があるわね。キリコッテちゃん達からすれば、リューイくんに習う手はありだと思うけれど、どうして同じグループだったエーリくんには習おうとしなかったのかしら。今男子で成績いいのエーリくんなのに。


そう考えていると、私の考えを読んだのか分からないけれど、リューイくんが疑問に答えるようなことを言った。


「学校じゃ専らエーリが二人に教えてんだけどな。放課後はエーリ忙しいみてぇだし、代わりにオレが教えてるって訳よ」

「へぇ、そうだったのね~」

「……お、おおおう。そう言うこった、です!」


私が相槌を打つと、ぎこちなく答えた。やっぱり怪しい、けど。


「三人と夜遅くまで特訓してたぜ。大体、次の日いくかいかないかくらいの時間までよ。そう言う訳で、オレは無実だ! 信じてくれよ探偵さん!」

「そうですねぇ……」


……う~ん、十二時くらいまで特訓ね。エーリくんが襲われたのは、私が眠る時間あたりだから十時くらいかしら。そうなると、嘘をついていなければアリバイにはなるわね。


あとは同様のことを、キリコッテちゃんとカテマくんに聞いて、齟齬が発生しないか確認しないと。


……そうだ、最後にこれ聞いておこう。


「リューイくん、陽炎の鎖って知ってる?」

「え? う、うーん。聞いたことねぇな……です」

「そっか。ありがと~」

「いっ! いえいえ!」


カマをかける……じゃないけれど、反応を見ておきたかった。

でもこの反応じゃ、白か黒か判別しにくいわ。もっと工夫を凝らすべきだったわね。反省。


私はメドナちゃんの肩を叩き、もういいよと合図を出した。するとメドナちゃんは、頷いて了承してくれた。


「分かりました。あなたは犯人ではありません。犯人予備軍にランクダウンさせましょう」

「それでも予備軍なんだな」

「そうです。リューイ様がクラスの女子に対する痴漢行為を止めない限り、ずっと未来永劫ずっと予備軍です」

「……は、反省します」


こうして、一人目の尋問は終わった。ここでチャイムが鳴り響き、中断することに。

次の休み時間は、もう一人の容疑者、ヤスラくんね。


引き続き助手、頑張ろう。





「なんか面白いことしてるらしいね! 探偵ものの劇だっけ? リコもまぜてー」

「わたしもわたしも! 楽しそう!」


授業が終わり、メドナちゃんの机に行って作戦の準備をしていると、リコプルちゃんとケイシーちゃんがやって来た。


リコプル・タティーシ。ノーム族の女の子。女子の中でもランクが高く、ケイシーちゃんと並んで二位。いつも魔法を独自に研究しており、魔法の面白い組み合わせを発明している。


ケイシー・エナー。エルフ族の女の子。ランクは女子の中で同率二位。リーダー格で、か弱い女子達を率いるポジション。成績ももちろんいい。


大方、最初に尋問したリューイくんから聞いたのか、または尋問の様子を見て知ったかだろう。二人は犯人候補ではないものの、共犯者候補になりうる立場ね。どう対処するべきか……う~ん。


「……いいですよ」


私が考えていると、あっさり了承するメドナちゃん。視線を向けると、小さく頷いた。

どうやら、彼女達にも尋問アタックを仕掛けるみたい。いいわ、助手として、変な行動がないか目を光らせておきましょう。


と、思っていたのだけれど。


「お二人には、探偵姉妹の役をお願いします」


まさかの探偵サイドに引き入れちゃったわ!

どういうことか尋ねようとする前に、メドナちゃんの方から耳打ちが。


「お二人は共犯者候補です。実行犯候補じゃない以上、事件当時のことを尋ねても、適当にはぐらかされる可能性が高いです。実行犯以上に証拠がないですから。それならば、あえて味方側に引き込んで、実行犯候補相手に情報を自ら吐くよう誘導した方がマシです」


そう言って、メドナちゃんは何食わぬ顔で二人の方へ向き直った。


……なるほど、そう言われれば、そういう作戦もありね。すごいわね~、メドナちゃん。エーリくん顔負けの頭の回転力ね。


「探偵姉妹かー。あれ? じゃあメドナちゃんは何の役? 探偵役じゃなかったっけ?」


このリコプルちゃんの疑問に、メドナちゃんはどう答えるのかしら?

