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魔法によって飛んだ空  作者: 元祖ゆた
運営会選挙編 
56/64

第五十五話 閑話その五 『闇戦 完結編』

・番外編です。第四十七話 閑話その四『闇戦 覚醒編』の続きとなります。

~前回のあらすじ~

犯人はあいつか? それともあいつ?


回廊。

洞窟や森等の自然物が、長い時間をかけて空気中に漂う魔力を勝手に蓄えて、ランダムに変化する迷路のようになって、生き物を惑わせてしまうもの。

迷い込んでしまった人を惑わし、核のある最深部へと進ませない様地形や魔物を操作し、最終的に殺して栄養にしてしまう迷宮とは違って、回廊には意志がなく、ただそこにある不思議な空間が回廊である。





こんにちは! ぼくはキリコッテ・ジャバッツです! キャットベースのワーグ族で、賢者学科一年の十一歳です!


今、ぼくはふとしたことがきっかけで回廊に挑戦しています! メンバーはヒューマン族のエーリくんと、ゴブリン族のリューイくんです! ぼくも含めた三人で挑戦しています!


魔法を使える人がリューイくんしかいませんが、ぼくは生まれつき身体能力が高いので、上手く二人をサポートしていきたいと思っています!


それから、



「ひぃぃぃ! 大きな岩が転がってきたあああああああああああああああ!」

「全力で走れぇッ! 潰れるぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

「ごめんなさああああああああああああああああいいいいいいいいいいいいい!」



早速だけど、ピンチです!





――ぼくらにピンチが襲来する前に、時間は遡る。


「うっひゃあー! マジの洞窟だ! テンション上がるぜ!」

「エーリくんは洞窟初めて?」

「ああ! 僕の住んでた街はちょっとした都会だったから、洞窟なんて訪れる機会なんてなかったよ」

「都会……? エーリってロズー村出身じゃねっけ? あそこのどこが都会だよ」

「! あ、そ、そうだね! いやでも僕的には都会な感じなんだよ!」

「ぶははは! まー、自分の住んでいた所が田舎なんて思いたくはないわな! 都会っつーのは、ピレオスみたいな所を言うんだよ!」

「ま、まぁそっか。ははっ!」


なんだか少し、ぎこちなく会話するエーリくんを尻目に、ぼくは松明をしっかり握った。


現在、回廊になった洞窟の中を、恐る恐る進んでいる。

唯一魔法が使えるリューイくんを先頭に、右斜め後ろにエーリくん、左斜め後ろにぼくという構成だ。作戦会議の結果、そういう並びになったんだ。


洞窟だけあって中は暗いけど、先頭のリューイくんは人差し指の先に、火魔法で火を灯し、後ろの僕らは松明を持っているおかげで、なんとか無事に歩けていた。

それでも、数メートル先は真っ暗だけどね。


「お宝とか眠ってないかな?」


この回廊に入ってからというもの、エーリくんのテンションは常に上昇しているみたい。松明を控えめに揺らしながら、笑顔で話しかけてくる。このままいけば鼻歌でも歌いだしそうだ。


「ふんふ~ん」


本当に歌い出しちゃった!?


