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魔法によって飛んだ空  作者: 元祖ゆた
運営会選挙編 
39/64

第三十八話 福泉に導かれし者達 後編 <三日目>

・出血表現ありです。

・前編より文量があります。

~前回のあらすじ~

ある冬の日の夕暮れに、戦いは始まった。


法王女がその日の指示を送ってくるというノレルの福泉へ訪れた僕とピサスとモデだったのだが、そこで待ち構えていたのはなんと五十人ものの魔法使い!

何学科で、何の種族で、誰なのかは不明。分かることは、敵意を持って僕らを狙っているってこと。


ピサスが法王女との通信をしている今こそ、法王女の居場所を特定できるチャンスなんだ。ここで、邪魔されてたまるかよ!


ノレルの福泉を囲むようにある森林で、僕とモデは、五十もの魔法使いへ挑戦する!


「速攻叩くぞ!」

「分かったわ!」


邪魔する奴らを、全員ぶっ潰す! たとえ五十人いようと!





………………<エーリ>

敵の位置は覚えた。後は叩くだけだ。


「僕は右半分攻める! キミは左半分だ!」

「了解!」


お互い狩る範囲を決め、その場から急いで離れた。数秒後、僕らの降り立った所に雷が落ちる。残るのは消し炭になった地面のみ。白い煙がゆっくり浮かぶ。


「(ったく! なんつーモンスターパニックだよッ!)」


と、内心愚痴ている暇はない。次に、炎の槍と氷の破片が、挟み撃ちにするよう、僕めがけて飛来する。

誘導魔法パワーコンダクトによって、二つを相殺させて直撃を防ぐ。所詮は初級魔法、精度も威力も格段に低い。


誘導した直後、足に異変を感じた。両足が、地面に埋まっていると言えばいいのだろうか。実際は地面に埋まってもいないのだが、埋まっている感覚に陥る。

見ると、黒いもやが両足にまとわりついており、歩行を阻害していた。もやは物質ではないので、触れることができない。

この物質でない何かに、僕の両足は沈められたようだった。この魔法、恐らく……。


「(闇魔法……! 沈む、落とす、付け入ることを得意とする特殊魔法! 足を沈められたか!)」


ここで先程の火と氷の魔法が目晦ましだと知る。本命はこの闇魔法。焦っていて気が付かなかった。

それにしてもこの状況、まるで聖戦の時のメドナとリコプルを相手にした時みたいだぜ。メドナが接近戦で、リコプルが遠距離から足を取ろうとする戦法をとっていた。

よーく覚えているよ。だって、あれは地味にピンチだったからなぁ。


だからさ、二度とあんな目に陥らないよう、対処する方法は考えてあるんだよ!


「『テレポーテーション』!」


思い浮かべた魔法陣に、魔力を注いで魔法を使う。もう何度も経験した過程だが、行う度にワクワクしてしまう。やっぱり自分で使う魔法は最高だ。


魔法が発動した瞬間、僕の体は二メートル程前方にワープしていた。足止めの闇をその場に置いて。

転送魔法・テレポーテーション。対象を指定した場所へ転移させる魔法。対象は人や物でも可能。転送する容量によって魔力の消費量が変わる。

僕を異世界へと転送するために使った魔法の、簡易的アレンジだ。距離等を短くして、多少使い勝手を良くしてみた。


「(ただ、これ使う間、精神力めっちゃ使うから、他の魔法を一切使えなくなるんだよなぁ……)」


他の魔法との併用が不可能という大きなデメリットがあるけどね。他にも小さなデメリットがあるから、一日一発で緊急脱出用として運用しようと考えている次第だ。早速出番が来て良かった……のかな?


足下にまとわりついていた闇を置いてきて、僕は森林の中を疾走する。

低級・強化魔法・『ソニックフィート』。自身の足を強化し、移動速度が上昇させることができる。これで木魔法による拘束や、風魔法による斬撃を躱していく。


へへっ! 動いていれば多少は狙いにくくなるだ――くぅッ!

