第三十六話 日常と見えない監視の目 <三日目>
魔法学園編 主要キャラクター
<愛の羽>
エーリ・アルンティーネ:主人公。六つの偽名を使い分ける。五歳とは思えなくなってきた。
メドナ:エーリのメイド。最近鋭く、探偵じみている。魔女になった。『灰被り』の異名を持つ。
シェーナ・エストーナ:仲間。平和を愛する優しき少女。自分に出来ることを探す。
<神帝>
フォルエッタ・サンダリア・ミリアーカイズ:通称『法王女』。シェーナの友達。家族を生き返らせるためにシェーナを狙う。
モデ・ミニャー:風紀委院長。司祭院。毒舌娘。今ではエーリに頭が上がらない。
ピサス:戦士学科の男。助祭院。フレンシアと応接室前で争う。『王の城』という防御魔法を扱う。メドナに論破され、狙うの止めた。
音楽委院長:背の高い少年。エーリに助けられ、入隊の協力をする。結構したたか。
フィレ・ディーノ:男子寮の先輩。司教院。商人学科二年。ワーグ族で狐ベース。学園のどこかに方王女と共に隠れている。
<魔女の月>
ローニャ・エトーリア:通称『死女神』。戦乙女を率いる集団のボス。学園に眠る秘密の魔法を狙っている。
フレンシア・ガルドバルゴ:戦乙女ナンバー2。戦士学科三年。炎を纏う『業火の鉄拳』という魔法を使う。信じやすく素直な性格。ウサ耳。
ジェノーヴァ・ヴァンジーニ:愛称は『ノヴァ』。聖女のボス。騎士学科五年。語尾が特徴的。巨乳。『聖天使』の異名を持つ。
ラージャ・ウンディウス:聖女の副ボス。剣士学科四年。ジェノーヴァの付き人。紅茶をいれるのが上手い。『結露』の異名を持つ。
ツァーチ・レンゲラ:戦乙女の中枢メンバーの一人。フードを深く被り、大きめのローブで正体を隠している。
暗闇の魔女:魔女の月創始者にして、魔女を生み出す『真祖』。お菓子作りとぬいぐるみ編みが趣味。
<クラスメイト達>
キリコッテ・ジャバッツ:ワーグ族。猫耳少年。可愛い。愛しい。
カテマ・ロフ:ジャイアント族。図体はでかいが、心はおおらか。
リューイ・ガオーカ:ゴブリン族。男子のリーダー的存在。スケベ。
ヤスラ・アービー:ドワーフ族。褐色少年。影が薄い。
ゲンジューヤ・スウダリ:ハーピー族。ゲンジ。最近いない。
ケイシー・エナー:エルフ族。女子のリーダー的存在。エーリを可愛がるお姉さん的ポジション。
リコプル・タティーシ:ノーム族。三つ編み少女。何故かエーリをご主人と呼ぶ。
<その他>
アリア・ニグル・アクトゥース:レオの姉。担任教師。ノリがいい。
ドランソー・レアヴォワ:入学試験の試験官その一。ロマンスグレーのおじさん。
アン・ディシポ:試験官その二。沈黙。
チフェロス・ナナン・ルートス:学園の理事長。魔王のような風格。
~前回のあらすじ~
レオ、何か企む。
………………<エーリ>
「友情ってのは、いいもんだ!」
アリア先生の熱い一言によって、授業が始まった。三日目の午前中である。
どうもアリア先生はたおやかな見た目と違って、内心は少年のような情熱を持っているようだ。ただの物臭でフィギュアの良さが分からないクソババアかと思っていたけれど、これは好印象。
僕も友情はいいものだと思う。友のために走り、友のために戦い、友のために涙を流す……。そんな泥臭くて汗臭い友情に一度は憧れるもんだ。
「先生には三つの好きな言葉があってな。その内の一つが友情なんだ」
なるほど。もしかしたら他二つは、努力とか、勝利とかかもしれない。
すると、生徒の一人が手を挙げた。アリア先生が名指しする。
「先生、他二つはなんですかー?」
「えっ!?」
生徒は僕らが軽く疑問に感じた質問を、代表してくれたようだ。
「んー。あー、そうだなぁ……」
まるで生徒に指摘されてから考えているような仕草をとった。てか今考えてるだろ。
少しの間うーんと唸り、やがてアリア先生は指を折りながら答えた。
「二つ目はお金だな」
ひでぇ! ストレートに酷いや! 現実的といえば現実的だが……教師としてそれはいいのか?
