表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法によって飛んだ空  作者: 元祖ゆた
運営会選挙編 
52/64

第五十一話 ブラックマン <五日目>

~前回のあらすじ~

*残ったゲテモノはスタッフが美味しくいただきました。


………………<エーリ>

僕、モデ、ピサス、ゲンジの四人で探知を行い、現れた謎の影。影は陽炎のように揺らめき、陽動としての仕事を、僕の足を止めることで全うした。

敵の本命はシェーナだった。立候補した帰り道に不意打ちを仕掛けた。

……が、それは僕の乱入によって叶わず。僕らの前から姿を消したのだった……。





「また逃げられたか……」


僕は気を抜かずに辺りをよく見ながら、そう呟いた。悔しさの混じった声色になるのは仕方ない。


「改めて、助けてくれてありがとう」


シェーナが嬉しそうに微笑みながら、頭を下げた。

まぁ、シェーナに怪我がなくて本当に良かった。傷でもできていたなら、僕は自分を責めて精神的にかなり参っていたことだろう。

一番大切なものを見失ってはいけない。敵の正体を探るのも大事だが、シェーナの安全を守ることが最優先。


「どういたしまして」


そう言って、僕も軽く微笑んだ。


会話もそこそこに、僕らはその場を後にする。この場合、『その場』とは中央棟の三階と二階を繋ぐ階段のことを指す。

階段を下りて、二階へ。二階には様々な部屋があり、主に教員が授業で使う魔法の資料部屋となっている。学科ごとに用意されているようで、何の部屋かを示す木製プレートが戦士学科、剣士学科……等々六つの学科分あることが見て分かった。当たり前だけどね。


そんな二階にやって来た僕らは、ひとまず状況分析のために騎士学科の資料室へ不法侵入した。何故騎士学科かと言うと、そこだけ鍵がかかっておらず、扉が空きっぱなしだったからだ。

不用心なことだが、今はラッキーだ。利用させてもらおう。


探知魔法を使って誰も追って来ていないことを確認し、資料室の中も目で見てしっかり確認し、扉を閉めた。こういう大事な資料等を扱う教室には、魔法無効石が使われていることが多く、無論この資料室にも使われていた。だから扉を閉めるだけで外部からの魔法の行使を防げるのだった。


……内部で魔法が一切使えなくなるけどね。


資料室は薄暗くて狭かった。小さな窓から僅かに差す日の光が、教室に積もった埃を照らしている。一般的アパートの一室程度の広さで、学校の教室よりは小さい。

本棚が壁にそって並び、中央に長テーブルが置かれ、木製の椅子が数個乱雑に置かれている。資料室と呼ばれるだけあって、巻物や書物がずらっと並んでいた。それはもう本棚に収まらず床へ零れ落ちるほどだ。どんだけだよ。


とりあえず、側に倒れてあった椅子を起こして腰を下ろした。シェーナも近くの椅子に上品に座った。


「ふぅ、まずはお互い無事でよかったね」

「そうね~」


ここでようやく安堵の息をつくシェーナ。影が去った後も安心はできなかったからね。ようやっと警戒を解くことができるというもんさ。足を組み、なんとなく顎をさすった。


「さっきの一件で、大体分かった」

「分かったって……何が?」

「敵の行動理念ってやつかな」


行動理念――どのように行動するのかを判断するための基本的考え。例えば、僕は『シェーナに安全な学園生活を送らせる』ことを理念として行動している。何よりもそれが最優先。


「シェーナが階段で襲われる前に、別の場所に影が現れたことを考えると、シェーナを速やかに襲えるよう陽動目的で影を設置したのだと考えられる」

「陽動……なんでそんなことを? わたしは一人で中央棟へ入ったのだし、仲間と思われるような人を引き連れていなかったわ。普通に本命だけを差し向けるだけでよかったんじゃない?」