数秒、考える仕草をして、メドナちゃんは、


「わたしは引き続きメイド探偵です。リコプル様とケイシー様は、わたしのライバル的ポジションの探偵姉妹ということにしても宜しいですか?」


そう言った。リコプルちゃんとケイシーちゃんはそれで納得してくれたみたいで、どっちが姉で妹かを話し合い始めた。

うん、ライバル役はいいかもしれないわね。被害者、探偵、助手、警察、犯人、共犯者、ライバル……大分充実してきたわね~。本当に劇ができそうな勢いなのが面白い。


「わたしが姉ね!」

「リコが妹なの!」


姉妹設定が決まったところで、早速実行犯候補者のところへ。

時間もないし、迅速に進めないといけないわ。放課後はどの子も忙しい身だから。


教室の隅っこでキリコッテちゃんと談笑しているヤスラくんを発見。


尋問……開始!


「あなたが犯人です!」

「な、なんだぁ!?」


二人の間に割り込み、ヤスラくんに面と向かって指を差すメイド探偵メドナちゃん。その顔は自信に溢れている模様。先手必勝とはこのことね!


「助手のシェーナ様、彼についての情報を」

「了解~」


探偵ちゃんの指示を受け、私は本を開く。ヤスラくんについて書かれているページよ。


「ヤスラ・アービー。ドワーフ族の男の子。種族的に男が老けやすいはずなのに、まだまだ若さを見せる影の薄い少年。趣味は女子観察」

「犯人ですね」

「やっぱり早いわ! もうちょっと考えてみましょう? ね?」

「……分かりました」


メイド探偵はすぐ犯人にしたがるのが悪い癖ね。まぁ、私も女子だし、女子観察が趣味な変態を犯人にしたい気持ちは分かるわ。すっごく。


「な、何事だよ? つーかなんでわいの趣味知ってるんだ!?」

「ビックリしたぁー」


さっきのリューイくんみたいに、ヤスラくんも混乱している。隣で話してたキリコッテちゃんも驚きを隠せないようね~。


キリコッテ・ジャバッツ。ワーグ族の女の子……じゃなくて男の子。猫がベースで、猫耳や尻尾が備えられてある可愛い子。可愛い=天使、可愛い=キリコッテ、天使=キリコッテ。証明終了。(エーリくん談)


キリコッテちゃんはヤスラくん程の怪しさはないものの、共犯者の可能性やリューイくんのアリバイ確認に必要な存在。ちゃんと観察しないといけないわ。


先程同様、今度劇をすること、メドナちゃんが探偵で私が助手だということ、殺人犯として練習に付き合って欲しいことを簡潔に告げた。

すると、ヤスラくんは快諾してくれた。その様子に、今のところおかしなところはない。


「メドナさんが探偵、シェーナさんが助手ってのは分かった。じゃあそこの二人は?」


そう言って、ヤスラくんは私達から少し離れた位置で待機しているリコプルちゃん達を指す。指された当人達は不敵な笑みを浮かべ、


「にっしっし! リコ達の出番はまだなの! 乞うご期待なの!」

「その通り! わたし達は物語のキーマンだから! きみ達メイド探偵のお手並み、拝見といこうじゃない!」


仁王立ちし、そう言い放ったのだった。

まさにライバル。これ以上のライバルはいないだろうと言える程にライバルね! 役にちゃんと入り込んでいる姿に好感が持てるわぁ~。


「なんかよく分からんけど……分かった。分かったことにしよう」


ヤスラくんが心の準備できたところで、劇に見立てた尋問が始まった。

ちなみに、キリコッテちゃんは事件の目撃者ということになった。


「それでは、始めますね。……ある晴れた昼下がりのことだった。わたし、売れないメイド探偵メドナは――」

「それはもういいと思うわ」





「被害者はエーリ・アルンティーネ……坊ちゃま。彼は昨夜遅くに、何者かに殺されてしまいました。現場に残されていたのは大量の血と肥えた狼。……犯人はあなたです!」

「いやそれ犯人狼じゃん! あれ? 今日エーリ休みだよな? もしかして――」

「坊ちゃまはただの風邪です」

「だよな。狼の仕業じゃないよな」


どうしても素に戻ってしまう二人。まだまだ役に入り込んでないということかしら。


「仕切り直します。……えっと、殺されたのはエーリ坊ちゃまで、予想犯行時刻は十時前くらいです。犯人、あなたなんじゃないですか?」

「な、何だってぇ!?」


演技なのか、オーバーリアクションをするヤスラくん。これは誤魔化すためなのか、ただ役になりきっているのか、判断に迷うところ。


「アリバイ、ありますか?」

「もちろん! ちょうどこの場に、アリバイ示してくれる奴がいるし」


そう力強く言って、姉妹探偵役のはずのケイシーちゃんを見た。

ま、まさか!?