ぐぬぬ、これは三つ目にかけるしかないようだぞ……! 固唾を飲んで待つ。
「三つ目は怠惰!」
最悪だ! ど真ん中直球に最悪だ!
何も挽回せず、ただ自分の醜さを晒すだけとなった教師が、そこにいた。
なんだよ……どこが好印象だよ。僕の中で好感度がマイナス振り切っちゃったよ。
質問した生徒も含め、このクラス全体が呆れていた。皆物言いたげな視線を送る。もちろん僕も当社比二倍の視線を送った。
ひんやりした空気を感じ取ったのか、アリア先生が慌てて手を横に振った。
「あ、アハハハ! 冗談だって冗談! なーに信じてるんだよぉー」
「「「……」」」
まるで室外にいるような寒さが、しばらく教室に滞在するのであった……。
魔法の中には、複数人で協力して放つ魔法がある。
前に、男子連合軍と女子聖歌隊が争った時、僕は二人一組の男子が放った魔法を、合成魔法マジックミックスで応用魔法に変化させたことがある。ある一面から見ると、それと似たようなものだ。
今日習うのは初級・合成魔法・『オール・フォー・ワン』。この魔法は少々珍しく、初級でありながら場合によって、初級以上の力を発揮できる魔法だ。
それとこの魔法、最初に言ったように、複数人で放つ魔法だ。魔力をエネルギーに換算し、人数分のエネルギーを合成して放つ。名前の通り、皆の力を一つにして放つ、まさに友情パワー。
場所は教室から移って第一魔法実習館。東京ドームのような建物の中で、オール・フォー・ワンを撃ってみる授業だ。
僕はメドナ、シェーナ、ケイシー、ヤスラの男女混合五人グループを結成した。
「一人が砲台の役割で、他の人が燃料庫の役割みたいだね」
「じゃあ誰が砲台やる? やりたい人いるかしら?」
「わいは遠慮しとく。上手く撃てるか不安だし」
「私も~」
「わたしのようなエーリ坊ちゃまに仕えるメイドが、主人を差し置いて砲台役など、烏滸がましいです」
「皆消極的だねー。まぁ、わたしもパスだけど」
「……え?」
なし崩し的に、僕が砲台となった瞬間である。この間十秒。
「……はははっ、いいだろう。僕に砲台役を押し付けるとは……どうなっても知らないよ?」
「坊ちゃま、顔が怖いです。悪者っぽいですよ?」
「でかい光線を中央棟にぶち込んでやるぜ!」
「完全に悪者ですよ!?」
調子にのった発言をして、メドナに怒られた。反省反省、猛省だ。
砲台を任されたのであれば、誠心誠意を持って、役目を果たそうではないか。ただ面倒そうだから押し付けられたのではなく、信頼しているから任されたのだと思えばやる気も出てくるもんだ。
早速、準備に取り掛かる。オール・フォー・ワンのやり方はこうだ。
まず、一人が魔法(オール・フォー・ワン)を発動する。この人が砲台――つまり、最終的に魔力を合成して放つ役目を持つ。
次に、数人が砲台に対して魔力を送る。これは燃料庫の役目と言われる。
しかし、ある人に対して他の人が己の魔力を送るなどほぼ不可能だ。魔力は人それぞれに独立しており、通常は決して混ざり合うことがない。
例えるならば、水と油のようなものだ。水に油を加えて手動で混ぜても、混ざり合うことはない。
ただし、これは通常の場合だ。特別な手段を踏めば、魔力を人に送れるようになる。
そんな特別な手段というものを用いているのが、このオール・フォー・ワンという魔法である。