「そうだなぁ……残念だけど、宝はねぇんじゃねぇか? なんせ、ここは賢者棟に近い位置にある。オレらの先輩がすでに探検した後かもしれないぜ?」


そう現実的な意見を言いつつ、エーリくん同様ワクワクが隠せていないリューイくん。その目はキラキラと輝いて見えるよ。


「きらきらー」

「口で言っちゃった!?」


そんな、浮かれ気味の二人とは対照的に、ぼくは少し後悔していた。

不安半分、好奇心半分で挑戦してみたけれど、実際に入ってみると怖いなぁ……。


縦横はそんなに広くはないけど、先が見えない程長い。外から見ると、そこまで大きくは感じなかった洞窟が、入ってみるとこんなに長いとは。


回廊、と言われるだけあると思った。


時折、水が落ちる音や、虫の羽音が聞こえる。それ以外は、ぼくらの声と歩く音がこの洞窟を満たしていた。

……なんか、それが逆に不気味。


「探検家の気分だなー」

「オレは勇者の気分だぜ」


呑気な二人の会話は、ぼくの不安をかき消してくれる。ぼくは、ふたりの会話に混ざることにした。


「勇者学科の生徒も、こういう所に来るのかな?」

「かもな。まずは既知の回廊に挑み、既知の迷宮、未踏の回廊、未踏の迷宮とレベルアップしていくらしいぜ」

「へぇー。やっぱ未踏の迷宮は難しいんだね?」

「あったりめぇよ。年間何万人が迷宮で死んでいることか」

「……うへぇー」


口では絶望を吐いてはいるけど、エーリくんの顔は少し不敵そうに笑っていた。

きっと、挑戦してみたいんだろうなぁ。彼、意外と怖いもの知らずなところあるし。


「そういや、『学園の進入禁止区域』ってさっき天使キリコッテが言っていたけどさ、学園のどこら辺が進入禁止区域に指定されてるんだ?」

「……ぼくが教えたら入る気?」

「ま、まままままっさかー!」


嘘だ! 絶対入る気だよこの子! 目が泳ぎまくってるもん! 平泳ぎしてるもん!


「一応、知っておいた方が良いかなって。ほら、もしかしたら知らずして入っちゃうかもしれないじゃん? 身の安全は保障したいじゃん?」

「……そうなの?」

「そうだよー?」


エーリくんの話す言葉の語尾が、妙に強調されて吊り上っているんだけど……。その間も、ニコニコと笑顔で楽しそうだ。


まぁ、内緒にする話でもないんだけど。そもそも、進入禁止区域についてはパンフレットに載っているはずなんだ。そのことをエーリくんが知らないとは思えない。

だからこれは、きっと彼なりに恐怖を緩和させるために、わざと話題転換を行ったんだろう。こんな暗くて怖いと思っちゃうような場所で、年間何人死ぬとか聞きたくないし、意識しちゃうもんね。


「そうだねー、ここから出たら教えてあげるよ」

「今教えてくれないの?」

「だめだめ」

「えー! キリコッテのケチー! 小悪魔ケチー!」

「小悪魔ケチ!?」


そんな感じで、わーわー騒ぎながら歩を進める。自然と肩の力が抜けて、教室にいる時と同じような雰囲気になった。


「ま、確かにキリコッテってたまーに色香出すよな。それも濃厚」

「出さないよ!? 人をスープみたいに例えないで!」

「分かる分かる」

「分からないでよ!」


主に、ぼくがいじられている気がしたけど。


そんな時だった。


「……ちょっと待った」

「ん、どーしたリューイ」

「?」


先頭を歩くリューイくんが、歩くのを止めて、道の先を明かりで照らし始めた。とりあえず、ぼくやエーリくんも、リューイくんに倣って前の方に松明を傾けた。


一体どうしたんだろう? そう思い、ふと目線を上げると、道が二つに分かれていることに気が付いた。一本道だと思っていたけど、途中で分岐する仕組みのようだ。


なるほど、それでリューイくんは目の前を照らして確認していたんだ。


「分かれ道だな」

「……あー、確かに」


エーリくんも、リューイくんに言われて気が付いたようで、しきりに右と左の道を見比べていた。


「どうする? 道分かれてっけど」


リューイくんがぼくらの方を振り返って尋ねる。うーん、こういう場合どっちの道を選んだ方がいいんだろう? 見たところ、右の道と左の道に違いはない。道の先に違いはあるのかもしれないけど。


「右だ!」


と、ぼくが少し悩んだところで、エーリくんがそう意見を出した。即断と思われる。

なんで右なのか気になったので、理由を尋ねてみる。


「なんで右なの?」

「お宝の匂いがするんだ! 金銀財宝の匂いが!」

「嗅覚鋭いなオマエ」


恐るべしエーリくんの鼻。まさかお宝の位置が分かるなんて。


「ま、エーリがそう言ってんなら右にすっか」

「だね」


特に異論もなく、エーリくんを信じてぼくらは右の道を選んだ。再びリューイくんを先頭に歩き始める。

右の道は、今までの一本道と比べれば天井が近くて、地面もゴツゴツとしていて歩きにくかったが、変化はそれくらいだった。


「待ってろよお宝ー!」


ああ、すっかりリューイくんもお宝があると思い込んじゃっているよ。先輩にとられているんじゃなかったのかな?


