第四十二話 輝く一日 <四日目>
魔法学園編 主要キャラクター
<愛の羽>
エーリ・アルンティーネ:主人公。六つの偽名を使い分ける。負け犬その一。
メドナ:エーリのメイド。最近鋭く、探偵じみている。魔女になった。『灰被り』の異名を持つ。負け犬その二。
シェーナ・エストーナ:仲間。平和を愛する優しき少女。自分に出来ることを探す。
<神帝>
フォルエッタ・サンダリア・ミリアーカイズ:通称『法王女』。シェーナの友達。家族を生き返らせるためにシェーナを狙う。
モデ・ミニャー:風紀委院長。司祭院。毒舌娘。今ではエーリに頭が上がらない。最近素直。
ピサス・ライネス:戦士学科の男。助祭院。フレンシアと応接室前で争う。『王の城』という防御魔法を扱う。メドナに論破され、狙うの止めた。
音楽委院長:背の高い少年。エーリに助けられ、入隊の協力をする。結構したたか。
フィレ・ディーノ:男子寮の先輩。司教院。商人学科二年。ワーグ族で狐ベース。姿を隠している。
<魔女の月>
ローニャ・エトーリア:通称『死女神』。戦乙女を率いる集団のボス。学園に眠る秘密の魔法を狙っている。
フレンシア・ガルドバルゴ:戦乙女ナンバー2。戦士学科三年。炎を纏う『業火の鉄拳』という魔法を使う。信じやすく素直な性格。ウサ耳。
ジェノーヴァ・ヴァンジーニ:愛称は『ノヴァ』。聖女のボス。騎士学科五年。語尾が特徴的。巨乳。『聖天使』の異名を持つ。
ラージャ・ウンディウス:聖女の副ボス。剣士学科四年。ジェノーヴァの付き人。紅茶をいれるのが上手い。『結露』の異名を持つ。
ツァーチ・レンゲラ:戦乙女の中枢メンバーの一人。フードを深く被り、大きめのローブで正体を隠している。感情を操る。
暗闇の魔女:魔女の月創始者にして、魔女を生み出す『真祖』。お菓子作りとぬいぐるみ編みが趣味。
蒼海の魔女:暗闇の魔女の友達。『魔女名』を持つ魔女の一人。マイクパフォーマンスが得意。プライベートは暗い性格……?
<クラスメイト達>
キリコッテ・ジャバッツ:ワーグ族。猫耳少年。可愛い。愛しい。魅力的。監視人候補その一。
カテマ・ロフ:ジャイアント族。図体はでかいが、心はおおらか。監視人候補その二。
リューイ・ガオーカ:ゴブリン族。男子のリーダー的存在。スケベ。監視人候補その三。
ヤスラ・アービー:ドワーフ族。褐色少年。影が薄い。監視人候補その四。
ゲンジューヤ・スウダリ:ハーピー族。ゲンジ。最近いない。監視人候補その五。
ケイシー・エナー:エルフ族。女子のリーダー的存在。エーリを可愛がるお姉さん的ポジション? 監視人候補その六。
リコプル・タティーシ:ノーム族。三つ編み少女。何故かエーリをご主人と呼ぶ。監視人候補その七。
<その他>
アリア・ニグル・アクトゥース:レオの姉。担任教師。昔はやんちゃしてた。
ドランソー・レアヴォワ:入学試験の試験官その一。ロマンスグレーのおじさん。決断ができる人。
ハッチョー・アンダマウサ:監視のプロ。法王女の捜索と監視が仕事。チャラい。
アン・ディシポ:試験官その二。沈黙。
チフェロス・ナナン・ルートス:学園の理事長。魔王のような風格。
~前回のあらすじ~
秘密組織なのに公になっているイースオスマ……学園は敵だらけ。
………………<エーリ>
四日目の朝である。
僕は夢を見ていた。元の世界で高校生活を送っている夢を。内容までは思い出せないが、なんか楽しそうな印象を受けた。
窓を開け放つと、冷たい風が一気に部屋の中を駆け巡り、身を震わせることとなった。
おかげで目はバッチリと覚め、懐かしき夢からも覚め、現状を思い出した。
「(さて……これからどうしようか)」
法王女とその一番部下である司教院の居場所は結局掴めず。司教院の部下――図書委院ですらも分からない状態だ。