フラグはあんまり立てるもんじゃないなと思いつつ、突然目の前に現れた空気の塊を難なく弾く。

しかし、弾かれた空気の塊は、周囲に分散せず、再び集結して僕に襲いかかってきた。数倍の速さで走っているのというのに、追いついてくる。


「必中魔法か……。厄介だ!」


低級・土魔法・『ハードロック』を発動し、左の手のひらを背後に向け、小さいが多量の岩の礫を、辺り一面に散弾させた。まるで短機関銃である。

岩の礫に当たった空気は破裂し、消え去る。全て消え去るまでそう時間はかからなかったが、その間隙を作ることとなる。


「! うわぁっつ!」


勢いよく水柱が、足元から噴き出した。走っていて速さがあったのも相まって、軽々と宙を舞ってしまう。

そんな無防備な状態の僕に、やって来るのは三方向からの炎・雷・毒の三属性。炎の放射、雷の矢、毒の塊!


「次から次へと……フンッ!」


誘導しようかと思ったが、これが必中魔法だった場合笑えないので、全て叩き落とした。もちろん素手ではなく、魔法でだ。

中級・闇魔法・『アンダーウェイト』。あらゆる物に加重することができる、一種の重力魔法だ。

試しに魔法そのものに加重してみたが、上手くいったようだ。三位一体の攻撃は、僕に当たることなく無残に大地へ衝突する。轟々と炎が燃え、雷が大地を焦がし、毒が無造作に溶かしつくした。

これには思わず冷や汗が流れる。

おっ、おいおい! こんなん五歳児に放つ魔法じゃねぇだろ! ったく容赦ないねぇ。


続けて、僕は魔法を使う。

エアロスター、ミラージュコート、サーマルセイブ。僕御用達の、隠密セットだ。ついでにエアロスケイルも使ってスイスイ空を飛ぶ。

落ち着く暇なく放たれていた敵の魔法が止み、森林が落ち着きを取り戻す。どうも僕の場所を探っているような雰囲気だ。


地面から微妙に浮きながら、木の影に身を隠す。

ずっと防戦一方だったからね。悪いけど、二重に姿を隠させてもらったよ。

息を吐き、状態を整える。

一時的に安全を得たとはいえ、ゆっくりはできないだろう。相手が攻撃を止めたのは、僕を探知するためだろうから。

しかし、この時間は僕にとっちゃチャンスだ。目を閉じ、魔法陣を浮かべる。


「(『孤独の部屋プライベートルーム』)」


すぐに結界魔法を発動させる。範囲は自身、防ぐのは遠距離からの魔法、自身の行動を阻害しない程度で展開。

数十秒後、無事結界が張られる。これで、遠くからの狙い撃ちはなくなった。つまり、気を付けなければならないのは接近的魔法だけとなった。

更に、


「オープン」


僕の一言で、虚空から一日目にソードメーカーで作った日本刀が権限する。柄を持ち、鞘を抜くと、綺麗に研ぎ澄まされた刀身が現れる。逆刃刀とか、そういう優しさの一切ない、純粋な刃物。

軽く振ってみる。うん、やはりいい軽さだ。僕の想像力も対したものだね。


さて、今まで好き放題に致死性魔法撃ってくれたなぁ敵さんよぉ?

僕は刀を軽く握り、ゆっくり前を見据えた。



鉄の味フルコース、お見舞いしてやるよ――。





………………

「敵はたった二人だ! 遠距離からバンバン撃ってけ! 威力とかは弱めなくていいからなァ! 死ななければそれでいい!」

「「「了解!」」」


男の命令を受けて、身を隠している神帝員達は、一斉に詠唱を始める。

狙いは、風紀委院長のモデ・ミニャーと、最近入ったばかりの同じく風紀委院のケリ・マクル。敵は今、二手に分かれているので、こちらへ向かっているケリを迎撃することが最優先である。

男は、微かに口元を歪ませ嬉しそうに手を叩く。


「ヘッ! 何が風紀委院だ。あいつら一番権力持ってるからって威張り散らしてよぉ! ざけんなよクソが!」

「これが成功したら、おれらの株上がりますかね?」

「ったりめーだろが! だってあの司祭院、助祭院が謀反だぜ謀反! 前から怪しいと思ってたんだぜぇ~」


近頃、司祭院と助祭院の様子がおかしいことに、この男だけが気が付いていた。常に揚げ足を取ろうと二人を見張っていたこの男だからこそ、気付いたことだった。


「普段は副委院長一人で泉へ行くはずなのによぉ、今日に限って院長と下っ端も連れていたからな。先回りして、周囲に待ち伏せてて正解だったな」

「ですね! ……それにしても、まさか司教院様から言われた通りになるとは」

「司教院っつーか、司教院の部下の図書委院だろーが。……あれ? 図書委院の上が司教院だから結局司教院の指示になるのか……? いや、どっちでもいいか。とにかく、『司祭院、助祭院の動向を監視すべし』だっけ? これ信じてみて正解だったぜぇ」

