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魔法によって飛んだ空  作者: 元祖ゆた
運営会選挙編 
44/64

第四十三話 預かり知らぬ出来事 <四日目>

~前回のあらすじ~

冬なのにホラー。


………………<エーリ>

「そ、そこの人! 水を! 水魔法を!」

「お願いします。豪快にバシャッとかけてやってください」


なんだろうな、この状況は……。


四日目の放課後である。

フィレ先輩の部屋にかかった結界魔法、イースオスマ、風邪が長引くゲンジ、法王女捜索について並列的に思考しながら、カイズブルー城目指して人通りの少ない小道を歩いている時のことだった。


前方から奇妙な二人組がやって来た。

一人はキラキラ輝く青色の長い髪をなびかせ、頭の上に真っ赤なリボンを付けている少女。

見た感じ、元の世界だと中学生ぐらいの女の子だろうか。胸の成長がお早いようで、見てはいけないと思いつつ目が奪われてしまう。


もう一人は藍色の長髪少女。自然発生的に、髪の部分部分が巻かれている。

この子も中学生くらいの年の子だろう。スラッとした体型で、読者モデルでもやっていそうな雰囲気出てるね。


と、ぼんやり分析していると、突然青髪の子が悲鳴にも似た声を上げた。


「もっ、もう無理ですぅ! 我慢できないです!」


それと同時に、シュワアアアアアアと青髪の子の下半身から、突如泡が発生し、


「あ、あぅあー……」


足がなくなった。

正しくは、人の足がなくなり、魚になったのだ。これには僕も、胸ではなく足を凝視することとなった。


「(に、人魚だと!?)」


どこからどう見ても魚である。ピチピチとしていて美味しそう。

聞いたことがある。十大種族テンバランスの中にはマーメイド族なるものがいて、下半身が魚の女だけの種族らしいと。マーメイドとはいえ、海の中だけでなく地上でも生活しており、魔法によって足を生やして、人に混じって生活をしているのだと。

まさか、こんなところで人魚に出会うことになるとは……!


