表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法によって飛んだ空  作者: 元祖ゆた
運営会選挙編 
34/64

第三十三話 暗闇の魔女 <二日目>

~前回のあらすじ~

心の壁を壊した。


………………<メドナ>

暗闇の魔女。

魔女の月において、『真祖』と呼ばれる存在であり、創設者でもあります。

全身を真っ黒に着飾り、見るからに暗闇を体現している彼女は、実は世界に十人といないデーモン族の一人なのです。

額に目を持ち、黒い尾を生やしているのが特徴ですが、なによりは、魔物である悪魔を使役できることでしょう。そのような奇怪な特徴から、過去に忌み嫌われる存在として扱われたようで、繰り返してはならない悲しい歴史となっております。

性格は気まぐれで冷酷、しかし意外と寂しがり屋で強がりだそうです。趣味はお菓子作りとぬいぐるみ作り。

そんな彼女が何故魔女の月を設立したかというと、時は今から昔へ遡ります。

かつて、あらゆる魔法が確立され始めた時代、昔から使われてきた魔女魔法が、新しい魔法達に食われてしまい、失われかけたそうです。

そこで彼女は滅亡を阻止すべく、魔女の月を立ち上げたと言われております。魔女魔法の素晴らしさを世の中に広めるために、少しずつ魔女を増やしていったそうです。やがて、この学園で二大勢力となるなんて、彼女は予想すらしていなかったようですね。歴史だけ見たら、魔女の月は神帝よりも古い組織なのです。





……。

…………。

………………。

わたしは、ノヴァ様から聞いた情報を頭の中で反芻しながら、皆様を遠巻きに眺めておりました。


「ようこそ、我が根城へ。幾千幾万の時を経て、汝らに逢えたこと感謝しよう。くふふふ……」

「ノヴァもですー。ってか、昨日も会ったですよね?」

「あの時は我の第四人格が目覚めていてな、我自身――つまり主人格の我にとっては、久方ぶりなのだ」

「はぇー、そうですか」

「そう萎縮しなくてもよいぞ、『聖天使』よ。今日も現世における『偽りの供物』を作っていたところなのだ」

「! お菓子作ってたですか! なんです? 何作ったです?」

「くふふ、まあ落ち着け聖天使。今日は『天から授かりし祝福』の量を減らしたとってもヘルシーな『平和と闘争の均衡』となっている」

「要はバター控えめのクッキーなのですね! 紅茶とベストマッチなのです!」

「クッキーじゃない! サブレだ! サ・ブ・レ!」

「はぅ! これは失礼したです!」

「まったく……。これだから現世の者は。この違いが分かってこそ、真の魔女に近づく一歩だというのに……」

「ほわぁ~! すっごく美味いです! 絶妙な甘さでクセがないです!」

「そ、そうか! いやぁ、苦労したんだ。丁度いい甘さに仕上げるには、どれくらいバターを入れるべきかと悩んで――ハッ! あ、くふふふ。丁度いい『天使の囁き』に仕上げるには、どれくらい『天から授かりし祝福』を入れるべきか苦悩してな。くふふふふ……」


……何か、あれですよね。えっと。


「イメージと違うと思いませんか、メドナ」

「お、オブラートに包んでくださいラージャ様!」


わたしが考えていたことをズバリ言ってしまうラージャ様は、相当肝の座った精神を持っているのでしょう。

暗闇の魔女とかいう不気味な名前で、その上デーモン族というから、もう少し邪悪で魔女らしい方かと思っていたら、意外と俗世っぽい方のようですね。逆に親しみがもてて良いと思います。

見た目は大きな魔女帽を被り、ボサボサな黒髪は床へ付くくらいに長く、前髪で両目は隠れており、おなじみの黒色のローブを纏った姿をしております。この容姿だけ見ると、なんとも近寄りがたくて、おどろおどろしい雰囲気が出ています。

しかし、


「そもそも、クッキーとサブレの違いってなんです?」

「明確な違いはないが、含まれる脂肪分によって呼称が変わる。ビスケットもそうだ」

「へぇ~。意外と細かいのですね。同じに統一してしまえばいいです」

「別の国ではビスケットに呼び方を統一していたりするぞ」

「なるほど~。むぐむぐ」

「あ、一つは残してくれよ。我も食べたいのでな……くふふふ」


不気味な格好で和気あいあいとしたお菓子談義……。

ギャップの差、激しすぎませんか?


