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魔法によって飛んだ空  作者: 元祖ゆた
運営会選挙編 
48/64

第四十七話 閑話その四 『闇戦 覚醒編』

・この話は前回の続きではありません。ちょっとした外伝になります。

~前回のあらすじ~

囮に使う決意。


昔、アブルーニャ学園の賢者学科一年の間で勃発した聖なる戦い――『聖戦』という名の争いがあった。


きっかけはよく分からない。が、きっと些末な理由に過ぎないものだっただろう。

男子連合軍という名の男子で構成された組織と、女子聖歌隊という名の女子で構成された組織が結成され、互いの不満を解消するように、魔法を使って争った。

両者一歩も引かず、血みどろの戦いを強いられた。憩いの場であるはずの、賢者棟の裏にある見晴らしのいい爽やかな草原は、地獄の焦土と化したのだ。


結果的に、勝利したのは男子連合軍だった。しかし、一人の女生徒の涙ながらの訴えによって、男子と女子は和解する運びとなった――。





「あれ? エーリくんは?」


ぼく、キリコッテ・ジャバッツは、右手に自分が飲んでいるお酒を持ち、左手にエーリくん用に用意したジュースを持って、リューイくんに話しかけた。

リューイくんはお酒を飲んだせいか、結構酔っ払っており、顔全体を真っ赤に染めていた。熟れたリンゴみたいでちょっと面白いかも。


「あー? ……あ、キリコッテか。ぅぃ~、エーリならこそこそとどっか行ったぞぉ。その辺にいるんじゃね?」

「そっか。分かった、ありがと」

「おう~」


リューイくんに手を振って、その場を離れる。周囲で寝転がっているクラスメイトに気を付けながら、辺りを一通り眺めてみる。


「ひゃああああああああああっはああああああああああああああ!」

「ふぅううううううううううう!」

「うおおおおおおおおおおおおおおおお!」


日差しが眩しい午前中である。

聖戦の舞台となった草原に、顔を赤くした男子が何人も雑魚寝しており、死屍累々としている。まだ酔い潰れていない連中も、酒という魔物に精神をやられ、訳もなく騒いでいる。

……中々の地獄絵図だね。皆お酒飲み過ぎ。


まぁ、飲みすぎる気持ちも分かる。なんてったって今日は、男子連合軍の勝利を記念した打ち上げパーティなのだから。

聖戦後、男女間で和解したとはいえ、あの男子より一回り二回りも勝る女子たちに勝ったのだ。結果、勝利の余韻に浸りたいという男子が多数いたことから、今日のパーティが開催されたのだった。


発起人はまたもやリューイくん。一番はしゃいでいるのもリューイくん。賢者学科一年の男子のリーダーは、やっぱりリューイくんだ。


「(でも、今回の戦いで勝てたのは……エーリくんのおかげだ)」


そう、ぼく達を勝利に導いたのは、たった五歳の少年――エーリくんだった。

今まで男子は女子よりも劣り、才能でも勉強でも運動でも負けてきた。それがたった一人の幼い軍師を迎えただけで、勝つことができたのだ。


皆口には出していないが、エーリくんに相当感謝している。もちろん、ぼくも。


「(まさか魔法の使えないぼくが活躍できるなんてね)」


ぼくがケイシーちゃんの杖を奪えた瞬間、世の中魔法だけじゃないんだな、と思い知らされた。


皆程ではないが、ぼくも内心勝利の余韻に浸りつつ、草原の側にある林へと入った。

秋真っ盛りな林の中は、小豆色・茶色・焦げ茶色と、落ち着いた色が支配しており、自然とぼくの心も落ち着かせる。

積もった落ち葉を踏むと、小気味よい反応が足から伝わり、何となく進んで踏みつける。

こんな自分の行動に、あと数か月もすれば、水たまりに張った薄氷を踏みつけて遊ぶことになるんだろうなぁ、と少し恥ずかしく思った。


でも、そんな落ち葉遊びには先客がいたようで、


「(ここの落ち葉の山、ぼくより一回りも小さい足跡が付いている……エーリくんだ)」


自分のクラスメイトのものだと知ると、恥ずかしさよりも嬉しさの方が増すのであった。


他の場所にできていた落ち葉の山を良く見ると、小さな足跡が点々と残されていた。まるでぼくとエーリくんを引き合わせるための道標のようだ。これを辿っていけば無事に会えそうだ。