青髪の子は顔を紅潮させ恥ずかしそうに、両手で魚足を隠しながら僕を鋭く睨みつけてきた。

……隠しきれてはいないけど。


「見るなですーッ!」

「そんなこと言われても、マーメイド族を見るのは始めてだからなぁ。せめて十分だけ見るのを許してよ」

「鬼畜です!? 十分は長いです!」

「じゃあ十秒でいいや」

「諦め早いです!? なんか自分に自信が持てなくなったです……」


どっちだよと思いつつ、僕は中腰になって足を見た。

完全に魚である。光沢があり、鱗が規則正しく敷き詰められており、尾びれもちゃんとあった。

感触はどうだろうか。


「ちょいと失礼」

「ひゃわ!」

「おー。やっぱ魚っぽいんだね」


下半身の魚部分を、手で触れてみた。

手触りがまんま魚だった。ツルツルとして、弾力があり、手で押すと柔らかさも感じることができる。


「いっ! いいいいきなり何するですか!? 乙女の肌を許可なく触るなんてどうかしてるです!」

「じゃあ触らせてください」

「ええっ!? そ、そんなこと急に言われても……困るです」


どっちにしろ無理だったんじゃねーか。そんなしおらしくなられてもこっちが困るんだが。


それにしても、これはいい経験だ。海のある国に行かなければマーメイド族とは会えないと思っていたからなぁ。

新発見は、人魚って尾びれのちょっと上の部分で立つことかな。シャチホコの逆バージョンみたいな感じ。

あと、尾びれの先っちょがピンク色をしているのは、一般的な魚には見られない特徴かな。この子だけの特徴という可能性もあるけど。


あ、そうそう。これも知りたかったんだ。


「排泄ってどこからしてるの?」

「デリカシーなさすぎです!?」


全力で怒られた。ま、これもいい経験と思っておこう。





そうやって数分間、動物園で動物を観察するように、マーメイド族を観察していると、一緒にいた藍髪の子が僕をジロジロ見ていた。観察には観察で返すということかも。


「貴方はヒューマン族のようですね。どこか違和感を覚えますが」

「ああ、それは多分血のせいだろうね」

「血?」

「僕の父親がエルフ族とヒューマン族の混血クォーターらしいから、ほぼヒューマン族だけど若干エルフ族の血が流れているんだ。それが違和感の正体かもね」

「なるほど。そう言われると耳が尖っているような気もしますね」


違和感を解消できて満足そうな藍髪の子に視線が移りつつ、脳内では別のことを考えていた。

ロズー村で暮らすアルンティ-ネ家のことだ。

思えば、初めて転生して見た異種族は、父のディーベだった気がする。ディーベは地味に耳尖っているもんなぁ。母であるロベラの額の宝石も、異種族特有っちゃ特有だ。

……元気かな、皆。


「そんなことより水! 水をくださいです!」


懐かしき記憶を思い起こしていると、青髪の子に中断させられた。視線を戻す。


「なんで水?」

「ノヴァ達マーメイド族は水がないと生きていけないのです! お願いですから水を……お願いするですぅ~……」

「なるほど。干からびる的な?」

「そんな感じです。ほら、観察させてやったお礼に、水を……是非」


妙に切羽詰った表情でピチピチ跳ね、疲れて地面に寝転ぶ青髪の子。陸に上がった魚みたいで、ちょっと面白い。

っと、面白がっている場合じゃない。このままだと干からびてしまうのかもしれない。そうなったら一大事だ。

僕は指輪のついた右手を前に突き出した。


「水魔法でいいんだよね?」

「です! 思いっきりどうぞです!」

「了解!」


両手を大きく広げ、微妙に体をプルプル震えている青髪の子に、僕は。


「『放て! 清き水の雫を! 頭を刈り取る絶命の一撃を!』」

「……え?」


魔力が金色の指輪によって効率よく流れていく。普段無詠唱だから微妙に変な感じを覚えつつ、正しく詠唱をする。

詠唱と魔力によって、右手に魔法が顕現する!


「水の首狩り!」


水でできたギザギザの円盤が、掛け声と共に勢い良く発射された。狙いはもちろん、青髪の少女。

高速で飛ぶ円盤が、無防備な少女の首筋に食らいつく――。


「ちょっ、ひゃあああああああああああ!?」


かと思ったら、寸前で消え去った。まるで、そんなものが今まで存在していなかったかのように、パッとなくなった。テレポートに近い印象だ。僕は思わず目を丸くする。


これは、青髪の子の魔法か? 無詠唱というか、無意識に魔法を発動させたという感じだが。

思えば僕も、似たような経験がある。僕の場合、無意識に翼竜落としメテオフォールが発動したけれど、この現象は一体なんなんだろう?


「うーん、不思議だ」

「な、何が『うーん、不思議だ』ですか~~~~~ッッ!!!」


涙目で、軽く息切れしながら迫る青髪の子。近くで見ると若干青ざめていた。


「ノヴァを殺す気です!? あのままボーッとしてたら確実に首飛んでたです! どういうつもりですーっ!」

「いやだって、水魔法って言ってたから水魔法撃っただけだけど」

「常識的に考えるです! バカー!」


怒りの声と一緒にポカポカと胸を叩かれるが、痛くはなかった。

確かに、あんな水魔法浴びたら危ないか。一応、当たる瞬間に消し去るよう魔法を待機させていたんだけどね。冗談でもやってはいけないことだった。


「他の水魔法で! 頼んでいる身で申し訳ないですが、もうちょっとソフトな魔法で!」

「そんなこと言われてもなぁ。後は『水爆弾』と、『踊り喰らう水龍』と……」

「待つです! 名前からして物騒です!」

「あ! 急に閃いたんだけどさ、今日の晩飯は刺身にしようと思うんだ」

「!? 誰を食うつもりですっ!?」


咄嗟に僕から距離をとる青髪の子。今にも泣き出しそうである。

やばい、ちょっと楽しくなってきた。


「……その辺にしていただけないでしょうか」


青髪の子を庇うように、藍髪の子が前に出た。なんとなく、主人を守る騎士をイメージさせた。

もしかしたら、この二人は主従の関係なのかもしれない。


「ごめんごめん。反応が可愛くてついね」

「か、かわ!?」


二人が何か言ってくる前に、僕は大きめの水の塊を瞬時に生み出して、有無を言わさずぶっかけた。

すると、普通なら水浸しになるはずだが、二人は微塵も濡れていなかった。瞬時に吸収されたということか?