でも、


「……ふふっ」


なんだかんだぼくも、お宝を期待しちゃっていたりして。





やがて、右の道の終点にたどり着いた。


と言うか、行き止まりだった。


「おうおう、エーリよ。お宝が、匂いがしたんじゃあなかったっけェ? えェ!?」

「おかしいな……確かにこっちから匂いが」


リューイくんがエーリくんの胸元を掴み、ブンブン振り回しているのを尻目に、ぼくはこの辺りを松明で照らしながら調べてみた。


目の前に大きな壁がある。道の先を塞ぐようにとかそういう感じじゃなく、ここで終わりという雰囲気を感じた。今までの道が糸だとしたら、ここは糸をバッサリと切ったところ。ここからどこにも繋がらず、引き返すだけ。


やっぱり行き止まりなのかな? まぁ、一応よく調べてみるべきかもしれない。

そう思い、二人の元へ戻ると、二人の言い争いはヒートアップしていた。


「ったく! エーリを信じて失敗だったぜ! 宝なんてありゃしねぇ」

「んだと! キミが勝手にお宝期待してただけじゃないか!」

「オマエが期待させるようなこと言うからだろ!」

「期待すんのが悪い! そもそもキミ、最初はあるはずないみたいなスタンスだったじゃんか! なんで期待しちゃってんだよ!」

「お、男の子はいつでもどこでも期待しちゃうんだよ!」

「乙女か! ラブレター貰った男子かよ!」

「ラブレター貰ったことないから分かりませーん!」

「……そっか。なんか……悪いな」

「謝るなよ! しかも真面目な顔で! 惨めになんだろーが!」


なんか、色々ずれてるよね……。このまま見てるのも面白いけど、ここは止めておこう。


「まあまあ、落ち着いて二人とも」

「ふー、グッルルル!」

「かー、フカー!」


喉を鳴らし、睨みつけるような顔を向い合せ、目線をぶつける二人の間に割って入る。一瞬、両者の間に火花が散っているように錯覚してしまった……。


入ってから一時間、何も起こらずスイスイ来ているからか、皆緊張感が欠けているなぁ。ぼくもだけどさ。

だからこういう些細な言い争いが起きてしまう。逆に言えば、のんびり喧嘩ができている状態は安全と言えるのかもしれないけど。


「匂いが、するんだけどね……」

「おう、まだ嘘を重ねるか?」

「……いや、本当にするんだ」


そう言って、エーリくんは鼻をクンクンひくつかせ、松明で足元を照らしながら彷徨い始めた。壁の方から見る見るうちに遠ざかっていく。


「本当だろうなー?」


プリプリと怒りつつも、リューイくんはエーリくんを追い、近くを照らしてサポートをしていた。なんだかんだ、仲いいよね。


ぼくも協力しようと追いかけ、二人に向かって松明を傾けた――その時、


「……あれ?」


正方形のブロックだ。真っ白に塗られた何かが、足元に半分くらい埋まっているのに気が付いた。見たこともない代物だ。


「そういや、まだアレがないな」

「アレって?」

「罠だよ罠。もしくはトラップ。いやー、こういう洞窟を探検するような映画じゃ、探検者の行く手を遮るトラップがあるのが定番なんだ。大きな岩が転がってきたりしてさ」

「エイガ……? そのエイガってのは知らんが、大岩はベターだな」

「ほう、お馴染みトラップなんだ?」

「おう! 通ることで発動するパターンや、天井に紐があって、それを引くと発動するパターンとか」

「ははっ! すっげーベターだね」

「あとは――」


二人の話が右耳から入って左耳を通り過ぎていく。そんなことよりも、これに興味があったんだ。

明らかに異物。この洞窟には似つかわしくないものだもん。気にならない訳がない。

もしかしたら、これがエーリくんの嗅覚に反応したのかもしれない。だとすると、本当にお宝……?



「? なんだろう、コレ」



「――床下にスイッチがあって、押すと作動するパターンな」

「あー、あるある!」



ポチッ。



ヒュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ、ガゴンッ!!!



「「………………へ?」」


試しに、ぼくが正方形の何かを踏んでみると、突然、通せんぼをしていた壁の前に、大きな岩が降ってきた。

地味に、この右の道は来る時上り坂になっていた。つまり……。


「マジで来たああああああああああああああああああああああああああああ!」

「大岩ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」


ゴロ、ゴロゴロ、ゴロゴロゴロゴロゴロゴロゴロッッ!


