第三十七話 福泉に導かれし者達 前編 <三日目>
~前回のあらすじ~
友情爆発ッ!
………………<エーリ>
時は放課後に移る。
日々寒さが増すばかりで、どうしようもなく体を震わせる。
あーあ、こんな時カイロでもあれば、少しはマシになるんだろうなぁ……。
なーんてね。
「サーマルセイブ!」
こんな時こそ奇跡の力! このサーマルセイブ、周囲の温度に自身の体温を合わせる効果がある。これによって今、僕の体温は周囲と同じになった。
言ってみれば、今の僕は恒温動物ではなく変温動物。環境に適応し、その時々に最高のパフォーマンスが可能というわけだ。
これで寒さなんてへっちゃらだ! 魔法最高!
「あぁー……すぴー」
「寝るんじゃないわよっ!」
隣でモデが僕の体を揺さぶってくれなければ、きっと何ヶ月も冬眠していたに違いない。
なるほど。変温動物になるということは、あまりに温度が下がると機能停止してしまうのか。危ないところだった。
ありがとう、モデ。キミに感謝するぜ。
「ぐー」
「だから寝るな!」
そんなこんなで、僕と他二人は寒さの厳しい外を歩いていた。
他二人は言わずもがな、司祭院で風紀委院長のモデと、助祭院で風紀委院副長のピサスだ。
最近、この二人をひき連れて先頭を歩く姿を目撃され、僕について『裏の番長』や『隠し子』じゃないかと噂が立っているらしい。
傍から見れば、権力持った二人を従えているようにも見えるし、裏番と呼ばれるのは仕方ない。けど、隠し子て。二人の間に生まれた子供だとでも思われてんのかね。
そういやこの異世界では、結婚するのに年齢は必要ないらしい。何故なら、この世界には様々な種族が住んでおり、一つに統一するのが難しいそうだ。
そりゃそうだ。長生きする種族と短命な種族で同じ年齢に設定できないよなぁ。ドワーフ族だけでも、男女で成長速度が違うのだから。
ただ、目安のようなものはあり、ヒューマン族同士だと、男は十四歳、女は十二歳以降から結婚することを推奨しているだとか。
ちょっと年齢的に早い気もするが、この世界の人々は皆早熟だからなぁ。魔法が精神を鍛えるから、成長が早いのかもしれないね。いずれレポートにまとめてみたいところだ。
僕のすぐ後ろをついて来ている二人を一瞥する。
確か、ピサスは十五歳で、モデが十四歳だったか。二人共ヒューマン族で、結婚推奨年齢は超えている。これは隠し子と言われてもおかしくはないか。
しっかし、モデが僕の母さんか――。
『行ってきまーす』
『あ、ちょっと待ってエーリ』
『……何?』
『これ、忘れていくところだったわよ。お弁当』
『おー、サンキュ母ちゃん』
『ウチの愛情、お弁当にたっぷり詰め込んであげたから!』
ないな。これはない。まずモデのキャラじゃない。頼んだってやってはくれないだろう。
では、ピサスが父親だったらどうだろうか?
『行ってきまーす』
『あ、ちょっと待つんだエーリ』
『……何?』
『これ、忘れていくところだったぞ。お弁当』
『おー、サンキュ父ちゃん』
『俺のあ・い・じ・ょ・う、お弁当にたっぷり詰め込んであげたからなっ』
ない。もっとないわ。そもそもピサスを母親役にさせたのが間違いだ。やるなら夕暮れの河川敷でキャッチボールしているシチュエーションにするべきだった。
自分でした想像に寒気を覚えたので、現実に視点を合わせることにした。
後ろを振り向き、僕の母さんと父さん――もとい、モデとピサスを観察してみた。
モデは僕と同じように寒そうに体を抱いているが、ピサスは寒さはへっちゃらとばかりに堂々としていた。
やはり鍛え方の問題だろうか。鍛え抜かれた筋肉は、一流の防寒具としても通用するのかもしれない。屈強な漢は寒さをもろともしないのだ!