「そうだね。シェーナは終始一人。監視している者からすれば、立候補しようとしていることは会議室に入るまで分からないけど、入った後なら分かる。会議室に入るということは、時期的に立候補以外考えずらいからね」


他の棟と違って、わざわざ中央棟に遊びに行く理由はないしな。元の世界で言えば、放課後に職員室へ用なく遊びに行くようなもんだ。正直ありえない。


「立候補したことが分かる――つまりシェーナが会議室へ入ったことが確認できれば、監視者としては少し焦るだろうね。監視者が神帝か魔女の月、またはイースオスマどこ所属かは分からないけど」

「分からないけど焦るの?」

「焦るよ。神帝または魔女の月だった場合、インペラトーレであるシェーナの立候補は、もしかしたら両組織に所属していない無所属の票を集め、両組織の均衡を崩してしまうかもしれないからだ」


神帝と魔女の月の両組織が学園にツートップであることは間違いないのだが、無所属の学生だって少なくとも存在する。何故なら、僕とメドナだって数か月前までは無所属だったのだから。


「神帝に票を入れていた者がシェーナに票を入れるかもしれない。魔女の月にも同様の事が言える。そうなるとどうなるか」

「バランスが崩れるかもしれない、と言うことね」

「その通り」


突然現れた新生インペラトーレであるシェーナの立候補によって、生じる損失は計り知れないのだ。だから焦る。もしかしたら、シェーナの立候補によって、何かが終わってしまうかもしれない。そう考え焦るのだ。


「神帝と魔女の月の立候補者からしたら、シェーナの立候補は邪魔そのもの。だから襲い掛かって立候補を取り消させるように動いたんだろうね」


広くて長い廊下ではなく、人の目が届きにくい階段で襲い掛かったのはそのためだろう。それに、シェーナが負傷したとしても、階段から踏み外した等の理由付けが簡単だからということもあるかもしれない。


「でも、そうだとするとますます陽動をする意味が分からないわ。私の行動を妨げるために行動したのだとしたら、別の場所に出した影が意味をなさないわ。今回はエーリくん達の足止めになってしまったけど……」

「ああ。今回は偶然僕たちが足止めを食らってしまった訳だけど……本当に偶然だったのかな」

「……まさか」


僕は組んでいた足を解き、前のめり気味な姿勢になった。


「敵も警戒していたんだよ。『まさかシェーナがたった一人で立候補するとは思えない。何かしらバックがついているに違いない』……とね」

「なるほど、それで陽動を」

「多分、真の本命はこっちだったんだと思う。シェーナにはどんな後ろ盾があるのか知っておきたくて陽動を二か所に出した。シェーナには後ろ盾がなく、簡単に捕まえられるならそれでも良し。襲うのが楽になるからね」


敵もバカじゃない。考えなしに観察対象であるシェーナを襲撃するとは思えない。そのことを加味して考えた結果、たどり着いたのがシェーナの後ろ盾を探るために襲撃したんじゃないかという推測だ。


しかしそうなると、陽動用の影の前に姿を現したモデ、ピサス、ゲンジと、シェーナを助けに現れた僕の姿を視認された可能性が浮上する。

敵が神帝の監視者だった場合、ピサスとモデがシェーナに手を貸していることがバレてしまう。非常にマズイ。

敵が魔女の月の監視者だった場合、法王女だけじゃなくシェーナという新たな偶像を利用しようとしていると思われる。これもこれでマズイ。


結論、全てマズイ。


「(ま、まあ、まだ姿を見られたという訳じゃない。そう、確定事項じゃないんだ。焦るのはまだ早いさ……ははっ)」

「……エーリくん? 汗すごいわよ?」

「あ、あー、ちょっとこの部屋蒸し暑くてね。まるで真夏だよねー」

「今冬だけど……」


心配そうに見つめるシェーナの視線を浴びながら、僕はゆっくり深呼吸して心を落ち着けた。


「陽動用の影は特に攻撃を仕掛けてくることはなかったことを考えると、バックについている者の実力をはかるためにわざとサンドバック的な役割として投入したのかもしれない。このことから、相手は『シェーナの背後にいる者の実力を測る』という理念に基づいて行動していたと理解できるのさ」