この魔法を発動することで、使用者の足下に円形の魔法陣が生じる。驚くことに、その魔法陣の上に立つだけで、好きに魔力を送ることができてしまうらしい。
他にも、魔力を相手に注ぐ方法は存在するが、これ程手間のかからないものは珍しい。応用もきき、アレンジのしがいがありそうだ。
オール・フォー・ワンを詠唱し、指輪を通して魔力を注ぐ。未だに無詠唱ができることは、クラスメイトには内緒だ。
やがて僕の足元には、幾何学模様が描かれた魔法陣が権限した。右手のひらには、砲台として撃ち出すために、エネルギーが集中している。
「おおっ! 上手くいったみたいね! では早速」
若干テンションが上がっているケイシーが、トップバッターとして僕の魔法陣の上へ立った。すると、僕の中から何か見えない糸が自動的に出て、ケイシーの中と繋がったような気がした。外から見ても、変化には気が付かないだろう。
なるほど。この糸を通じて魔力供給をするのだろう。発動している側として、自動で繋いでくれるのは楽でいい。
ケイシーも僕と同じように感じたらしく、不思議そうに自分の体を触って確かめていた。
「なんか……エーリちゃんと繋がっている気分ね。体の奥まで」
「おい」
何故か頬を赤くし、目をうるうるさせているケイシー。声も微妙に色っぽい。
「あんまり変なこと言うなって。他が入って来づらくなるじゃんか」
「でも、事実でしょ?」
「事実だけど、なんか誤解を招くような言い方だよ」
「誤解って、何の誤解? なになに?」
ケイシーはどこか悪戯めいた顔だった。
……コイツ、さては知っててわざと言ってるな? 子供がこういう話をするにゃまだ早いってのに。時間も歳も。
ニヤニヤしながら迫るケイシーに、僕がデコピンを食らわすと、思いっきり抱きしめられた。鼻腔をくすぐるいい香りと女性特有の柔らかさに、ほんのちょっとだけどぎまぎした。
「意外とそういう知識も豊富なのね、エーリちゃんっ」
「むぐぐ……」
「わたしに甘えたければ甘えていいのよ? 可愛がってあげるから!」
「ぬ、ぬぅ」
僕の方が精神的には年上だってのに……こんな年下に弄ばれている。正直悔しい。
まぁしかし、たまには悪くないか。こういうのも。
思えば、わざわざ大人ぶる必要はないんだ。なんせ今の僕は五歳児。まだ五歳児だ。もっと年上へ甘えてもいい歳だろう。
体の力を抜き、身を委ね、このままケイシーに甘えてみようか……。
そう思った時、僕は元の世界のことを思い出した。男子高校生だった頃の自分だ。
ここで甘えることは別にいいだろう。悪いことじゃない。外から見ても咎められることはないだろうし。
しかし、元の世界に戻ってからこの行為を思い出した時、自分は罪悪感に勝つことができるだろうか?
否! きっと自分は絶望する!
何ガキのフリして自分より年下の子に甘えてるんだよ、と自己嫌悪に陥ってしまう。僕はそういう奴だ。
だからここで取る行動は!
「ははっ、何を言ってますやらケイシーは。逆だよ逆」
「逆? ――ひ、ひゃわ!」
僕の言葉に疑問を持ち、抱きしめている腕が緩んだ。
その隙に、僕はケイシーに優しく足払いをかけて体勢を崩し、勢いで床へ仰向けに寝かせ、膝枕をしてやった。
これぞ秘技、甘やかし返し! 年下に甘やかされるのは罪悪感があるが、逆に年下を甘やかすのは罪悪感ナシ!