対してモデは、都会の女子高生のように華奢だから、寒さが身にしみるのだろう。
まぁ、一応モデは胸に厚い脂肪をもっているわけだが……。
「あんまねぇもんなぁ」
「……ねぇ、なんで胸見てそんなことを言った?」
「!?」
純粋な殺意である。
一瞬にして、モデの体から殺気が溢れ、隙を見せれば殺すとばかりに、目がギラつく。
失言! もし心の巣が発動していなければ、今頃僕は八つ裂きにされていただろう。
殺気ビンビンのモデに本能的恐怖を覚えつつ、素知らぬ顔で前を歩いた。
「お前ぜってェ殺すわァ……」
モデのボソボソと呟かれる呪詛を聞いて、僕は後悔しかなかった。
毒のない素朴な暴言は初めてかもしれない。そして毒舌よりも命の危機を感じた。
教訓、女性に胸の話は禁句。
さて、目的地に着く前に、頭の中でこれからのことを整理しておこう。
まず、忘れてはいけないのは、最終目的はシェーナの安全であること。そのために運営会選挙で勝利し、シェーナに対して危害を加えることができなくなるような法律を定める。これが終着点。
今は微妙に安全が保たれてはいるだろうけど、学園生活はあと五年あるのだ。シェーナが卒業するまでの幸福を得るためにも、この終着点は譲れない。
では、どうすれば選挙で勝てるのか? 学園全員の票を一人で集めるような人気者になればいいのか? それとも学園最強になればいいのか? 地道に演説をしていけばいいのか?
どれも正解で定石だろうけど、もっと簡単な方法がある。
それは、二大組織である神帝と魔女の月のトップが選挙を辞退してくれるよう交渉することだ。そうなると、立候補者はシェーナのみとなり、自動的に運営会長になれるのだ。
しかし、交渉とは言っても何を交渉すればいいのかという問題が生じる。交渉とは、相互に得がなければ成し得ないものだ。選挙辞退に見合った何かを、こちらから提供しなければならない。
だからこそのスパイ活動。相手の懐に潜り込み、相手が本当に欲しているものを探るのだ。
神帝の場合、既に欲しているものが判明し、交渉材料も用意できているのだが、当の交渉相手が雲隠れ中なので、彼女を捜すことが現在の任務である。
魔女の月の場合、戦乙女が魔女魔法の深淵を得るために行動しているようだが、その理由こそ交渉をする上で重要かもしれないね。こればっかりは、女性であるメドナに頼むしかない。男子禁制じゃなければ、僕も魔女になっていたというのに。
最終手段として、性転換して女の子になってから潜入という策もある。探せば性転換できる魔法くらいあるだろ、異世界だし。
しかしそうなると、僕のことは一体何と呼ぶべきなのか。魔女? いや、魔女ではないな。性転換したとしても心は男子高校生のままだし。なら、魔男? 魔男って聞いたことないな。
そもそも、僕って何者なんだろうか。
元の世界から転生してきて、異世界で五年過ごしてきたけれど、精神的な成長が止まっている気がする。
歳をとるとともに、考え方や生き方が変わっていくと聞くが、僕は変わらない。気持ちは男子高校生のままだ。
最近、エーリと呼ばれるに伴い、悠飛だった頃の自分を忘れつつある。僕は悠飛であって、エーリでもあるというのに。いや、今はエーリとしか言わないのだろうけど。
悠飛の魂にエーリの体。分からない。『僕』が分からない……!
「僕って、一体何者なんだ……?」
「ウチに聞かれても知らないわよ」
「なんで知らないんだよ!」
「知るか『バカ』! ……くぅっ」
ついつい八つ当たりをしてしまった。僕に癖で毒を吐いてしまい、胸を押さえて苦しそうにしているモデに誠心誠意謝った。
……今、モデに謝っているのは悠飛? それともエーリ?