「はぁ~」


シェーナは感心したような声を漏らし、納得したように頷いた。頭の動きに合わせて、薄い茶色の髪が揺れる。

話したことで考えをまとめることができた僕も、同じようにはぁーと息を吐いた。


「これからどうするの?」

「敵が理念に従って動くとしたら、僕らの方にはもう現れないと思う。シェーナはもう一人じゃないし、これ以上大事にはできないだろう。実力を測るにはリスクが高すぎる。現れるとしたら……」

「他の人達のところね」

「そうだねー……あ!」


僕はここで、大事なことに気が付いた。思わず声を上げて立ち上がる。


「ど、どうしたのエーリくん?」


驚き、おどおどと尋ねてくるシェーナに、僕は、



「モデ、置いてきちゃった」



と言って茶目っ気たっぷりに舌をペロッと出した。





………………<ゲンジ>

中央棟の三階、給湯室。

ここは文字通り湯を沸かしたりする所。火魔法を扱えばどこでも水を沸かすことができるが、教室や廊下でやかんを持って堂々と火で沸かしている様子は非常に滑稽だ。

何事にもメリハリというものが大切だ。飯を食う場所は食堂、運動するところは体育館、そして湯を沸かすのは給湯室。

そういう訳で、中央棟には給湯室が完備されている。


正直、利用する者は少ない。そりゃあわざわざここきて火魔法使うとか面倒臭いからな。現におらは一度も利用したことがない。


「(真面目でいいこちゃんな学生は利用してそうだがな)」


そんな生涯利用する予定のない給湯室に、おらとピサスはやって来た。


「反応はこの辺りだったのだが……」

「何もいねーな」


給湯室とは言うが、扉がなく、部屋というよりかは空きスペースを利用して作られた感じだった。

壁の上に取り付けられている棚に、やかんや鍋等の容器が並び、下に設置された棚には巻物や杖が陳列されている。

巻物を取ってめくると、初級の火魔法や水魔法について記されてあった。


なるほど、これなら何も持たずにここへ来ても楽にお湯を産み出せるな。しかしわざわざ作る必要あったか? この空間。


「探知魔法には確かに引っかかっている。しかし何もいないではないか」

「だなー」


探知魔法は継続して発動させている。この辺りから反応を感じる。

が、実際にこの場には何もない。おかしな話だ。支離滅裂。矛盾。


「幻想魔法でも使ってるのかねー?」

「可能性あるな。またはそれに類する魔法か」

「解除魔法使える?」

「低級レベルのだったら使えるが、効くか分からん」

「とりあえずやってみようか」

「うむ」


ピサスが魔法道具マジックアイテムと思われる黒のナックルダスターを装着している右手を、左手で優しく撫でながら、ブツブツと詠唱を始めた。とても大切に扱われているようで、ナックルダスターの表面はつやつやとした光沢があった。きっと綺麗に磨かれているんだろうぜ。


解除魔法を使ったことのないおらは、その間少し手持無沙汰となったので、給湯室にある物をなんとなく物色してみた。

容器の収められている上の棚、巻物と杖のある下の棚、二つの棚の間にある洗面台。以上の三つが接している壁と、接する壁には小窓。小窓の下の方には小さな机と花瓶。花瓶に入っている植物はメジャーな『グリーンマン』のようだ。手のひらサイズで、コケに覆われた人の姿をしており、気持ちよさそうに眠っている。