「これで体育委院の株がうなぎ登りっすね!」

「おうよ! だからさっさと潰すぞ! おら、杖構えろ杖」

「はっ、はい!」


部下は慌てて杖をとり、詠唱を始める。詠唱を聞く限り、木魔法を発動させるようだ。それも直接的攻撃ではなく、周囲を封じて閉じ込めるようである。

賢いやり方だ、と男は心の中で賞賛する。

男も、杖を出す。放つ魔法は自身が会得した魔法の中でも最高の魔法。時間をかけて詠唱し、


「くたばれや!」


莫大な魔力を注いで発動した。枯れた森林が、ゆっくり脈を打った気がした。


……いや、実際に脈を打った。

大地が大きく揺らぎ、一点が不自然に盛り上がり、やがて地面に亀裂が入って、割れた。一見すると、自然災害のようにも感じるが、実際は違う。

なぜなら、その割れた所から、大きな手が伸びているからだ。地震で、そんな怪奇現象、起こるだろうか? いや、起こらない。


巨大で真っ黒な手である。初級魔法・大地の束縛よりも一回り大きいだろうか。そんな手が、地面から伸びて大地にベッタリ張り付いた。

普通、手は二つで一セットであるように、大きな手がもう一つ這い出てきた。同じように大地に張り付く。張り付く度に、大地が揺れる。

手だけではない。その両手は地面に指を深く食い込ませながら、力任せに顔を穴からひょっこり出した。

まるで、高い所へ跳び、両手でぶら下がるように掴まった後、懸垂の要領で体を持ち上げるような光景を想起させた。


中級・土魔法・『グランドソルジャー』。大地の力を借りて、土でできた戦士を作り出す魔法。土の戦士は自分のために命をかけて戦ってくれる。忠実な騎士。

真っ黒でのっぺらぼうの顔は、どんな表情をしているのか分からない。そもそも、自我があるのか不明。

ただ、命令に従順なこと。それだけが唯一にして絶対なのだ。


顔だけじゃなく、手の力で全身を持ち上げ、やがて大地に姿を現した。その大きさ、ジャイアント族の数倍はある。

そもそも、ジャイアント族がヒューマン族の三倍ある。土の戦士はそれ以上に大きいということなのだ。


戦士を前に、男はうっとりする。中々の出来である土の戦士を見て、喜んでいるのだ。


「これでぶっ殺してやるぜぇ……。いや、殺しちゃまずいか。なら、半殺しだぁ……くはは!」


抑えきれぬ昂ぶりを露わにしつつ、男が土の戦士に半殺しの命令をしようとしたところで、部下が数人やって来た。

誰も彼も、焦りが出ている。


「院長! ケリが姿を眩ませました」

「なにぃ?」

「一瞬で姿が消えたんです! どうやら、幻想魔法のようです。他の者がすぐ探知魔法を行いましたので、じきに分かるとは思いますが」

「そうか……幻想魔法ねぇ」


男は、部下の報告に少なくとも衝撃を受けた。情報によると、ケリは戦士学科一年だと聞いていた。


「(一年坊が幻想魔法だぁ? ありえねぇ! 一年ってのがありえねぇなぁ……)」


幻想魔法だなんて新生魔法、一年時には習わない。だとするとやはり……。

考えていると、報告に来た部下が、男の耳元で囁いた。男も自然と声のボリュームを落とした。


「もしかしたら、魔女の月のスパイかもしれませんね」

「お前もそう思うか」

「わざわざ年齢詐称していますからね。そこまでして神帝に潜り込んでいるということは、魔女の月以外にありえないでしょう」

「だよなぁ」


溜息をつかずにはいられない。男は大げさに肩をすくめた。


「ったくよぉ。この前もスパイ入ったばっかじゃねーか。偽装工作好きだなー魔女どもは」

「ですねぇ」