「(それにしても、こんな林の奥に、何の用で入ったんだろう?)」


疑問を浮かべつつ歩いて行く。この奥には特に面白いものなんてないはずだけど。


やがて、開けた空間が現れると同時に、捜していた人を発見した。

気品ある服に身を包んだ茶髪の少年――エーリくんだ。じーっと、とある場所を凝視している。

ぼくが近づいてみると、足音を聞いてこちらに振り返った。


「お、キリコッテじゃん。どうしたの?」

「どうしたのはコッチのセリフだよ。こんな林の奥まで一人で来ちゃって。今メドナちゃんいないんだから、迷子になっちゃうよ?」

「ははっ、メドナがいなくても僕は迷子にはならないよ。どっちかって言うとメドナの方が迷子になる」

「え~、そうかな?」

「ホントホント。メドナは結構おっちょこちょいだから」


会話をしつつ、ぼくは持っていたジュースをエーリくんに渡した。エーリくんはありがとう、と言って、一気に飲み干した。

そして、飲み物の中身がジュースだと知ると、驚いた顔をした。


「これ、ジュースだったのか。てっきり水だと思ってたよ。ほら、パーティ会場にジュースなかったし」

「お酒と水しかなかったもんね」


勝利を祝うパーティということで、酒好きドワーフ族のヤスラくんが大量に用意した酒と、水魔法で生み出した酔い覚ましの真水しかなかったのだ。だからエーリくんが驚くのも無理はない。


「もしかして、このジュース渡すために僕を捜していたの?」

「うん、まぁね。エーリくん、まだお酒飲めない歳でしょ? だからリンゴのジュース買ってきたんだ」

「……」


一番の立役者が飲み物なしとか可哀想だからね、と付け加える。パーティが始まってお酒しかないことにガッカリしていたエーリくんを見て、ちょっとした親切心でジュースを用意したんだけど……ダメだったかな?

そんなぼくの言葉を聞いて、エーリくんは急に顔を俯かせて無言になった。どうしたんだろう? と、顔を近づける。


そして気が付いた。エーリくんは泣いていた。表情は普通なのに、目から一筋の涙が落ちている。


「天使だ……天使様だ」

「え? て、天使?」


そう言って、エーリくんはぼくに対して両手を合わせて拝み始めた!


「ありがとう天使様! 可愛い上に慈悲深いとか、それもうキリコッテが天使であることの証明だ! 性別が男とか、そういう次元じゃなかったんだ! キリコッテは天使! それ以上でもそれ以下でもない!」

「……な、何言ってるの?」

「何って、哲学の話だよ。キリコッテは天使、これが世界の共通認識さ」

「そうなの!?」

「ああ。猫耳超萌える」


もはや困惑しかできないぼくの前で、エーリくんは一心に手をすり合わせ続ける。ブツブツと『天使様最高』とか、『天使様可愛い』とか呟いている始末。


「(ど、どうしたらいいのこの状況! ぼくは天使なんて高尚な存在じゃなく、ただのキャットベースのワーグ族なんだけど。だから拝まれても幸福を与えることなんてできないし……)」


でも、エーリくんはぼくのことを天使だと信じてしまっている。子供の夢はできるだけ壊したくない。ぼくさえ否定しなければ何とかなる。

考えるんだキリコッテ! 何か、彼に幸福を与えられそうなものは……ハッ!