「何を隠そう、昨夜はケイシーと一緒にいたんだ!」


ヤスラくんは、そう大きな声で堂々と暴露した。確かに、このことはアリバイになる。

……なる、けれど。昨夜、男女であるヤスラくんとケイシーちゃんが、一緒に……? 何か別の意味に、とれるんだけど。


「ちょっ!? な、何言ってんのよ!?」


これには物語のキーマンであっても口を挟まずにはいられない。ケイシーちゃんは慌ててわたし達の輪に入って来た。

対して、ヤスラくんは堂々としたものだ。焦ることなく淡々としている。


「何って、事実だろ? 昨夜一緒にいたじゃんか。わいの部屋に」

「事実だけど! その言い方は……マズイわよ!」

「なんでだよ! 嘘言ってねーし!」

「嘘じゃないのは知ってる。知ってるわ! けど……」

「けど? けどって何だよ! なぁメドナさん! これってアリバイに……あ」


ケイシーちゃんと痴話喧嘩? のようなものをして、ヤスラくんはようやく気が付いた。

大きな声で喋ったため、クラス中にその宣言は聞こえてしまったことに。



そう、男女であるヤスラくんとケイシーちゃんが、昨夜一緒に過ごしたということが!



「何? なになになーに? お前ら付き合ってんの?」

「ヒューヒュー! なぁんか教室あっつくねぇ? なーんでかなー?」

「よっ! ナイスカップル!」

「カップルは死ねえええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!」


あっという間に、クラスメイト達がやって来て囃し立てる騒ぎに。二人は私達を置いて一気に囲まれてしまった。


「ち、違うわよ! 別に付き合ってないわ!」

「そうそう! わいらそういう関係じゃ――」


「キスしろよキス! キース! キース!」

「キース! キース!」

「キース? キース?」

「死ねええええええええええええええええええええええええええええええ!!」


ワイワイと盛り上がっていく教室。ごちゃごちゃと人が密集してきて、本当に暑くなってきた気がするわ。外はあんなに寒いというのに。


騒動を少し離れたところから眺めていると、そっとメドナちゃんが耳打ちしてきた。


「これ以上は無理ですね。近づけもしないでしょう」


私もメドナちゃんに習い、周囲に気を配って耳元で話す。


「そうね~。どう思う?」

「そうですね。ヤスラ様からちゃんと聞き出せていないので――」

「二人ともどこまで進んだのかしら! て言うか、本当に付き合っているのかしら~。付き合っていたとしたら、もう生殖活動はしたのかしら? 重なる視線、重なる手、重なる躰……キャーッ!」

「……あの、シェーナ様」


野次馬丸出しの私を諌めるような、メドナちゃんはそんな冷静な視線だった。

そこで、私は話の焦点が『二人が付き合っているのかどうなのか』ではなく、『ヤスラくんが犯人なのかどうなのか』ということに気が付いたのだった。


遅まきながら、思考を切り替える。そして再びどう思うか尋ねた。


「実行犯と定めるには情報が足りませんからなんとも。ただ、これが作戦だったら成功ですね」

「作戦?」

「あえて尋問を台無しにするように、皆が興味を持つようなことを大声で言った、とか」

「そ、そんなまさか……」


そんなの、皆がその通り動いてくれなければ破綻してしまう作戦じゃないの! それはさすがに……とは思うものの、否定しきれない自分がいた。

敵は着地点を使った、予想できない動きでエーリくんを襲ったのだ。これが作戦でも、おかしくないわ。


「とにかく、リューイ様もヤスラ様もまだ怪しいです。次の昼休み、勝負にでましょう」

「! わ、分かったわ」


ここで、よく聞くチャイムが休憩時間の終わりを告げた。

実行犯候補のリューイくん、ヤスラくんは今の所アリバイはある。でも、エーリくんが襲われたのは本当のこと。

なら、どちらかのアリバイは嘘ということになるわ。果たして、どっちが嘘、あるいは両方とも嘘をついているのかしら?



全ては、昼休みに終結する! ……はずよ。

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