そんなにまでして必至こいでいる魔女の月を思うと、笑えてくる男だった。部下もヘラヘラ笑う。


「(この学園の天下は神帝のもの! 魔女どもなんかに渡すかよ! つーか、風紀委院にも渡さねぇ! 天下は俺のもんだぁ!)」


自己的欲望を内心でブチまけ、ほくそ笑んでいる時だった。



隕石が、落ちた。



なんの前触れもなく、突如空中に現れた大きな岩が、静かに男達目掛けて落下した。



「なッ! んだありゃあッ!?」

「迎撃できません! 結界は!?」

「無理ですゥ! あんなん防げませんよォ!」

「逃げろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


やむなく、魔法使い達は詠唱を中断し、その場から急いで逃げた。這ってでも逃げた。魔力逆流フィードバックに構っている暇もなかった。


数秒後、隕石は



ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!



鼓膜を激しく揺らぶるような轟音を鳴らして、森林をブチ抜いた。木々は押し倒され、草や岩を吹っ飛ばし、大きなクレーターを地面に描いた。衝撃波で何人かの魔法使いは吹き飛ばされた。それ程の衝撃だったのだ。


しかし、これだけでは終わらない。


隕石は一回り膨張し、大爆発を巻き起こしたのだ。

今度こそ、魔法使い達は吹き飛ばされる。防御なんて間に合うはずもなく、どうしようもなく地面に、木に、体を叩きつけられた。

炎が辺りを焦がし、隕石の破片が地表を抉る。間近で爆発音を聞いた者は、鼓膜が破れてのたうち回る。


たった一発。このたった一発で、何十人かの魔法使い達は戦意を喪失した。

かろうじて難を逃れた魔法使い達の間で、動揺が走る。


「な、なんだよ今の……。なんなんだよ!」

「こんな魔法使う奴に、か、勝てるわけがねぇだろ……!」

「次が! 次が来たら……うああああ!」


男は舌打ちをして、杖を再び構えた。

間一髪、攻撃を避けることができた男は、恐れからくる震えを無理やり抑え、悠然と立ち上がった。

メンタルの弱い奴に構っている暇はない。あのケリとかいう奴、相当の魔法使いだ……!

土の戦士も無傷だ。早速、土の戦士に命令をしようとしたが、またもや邪魔が入った。

空を見て、男は呆然としながら、


「………………は?」


と声を漏らした。


第二波、である。

先程の隕石によって、森林に大きな空間ができてしまっていた。晴れた空がよく見える。

なので、黒ずんだ雲の大群が、空を占拠している様子が見えてしまった。目に、入ってしまった。

バチバチと激しく音を鳴らし、もくもくと大きな雲が広がっている。黒ずんで不気味な雲である。

範囲は魔法使い達が隠れている一帯。魔法使い達が気づいた時には、遅かった。



「(第一波から第二波までの間隔が短いだとッ!?)」



ゴロロロロロロロロガガガガガアアアアッッッッ!!! と、雷の雨が降った。



まさに、雨のように、雷が落ちているのだ。一つ一つの雫が、雷だと思えばいい。

棒立ちしていた無防備な魔法使い達に、雷雨が降り注ぐッ!


「ぎゃああああああああああああああああああああああああ!」

「あがががががが!」

「きゅううううううううううううう!」


雷は、周囲に落ちただけで全身に激痛が走り、直撃した暁には……言うのも躊躇われる。

雲が笑い、雷が踊る。そこには、地獄が存在した。


男はようやく気が付いた。目が覚めた。こいつは手に負えるものじゃない。逃げるべきだと!