こっちに向かって転がってきたのだった!


「ひぃぃぃ! 大きな岩が転がってきたあああああああああああああああ!」

「全力で走れぇッ! 潰れるぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

「ごめんなさああああああああああああああああいいいいいいいいいいいいい!」


……。

…………。

………………。

迫りくる大きな岩の塊に追いかけられながら、ぼくらは無我夢中で走った。元来た道を、全力全身で。

酸素なんて肺に送っている場合ではなかった。息も絶え絶え、残留する酸素のみを頼りに、逃げることだけを思考し、足を動かすことだけを命令し続ける。


途中、リューイくんが転んでしまい、大岩に轢かれそうになったけど、咄嗟にぼくが彼を脇に抱え、全力で走った。

ぼくが招いたことだったので、ぼくが二人をサポートしなければならないという思いからの行動だった。失敗していれば二人ともペチャンコだったけど、成功したので結果的によかった。


やがて、ぼくらは分かれ道まで戻ってくることができ、左の道に行くことで大岩を回避することに成功した。



大岩トラップ……恐るべし。





息を整え、汗を拭い、鞭打った体を少し休ませたところで、ぼくらは再び進軍を始めた。


「いいかいキリコッテ。変だなと思った物には、むやみに手を触れちゃいけない」

「うっ、うん! もうむやみやたらな行動はしないよ。本当に迷惑をかけたし」

「分かればいいんだ。もう気にしなくていいよ」


隣を歩くエーリくんに、頭を優しく撫でられる。エーリくんはぼくより背が低いので、自然と爪先立ちする格好になっていた。ちょっと微笑ましいな。


「まるで猫の頭を撫でている感触だなー」

「猫がベースだしね」

「うむむ。これは三毛猫かな?」

「触っただけで猫の種類が分かるの!?」


なんだろう。エーリくんって本当に不思議だ。こんなに幼いのに妙に大人びているし、頼りがいあるし。

……言葉にはしにくい感情だ。


そんな穏やかな会話をしつつ、ぼくは周囲を見渡した。

左の道も右の道同様、狭い悪路となっていたけど、歩けない訳じゃない。疲れはするけどね。

他に、野生のコウモリが生息しているようで、ぼくらが近づくとバサバサと入口の方へ飛んでいった。


「しっかし何もねぇなあ。魔物でもいれば面白いんだけど」


リューイくんが火のついた指をブンブン振りながらそんなことを言った。


「確かに。でも実際いたら戦えるのリューイしかいないよ?」

「そうだね。ぼくとエーリくんまだ魔法使えないし」


一応、リューイくんは初級魔法を一通り使えるらしいけど、複数魔物が出たら対処できないかもしれない。

そうなったら、ぼくやエーリくんも戦わなくてはいけなくなる。身体能力の高いぼくはともかく、エーリくんはまだ幼く攻撃手段がない。


何かあったらぼくが守らなくちゃ!


そう心に誓い、足を進める。

やがてぼくらは退屈な左の道を抜け、一つの空間へたどり着いた。


「うひゃー。ひっろいなぁ!」


エーリくんの言う通り、ここは広くて大きい場所だった。

広間と呼ぶべきかな。多分、上から見ると丸に見えるだろう。何もないけど、とても広くて奥行のある空間だった。

高さもあり、ここは外と繋がっているのか、天井からわずかに光が漏れて降り注いでいる。そのおかげで、ぼくはここがドームのように丸い空間だということが知れた。

キラキラ輝く光の柱が、少し神秘的で美しい。松明いらずだ。


……? でもなんだろう。この違和感。


「ゲームだと、ボスモンスターでもいそうだなぁ。つーか番人がいそう」


番人。迷宮には番人呼ばれる存在がいるらしいけど、回廊はどうなんだろう?