不思議そうな顔をしていると、藍髪の子が僅かに微笑みながら説明してくれた。


「マーメイド族は水に住む種族です。だから水の扱いに長けているのですよ。この程度の水、一瞬で吸収できてしまいます」

「へぇー。まるでスポンジだ」

「……そう言われてしまうと、マーメイド族がしょうもない種族に聞こえますね」


僕が頷いて関心していると、藍髪の子が疑問を投げかけてきた。


「それにしても、よく私がマーメイドだと分かりましたね? 確か私は、マーメイド族とは一言も言っていないはずですが。下手したら関係ない私をずぶ濡れにしてしまうところだったのですよ?」

「そっち青い髪の子がさ、さっき『ノヴァ達マーメイド族は』って言ってたでしょ? ノヴァっていうのはよく分からないけど、『達』を付けるってことは、複数人マーメイドがいることを表している。この場でそんな表現を用いるってことは、青い髪の子だけじゃなくキミもマーメイドなのかなぁって」

「……そういうことでしたか。素晴らしい推理力ですね」

「別に推理じゃないさ。ただ会話の中に不自然な単語があったから、自分なりに突き詰めてみただけ」


なるほど、聡明なお子さんですねと言って、藍髪の子に頭を撫でられた。

そういや僕は五歳児だった。たまに忘れるんだよなぁ、自分が子供だってことを。本当は五歳児のフリをしなくちゃいけないんだけどさ。


しばし撫でられていると、藍髪の子が、僕の指にはまっていた指輪を目ざとく見つけた。


「その指輪、中々高いものを身に付けていますね。もしかして貴族のご子息様じゃないですか?」

「まーね」

「そう言えば、名前を聞いてなかったのです」


僕と藍髪の子の会話に、水を受けて復活した青髪の子は入ってきた。なんとなく、最初会った時よりも潤っている気がする。

てか、いつの間にか足が生えているし。僕が見た限りじゃ、魔法らしいものを発動している気配はなかったけど……。


「何度か命の危機はあったですが、それでもきみはノヴァ達の命の恩人です。名前、教えてくれないですか?」

「ああ、僕は――」


普通に自己紹介をしようとして、気が付いた。

今の僕は腕に戦士学科のリングを付けている。この状態で賢者学科のエーリ・アルンティーネを名乗ると、後々面倒な問題が発生するかもしれない。

そう考え、一呼吸してから、


「戦士学科一年のコブシデだ。コブシデ・ナッグール」


と名乗ることにした。

ケリ・マクルではなく、コブシデを名乗った理由は、ケリは神帝の風紀委院用の名前だからだ。なんとなく、神帝以外でケリの名を使う気は起きなかった。


まぁ、彼女達が神帝の可能性もあるけど、いくらでも誤魔化しはできるだろう。一番ダメなのは賢者学科のエーリだと知られることだ。

本当、この学園が広くて助かった。学科間の親交も薄いし。


「ノヴァはジェノーヴァ・ヴァンジーニって言うです! 気軽にノヴァでいいです!」

「私は姫――ジェノーヴァ様に仕えております、ラージャ・ウンディウスと申します。ラージャで構いません」


青髪の子がノヴァ、藍髪の子がラージャね。うんうん、なるほど。

……あれ? なんか聞き覚えがある名前だぞ?