更に、
「僕に甘えたければ甘えていいんだよ? 可愛がってあげるからさ」
意趣返しとばかりに、先程のケイシーのセリフを改ざんして囁いた。甘やかしの連撃である。
年下の、それも五歳児に膝枕されて甘やかされるのはどんな気分かなぁ?
「……うわぁ」
ケイシーが顔を真っ赤にして見つめていた。演技で頬を染めていたのとは大違い。本当に照れている。
対して僕は紳士的な笑顔を浮かべる。あくまで紳士的に、ね。
「や、やるじゃん」
僕から目を逸らし、恥ずかしそうに小さく呟いた。
勝った……! 完全勝利! お姉さんキャラを陥落させてやったぞ!
頭の中で勝利のファンファーレが鳴り響く。ふふん、年上のお兄さん|(精神年齢)舐めたらいけないぜ。
これで今まで子供扱いしてきたケイシーも、少しは自重して抱きしめるのを控えてくれるだろう。男子高校生の尊厳は守られたのだ。
しかし、代償として、
「魔法陣、消えちゃったね」
「だな」
集中が途切れ、発動していた魔法陣が消えてしまっていた。そりゃあれだけ動いたらなぁ。
今更だけどやりすぎた。膝枕をやめ、二人して立ち上がると、三人の視線が突き刺さった。各々違った反応を見せている。
「……いいなぁ」
メドナは指を咥えて羨ましそうな顔をしていた。丁寧な言葉遣いすら忘れるくらいだ。
なんだかんだ甘えんぼだからなぁ、メドナは。今度同じように甘やかしてあげるとしよう。
「つ、つ、繋がるとか、そんな……!」
恋バナ好きなシェーナは僕らのやり取りはさほど気にしてはいなかったが、ケイシーの放った意味深長な言葉を復唱し、興味津々なご様子。
……やっぱりこの子は恋バナじゃなくて猥談が好きなんじゃね?
「なんか楽しそうだなー」
両腕を頭の後ろで組みながら、能天気なこと言っているのは褐色少年ヤスラ。正しく状況が飲み込めていないヤスラこそ、本来の子供がするリアクションではないだろうか。しかし逆に、こんなリアクションだからこそヤスラは、休み時間にリューイやゲンジに影が薄いと茶化されているのではないだろうか。
まぁ、どうでもいいけど。
とにかく、仕切り直す必要があると思った僕とケイシーは、はしゃいでしまったことを皆へ謝罪した。皆とても優しくて、笑顔で許してくれた。この優しさに応えるために、今度は真面目にやろうと誓う。
僕は再び詠唱をして、魔法陣を生み出した。
「ケイシー、分かってると思うけど真面目にね」
「分かってるわ。もうふざけないから」
一応ケイシーに釘を刺しておくが、ケイシー自身反省しているようで、真剣な顔になっていた。仮にも授業だしな。
今回はトップバッターを辞退し、他の人へ促すケイシー。すると元気よく手を挙げたのはシェーナ。
返答するよりも早く魔法陣の上へ。途端にうっとり顔になる。
「ああ、今私はエーリくんと繋がっているのね……!」
「だからその反応やめーや!」
全員が魔法陣の上に立った。
四本の糸を確かに感じる。糸は人によって違う感覚だった。
シェーナの糸は弱々しい。今にもちぎれてしまいそうな、脆弱で頼りない糸だ。
けれど、その糸は誰よりも長い。僕の精神に絡みつき、離れないよう必死に巻き付いている。
魔法で人を傷つけることができないシェーナは、例え目に見えない糸だとしても、傷を付けてしまわぬように弱くしているのかもしれない。なるほど、シェーナらしいね。
ケイシーの糸はうねっている。グニャグニャで、所々コブになってしまっている。苦悩ばかりの人生だったのかもしれない。それが今も続いている。
ヤスラの糸は意外にも細くて頑丈だ。忠実さや綿密さを思わせる。
そして、メドナの糸は真っ直ぐだ。芯が通っており、ブレもない。彼女を支える何かが、絶対的柱として存在しているようだ。
なんとなく、それがメドナたる所以ではないかと思った。
そんな四人の糸が繋がっている今、僕の右手のひらには恐ろしい程力が集中している。
準備は完了した。
「いつでもオッケーだよ」
「じゃあ撃ってみましょう!」
「どうなるんだろーなー」
「ワクワクするわぁ~」
「坊ちゃま、頑張ってください!」
五人の魔力を込めたオール・フォー・ワン。果てさて、どんな威力の光線になるものか。右腕を左手で支えて、まさに砲台のような格好になる。
遂に、手からビームを放つことができるのか。どんどん元の世界の妄想が実現している。
感慨深い気持ちになりつつ、僕は気を引き締めた。
皆魔力を送ってくれている! なら僕も、持ちうる魔力を全て込めて……放つ……ッ!