神帝の本拠地、カイズブルー城のある小さな丘。舗装されているとはお世辞にも言えない小道が、城の裏から丘の上を蛇のように這っている。
道の周囲には枯れてしまった木々が、取り囲むように並ぶ。不気味さを感じつつ、道を進む。
この先に、今遂行中の任務を、果たせるものがあるかもしれない。
法王女はどこかに隠れながら、助祭院であるピサスへ指示を出していた。その指示出しは遠隔魔法によって行われている。
ならば、その発信源を特定できれば、隠れ家を暴くことが可能だ。
失敗は許されない、ただ一回だけの作戦……!
「ケリ。もう少しで泉への入口が見えてくるぞ」
「……?」
「? どうしたケリ。上の空のようだが」
「……ッ! あっ、ああ! 大丈夫大丈夫。ちょっとばっかこの世の未来について憂いていただけだから!」
「ふっ。五歳児の心配事とは思えんな。そういうことはもっと上の偉い奴らがなんとかしてくれるさ。無理だったとしたら、ケリ自身が導いてやればいい」
「そ、そうだね」
僕は愛想笑いを浮かべつつ、内心ドキドキしていた。
そうだった。今の僕はケリ・マクルという偽名を使っているんだった。最初ピサスが何を言っているのか分からなかったよ。悠飛であり、エーリであり、ケリでもあると。ああ、頭こんがらがっちゃうぜー。
やぁ! 僕はケリ・マクル。戦士学科一年の五歳。好きなものはラーメン。嫌いなものはなんかぬめぬめしたもの。よろしくな!
……よし、トランスできた。もう大丈夫。
「ケリ。この先だ」
ピサスが指差す先には、樹木が密集した地帯となっていた。要は森林だ。
葉が枯れているとはいえ、高木が多く生えているため、どうも薄暗い。その上、目印になるようなものがないので、方向感覚を失う可能性大。
「ここからは俺が先導しよう。遅れずについてくるんだ。見失ったら迷うからな」
「オッケー、父さん」
「父さん?」
気を付けて進むとしよう。色々な意味でね。
こうして僕達は森林の中へ突入した。自然の香りとでも言えばいいのだろうか、そんな匂いが、鼻を包み込んだ。いい香りというわけではないけど、落ち着く香りである。
多少足場が悪いけど、歩けない程ではない。黙々と進む。
すると、静寂を破り、ピサスがバリトンボイスで話し始めた。
「ノレルの福泉は、この森林の奥にある。立ち入り禁止というわけではないから、誰でも自由に訪れることができるが、法王女の声を聴けるのは俺だけだ」
「それはどうして?」
「泉の奥に小さな洞窟があるのだが、そこには結界魔法が張られていてな。俺と法王女以外は入れないようになっている」
「へぇ。凝った仕掛けを施すじゃないか」
結界魔法。常に防御魔法を展開し続ける魔法をそう呼ぶ。
防御魔法とは、選んだ対象以外からの干渉を防ぐ魔法で、ピサスの王の城が防御魔法に値する。そんな防御魔法を、解除するまで展開し続けるのが結界魔法だ。
これだけ聞くと、結界魔法の方が優れているようにも感じるが、上位互換というわけではない。メリット、デメリットは双方にある。
結界魔法のメリットは、一度発動さえしてしまえば、自分がその場にいなくても発動し続ける自動制御機能があること。魔力は最初の一回だけで、後は消費しないこと。
デメリットは、小回りが利かないこと。範囲指定が複雑なこと。
防御魔法のメリットは、小出しが可能なこと。操作が簡単なこと。
デメリットは、発動中魔力が常に消費されること。気を抜くとすぐ解除されること。
イメージとしては、防御魔法は盾で、結界魔法は鎧。要所要所で敵の攻撃を防げる盾と、全体的にガードが可能な鎧。どっちを選ぶかは、その人の好みによるんじゃないだろうか?
ちなみに、可能なら僕は両方取るけどね。一番安全じゃない?