「ノヴァに、ラージャね。僕のこともナッグール様って呼んでくれればいいから」

「妙に偉そうです!?」

「姫、この子は貴族の子らしいです。だから様呼ばわりするのは当たり前と言えば当たり前ですよ」

「そ、そうなのです?」

「ははっ、冗談だよ。コブシデでいいって」


もう! と言って頬を膨らませてむくれるノヴァを見て、なんとなく笑う僕とラージャ。

ふと、二人の名前に既視感を覚えた理由を思い出した。


「コブシデ! 助けてくれてありがとです!」

「ありがとうございます、コブシデ」


ノヴァは満面の笑みで、ラージャは控えめだが確かに頬を緩めさせて、感謝を述べた。簡単な水魔法をかけただけの僕には、勿体無いほどのお返しだった。


……ああ、この人達になら、メドナを任せられるな。


「どういたしまして」


僕はそう言って、二人の横を通り過ぎて歩いた。またねーっと後ろの方で手を振っているノヴァ達に、軽く手を振って、目的へ向けて真っ直ぐ進んだ。



聖女ジャンヌダルク、勝てるといいな。

暮れ始めた景色を眺めながら、僕はそんなことを心から思ったのだった。





そんなちょっとした出会いがあった数十分後のこと。

無事カイズブルー城にたどり着いた僕は、病室みたいな風紀委院室にて、いつもの面々と顔を合わせていた。


「手分けして捜すと言っても、この学園は広大だ」


雄々しく濃い顔をしているピサス・ライネスに、


「そうよ。はっきり言って、選挙まで間に合わないわ」


だるそうに頬に手を当てているモデ・ミニャー。

二人は神帝でも一番権力を持った組織、風紀委院のツートップだ。そんな二人を従えているのがこの僕だ。


「とはいえ、案が浮かばんからなぁ」


うーん、と僕は腕を前に伸ばして、凝り固まった体をほぐした。

要は法王女、司教院、図書委院のどれかを見つけさえすればいい。法王女か司教院ならベスト。

しかし、法王女と司教院は完全に行方を眩ませている。


「部下達に聞いてみたけど、誰一人として法王女様並びに司教院の行方を知る者はいなかったわ」

「俺も聞いて回ったが、誰も知らないようだった」

「うむむ、そっか」


一番権力を持っている風紀委院でさえ足取りが掴めていないんだ。法王女と司教院については捜すのがほぼ不可能に近いと認識しておくべきだろうね。辛いけど。


一応、手がかりのようなものはある。フィレ先輩の部屋にかかった謎の結界魔法だ。

これについては、寮に帰ってから調べてみることにしようと思っている。隠密セットを忘れずに使用してね。


手がかり抜きにして考えると、図書委院一択に絞られる。


「なら、今後の方針としては、学園内に潜む図書委院の捜索だ」

「図書委院も中々難易度高いと思うけど?」


モデの言うことももっともだ。図書委院は神帝において異例の存在だからだ。

神帝でありながら他の神帝の人達も知らない、秘密組織なのだ。今のところ、イースオスマより秘密組織してるよな。


「神帝に所属していて、司教院の直属ってのは確実なんだけど……自分が図書委院だって名乗り出た奴なんて皆無よ」

「だろうな。隠匿性こそが図書委院の強みだろうからな」


二人の会話を聞きつつ、僕は図書委院についての手がかりらしきものを考えていた。

図書委院は司教院の直属、すなわち法王女の一番部下であるのは司教院だから、法王女の手先と考えてもいいだろう。

法王女の手先、ただそれだけを考えると、一つの可能性が浮上する。それは、シェーナの監視だ。

シェーナに固執している法王女が、隠れた状態でシェーナを放置するとは思えない。いずれ自軍へ引き入れようと、目を光らせているだろう。

だとしたら、誰がシェーナを監視するのか。その役目こそ、図書委院。


「(シェーナを監視するとしたら、やっぱりクラスメイトか同じ賢者学科に所属しているとやりやすいよな)」


そう思うと、クラスメイトの友人が一番適任だ。面々の顔がハッキリと思い浮かぶ。


「実際、どうやって図書委院を捜すのよ」


お手上げとばかりに疲弊した顔を見せるモデ。隣に座るピサスも、普段より厳しい顔つきをしている。


「一応、今日はできないけど今後使える作戦がある。と言うか、今日思いついた」

「! な、何よ。そういうのあるんじゃないの!」


途端に目が爛々としているモデを前に、僕は溜息をついた。

きっと、今鏡で見ると苦虫を噛み潰したような顔をしていることだろう。

そんな僕を見て、見るからに不機嫌になるモデ。


「何よその顔。すっごく嫌そうじゃない。ウチに話すのが嫌だっての?」