ジ、ジジジジ、ジガッ!
右手のひら前の空間が歪み、周囲に火花を散らしていく。チカチカと空中に淡い光が漏れていく。
糸から伝わるのは、四人の魔力と思い。
今、それらが一つに一体化して、権限するッ!
「ッ!」
その時、悪い想像が頭をよぎった。
僕らが放った光線によって、第一魔法実習館は崩壊してしまう想像だ。極大極太光線は少し斜め上に真っ直ぐ放たれ、天井を貫き破壊する。やがて支えのなくなった屋根が落ち、実習館崩壊。
考えてみれば、僕の魔力はインペラトーレを優に超えている。ただでさえ、インペラトーレのシェーナがいるというのに、僕が全力で魔力を込めてもいいのだろうか?
「(良くないだろ!!!)」
慌てて僕からの魔力供給をストップさせる。しかし、間に合わず。
自分で注いだ魔力達が、行き場をなくして返ってくる!
「(魔力逆流……!)」
魔力逆流。魔法を発動させる際、魔式に魔力を注ぐが、その途中で不完全なまま注ぐのを止めると生じる現象。
魔力というものは空気中に放つと分散して消滅する。しかし、魔式といった世界の法則を歪める特別な式に放たれた場合、エネルギーとして集中する。
魔法として発動する前に、魔力供給が断たれてしまうと、空気中と違って分散できない魔力は、使用者に戻っていく性質を持つ。
すると、エネルギーになっている魔力は体内に留まることができず、周囲に放出され爆発する。
これを、魔力逆流と呼ぶ。
「(魔力は魔法になる際エネルギーに変換される! もし、莫大なエネルギーが返ってきたら……!)」
ドッッッガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアンンンンッ!
「! な、何ごとなの!?」
「だっ、大爆発だぁ!」
「きゃあああああ!」
「ひぃぃぃぃ! 逃げろぉぉっぉぉぉぉ!」
……大きな衝撃と共に、爆発を起こしてしまうのだ。このようにね。
咄嗟に、僕は防御魔法を展開して四人を守ったから怪我はなかった。幸運なことに、周囲にも人がいなかったから、この爆発で大事はなかった。
しかし、この爆発事故は後に『オール・フォー・バン事件』として、後世まで語り継がれていくのであった……。
昼休み。
いつものように、賢者棟の一階にある応接室で飯を食う。もちろん、僕を含めた愛の羽メンバー三人だ。
座る席も決まっており、僕一人がメドナとシェーナ二人とテーブルを挟んで対面している。この方が話しやすいからね。
しばし飯を食いながら、どうでもいい話に花を咲かせる。
ゲンジが最近学校に来ていないこと、リューイが挙動不審な件、キリコッテがいつも可愛い等、とりとめのない会話を繰り広げる。
やがて話題は、先程の授業内容に映った。
「しっかし爆発するとなぁ。二人共怪我なかった?」
「坊ちゃまが守ってくれたおかげで、傷一つ付きませんでした。ありがとうございます」
「私も。エーリくん、ありがとね~」
「爆発させたの僕だし、感謝されても困るけどね……」
心苦しく感じつつ、苦笑するしかなかった。
あの魔力逆流によって起きた爆発は、すぐ手元に発射してしまったと言って誤魔化した。失敗よりも怪我がないか心配されたので、意外と誤魔化しが効いてよかった。
僕としたことが、魔力逆流を起こしてしまうなんて……たるんでいる証拠だ。こういうことは事前に気をつけなければならないのに。
魔力逆流は、この学園に来てから、魔法を扱う際の注意事項の一つとして習った。魔法初心者が起こしやすい初歩的ミスだと。