「洞窟の奥に大きな水晶がある。水晶自体はなんてことのない代物だが、法王女の思念が宿っている。それに触れることで、声を聞くことができるのだ」
「はぁー。まるで電話だな」
「でんわ? なんだそれは」
「あ、いやいや。なんでもないよ」
そうだった。この世界では電話はなかったな。
当たり前だが、この世界にないものは、意味が伝わらない。電話、テレビ、エアコン、電車、新幹線、パソコン、インターネット……などなど。全部魔法で解決できるからなぁ。不便なような、そうでないような。
「その日一番に宿っている思念には特に意味はない。それを俺が読み取った、つまり水晶の前にいるということが重要なのだ」
「ふむ、つまりその日一番の思念は電話で言う『もしもし』というわけか」
「……? 話を続ける。俺が読み取ったことは向こうに分かるらしい。すぐに新たな思念が送られてくるのだが、これがその日俺がしなければいけないこと――つまり指示だ」
「なるほど。じゃあその飛んでくる思念の元を辿れば」
「見つかるだろうな」
ピサスはニヤリと笑う。この男、感情表現が少ないと思っていたが、意外にも喜怒哀楽はっきりとしているようだ。
「じゃあウチとクソガキは洞窟の外でサーチしていればいいわけね」
「そういうことだ」
「誰がクソガキだ誰が」
モデに文句を言いつつ、僕は気持ちが高揚するのを感じていた。
三日もかかってしまったが、やっと法王女の行方を探れる時が来たのだ。交渉材料はとっくに揃っている。待ってろよ法王女!
「というわけで、ノレルの福泉だ」
「わぁ……!」「……へぇ」
意気込んでいる内にたどり着いたようだ。目の前には、神秘的な光景が広がっていた。
鬱蒼とした森林の途中に、ぽっかりと空いた空間が現れる。耳を澄ませば、チョロチョロと水が湧く音を聴くことができる。
足を踏み入れると、空気が変わる。温度的な意味もあるが、爽やかで麗らかな風を感じることができる。
そこには、澄んだ泉があった。濁りのない、青一色。水面はゆらゆらと揺れ、透明度が高いから底を泳ぐ魚を見ることができる。それなりに大きいが、底までは浅そうだ。
試しに、手ですくってみる。冬だから、水は凍えるように冷たい。僕の手の体温を、どんどん奪っていく。
そうしてまで、僕が見たかったのは、水の色。
すくわれた水は青ではなく、無色透明。限りなく清らかな水だった。
大自然の神秘が、そこにはあった。
「うっひゃあ! 泳ぐぞぉ!」
「凍え死ぬわよ!?」
思わず飛び込みそうになったのを、モデに首根っこ掴まれて妨げられた。
冷静に考えて、今は冬だし確かに死ぬかもなぁ、と思った。
どうやら、助けてくれたようだ。僕はモデの顔をじっと見つめた。
「……な、何よ?」
「モデってさ、意外と面倒見いいよね」
「! は、はぁ? 誰がよ! 死ね!」
「ちょっ! 押すなよっ! 凍え死ぬだろ!」
「元からそのつもりだったでしょうが! 早く死んで魔法解除しなさいッ!」
「ギャアアア! マジで危ない! マジで危ない!」
顔を真っ赤にさせながら背中を押すモデに、意外といい奴なのかもな、と思い始める僕であった。
とにかく、目的地に着いた。早速段取りを確認しよう。
「これからピサスは奥の洞窟に入って、通信を行ってくれ。僕とモデは、洞窟の上で逆探知をするから」
「心得た」
「……分かったわ」
ピサスは力強く、モデは不承不承という感じに、各々了解してくれた。
「よし、じゃあ行ってくる!」
「頼んだよ、ピサス!」
「はぁ、本格的な反逆行為ね」
ピサスが、小さな洞窟に入っていた。その洞窟は泉の側にあり、穴の向こうの暗闇が蠢く。
呆れた顔で毛先をいじるモデと、仁王立ちしている僕がその場に残った。
「「……」」
なんか、微妙な空気だな。まるで友達と会話中に友達の友達がやって来て、その場から友達から退席して僕と友達の友達が残るみたいな、そんな空気だ。