まさか、このグリーンマンが探知に引っかかったのか? なんて思ったが、グリーンマンという魔物は知能が低く、魔法という高等技術なんて扱えないことに気が付いた。

魔物のくせにおらを騙すとはいい度胸だ。罰としてくすぐってやるぜ、へへ。


暇つぶしにグリーンマンをいじっていると、ピサスが解除魔法を発動させたらしく、周囲が明るく照らされた。一時的に給湯室は真っ白になり、雪原のような輝きを放っていた。


「うっはー。すっげぇ綺麗だ」

「だな。……ところでスウダリよ」

「何? てか名前で呼んでくれていいぜ。さらに言うと、ゲンジって呼んでくれ。おら気に入ってんだ、この略し方」

「なるほど。……ではゲンジよ」

「ほいほい」

「お前が撫でているそれはなんだ?」

「……え? いやグリーンマ――ん?」



指摘されてから手元を見てみると、グリーンマンだと思っていた植物が、真っ黒に彩られた人のような何かだったことに気が付いた。



「うわーーーーーーーーー!?」


慌てて手を離し、バックステップで距離を取った。同時に懐から杖を出し、羽を広げていつでも飛んでいけるよう準備した。

羽を広げたのは、別に逃げる為じゃない。こいつを逃がさないためだ。


「な、なんだよアレ! グリーンマンじゃないのかよ!」

「分からん。が、あれが探知魔法に引っ掛かったのは事実」

「知能が低いんじゃないのかよ……!」


バカのフリしておらを弄んだのか畜生! 許せないねぇ!


人の影のような正体不明の何かは、ぶくぶくとその姿を大きくしていき、やがて手のひらサイズから大人程度の大きさまで膨れ上がった。おらとピサスの身長を優に超えている。圧迫感すら感じるぜ。


「どうする、ピサス」

「……捕獲する。これが魔法でできたものなのか、魔法を使っている者なのかを判明させるぞ」

「オッケー。そうこなくちゃあな!」


杖を構え、捕縛するために詠唱を始める――が、


「……!」


突如、黒い人は身体を小さく分裂させて、四方八方に散らばった。咄嗟に高速詠唱をするも、捕縛できたのは分裂した一部だけだった。


「ピサス! 壁張って出入り口封じろッ!」

「! 王の城!」


おらの呼びかけに、ピサスはあらゆる攻撃を防ぐ黒い壁を生み出した。


しかし、


「……ま、間に合わなかったか」


分裂した黒い人は壁が広がるのを待たずに、おら達の横をすり抜けて逃げて行った。追おうにも、細かく分かれてしまったので、どれを追えばいいのか分からない。

結局、捕縛できたのは本当に一部だけ。しかも親指の爪程度の大きさである。


「追いかけよう!」


それでも、諦める訳にはいかない。ある程度固まっている集団がいくつかあったので、それを狙って追いかけよう。

こんなちゃっけぇ親指の爪サイズの欠片じゃ判明させることは不可能だ。おら達はすぐに探知魔法を発動させ、黒い人を追いかけた。



「これじゃグリーンマンじゃなくてブラックマンだぜ」





しばらくあちこちを走り回り、分裂して逃げるブラックマンを追いかけた。

いいように弄ばれている気がしてならないが、そんなことを考えるとはらわたが煮えくり返るので考えないことにした。


ブラックマンの動き自体は、強化魔法を使って空を飛べば追いつくことができる。しかし、敵は無数に分裂するため、近づいても分裂されて捕えることができない。

この分裂というのが本当に厄介だ。捕獲しようにも分裂されれば、その一部しか捕まえることができない。核のような物があるのかとも思ったが、無性生殖をする生物のように、一つ一つが核みたいなものだった。


本当に、厄介である。


給湯室のあった三階を走り回り、やがて二階へと舞台は移った。すると、


「あ! ピサスとゲンジューヤ!」

「……ミニャーか」

「ミニャーって呼ぶな! 何度言えば分かるのよ!」


紫の内巻き髪に、活発的な服装で、スタイルのいい女性――モデ・ミニャーが息を切らせてやって来た。

一緒にいるはずのエーリがいないようだけど……。


「ケリはどうした?」

「それが突然走り出しちゃって……訳分かんないわよ、もう」


額に汗を浮かべ、はぁはぁと荒く呼吸を繰り返すモデ。そんな必死になってまで、エーリのことを捜していたのか。格好にちょっとエロスを感じる。

何も言わずに走り出したいうことは、エーリにとって緊急な用事があったということだ。ったく、せめて一言残しておけば、モデを汗かかせるだけ走り回させることもなかっただろうに。