無意識に驕っていたんだろうな、僕は。自分なら魔法正しく使用できると図に乗っていたんだ。
下手をしたら、五人全員爆発で吹き飛んでいたかもしれない。今後いっそう注意することにしよう。
会話が止まり、間が生まれたところで、次の話に移ろうか。ていうか本命。
これからの、愛の羽についての話だ。
「さて、愛の羽結成してから三日目になったけど……進捗状況はまずまずだね」
僕の発言を皮切りに、二人共真剣な表情になった。しっかり臨もうという意思が見られる。
そんな二人を前に、僕は短く考える。
昨日の夜、報告会&反省会を行い、得た情報から『まずまず』と判断したのだが……、まだまだなところが大きい。
神帝は法王女の信頼する三人の内、司祭院、助祭院を味方につけることができたが、法王女と司教院の行方は知れず。
魔女の月は聖女として、今日の夜から戦乙女に挑むらしい。味方も敵も戦力は未知数。
先行き不安だ。むしろ不安しかないのかもしれない。
だが、何もかもこれからだ。まだ三日目だ。焦らず慎重に、恐れず行こう!
……というわけで、愛の羽から一つ仕掛けていこうか。
「ここで一つ、シェーナにとある任務を頼みたいんだけど」
「! ええええええ!? わ、私に? そ、そそそそりぇ――ッ! んぐくっ! むぐー!」
「しぇっ、シェーナ様! お茶です!」
余りにも予想外のことを言われたからか、シェーナは食べていたものを喉に詰まらせたようだ。必死に胸を叩き始める。
隣に座るメドナが、慌ててお茶を渡して飲ませてあげる。
「ゴクッ、ゴクッ……ぷはぁ。あ、ありがとう」
「どういたしまして。大丈夫ですか?」
「だっ、大丈夫よ」
少々涙目だったが、もう大丈夫とばかりに、健気な笑顔を浮かべた。話すのは落ち着いてからでいいのに……優しい子だ。
前のめり気味に、僕へ尋ねるシェーナ。その目は、歓喜の色が見え隠れしている。
きっと、ようやく自分も力になれると思ったのだろう。僕とメドナだけに負担をかけたくないと思っているのだろう。
シェーナが図太く生きるには、まだ時間がかかりそうだね。
「で、私に作戦って?」
「ああ」
僕は懐からある物を取り出した。
それは一見すればただの巻物だ。魔法道具でもない安物の巻物。
興味深げに見ている二人を前にして、机へ広げて見せた。
これはある人達の名前を記した巻物だ。選挙までの一日目から少しずつ書いていて、昨日の夜やっと完成した超大作。
シェーナは怪訝な顔で、それを眺めて言った。
「これは……私達のクラスメイトの名簿?」
その通り。巻物には上から下までズラッと我がクラスメイト達の名前が書き連ねられていた。
しかし、ただの名簿じゃない。ただの名簿だったなら、ここまで時間は食わないさ。
「ただの名簿じゃないよ。よく見て」
「よく見てって……う~ん?」
頭を傾げるシェーナ。すると、隣で見ていたメドナが、あっ、と小さく声を漏らした。
「これ、ランク順ですか?」
「ランク順? ……ああ、そうね、そうだわ!」
メドナの回答に、シェーナも気付く。その法則性に。
僕は少しタメを作ってから、フィンガースナップを決めた。
「正解。これは魔力のランクを高い人順に並べた名簿さ」
この学校の入学試験で測られる魔力容量は、十段階にランク付けされてある。これには例外なく、誰もが何かしらのランクに位置している。
例えば僕は、レベル8のヴィチェレで、メドナはレベル1のバローネで、シェーナはレベル10のインペラトーレである。