これではいかん。これから一緒に探知する仲だと言うのに。ここは一つ、何か安心を与えることを言って雰囲気を和らげるか。
「やっと、二人きりになったね(満面の笑み)」
「ちょっ、なんかキモイ(マジでひいた顔)」
「冗談だよ冗談(無表情)」
……うん、大分和らいだな。オッケーオッケー。これくらいのダメージ、慣れっこだよ。あぁ……。
「んじゃ、探知するか」
「いいけど……アンタ、洞窟の上でって言ったわよね?」
「そうだけど」
「……どうやって上で探知するのよ」
モデが指さした先は、洞窟の上。もじゃもじゃと草木が生い茂り、足場等少しもなさそうだ。
確かに、あれじゃ安定して探知なんてできないだろう。
しかし、僕にはあれがある。両手を広げながら、モデに近づく。
「大丈夫大丈夫。宣言通り洞窟の上でやれるから。安心したまえ」
「な、何するのよ。なんで近寄るのよ!」
「こらこら、動くなって。掴めないだろうが」
「掴むって何が……ちょっと!?」
混乱しているモデを無視し、脇腹辺りに抱きついた。というか、僕とモデの身長差では、モデの脇腹に抱きつくしかないわけだが。
「え、『エロガキ』が! ひぃっ!」
「毒は止めとけって。そうやって自滅するだけだからさ……行くぞ!」
「行くってどこに?」
パニックに陥っているモデに対し、僕はいたって冷静に、
「空」
そう一言言って、飛んだ。
中級・探知魔法・『マジックカウンター』。
指定した範囲内に放たれた魔法の出処を探知する魔法。中級だけあって、事細かに探知できる。
低級・探知魔法・『魔法の尻尾狩り』。
自分の周りで発動した魔法を探知し、その魔法の使用者を特定する魔法。
僕は前者、モデは後者の魔法を発動し、思念が飛んでくるのを待った。
……空中で。
「はぁ。空飛ぶなら最初から言いなさいよね。何事かと思ったわ」
「いや、ほら。こういうのはサプライズの方がいいじゃん」
「どこがいいのよ……ったく」
溜息をつきつつ、真面目に探知を行うモデ。やっぱいい奴なんじゃねぇの、コイツ。
でも毒ぶっかけたことだけは絶対許さんがな! 僕は根に持つタイプだからね。
ちなみに、未だにモデの脇腹辺りに抱きついて飛行している。ふらつくことなく、安定した体制をとれている。
「そういや、誰かと一緒に飛ぶのは初めてかもしれない」
「ふーん。そうなの?」
「ああ。だからキミが初めての女ってことになるね」
「ぶっ!? ゲホッ、ごほっ! このマセガキが……!」
やっぱコイツ、いい奴かもしれないわ。許さないけど。
こうして、穏やかに会話をしていると、早速動きがあった。
探知に、魔法がひっかかった。
「! きたっ!」
「ウチも! でもこれは……」
「またきた! ……はぁ?」
「ちょ、ちょっとちょっと!」
狙い通り、魔法を探知することができた。しかし、
「十、二十、三十……! まだまだ増えていくわよ! 何よこれ!?」
「……やられた」
僕らを囲むように、この泉付近で様々な魔法が発動しているようで、それら全てを探知しているのだ。その数、五十。
「そりゃあ、探知されることへの対策はされてるわな!」
「どうするの?」
「探知範囲を狭める! 洞窟の上ピンポイントで!」
思念がどこから放たれるか分からなかったため、大きめに範囲設定をしていたことがアダとなったようだ。周囲にこれだけ対策されているということは、本命は洞窟の真上に絞っていいだろう。対策用魔法は思念の邪魔にならない場所に設置されるだろうからね。
しかし、それも遅かった。
「! 来るわ!」
「なッ!?」
五十の位置から放たれた撃墜魔法が、僕らの元へ飛んできたのだ。五十はただの魔法道具が発動しただけではなかったのだ。
敵意を持って僕らを狙っている、五十人の魔法使いがいたのだ。
最初泉の話を聞いた時、罠の匂いがした。
だって、法王女の居場所を知るには、泉に行かなければならないのだから。自分を狙う敵を迎え撃つにはもってこいだろう。
待ち伏せされていたのだ。泉一辺に潜んでいたのだ。この場所で叩くために!