そもそも、ここは何の役割をもった場所なんだろう。


「辺り見てもなんもねーな。ただ明るいだけか? こんな広いのにもったいねぇ」

「だね。何か仕掛けがあってもおかしくないのに」


エーリくんの言った、仕掛けという言葉を聞き、考えてみる。

確かに、この広間は見たところ何もない。ただ広いだけの空間だ。本当にそれだけしかない。仕掛けもなにもない。


うーん、さっきからすっごくモヤモヤする。この広間に対して違和感があるんだ。それが何かは浮かばないけど。


「頭上から光が漏れてるってことは、外へは上から出られるってことだけど」

「距離あって無理だな」


二人に倣い、ぼくも頭上を見上げた。

大きな穴である。天上にぽっかり空いた大きな穴から、外の景色が見える。赤みがかっているけど、良く晴れた空だ。きっともう、外は夕方なんだろう。

やっぱりここと外の世界は繋がっているようだ。このことが分かっても向こうへはいけないだろうけど。


どうやってもあんな高くへ飛べないし跳べないからね。


そんな風に考えながら、ぼくらは適当に探索を始めた。

上から照らされているので、特に不安なく行動できるのがありがたい。


ここで、二人の会話によって、違和感の正体が発覚する。


「しかし、何もないのも問題だね」

「ああ。次への道もないからな」

「……え?」


ぼくはようやく気が付いた。慌てて広間を見渡す。

ここは広い空間だ。縦横高さがとても長い。差し込む光で明るいから探索しやすい。


それだけなんだ。広い明るいだけで、何もない。実質行き止まりだったんだ。


「ここが行き止まりって言うことは、同時にここが終着点ってことになるけど」

「かぁー。つまんねぇ結末だぜ」

「興醒めだよねー」


ペッと痰を吐き捨てるリューイくん。明らかにテンションが下がっている。そばを歩くエーリくんも、ガッカリとした面持ち。


そうだよね。ここまで歩いてきて何もないって、ガッカリだよね。あの大岩トラップだけだもんね。


でも、もしここで終わりなら、あのトラップは何のためにあったんだろう? トラップとは、敵から自分の何かを守るための手段。何か守りたいものがあったから仕掛けられたはずなんだ。目的もなしに仕込まれたとは思えないけど……。


そんなことを考えながら、ぼくは壁に手をついた。ちょっと壁に体を預けるつもりだった。

その瞬間、カチリと嫌な音が響いた。一瞬でぼくは悟った。



また何か、トラップのスイッチを押してしまったのだ、と。



不穏な音が二人にも聞こえたようで、こっちを一斉に睨んだ。


「……キリコッテく~ん?」

「あ、えっと……」


ぼくが弁明を考えている間も、不穏なことは続く。

ガン! と何か枷が外れたような音が続き、ゴゴゴゴと何か擦るような地響きにも似た轟音が鳴り響く。それは止まることなく響き続ける。目に見えた変化がない分、恐怖も止まらない。


何が起きているのか分からず、とりあえず三人固まっていると、リューイくんが最初に気が付いた。


「! 上だッ! やべぇ!」


その叫びを聞いてすぐに、ぼくとエーリくんは上を見た。すると、


「ひっ!? 天井が落ちてきている!?」

「うわぁ!?」


ものすごい勢いで天上が落ちてきているじゃないですか。この轟音は天井が横の壁を擦っている音だったんだね。納得。


……いやいやいやいや! 納得している場合じゃないよ!?


「走れェッッ! 天井の穴ンとこまで全力で走れェッ!」


リューイくんの声を聞き、ようやく脳が動き出す。

慌ててぼくたちは走り出した。目指すは外と繋がっていた穴のある位置まで。

目測だけど、大体中央付近に大きな穴がくるはず。だから、この広間の中心へ行けば安全だ。


しかし、ぼくらはさっきまで広間の端にいた。それも壁付近。全力で走って間に合うのかな……?


「くッ! 微妙に間に合わないか?」


リューイくんが忌々しげに吐き捨てる。表情も固い。


「……はぁ、五歳の体じゃ、はぁ、キッツイなぁ……はぁ」


何とかついてきているエーリくんは、とても辛そうな表情だ。


距離にして数百メートル。穴につくまで、あと三十秒くらいかかるだろう。その間ペースを落とさず、自分の持つ脚力を発揮し続けなくてはいけないんだ。辛くないはずがないよ。


無慈悲にも、天井は高速で迫ってきている。いつ落ちるかは分からない。数十秒後には落ちているかもしれないし、逆に一分くらいかかるかもしれない。

落ちるまでどれくらいかかるのか分からない分、パニックになる。



潰される。潰される潰される潰される潰される潰される潰される潰される潰される潰される潰される潰される潰される潰される潰される潰される潰される――



「(ダメだ! 気をしっかり持つんだ!)」


頭をよぎった最悪な結末をかき消し、ぼくは歯を食いしばった。

ぼくのミスで二人を死なせる訳にはいかない! ここは冷静にいこう! 周囲をよく観察し、よりよい結果を生み出すんだ!