ここで、エーリくんがぼくの耳を注視していることに気が付いた。感情が高ぶったり、聞き耳を立てたりするとついピクピク動いちゃうこの大きな耳が、気になって仕方ないみたい。現に、感情の高ぶりで小刻みに震えているぼくの耳を、息を荒くして目で追っている。


これを上手く使えば、いけるかも!


「さ、触ってみる?」

「!?」


ぼくは恐る恐る、耳をエーリくんの目の前に差し出した。格好としては、立っているエーリくんの前で、僕が立ち膝になって頭を少し下げている感じ。王に使える騎士の如し。


エーリくんもぼく同様、恐る恐るといった動きで、ぼくに尋ねてきた。


「い、いいの?」

「ど、どどどうぞ」


よく分からない緊張が全身を襲う。な、なんか恥ずかしい……。自分からやっておいてなんだけど。


「じゃあ、え、遠慮なく」


そして、宙を当てもなく彷徨っていたエーリくんの両手が、ゆっくりと、ぼくの耳に――、



「ひゃんっ!」

「!?!?!?」



触れられた瞬間、変な感覚になり、思わず声が出てしまった。すぐに口を両手で抑えたが、もう遅い。

な、なんて女々しい声が出てしまったんだ! 恥ずかしいよお!

うぅ、エーリくん、またぼくのこと女の子とか誤解しちゃうかな……? そんな不安を覚えながらエーリくんの顔を見ると――



「……もう、死んでもいい」



すごく安らかな顔をしていた。てか死んじゃダメっ!





数分後。

とりあえず、エーリくんは一命を取り留め、普通のテンションに戻ってくれた。

話題は、ぼくが来た時にエーリくんが黙って見つめていた『あるもの』に移った。


「あれは『回廊』だよ。魔力のこもった洞窟」

「魔力の?」

「うん、魔力」


林の中に、突如現れる空間。その奥に、大型の魔物がぽっかりと大きな口を開いて待ち構えているような、闇を携えた洞窟が鎮座しているのだ。

これが回廊。中は恐らく、迷路になっている。


「洞窟や森の中には、長い時間をかけて空気中に漂う魔力を勝手に蓄えて、ランダムに変化する迷路のようになってしまうものもあるんだ。そういうのを回廊と言う」

「? 迷宮とは違うの?」

「そうだね。『迷宮』とはまた違うんだ」


そう言って、ぼくは不思議そうな顔をしているエーリくんに、簡単に解説をした。


「回廊も迷宮もほとんど違いはない。けどね、一つ大きな違いがある。それは『意志』なんだ」

「意志?」

「うん、意志。回廊には意志がなく、迷宮には意志がある」

「意志って……つまり、迷宮の方は生きているってことか?」

「そうだね。意志を持ち、入り込んだ者を惑わして殺し、魔力を得る。……これだけで、迷宮は生きていると言えるよね」

「ひ、ひぇ~」


エーリくんがブルッと身を震わせる。ちょっと怖い話しちゃったかな?

……なんて、思っていたけど、


「面白そうじゃん!」


と言って、エーリくんは目を輝かせていた。まさかの武者震いでした。


「つまり、ここは迷宮じゃないからそこまで危険度はないんだね?」

「ま、まぁ、小さい回廊だし、学園の進入禁止区域に指定されていないから、大丈夫だと思うけど……」

「そっかそっか!」


ぼくの言葉を聞いて、エーリくんは何故か準備運動を始めた。

え? まさか行くつもり?


「ははっ! やべぇ、テンション上がってきた! やっぱ異世界つったらダンジョンだよね! まぁ、厳密にはダンジョンじゃないから僕ん中じゃノーカンだけど」

「え? いせかい? だんじょん?」

「いやいや、こっちの話」


エーリくんが何を言っているのかよく分からなかったけど、一つ明確に分かるのが、彼がこれからこの回廊に挑もうとしていることだ。


「ちょ、ちょっとエーリくん! まさか行くつもり?」

「うん」


うん、って。躊躇いの一切ない良い返事だよ……笑顔も眩しいよ……。

じゃなくて! これはさすがに止めなきゃ!