そう言ったランクを、クラスメイト分ランキング化したのが、この巻物である。さすがに骨が折れたぜ。
巻物を読んで、驚愕の表情をしている二人。
「す、すごいですね……。一人一人聞いて回ったんですか?」
「聞いて回ったって言うか、入学したての頃に皆自己紹介で教えてくれたんだよ。それを覚えてたから、全部書きおこしてみた」
「記憶力いいわね~、エーリくん」
二人から尊敬の眼差しと賛美の言葉をもらい、ちょっとだけいい気分になったのは内緒。
間違いや誤魔化しがなければ、このランキングは有効だろう。
ランク=強さではないと思うけど、大きな魔法を扱えるという点で見ると強さなのかもしれない。つまりこのランキングは、『クラス内最強は誰だ? ランキング』なのだ!
「でもこれ、何に使うの?」
うむ、シェーナの疑問はもったもだ。何故今更、このタイミングでこんな物を作ってきたのか。
答えは、簡単だ。
「そのランキングの上位十名が、愛の羽設立から五日目までに何回シェーナに接触してきたかを、記して欲しいんだ。まぁ、さすがに一日目や二日目は覚えてないだろうからそこはいいよ」
僕のしたいことは、ただこの一点だった。
クラスメイトの接触回数を測ること。
「え、え~っと?」
巻物を持って、困惑しているシェーナ。いきなりそんなことを言われても困るのは分かる。
説明必須だからなぁ。
「前にフィレ先輩が言っていた。『二つの組織は有能な生徒を無理やり取り込もうとする』と」
「そ、そんなことを言っていたのですか……」
メドナの戸惑った問いかけに、ああと頷く。
ちょうど、最後にフィレ先輩の姿を見た日だったなぁ。
そして、僕にこれから起こりうる可能性を忠告して、全てが始まった日でもある。
「クラスメイトの中にも、勧誘を受けて組織に所属している奴がいるかもしれない。特に上位陣は要注意だ」
「なるほど。それでランキング化したのですね」
「そうだ。ただ、正確とは言えないけど」
どうしても、自分のランクに嘘をついている可能性は否めない。僕みたいな奴がいるかもしれないし。
「でも、接触回数を測るというのは?」
「そろそろ二つの組織としては、戦力を増やすために動くかもしれない。いや、水面下で動いているのかもしれない」
「ピサスくんとフレンシアちゃんを説得したから、私にはもう来ないんじゃないかしら?」
「あくまで勧誘には来ないということだ。けど、監視はしているかもしれない」
「!」
僕の言葉に、僅かに息を呑むシェーナ。
勧誘はできないけど、監視は自由だ。なら、監視して使えそうならもう一度勧誘に来ることだってできるし、他の組織に入られそうなら邪魔だってするだろう。
「戦力にならないかもしれないけど、シェーナは何てったってインペラトーレ、学園で四人しかしない最高の才能を持つ者だ。監視の目があったって不思議じゃない」
インペラトーレが組織にいて困ることなんてないだろうしな。色々と使えるだろう。
僕の言葉を聞いて、メドナは考える仕草をとり、納得したように息を吐いた。
「……つまり、接触回数が多い程、何らかの組織に属した者の監視である可能性が高いわけですね。それが上位陣だと更に濃厚」
「その通り。さすがは僕のメイドだ。いいこいいこしてやろう」
「~~ッ! あ、ありがとうございます坊ちゃま!」
メドナの頭を優しく撫でてやると、目を細めて嬉しそうに頬を染めていた。随分と可愛らしい反応をする奴じゃないか。お兄さんいつまでも撫でてやりたいくらいだぜ。
しかし、実際にそれをやると日々が無為に終わってしまうので、惜しみながら手を離した。メドナもどこか残念そうである。