土の戦士が盾となり、雷を防いだ男は、強化魔法で足を強化し、なるべく遠くへ跳んだ。

幸いにも狙われているのは隕石の落ちたエリアだけ。だったら他のエリアに逃げてしまえばいい。そう判断したのだ。

何人かの魔法使い達も、同じように散り散りに逃げていく。


「(さっきの隕石と今の雷雨で二十近くはやられたか……。クソが! ガキだからって油断しやがって!)」


慢心、驕り、自惚れ……。そういったものが、魔法使い達になかったと言えば嘘になる。

当然この男にも、そのような感情は存在した。後の祭りである。


「(とにかく逃げる! 奴に探知はされたが、そりゃ隠れている時だ。逃げている今は探知に余裕なんて――)」


男は、足を止めた。否、止めざるを得なかった。


目の前に広がっていたのは、何人もの魔法使い達が、全身を切られ血まみれになっている。男と同じように、跳んで逃げた者達である。

その中心に、



「よっ! いらっしゃーい」



血で濡れた刀を持った、ケリがいた。





………………

とある女は、必至に逃げていた。

女の仲間達は全滅。自身も深手を負っている。

逃げなければ! その一心で林を駆けていく。


『ねぇ、なんで逃げるのよ?』


声が聞こえた。その途端、体が震える。


『先に仕掛けてきたのはアンタ達じゃない。そういうの狡くない?』


耳を貸しちゃダメだと、両手で両耳を塞いで、走る。

これで奴の攻撃を防げる。


そう、思っていた。


「ッ! んぁあああ!」


突如、目の前が歪んだ。

足がもつれ、手が痺れ、次第に全身が弛緩していく。立っていることすら不能になる。

針で鋭く刺すような痛みが、全身を縦横無尽に暴れまくる。あらゆる器官を、四肢を、侵していく。


「(痛い、痛い痛い痛いいたいいたいたいいいいいいいいいいいいいッッ!!!!)」


幾つも疑問と焦燥が生まれながらも、まともに考えることができず、遂に女は地面に転がった。あまりの痛さにもがき、足掻く。


もう、逃げることなんて無理だった。


「ったく、こんなとこまで逃げないでよ。アンタで最後なんだから」

「ぅふぁあ、ふああああああ!」

「何? ちゃんと喋りなさいよ。……ってああ、無理か」


毒々しい色をした髪をいじりながら、敵がゆっくり近づいてくる。その顔は呆れている。


「ウチ、『毒舌』なんて呼ばれているから、ウチの声だけ防げばなんとかなると思ってる奴多いのよねー。それが対策の一つとか思ってさぁ」


そして、敵は女の目の前に立ち、女を見下ろした。射殺すような冷たい視線を浴びせてくる。


「でも残念ね。ウチの魔法は声に毒を含めることができるんだけど、正しくは音波ね。音に毒を含めているのよ」

「……!」

「だぁかぁらぁ、ウチが毒を含めて喋った時点で、放たれた音波が体を通過して、服毒させちゃうのよ。分かったぁ? 『ブス女』」

「ぐぎゃふぁあああ!」

「素敵な悲鳴ねぇ……」


恍惚とした笑みを浮かべる敵に、女は憎悪した。

こんな奴が……、こんな奴が風紀委院長だなんて許せない! と。

しかし、そんな憎悪は空回る。風紀委院長の顔を見て、恐怖を覚えたのだ。


「あはははは! やっぱ自由は最高ね! ウチさぁ、今まで束縛されてたからさぁ、こんな悠々と憂さ晴らしができて嬉しいの! 堪らないわ!」


満面の笑みだった。とても無邪気に、相手を痛み付けることを、楽しんでいた。

女は理解した。狂っている。コイツはブッ飛んで狂っている!


「ありとあらゆるものを音波で服毒させることができる! 空気も、大地も、無機物も! これがウチの魔法、『以毒制毒ポイズンポイズン』! ああ! 世界中の物を毒まみれにしてやりたいわ!」