一応、シェーナを監視しているクラスメイトの誰かが、図書委院である可能性があるのだが、あくまで可能性の一つであり確実ではない。
ったく、図書委員なら図書室にいろよなー。誰が受付で貸出カードとかにチェックするんだよー。
お先真っ暗、先行き不安、前途多難である。
とりあえず、このまま悩んでいても遅刻するだけなので、学校の支度をして部屋を出た。
それから廊下を歩いていたが、ふと思い立ち、フィレ先輩の部屋の前まで足を運んだ。僕とフィレ先輩は同じ階に住んではいるが、僕は東側の一番奥で、フィレ先輩は西側の方なので、寄り道になってしまうのだ。
部屋は相変わらず閉ざされたままで、ノックしても出てくる気配がない。というか、気配を感じることができない。
「(まぁ、いたとしても出てこないわな)」
当たり前なことに内心苦笑いをしつつ、扉を見た。正確に言うと、扉にある変な模様だ。
これは前回、ピサスを仲間にした日に、フィレ先輩の部屋へ訪れた時に発見したものだ。その時はどうしようもない絶望感でいっぱいだったため、思考を放棄していたが、今なら冷静に考えられる。
僕は扉にある変な模様を近づいて凝視した。幾何科学模様に、この世界の昔の文字がつらつらと書き連ねられている。
要するに、
「(……魔法陣、だよなぁ)」
僕も皆も使っているお馴染み、魔法陣である。
陣の模様から察するに、何らかの結界魔法のようだ。魔法大全の知識を使えば、魔法陣の読み取りなんて朝飯前だぜ。
「(結界魔法か……。何故わざわざこんなものを)」
しかし何故、フィレ先輩は自身の部屋に結界魔法をかけているのか。
一応、この寮の部屋は魔法無効石が施されてあるから、外部からの侵入は防げるはずなんだけど。扉自体も頑丈なので、物理的にも壊れない。だというのに、わざわざ結界魔法をかけるメリットは?
「(ここが鍵になりそうだな)」
授業中はそのことをずっと考えているんだろうな、と容易に未来の自分が予想できるのであった。
教室に入ると、いつもの面々が駄弁っていた。
「マジマジ! オレ見たんだって!」
「なんか嘘っぽいー」
「興味は惹かれるがな」
「んだよ、信じてくれよ!」
リューイがヤスラとカテマ相手に、何かを熱く語っているようだ。
この中に今日もゲンジはいない。本当にどうしたのだろうか? ただの風邪なのか?
「うぃーす」
「おっ! エーリよく来た!」
軽く手を挙げながら輪に入ると、待っていましたとばかりに、リューイに肩を掴まれた。それはもうガッチリと。
「朝から暑苦しいなぁ。どうした?」
「それがよー、聞いてくれよエーリ!」
「おう。聞くから手離してくれない? まず荷物置きたいからさ」
「おっと、悪い悪い!」
途端にぱっと手を離すリューイ。彼が握っていた肩は若干湿っぽくなっていた。
どんだけ手汗かきながら熱弁振るっていたんだか……冬だから良かったものの。いや冬でも他人の手汗は嫌だけど。
「それで、どうしたの?」
「ああ……」
僕の問いかけに、リューイは静かに語り始めた――。
つい昨日のできごとである。
夜遅くに腹の減ったオレは、街へ繰り出した。ああ、街っていうのは、学園内にある飲食街のことな。オレは夜遅くに外食するのが好きなんだ。
……え? 夜食は太るって? ま、まぁ細かいことはいいだろ。その分運動してるからよ。
ここ最近はずっと牛丼だったから、たまには豪勢な物でも食いてえなと思いながら歩いていたわけよ。
……何? 牛丼が豪勢じゃないとかふざけんな? いやだって実際豪勢じゃないだろ。
はぁ? 牛丼舐めんな? エーリはなんでそんな牛丼に対してキレてんだよ。なんか牛丼の思い入れでもあるのかよ?