「いや、そういうわけじゃないよ。僕がモデに話すのを嫌なわけがないでしょ」

「……そう、それならいいけど」


そして妙にご機嫌になるモデ。訳が分からん。


「ケリが実行するのを躊躇うような作戦なのだな?」


ピサスの問いかけに頷く。そう、この作戦は思いついたはいいが、正直実行したくない策。


「成功確率は?」

「ノレルの福泉の時と同じだよ。一度限りで、成功するかしないか、それだけ」

「うむ、なるほどな」

「……」


それから僕は黙って考えた。

これをやってしまうと、僕は確実に辛い思いをする。悪の道を順調に進むこととなる。本物の小悪党になるのも時間の問題だ。


……いや、いいんだ。僕のことは。

それよりも何よりも、この作戦ではある人を使わなければならない。

そう、使うのだ。人を、使う。


「(……はぁぁぁぁー。やるしかないか)」


気が滅入るどころではない。こんなこと、一生やりたくない。

よく漫画やアニメではあるシチュエーションだが、自分でいざやるとなると、こんなにも心が痛むとはね……。よくこんな残酷なことができたもんだ。


僕の心の中の決意に、二人は気が付いたようで、真剣な表情で待っている。その様子は頼もしさすら感じさせた。

……ははっ。いつからこの二人を頼もしいなんて思うようになったのか。やっぱおかしくなってんなぁ僕は。


咳払いを一つしてから、僕は意を決した。

作戦を実行する決意を。


「今後――詳しく言うと、明日オンリーで行える作戦なんだけどね」

「おう」「ええ」


明日は五日目。つまり、


「明日は運営会選挙の立候補の締切日だ。そこで法王女が目をつけているシェーナ・エストーナを立候補させた後に、そのことを広く宣伝する。……無防備な状態で」

「シェーナか……。無防備ということはつまり」

「ああ」


僕は言葉にするのも躊躇われることを、言い放った。



「シェーナを囮に使って、図書委院をおびき出す」



守るべき存在を守らない。ああ、なんて最悪な手だよチクショーが。


「つまり、こういうことだ。法王女が目を付けているシェーナを立候補させることで、確実に監視の目をを動かすんだ。そして動いたところを僕らが捕らえる。これが作戦。ただ、その際シェーナの側に僕らはいちゃいけない。じゃないと、監視も警戒して動きにくいだろうからね」


シェーナを監視している奴らは大層驚くだろうな。このことを、法王女に報告しないわけがない。

またシェーナ自身も無防備だから、直接接触してくる奴もいるかもしれない。

そういった輩をまとめて叩く。これが、僕の考える囮作戦だ。


「監視って、あの子監視されているの?」

「されているさ。法王女はシェーナに執心らしい」

「そのことは俺が保証しよう。確かに、シェーナは法王女から目を付けられていた。だから俺に確保命令が下ったのだろうしな」

「……ふぅーん」


ピサスの言葉に、モデは一応承諾したようだ。


「今回のこの作戦は前回のリベンジマッチだ。今度こそ勝つぞ」


無言で頷き、闘志を燃やす二人。無論、僕も燃えている。

シェーナを囮に使うんだ。絶対に成功させないと……。


と言うか、そもそも囮になってくれるかなぁ。





具体的な打ち合わせを終えた頃には、既に外は暗くなっていた。いつもより遅い時間だ。


「それじゃ解散するか」

「そうね」

「ああ」


十分に作戦を練った。後は明日に備えて英気を養うだけである。


……あ、そういや愛の羽について言うのを忘れたな。シェーナが立候補すること自体は決定事項だったってことも。

まぁ、それは明日でいいか。支障はないだろう、多分。


そんなことを考えていると、部屋の隅でピサスが魔法道具の置いてある棚から、何やら道具を漁っているのが見えた。それだけだったら気にもしないところだが、彼が持っていた魔法道具が少し気になった。

魔法道具『思考聴取の法』。一見するとただのニット帽にしか見えないが、実際は凶悪な道具である。


「『盗み聞き』なんて持ち出して、何使うん?」


通称、盗み聞き。効果は、『被っている者の考えていることを音声化する』。

なんて恐ろしい帽子なのだろうか。その効果から、拷問用アイテムとして有名である。


僕も中学校の頃、よく妄想したものだ。実は他の人に、自分の考えていることが全て漏れているのではないか、とね。それが現実のアイテムとして実現しちゃってるわけですよ。

教室をテロリストが占拠したり、突然クラスメイト同士のバトルロイヤルが行われたり、無人島へ漂着してサバイバル生活をする羽目になる想像・妄想・幻想が、垂れ流し状態になるんだぜ? 怖すぎ!