ま、そのおかげでエロスを感じることができた訳だけどな。


仕方ない。おらが適当にフォローしてあげるか。


「一緒にいるのが嫌だったんじゃないか?」

「なんだと『クソ鳥』」

「うひぃっ!」


フォロー失敗。

モデの毒魔法によって身体が痺れ、一人悶えていると、ピサスが怪訝な表情をしていることに気が付いた。


「ど、どぉぉした、んふっ! ……ど、どうし、たピサスぅ?」

「……気色悪い喋り方ね」

「おみゃーのしぇいだるぅおが!(お前のせいだろうが!)」


ドン引きしていた加害者のモデに、すぐ魔法を解除してもらい、再び同じことをピサスに問いかけた。


「どうしたピサス。何かあったか?」

「ん? ああ、さっきは俺に尋ねていたのか。気持ち悪かったから分からなかったぞ」


毒舌がピサスにもうつったようだ。てか毒舌って空気感染するもんなの?


「……あれ? いつからここはアウェーになった? すっごく心傷付いたんですが」

「アンタは最初からアウェーよ。スパイだったこと、忘れたとは言わせないわ」

「そういや、そうだったな」


どうでもいい会話をしつつ、おらが悪人であることを再認識した。

スパイという許されざる行為をして、見つかった。普通だったら処刑もありうるというのに、エーリのおかげで命拾いした。

エーリは命の恩人だ。この恩、絶対に返すからな……!