……いや、いい。言わなくていいから。なんかそのエーリの顔、話長くなるって顔だもん。ヨシノヤとかスキヤとか意味分かんない単語連発しなくていいから。知らねーから。何だよマツヤって。
それより話戻すぞ。どこまで話したっけ……え? 好きな女の子について?
いやいや! そんな話微塵もしてねーだろ! そもそもオレは好きな奴いねーし。
……なんだよ? なんで皆後ずさってんだよ。違うぞ? オレホモじゃねーよ? ちゃんと女の子好きだよ?
じゃあ好きな女の子はだって? そりゃあシェ――って言えるかバカ! いねーよ! このクラスにゃいねーよ! なんだその目は! ぶっ飛ばすぞ! おバカ!
んなことより話戻すぞ話を! えっと、どこまで話したっけ……。いや、好きな女の子については絶対に話していない。断言できる。
あ、そうそう。夜食のために外歩いてたんだった。
丁度カイズブルー城辺りを歩いていた時だった。オレは見てしまったんだ――。
「血に染まった女の人をおおおおおおおおおおおお!」
「「「ぎゃああああああああ!?」」」
突如割り込んできたホラーめいた叫びに、僕以外の男どもが本物の叫び声を上げた。お互いに抱きしめ合って震えている。
僕は呆れた顔で、急に割り込んできた人を見た。
「……こういうのは程々にね、リコプル」
「にっしし! なら、これからも程々に怖がらせよーっと!」
緑髪の三つ編みノーム族、リコプルが楽しそうに笑っていた。無邪気な笑みとはこのことか。
数秒後、男子達は現状に気が付いて気まずそうに離れた。そりゃガッツリ抱き合っていたもんなぁ。カテマがデカイからカテマに二人が包まれる感じになっていたけど。
そして彼らは、元凶へと怒りの声を飛ばす。
「リコプルてめぇ! オレの話を勝手にホラー脚色にすんじゃねーよッ!」
「怖くねーけどビックリして抱きついちまったじゃねーか! 怖くねーけど!」
「あっし、ドキドキしたわー」
「……怖くてドキドキしたんだよな? そうだよな? 妙に頬赤いけどそうだよな?」
「……」
「「無言!?」」
ギャーギャー騒ぐ二人を見ながら、もう仕切り直せないだろうなーと呑気に思った。
「結局何見たんだろうね?」
リコプルも気になっているようで、僕と同じように彼らを眺めていた。
っていうか、流したのリコプルじゃん。何他人ヅラしてるんだよ。キミが割り込んでこなければ、聞けていたものを……。
「(……まさか、わざと?)」
リューイが見たものは隠れているはずの法王女で、図書委院のリコプルは情報漏えいを防ぐためにわざと話に介入して流した……とか。
「(根拠もないのによくそんな想像できるよな僕は……)」
確かに可能性はある。が、そんなこと言ったら、他のことまで疑わなきゃいけないことになる。怪しいのはリコプルに限ったことじゃないんだから。リューイ、ヤスラ、カテマの一挙手一投足にも注意して、日常生活を送ることになる。それはさすがに心が折れる。
疑いだしたらキリがない。警戒はしておくが、今日のことは一応頭の隅っこにでも入れておこう。それでいい。
あくまで僕は、身に降りかかる火の粉を振り払うだけだ。
「ご主人はホラー平気なの?」
「ま、ある程度は」
「ふぅーん。じゃあ、とびっきり怖い話をしてあげるの! 勝負よ!」
「「!?」」
「望むところじゃん」
「「!?!?!?」」
授業が始まるまでの間、男子三人の叫び声が教室内に響き続けた……。
授業が終わって休み時間になった。
メドナと授業について談笑していると、ケイシーとキリコッテがやって来た。
ケイシーは今日も凛としていて、キリコッテは相変わらず天使だった。ああ、心が浄化されていく……。
「ふふふー、エーリちゃんちょっとしたハーレムね」
「……ん? いや、ぼくは男だけど」
キリコッテが何か冗談を言っているようだが、皆気にしない。
「なんか用かー」