まぁ、使用する時に莫大な魔力を必要するから、名前だけが有名なんだよな、これ。マジでよかった。


「前に、神帝へスパイが紛れ込んでいたというのは知っているか?」

「! あ、ああ。管理委院にスパイがいたんだっけ」

「そうだ。そのせいで前回の選挙で運営会になれたのにも関わらず、運営があまりできなかったのだ」


一瞬、スパイって自分のことを言われているのかと思った。ったく、冷や汗もんだぜ。


「四日程前に、遂にそのスパイの正体を暴き、拘束することができてな。ずっと牢にぶち込んでいたんだ」

「牢とか物騒だねぇ」

「仕方ないだろう。スパイは中々の手練でな。自身へ結界魔法をかけて洗脳系の魔法を無効化しているんだ。これではなんの情報が盗まれたのか分からない上に、記憶消去もままならない。魔法無効石も、魔法を使われた後だと意味がない。とりあえずしばらくの間、牢に入っていてもらっているわけだ」

「へぇー」


スパイというのもの最後は切ないもんだ。正体が知れればあっさり殺される。それが行われていないということは、ピサスが手練というだけはあるのだろうね。


「それでそんな魔力食う道具を持ち出そうとしている、と」

「そうだ。これを使うには数十人は必要な上に、皆『魔力切れフレームアウト』を起こしてしまうからな。あまり使いたくはないんだが仕方ない」


魔力切れとは、体内の魔力が枯渇した状態を表す。魔法が使えない上に、体力も消費してしまい、大抵の場合動けなくなる。

魔力逆流フィードバックとはまた違った、悪い状態バッドステータスだよね。


「選挙までほっとくつもりだったんだが、法王女からの命令で急遽拷問することになったんだ」

「! 法王女からって……ああ、昨日のか」


そういや昨日、僕とモデが体育委院五十人を相手に戦っている間、ピサスはノレルの福泉にある洞窟で、法王女から指示を受けてたんだっけ。指示内容聞くのをすっかり忘れていたよ。


「法王女からの指示は『神帝に入り込んでいた間諜を、明日中にでも拷問にかけてください』というものだった」

「ふーむ。急ぎの命令って感じ?」

「ああ」


そりゃ自分の組織に潜んでいたスパイを処分するのは当たり前だが、急ぎの命令とは妙だな。

ピサスの言う通り、選挙が終わるまで拘束してりゃあいいのに。


「そういうわけで、今から拷問に行ってくる。じゃあな」


そう言って、ピサスは道具を持って出て行った――。


その前に。


「スパイってどんな奴?」


僕は自身と同じスパイに、軽い興味を持った。

この場合のスパイとは、十中八九魔女の月の戦乙女ワルキューレだろうから、聞いてみて損はないと思った。


「ああ、そいつは――……」


そんな、軽い気持ちだったのだが、ピサスの一言は衝撃的だった。





スパイが捕らえられているという、カイズブルー城の地下牢。

石でできた物々しい階段を全力で駆け下りる。薄暗く、所々にある炎が寂しく燃えている。


考えれば分かることだったじゃないか! 時期が見事に合致していることとかよぉ!


汗を飛ばしながら、息も絶え絶えに、僕は牢屋へたどり着いた。

カビの臭いが漂い、外よりもヒンヤリしているのは暗い雰囲気のせいだろう。見張りに風紀委院だと告げて通してもらう。

そこは、スパイのいる牢。


「……やぁ、久しぶりー」


僕はあえて、軽い感じで牢の外から話しかけた。スパイは僕の姿を見て驚き、苦笑した。


「まさかエーリが神帝だったなんて……ははっ、こんな姿見られたくなかったなぁ」

「僕もさ。学校じゃキミ、風邪扱いなってるぜ?」

「風邪とか……もうちょっと怪しくない症状にしろよなー」

「僕に言われても困る」

「確かに」


スパイは魔法無効石が埋め込まれた椅子に座っており、両手両足が鎖で縛られて身動きが取れない状態だった。

その顔、姿は、僕の良く知る人物だった。



「スパイってキミだったんだな。ゲンジ」



ハーピー族で僕のクラスメイト、ゲンジューヤ・スウダリ。通称ゲンジ。

彼こそ、魔女の月のスパイだった。

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