いつしか女は、痛みさえ忘れて懇願した。擦り寄った。助けてください許してくださいと目で訴えた。涙が滝のように溢れていく。顔がしわくちゃに歪む。

風紀委院長は、そんな女を見て、



「助けるわけ無いでしょ。『ブァァァァァァァァァァァカ』!」



と言って、一片の情けなく毒をぶち込んだ。

モデとケリに、ヘタをしたら死ぬような魔法を何度も放ったことを、いくら後悔しても、もう遅い。

因果応報。女は気絶するまで、ゆっくり毒を味わった……。





………………<エーリ>

生まれて初めて人を斬った。そして分かった。


この武器は、僕向きじゃないな、と。

まぁ、それでも使うけどね。つーか、使わざるを得ない。


「いらっしゃーい! 斬撃、いかがっすか~?」

「! く、うあああああ!」


少し太った男が、僕の姿を見て逃げていく。

そりゃそうだ。周囲には血溜り作った敵さんが数名、その中心に血まみれの刀持った僕だからなぁ。まるでスプラッター映画に出てきそうな雰囲気あると思うぜ。

追尾しようとしたところで、視界の端に、何か魔法を使おうとしている敵が数人見えた。詠唱時間から考えて、厄介そうな魔法だ。

あの太った男、今は戦意喪失しているみたいだし、こっちを先に処理するか。


とりあえず、逃げた男を逃さないよう、追尾魔法オートサーチを発動しておく。そして、


「斬撃いかがっすか~? 一発一万円でぇ~す」


そう言ってわざと邪悪な笑みを浮かべ、襲いかかった。アルンティーネの家庭教師直伝、飛足で間合いを詰める。


「オラァ!」

「ひっ! ぎゃああああああ!」

「痛ぁぁぁ!」


逃げ惑う魔法使い達を追いかけ、斬りつけ、切り裂き、切り刻む。返り血すら付けさせない程の速さで斬撃を放つ。

もちろん、半殺しではあるが殺してはいない。殺生はいかんよ殺生は。

ただ、しばらく治療に専念することになるだろうけど。


「これでも、喰ら――」

「何とかかんとか斬りィ!」

「うげええええ! せめて何かカッコイイ技名で倒されたかったぁ~!」


探知魔法、追尾魔法、強化魔法、結界魔法、そしてアルンティーネの護衛術。これらによって、今の僕は鬼神と化していた。

ちょっと魔法を重ねがけしすぎて、普段より冷静さをかいてはいるけど、概ね良好だ。


「落ち着け! 相手は一人だ! 遠距離から一斉攻撃だ!」

「「「了解!」」」


敵の魔法使い達が、初級や低級の魔法をバンバン撃ってくる。狙いは的確で、一撃でも受けると致命的だろう。

しかし、


「な、何ィ!?」

「全弾弾かれただと!?」


結界魔法・孤独の部屋によって、今の僕は遠距離魔法を受け付けない。体に着弾する前に、周囲へ弾いてしまうのだ。ゲームによくある無敵状態のようなものだと思ってくれていい。

そんな無敵状態のまま、敵陣を突っ走る。集中攻撃なんて痛くも痒くもない。


「! おっと!」


僕は地面から噴き出そうとしていた火柱を、強化した五感で感じ取り、回避に成功した。

すぐ背後で、低く唸りを上げて炎が燃え上がった。元の世界だと、どこかのショーで使われていてもおかしくない見事な放射だった。

無敵とか思って多少調子に乗っていたので、今の火柱はちょっとだけ動揺した。

……遠距離からの魔法はいいけど、設置型の魔法は勘弁ね。


「クソッ! よけられたか!」

「次だ! 次を――」

「! 待て!」


再び、設置型魔法を展開しようとしている魔法使い三人が見える。先にあれを片付けよう。そうすれば今のようなことにはならないだろうし。

僕は地面から少し浮き、縮こまった。体育座りのような、前傾姿勢。

不審な行動に、敵の魔法使い達は不思議そうに見ている。

距離は僕から十分離れているから安心しているのかな? でもその安心――


今から、絶望に変わっちゃうけどねッ!