「まーね。用がなきゃ二人の愛の語らいに割り込まないって」
「何が愛の語らいだよ」
ニヤニヤしながら言うケイシーを、軽く小突く。五歳のガキが何を語るんだか。
「愛の……語らいですか」
メドナが赤面しながらボソボソ呟いている姿を見れた点では評価できるけどね。
ケイシーはメドナの反応を見てニヤつきつつ、声を絞って話し始めた。
「イースオスマ、って知ってる?」
「イースオスマ?」
初めて聞く単語だ。メドナの方を見ると、彼女も知らないらしく首を横に振った。
自然と顔を寄せ合い、ヒソヒソと会話をする格好に。
「秘密組織イースオスマ! セビトロ帝国の精鋭が集まって出来た組織らしいわ」
「それもう秘密じゃなくね?」
「名前はね。実態は確かに詳細不明らしいわ」
「なるほど。それは不気味ですね」
秘密結社なのに全国的に有名というのはよくある話だが、実態が掴めないというのなら、確かに秘密組織と言えるかもね。
それにしても、セビトロ帝国ねぇ。
この世界……というかディメヴィア大陸は、ソラセット帝国、セビトロ帝国、ナフィー帝国の三つの帝国が主となって回っている。
『異世界』
●ディメヴィア大陸……十の国からなる大きな大陸。あらゆる種族、文化が栄える。
◎ソラセット帝国:あらゆる点で一番の大きな国。多くの従属国を抱える。以下四国が従属国。
・ヴィス王国
・ボルマー王国
・ピトーヤカ王国
・ガサセ王国
◎セビトロ帝国:二番目に大きな国。『空中要塞』と言われている。
◎ナフィー帝国:三番目の国。ジンピューロ王国を従属国としている。
・ジンピューロ王国:大都市ピレオス、ロズー村がある僕の生まれた所。
◎アーキュリ公国:小さい国ではあるが、歴史は古い国。
◎ルムーン公国:一番小さな国。シェーナの生まれ故郷。
●ラミヴィア大陸……生き物が住むには難しい大陸。知性の持たない種族がたくさん住んでいる。未踏の地が多く存在する。
……。
…………。
………………。
ざっとこんな感じか。
このままいけば、確実にソラセット帝国が全領域を支配すると言われている。セビトロ帝国としては、それは防ぎたいところだろう。
だから、自分達よりも下のナフィー帝国を狙っているというわけだ。ナフィー帝国を吸収できれば、確実にセビトロ帝国は強くなれるだろうし。
「んで、そのイースオスマだかがどうしたん?」
なんとなく、予想はつくが聞いてみる。すると、ケイシーは一際怖い顔を作り、
「この学園にいるらしいわ。わたし達を攫おうと陰に隠れて狙っている……! 例えばぁ、メドナちゃんの後ろに!」
「! きゃああああああっ!」「ひぃぃ!」
両手を大きく広げ脅かすように叫んだ。本人は怖がらせているつもりだろうけど、高校生の僕にゃこの程度通用しませんぞ。伊達にホラー映画鑑賞会開いたりしてないぜ。むしろ精一杯頑張っているあたりが可愛く思えるくらいだ。
ただ、僕の両隣にいるメドナとキリコッテにとっては怖かったようで、両腕を強くロックされた。嬉しさと痛みが同時に襲ってきて結果的に辛い。
僕の様子を見て、残念そうに広げていた両腕を下ろすケイシー。
「うーん、やっぱり驚かんかー」
「ホラー系は結構平気なんだ。てかその言い方、まるで僕がホラーで驚かないことを事前に知っていたような言い方じゃん?」
「鋭いねー、エーリちゃん。実はリコプルちゃんから話を聞いてね」
「あの三つ編みっ子め」
今度会った時はその三つ編みを四つ編みにしてやる。
「でも笑い話じゃないんだよエーリちゃん。毎月何人かの生徒が行方不明になっているらしいし」
「え、マジ?」
「マジマジ」
ケイシーの顔を見る限りじゃ、嘘はついていないようだが……これが本当だとすると。
「(ゲンジ……?)」
法王女やフィレ先輩のように意図があって行方を眩ませるのとは違う。ゲンジが最近学校に来ていないのは、攫われたから?