「うらあああああああああああああああ!」

「……」

「っは、っはぁ、はぁっ!」


雄叫びと共に、更にスピードを上げるリューイくん。エーリくんは無言になり、走ることだけに集中をしているようだけど、少しずつぼくらに離されていく。


このままじゃ、エーリくんが間に合わない。だからぼくはエーリくんの左手を掴み、走ることにした。これで少しは距離が詰まったかな。


でもそうなると、このまま普通に走っても間に合わない可能性が、現実味を帯びてきた。


ぼくの身体能力フルに使って、全力疾走だと間に合うかもしれない。けど、その場合エーリくんが助からない。

かと言って、手を繋いだまま間に合うとは考えにくい。音が近くなってきている。天上が、すぐ近くまで来ているんだ。


どうしたらいい!? 先頭を走るリューイくんも、間に合うスピードとは思えない。

二人を脇に抱えて走っても間に合わない。きっとぼくだけだ。全力のぼくだけが生き残ってしまう。


天井は刻一刻と下がってきている。タイムリミットは近い。



くぅっ! またぼくのせいで……ごめん二人とも――



その時、エーリくんが前方に叫んだ。


「リューイ! 水魔法と土魔法を後ろにぶっ放せ!」

「!? あ、は?」


一瞬、こっちを振り返ったけど、再び前を見るリューイくん。そして、ズボンのポケットから小さい杖を取り出し、


「は、『放て!』。『放てェッ!』」


再び振り返って、ぼくらの後ろ辺りに杖を向け、二回続けて魔法を放った。高速詠唱だ。弱い水魔法と土魔法が、高速で地面に着弾する。


エーリくんは何の意図があって二つの魔法を? そう尋ねようかと思った。


その直後のことだった。


「!? え、何?」

「……来たか」



二つの魔法の着弾地点から、たくさん葉をつけた巨木が生まれ、勢いよく真っ直ぐ伸び始めた!



「水と土……木魔法か!」

「御名答!」


二つの魔法の合体。これは聖戦でも見た手法だ。

水魔法と土魔法を組み合わせると、大地に植物を芽吹かせる木魔法になる。


巨木の伸びる先を走っていたぼくら三人は、恐ろしい成長速度の巨木に受動的に突っ込んだ。頭の部分は柔らかい葉っぱによってクッションとなっていたので、無傷だ。


そのまま巨木がグングンと成長し、伸びていき、走るよりも早く中央に到着した。


数秒後、


ドオオオオオオオオオン! と耳に響く爆音と共に、天井が落下した。

ぼくらを送り届けてくれた巨木は下敷きになってしまったけど、ぼくらは無事だった。


無事だった。


「「「……」」」


しばらく、ぼくらは茫然としていた。

奇跡的に生き残れたこと。無事に助かったこと。あと少し遅ければ潰されていたこと。


そして、


「……綺麗だ」



ぼくらを祝福するように、空を紅に染める夕日が、眩しく美しかった。



天井がなくなり、空が良く見えるようになったお陰で、沈みかけている夕日がよく見えるようになったんだ。

沈むところまで見えるってことは、元々この広間は外から見れば斜めになっているのかな、なんて思った。途中坂になっていたしね。


ボーッと眺める。今まであったことを何も考えず、ただただこの素晴らしい景色を眺め続けた……。





「帰ろっか」


数分後、エーリくんのこの一言で、ぼくらはまた来た道を引き返し始めた。広間と左の道を繋ぐ出入口は埋まっておらず、閉じ込められる心配はなかった。


なんとなく、ぼくは思った。

あの景色こそ、宝だったんじゃないかって、ね。ちょっと都合いい感じが否めないけど。


……こうして、ぼくらのちょっとした探検は、幕を下ろした――



「キリコッテ、これはでっかい貸しだからね?」

「そうだな。オレら死にかけたし。何かオレらに便宜図ってもらわなきゃなァ?」

「……で、ですよね」



めでたしめでたし?

・次回から<六日目>です。

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