「今日は頭を洗えなくなってしまいました……」
「いや、ちゃんと洗ったほうがいいよ?」
メドナの髪、シャンプーでいい匂いするからね。触り心地もいいし。
それに、頭とか撫でていると、元の世界の妹思い出すんだよなぁ。元気かな、翡鳴。
……っと、郷愁に駆られている場合じゃない。今は異世界、今は異世界。
「とにかく、メドナの言った通りだ。接触回数を記し、可能性のある奴を炙る」
「もし、怪しい人がいたら?」
「その時は――」
僕はニヤリと笑い、
「捕獲する。そして、誰の命令で監視していたかを突き止める。あくまで丁重かつ穏便にね」
そう、含みがあるように言い放った。
僕は思索する。
司教院であるフィレ先輩までもが法王女と一緒に隠れている。実質、現神帝は司祭院、助祭院の二人が支配していると言ってもいい。
それなのに、情報が不自然なほどに集まっていない。ノレルの福泉まで誘導されているようにも感じる。まるでそうなるよう何者かが情報規制を行っているようだ。
恐らく、フィレ先輩に繋がる手下。フィレ先輩が図書委院長だから、図書委院か。
図書委院は情報を司るという役割上、神帝のメンバーであっても、姿を明かしてないという。調べようとしたが調べられなかった。ピサスとモデも知らない様子。
誰なのかも不明、何人なのかも不明、ランクも不明。……いかにも、監視役が務まりそうじゃありませんかねぇ?
ふと、僕はシェーナを見た。
彼女は不安そうながらも、与えられた任務をこなそうと意気込んでいる。その姿は年相応の悩める女の子だ。
法王女は絶対動く。あんなに執着していたシェーナを、幼馴染の法王女が諦めるとは思えない。絶対に監視はいるはずだ。
そして、監視役に選ばれるとしたら、シェーナと同じクラス者だろう。その方が監視が楽だし効率的だ。
また、いざという時のために、ランクも高めだろうと推測できる。シェーナとの戦闘も加味されてね。
監視が動き出すとすれば、シェーナが立候補した時。それまでに、炙りだしてやる……!
僕は無意識に、握りこぶしを作っていた。
昼休みが終わり、教室へ帰る途中。
シェーナが眉間にしわを寄せて、巻物とにらめっこしながら尋ねてきた。
「よくできて巻物だけど……本当なの?」
「本当さ。記憶力はいい方だからね」
「……でも」
「不安に思うのは分かる。まぁ、これ単体だとただの才能ランキングだから、必ずしも監視とは限らないし」
「そ、そうよね。絶対ではないもんね。……けど」
『クラス内最強は誰だ? ランキング』
第一位 シェーナ・エストーナ(レベル10:インペラトーレ)
第二位 エーリ・アルンティーネ(レベル8:ヴィチェレ)
第三位 ケイシー・エナー(レベル8:ヴィチェレ)
第四位 リコプル・タティーシ(レベル8:ヴィチェレ)
第五位 キリコッテ・ジャバッツ(レベル7:グラントゥーカ)
第六位 ゲンジューヤ・スウダリ(レベル7:グラントゥーカ)
第七位 リューイ・ガオーカ(レベル6:プリンチペ)
第八位 ヤスラ・アービー(レベル6:プリンチペ)
第九位 カテマ・ロフ(レベル5:ドゥーカ)
……。
…………。
………………。
「上位陣、私の友達しかいないんだけど……?」
シェーナは胃の辺りを痛そうにさすっていた。
その後ろでは、
「……友達であるはずなのに、上位陣にいないわたしって……」
メドナが死んだを目をしながら、頭を抱えていた。
……とにもかくにも、三日目、スタート!!