「クソがあッ!」
咄嗟に誘導魔法パワーコンダクトで飛んでくる魔法を逸らした。五十の魔法は僕らを避けて宙を舞い、弾けて消えた。
轟音が鳴り響き、空気を裂く。五十も集まれば恐ろしい威力だ。
さすがに肝が冷えた。撃墜魔法は飛んでいる相手に効果抜群の魔法。あんな数受けたら選挙終わるまで気絶コース確定だ。なんとしても避けたいところだが……。
「(パワーコンダクトはもう使えない……)」
あの一瞬で、僕が使った魔法が誘導魔法だとバレただろう。だったら、もうパワーコンダクトは使えなくなる。
なぜなら、パワーコンダクトはあくまで指定した場所へ誘導する魔法だからだ。誘導……そこへ導くというだけで、その後は保証しない魔法。
ならば、指定した対象へ何があっても必ず当たる『必中魔法』を使われたら、誘導していても意味がなくなる。導かれはするが、その後こちらへ戻ってくるだけだ。
あれだけの撃墜魔法使いがいるんだ。中には、必中魔法を使う者もいるかもしれない。
必中魔法自体の対処は簡単だ。当たる前に、防御魔法とかで防ぐか迎撃してしまえばいい。
しかし、
「(僕らは今空の上! さっき一斉攻撃を回避されたから、今度はタイミングをずらして攻撃してくる! さすがに様々な方向からの撃墜魔法一つ一つに対処できるわけがない! 結界魔法なら可能だが、範囲設定で時間がかかってその内に被弾する! 防御魔法を張るしか……!)」
誰が?
今僕は飛行魔法と探知魔法を使っているのに? 気を緩ませたらすぐ消える防御魔法を僕が?
張れるは張れるだろうけど、使い慣れたパワーコンダクトのようにはいかないだろう。きっと、幾らかは防げずダメージを受けてしまう。
なら、防御魔法はモデに張ってもらうことになるけど……。
「(無理だ! 五十の撃墜魔法が来た時、モデは何もできず呆然としていた。つまりそれは、すぐに対処できる防御魔法がなかったということ! そんな子に防御なんて任せられない!)」
ダメだ。いくら考えても考えが行き止まりにぶつかる。被弾する、その未来に。
そうこうしている内に、第二波がやってきた。やはり、タイミングがずらされている。
法王女の探知は、まだできていない。
「……あぁ! しゃあねぇ!」
このまま空にいても狙い撃ちされるだけだ。
仕方なく、地上へ降りた。これで撃墜魔法は威力を失う。しかし、同時に、
「(探知範囲から離れることになる……!)」
探知魔法も、途切れることを意味した。
このままじゃ奴らの思う壺だ。どうする?
いや、どうするも何も、一つに決まっているじゃないか。
「モデ、魔法使ってきた奴らの位置は知ってるね?」
「ええ。全部知ってるわ!」
「オーケイ。ならこれからやることも知ってるね?」
「もちろん」
思念が届く時間は分からない。何時間かかるのかも知らない。
だから、
「速攻叩くぞ!」
「分かったわ!」
邪魔する奴らを、全員ぶっ潰す! たとえ五十人いようと!
次回、後編の予定です。五十人 対 二人。