っと、そのことは置いといて、今は目の前の出来事を処理しよう。


「それで、どうした?」

「……ああ」


深刻そうな顔をしているピサスの口から飛び出したのは、



「探知魔法に何も反応しなくなった」



そんなことだった。


「反応しなくなったって……あのブラックマンが?」

「ブラックマン? ……ああ、あの黒い影のことか」


ピサスはおらの言ったことに納得しつつ、話を続けた。


「ああ、そのブラックマンがだ。しかもそれだけじゃない。ケリとモデが追って行ったもう一つの反応の方も……なくなっている」

「それはアイツが魔法で消し去ったからだと思うわ。だから気にしなくていいわ」

「む、そうか」


消し去ったということは、少なくともエーリとモデはあの黒い人を消し去るまでは一緒にいたんだな。そして、消し去った後にエーリは何かに気が付きその場を離れた、と。

大方、囮となったシェーナちゃんが心配で抜け出したんじゃないかな? と予想してみる。


「とにかく、中央棟で魔法は探知できていない。もう逃げてしまったようだ」

「……それは参ったわね。結局、ウチら何も掴めなかったじゃない」

「う、うむ……」


頭を抱える二人。二人に倣い、おらも頭を抱えた。

しかし、考えていることはきっと二人とは違うことだろうな。何故なら、おらはただ、これからどうやってエーリに恩を返すべきか考えていたのだから。





………………<エーリ>

僕はシェーナを安全な僕の部屋へ送ってから、再び中央棟の一階北廊下へやって来ていた。始めに探知魔法に引っかかった二か所の内の一つである。


僕の部屋への移動は、隠密系の魔法を使って慎重に行動した。いつぞやの時のように、シェーナをお姫様抱っこして空を飛んだのだ。

その際、終始赤面してオロオロしていたシェーナがとても印象に残っている。これには思わず頬が緩んだものだ。


そうして迅速に運んでから、僕は再び隠密セットを使ってここへ舞い戻って来たのだった。


「(……お)」


早速、目的の人物達を発見。モデとピサスとゲンジである。

一度北廊下から離れ、かかっていた魔法を解除してから、再び北廊下に姿を現した。


「おーっす」


僕がそう声を投げると、モデがすぐに反応し、苛立った表情で駆けてきた。


「アンタ! よくもウチを置いて行ったわね?」

「あー、ごめんごめん」

「雑! なんか謝罪が雑じゃないアンタ」


内心鬱陶しいなと思いながら、ペコペコと頭を下げた。

まったく、確かに置き去りにしたことは悪かったけど、そこまで怒られることじゃないよね。だってモデからしたら、僕がいなくなるってことは自由を意味することで、僕に振り回されずに済むからありがたいことなんじゃないか?


「はぁ、心配して損したわ……」


ボソッと、モデが小さく呟いたことを、僕は聞き漏らさなかった。

心配……ね。いつの間にか、僕はモデに心配されるだけの間柄になったらしいな。なんか……ちょっと嬉しいな。


「ごめんなさい」

「今度は真面目過ぎ!」


どうすりゃいいねん。


「ケリ、大丈夫だったか?」

「どこ行ってたんだよー」


続けて、ピサスとゲンジもやって来た。四人が勢ぞろいした形だ。


「悪いね、心配かけた。僕は大丈夫だよ」

「そうか、ならいい」


ピサスと握り拳同士を突き合わせる。なんとなく、戦場で戦士同士がするやり取りっぽいと感じた。

側にいたゲンジは手をパーにして広げていたので、ハイタッチしてやった。こっちは学校の部活でのやり取りっぽい。

そしてモデとは握手。なんだろうね、この流れは。


「とりあえず状況確認をしたい。今までの出来事を教えてくれない?」

「いいぜ。ここじゃなんだから一旦外に出よう」


ゲンジの意見を受け入れ、中央棟を後にした。外は相変わらず肌寒い。


「あー、寒いなぁ」

「……これからもっと寒くなるような報告を聞くことになるが」

「うへぇ」





数十分後、僕らは解散した。今は自分の部屋で一人考えを巡らせている。


ピサス達の所に現れた影も、話を聞くに陽動用だと思われる。ただ、僕とモデの所にいた不動の影とは違い、分裂して逃げるというアクティブ性があったようだ。この違いはなんだろう。


「うーむ……」

「難しい顔してるわ、エーリくん」

「まぁ、難しいこと考えているからね」

「紅茶、できたわ」

「お、ありがと」


僕の分の紅茶をいれてくれたシェーナにお礼を言いつつ、再び思索する。


今回の結果によって、シェーナを狙う輩がいるのは間違いない。そしてそれは、シェーナを常日頃から監視している奴だろう。じゃなきゃ突発的に会議室へ立候補しに行ったシェーナに対し、襲い掛かるというリスクの高い選択はとれないだろうしな。


ここで僕は、監視者候補を一人ずつ思い浮かべる。



女子達のリーダー的存在、ケイシー・エナー。

言動行動がトリックスター、リコプル・タティーシ。

天使、キリコッテ・ジャバッツ。

男子達のリーダー兼変態、リューイ・ガオーカ。

地味めなドワーフ、ヤスラ・アービー。

ホモ疑惑浮上中、カテマ・ロフ。



この中に、僕らの敵が紛れ込んでいる可能性がある。今まではボロを出さないかと泳がせていたのだが……こりゃ本格的に調査する必要があるなぁ。


「うーむむむむ……」

「あんまり根を詰めないでね」


シェーナに頭を撫でられつつ、僕は思考を重ねていった……。



そういや、結局影は他の人達のところへ現れなかったな。理念を読み違えたかなー。

ま、何もないならそれでいいか。





……この時、僕は愚かだった。

シェーナと一緒にいる時に姿を見られた可能性、行動理念、陽動の影……。それらをよく考えなかった。


深夜遅くの事だ。



今度は僕が……襲われた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