考えてみると、誰もゲンジのお見舞いに行っていないようなんだよな。風邪だからお見舞いに行くまでもないと考えているっぽい。
早速、放課後の予定が立ったな。
「……いい加減、腕離してくれないかな?」
「「ハッ!?」」
お昼休みに突入した。
愛の羽はいつものように応接室で食うことになっていた。
……の、だが!
「今日は別の場所で食べない?」
シェーナが突然、そんなことを提案してきたのだ。秘密裏に話すこともないし、特に反対する理由はないけれども。
「どうしたのシェーナ? 急にそんなこと言うなんて」
僕がそう疑問を口にすると、シェーナは慌てたように手をバタバタ動かした。
「べ、別に意味なんてないわよ~? ないよないよ~?」
「「……」」
あ、怪しいいいいいいいいいいい!
えっ? 何これすっごく怪しいんですけど? 誤魔化すの下手すぎ! 絶対何かあるやつじゃん!
ついつい訝しげな表情を浮かべてしまう。シェーナは一体何を企んでいるんだ……?
「さぁ、私について来て! かも~ん」
シェーナが僕らの手を引き、前を歩く。この状況に対して、困惑しかない僕ら。
「ねぇ、メドナ。シェーナどうしちゃったん? 何か知ってる?」
「……さ、さぁ? わたしにもさっぱり……あの、シェーナ様。これは一体?」
「いいからいいから。黙って付いてきて~」
謎が謎のまま進行し、気付けば賢者棟の外に出てきていた。
外は寒いというのに、わざわざ外に出るメリットってなんだろうか? まぁ、寒さは魔法でなんとかなるけどさ。
うーん、シェーナがこれからやろうとしていることが、皆目見当もつかないぞ。
やがてシェーナは、僕らをとある場所へ招いた。そこは、いつも横切るが、利用したことのない場所だった。
「庭園?」
「そう、庭園」
賢者棟の入口付近にあるちょっとした庭園。そこには、少人数用のテーブルとチェアーが設置されてあるのだが。
「今日はここで食べましょうよ~!」
そう言って、シェーナは空間魔法のアイテムポケットで大きな包みを取り出した。
見たところ、弁当箱を布で包んでいるようだけど……でかい。数人分はあるんじゃないかというくらいだ。両手で抱えたシェーナの顔が、隠れてしまっているじゃないか。シェーナ一人じゃ食いきれないんじゃないか。
――って、もしかして。
「私、皆の分お弁当作ってきたの!」
なるほどね。そういうことだったのね。
シェーナが僕の方を見て嬉しそうに話す。
「前にエーリくん、言ってたでしょ? 『もしキミがどうしても借りを返したいっていうなら、その内何か美味しい物奢ってよ』って」
「……あー」
確かに言ったな。何もできないことに罪悪感を覚えていたシェーナに、そんなこと言ったっけ。よく覚えていたなぁ。
「だから借りを返すために?」
「奢るのとは違うけど……代わりに私の作ったお弁当、二人に振舞おうと思ってね。……ダメだった?」
不安そうに瞳を揺らすシェーナ。余計なことをしてしまったのではないか、とでも考えていそうだ。
まったく、何が怪しいだよ。
「ダメなわけないじゃん。すっげー嬉しい!」
心からの本心を打ち明けた。こんなことされて嬉しくないと思う奴はいないと思う。隣にいるメドナも頬が緩んでいる。
「坊ちゃまの言う通りです。ありがとうございます、シェーナ様」
「……そっか! 良かったわぁ~!」
ホッと胸を撫で下ろすシェーナ。まさかこんなサプライズを用意していたとはやるねぇ。