神風発進ロケットスター!」


莫大な魔力が注ぎ込められ、両足で思いっきり宙を蹴ると同時に、僕は爆発的にブッ飛んだ。ただ真っ直ぐ、弾丸のように、宙を駆け抜けていく。

その速さ、五感を強化していないと分からない程だ。音速に近い速度が出ていると推測される。

そんなミサイルのような僕の先には、さっきの三人が間抜け顔で棒立ちしていた。その内の一人に、着弾する。


「がッ! がああああああああああああああ!?!?!!」


メリメリと体に僕がめり込み、やがて反動で吹っ飛んだ。周りにいた二人も、着弾時の衝撃波で吹っ飛び、周囲の木々に体を打ちつけ気絶した。

僕が神風発進を発動してから今まで、わずか三秒のできごとだった。


敵は残り、六人。


「! な、なんだとぉ!?」

「向こうだ! 向こうに跳んだ!」

「何が起きてんだよ!」

「いいから撃て! 向こうに全力で魔法を撃てえええええええええ!」


敵魔法使い達は無慈悲な現状に狼狽える。効かないと分かっていながらも連射する。炎が、水が、氷が、虚しく散っていく。


「ダメです! 効きません!」

「し、仕方ない! 接近戦だ! 戦士学科を中心にして攻めるぞ! オイ行け!」

「「はいっ!」」


僕が彼らにある程度接近してから、ようやく有効的な作戦を立てようだ。

魔法使いの中でも、屈強な男達が攻めてくる。ある者は混紡、またある者は鉤爪を装備して。

いくら僕が刀という殺傷能力のある武器を持っていても、修練を積んでいるわけではない。素人が魔法で肉体を強化し、刀をいい加減に振り回しているだけ。

そう、判断されたのだろう。その通り。


だから僕は、彼らが向かってくる前に、魔法で潰すことにした。


「『終わらない冬オールウィンター』!」


脳裏に魔法陣を呼び起こし、指輪を媒介に魔力を注ぐ。すると、みるみるうちに視界が変わった。


「……はぁ?」

「あ、が、か……」


僕の前方にあった物寂しい森林が、一面銀の世界に様変わりした。本格的冬の到来である。

あらゆるものが凍りつき、真っ白な世界が広がっていた。


終わらない冬。

上級の氷魔法。効果はシンプルに、辺り一面を凍らせる。攻撃よりは足止めに向いている。

ただし、使用者が解除しない限り、永久凍土と化す恐ろしい魔法だ。


「(有効範囲内まで来たから使ってみたものの……中々いい魔法だ)」


ただ、度重なる魔法使用によって、精神的にかなり疲弊した。ボーッとする時間が増えた気がする。

その代わり、先程まで息巻いていた集団は、あっという間に氷像になった。皆驚き顔のまま凍りついている。


これで、残るは……。


「ひ、ひいいいいいいいい!」


必死に逃げているあの太った男だけだ。

時間がない。それに疲れた。さっさと終わらせよう。僕は再び、宙に浮かんでぶっ飛ぼうとした。

しかし、それは叶わなかった。


「ウガアアアアアアアアアアア!!」

「!?」


突如、地面から黒い巨人が現れ、殴りかかってきたのだ。

咄嗟にパワーコンダクトで拳の軌道を逸らす。大きく空振りし、あっけなく攻撃は止む。

その隙に、巨人から間合いをとって構える。見たところ、魔法によって生み出された巨人のようだ。


「厄介な魔法を……!」


そう思う時間も惜しかった。巨人は立て続けに殴りかかってきたのだ。一発一発が恐ろしい衝撃で、掠っただけでも骨が折れそうだった。


「(おいおい! マジに殺しにきてるじゃんか!)」


僕は内心怒りながら、巨人の拳をいなし続ける。

体格に差がありすぎるから、こいつから逃げて追おうにもすぐ追いつかれる。潰そうにも、疲れた今まともに魔法が発動するだろうか?


「……しゃあない」


僕は仕方なく、今かかっている全ての魔法を一旦解除した。

すると、頭がスーっと冴え渡っていくのを感じた。起床して、冷水を顔にぶっかけた後の清々しさだ。


「ウガアアアアアアアアアガガガガアアアア!!!」


渾身の一激を繰り出してくる巨人。それを前にし、僕は、



「もう、休んでろ」



そう言って、翼竜落としメテオフォールを叩き込んだ。

巨人の体を貫き、その下の大地にまで大きな穴を空けた翼竜落としによって、ゆっくりと巨人は消え去っていった。サラサラと土が舞っていく……。


と、感傷に浸っている場合じゃない。急いで探知魔法と追尾魔法を発動させて、逃げたアイツの位置を特定しなくては!

焦燥感に駆られて魔法をかけるが、焦る必要がないことを知った。

探知によって、ノレルの泉付近にいる魔法使い達が二人を残して全滅していることが分かり、追尾によって、その二人の内の一人がさっきの太った男だと知った。

つまり、敵は残り二人だと考えるところだが……太った男じゃない方の反応は、一緒に来た仲間だった。


やるじゃん、毒女。





こうして、僕とモデは、五十人もの魔法使い達を撃退した。しかも無傷で。


ちなみに、気になる結果報告。



法王女の居場所を探る作戦は……………………失敗した。

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