「確かに危険度は低いと思うよ。でも、エーリくんのような小さくて魔法の使えない子どもじゃ危険だよ! 魔法を覚えてからでもいいんじゃない?」

「そうだねー、それも一理あるねー」

「一理しかないと思うけど……」


念入りに体をほぐすエーリくん。このままじゃ本当に回廊へ突入しちゃうよお。どうしようどうしよう!


「よし!」

「ま、待ってエーリくん!」


右往左往している内に、エーリくんは柔軟運動を終えて歩き出した。方向はもちろん回廊の洞窟。

慌てて回廊とエーリくんの間に割り込む。


「どったの天使。一緒に行く?」

「一緒に行きたい気持ちはあるんだけど、今は止めとかない? さっきも言ったけど、魔法使えないぼくらじゃ危ないよ!」

「大丈夫! その気になりゃ魔法なんてポロッと出るさ!」

「そんな肌に刺さった木くずじゃないんだから……」


ダメだ。エーリくん行く気満々だ。意志が固すぎる。

たとえエーリくんが男子連合軍を勝利に導いた軍師だとしても、この先は危険すぎる。いざとなったらぼくがエーリくんを守ればいいけど、守りきれない事態になったら……!


「レッツゴー、回廊!」

「あっ!」


エーリくんがぼくを避けて歩き出す。行ってしまう!

こうなったら、力づくでも――。



「つまりよぉ、魔法が使えりゃいいんだな?」



突如、ぼくらの背後から声が響き渡った。こ、この声は!

二人して振り返ると、案の定、


「男子連合軍リーダー! リューイだ! 初級魔法、使えるぜ?」


全身緑色のゴブリン族であるリューイくんが、腕を組んで仁王立ちして楽しそうに笑っていた。熟れたリンゴじゃなくなっている。


「酔っ払ってたんじゃ?」

「オレは酒好きなゴブリン族だぜ? 酔いなんて水飲めばすぐ回復するっつーの」

「それは普通にすごいね」


完全に酔いから覚めているリューイくんは、軽快な足取りでこっちまでやって来た。


「キリコッテがエーリ捜してたから後追ってみりゃ……楽しそうなこと企んでるじゃねぇかエーリ! オレも混ぜてくれ!」

「いいよ。やっぱ冒険にはパーティが必要だ」


エーリくんの即決により、リューイくんがサンキュー! と言って杖を取り出した。準備万端みたいだ。


「ひゃっはー! ワクワクしてきた!」

「だよね! やっぱこういう洞窟って冒険したくなるよね!」

「……」


盛り上がる二人に対し、ぼくはなんとなく無言で佇む。


ま、まぁ、これならぼくが止める理由はない……のかな? リューイくんならエーリくんのこと守れそうだし、うん。


……なんとなく寂しい気持ちがする。ぼくも、エーリくん達と一緒に冒険したいのかも。

そんなことを考えていると、エーリくんが僕の背中を叩いた。


「ほら、行くよキリコッテ」

「え?」

「え? じゃないよ。一緒に行きたい気持ち、あるんでしょ?」

「……」


エーリくんが、優しく微笑んでいた。まるでぼくの気持ちを見通しているようで、嬉しい気持ちが胸いっぱい溢れてきた。

そうだね。実はぼくも、エーリくん達と一緒に冒険したいんだ!


ぼくも自然と楽しくなり、元気よく頷いた。


「ぼくも行きたい。てか行っちゃお!」

「うん! 行こう!」





……この物語は、聖戦の一週間後に勃発していた、真っ暗闇の洞窟回廊とそれに挑むぼく達の戦い――『闇戦』を記したものである。


「行くぞ! 楽しい冒険の始まりだぜ!」

「魔法ならオレに任せろ!」

「……勢いで行くことになったけど、大丈夫かなぁ?」


不安しかないぼくらの前に、一体何が立ち塞がるのか?

『闇戦 完結編』。乞うご期待!

次回から<五日目>です。

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