包みが開かれ、目の前にはとても手料理とは思えない料理がお披露目となった。箱の中にギュウギュウに敷き詰められた、美味しそうな食べ物の数々。見た目が、香りが、食欲を刺激する。
「じゃあ、早速食べてみて!」
「そうだね、遠慮なくいただこうか。ね、メドナ」
「はい。お相伴に預からせていただきます」
寒くて震える冬の日。
なんとなく、いつもより元気になった気がした。
元気になったとはいえ、状況は変わらない。
放課後になり、僕は足取り重くカイズブルー城を目指して歩いた。ゲンジのお見舞いに行く前に、とりあえず顔を出しておこうと思っていた。
結局、何も浮かばなかった。今日一日考えてみたが、特に閃きもせず終わった。僕の脳も随分衰えたものだな。
「(ぐむむ、マジでこの学園をしらみつぶしに……ん?)」
人通りの少ない道を歩いているので、滅多に人とは行き会わないのだが、今日は珍しく前方から人がやって来た。
一人はサラサラとした青色の髪の少女。もう一人はフワフワとした濃い青色の髪の少女。フラフラしている青髪少女を、藍髪少女が支えるようにして歩いてきた。
「あぁ、水……。水が欲しいのです……」
「もう少しです姫。もう少しで水のある場所へたどり着きます」
「水ぅぅぅぅぅぅぅ! ラージャたん水ぅぅぅぅ!」
「くっ! せめて魔力が残っていればこんなことには……!」
……なんか、すっごく変な二人組なんですけど。
………………<メドナ>
夜です。寒いです。暗いです。
学校が終わってから一眠りして、わたしはいつものようにサタン・ジェロカス城へ向かっておりました。
今日は第一夜・異端審問の反省会です。昨日は雰囲気が完全に死んでいて、反省会どころではありませんでしたからね。
「(明日は第二夜です。一体どのような儀式になるのやら)」
そんなことを考えながら歩いているところでした。何やら周囲が騒がしいことに気が付きました。人の声が聞こえます。それも怒号に近い声です。
耳を澄ますと、どうやら何人かの集団が誰かを追っているようです。
明かり替わりの火魔法を保ちつつ、何が起きてもいいように警戒します。いざとなったらエアロカーテンで壁を作って逃げることも考えなければいけません。
と、考えが物騒な方向に傾き始めた時。
「そっちに逃げたぞ、ミニャー!」
「分かってるわよ! あとミニャーって呼ぶな!」
「ほら、よそ見をするな。そこを右だ」
「……チッ! 逃げんじゃないわよ『クソドロ』がッ!」
そんな掛け合いをしている二人組が、横から飛び出してきました。片方の男の方は見覚えがあります。もう片方の女性はしらない方ですね。
……じゃなくて。
「(わたしはどう対処すべきでしょうか……)」
このままでは衝突必至。わたしは構えていた杖を、軽く握り締めました。
………………<シェーナ>
メドナちゃんを見送って、私は一人メドナちゃんの部屋にいた。
私がメドナちゃんの部屋に厄介になって四日目。大分慣れてきた感じあるわね。
「(二人共、喜んでくれた)」
思い切ってお弁当を作っていってよかった。二人共、美味しい美味しい言って食べてくれたのだ。その時、私の心はこの上なく舞い上がっていた。元気をあげるつもりが元気をもらっていた。
もしかしたら、この感覚がエーリくんの言っていた自己満足というやつなのかしら?
「(だとしたら、素晴らしいことだわ!)」
私は病みつきになりそうなこの気持ちを抑えながら、窓の外を見た。
空は今日も変わらず、輝いて見えた――。