「ていうか、二人は何してるです? こっち来て一緒に食うですよ」

「あ、ええと、はい」


わたしはおずおずしながら前に出ました。

すると、全身真っ黒の女――暗闇の魔女が、わたしに気が付きます。


「……見ない顔だな。汝は誰か?」

「あ、初めまして。昨日聖女ジャンヌダルクに入らさせていただきました。メドナと申します」

「ほう、メドナか……汝は何故給仕服を?」

「わたし、とある方に仕えているのです。だからこれが、わたしにとっての服となります」

「そうかそうか……くふふふ」


わたしはいつものように丁寧に礼をして、暗闇の魔女の動向を伺いました。

暗闇の魔女の顔が、長い前髪で隠れてしまって見えないので、何を考えているのか分かりません。ただ、何か考え事をしているようで、わたしの前から離れずに立ち尽くしております。

多少困惑していると、突然、暗闇の魔女がわたしを指差し、


「汝はこれから『灰被り』だ」


と宣言しました。腕を組み、口元を嬉しそうに歪ませています。わたしとしては、益々困惑してしまう事態になりました。

灰被り……? そういった名前の童謡を聞いたことがあるような気がしますが、これは一体?

理解するために脳を働かせていると、ラージャ様が呆れた表情をしてやって来ました。


「暗闇の魔女、またですか」

「汝は『結露』か。久しいな」

「昨日お会いしましたが」

「うむ。あの時は我の第四人格が目覚め――」

「それ聞きましたよ」

「……そうか。そうだったな」


ちょっぴり残念そうな暗闇の魔女。本人が言いたそうでしたし、最後まで言わせてあげればよろしいのに……。

って、そうじゃなく。


「あの、灰被りとか結露とは?」

「暗闇の魔女は人に異名を付けるのが好きなのです。私の場合は結露、姫が聖天使、そしてメドナ、貴方は――」

「灰被り、ということですね」

「ええ」


なるほど、あだ名みたいなものでしょう。どうやら暗闇の魔女は、独特な感性の持ち主なようですね。

思えば、この部屋だってそうです。聖女が利用している部屋は、温かみのある談話室のような部屋でしたが、この部屋は正反対です。

まず、暗いです。人が生活できるギリギリの明るさです。

それもそのはず、部屋の中を黒い布等で覆っており、明かりがあまり入ってこないようになっているのです。

更に、怖いです。良く分からない骨や液体が棚に陳列されており、不気味さを前面に押し出した様相になっております。

まさに、暗闇と名の付く魔女、と言ったところでしょうか。


「ちなみに言うと、死女神も暗闇の魔女が付けた異名です」

「そうなんですか!?」

戦乙女ワルキューレと聖女についてもです」

「それもですか!?」


有名な異名の名付け親だったなんて! 更に集団名についても名付けていたとは……衝撃の事実です。

いずれわたしも名が売れれば、死女神のように、灰被りと呼ばれるようになるのでしょうか?

少し、想像してみましょう。



『坊ちゃま、料理ができました』

『ありがとう、灰被り。ああ、今日も美味しいよ、灰被り』

『恐悦至極にございます』

『あっ! あの方は灰被りじゃないか?』

『本当よ! 灰かぶりだわ!』

『ははっ、すっかり人気者じゃないか、灰被り』

『いえいえ、そのようなことはありませんよ』

『『灰被り! 灰被り! 灰被り!』』



……うーん。なんか微妙ですね、灰被り。


「ちなみにちなみに言うと、死女神と付けられた戦乙女のボスは、すっごい嫌そうな顔でした」

「まぁ、それが普通の反応ですよね……」


自分の異名に、死とか女神とか付けられたくないですよね普通。そう考えると、灰被りはかなりマシなのかもしれませんね。


「あまり気にしないでいいと思います。お遊びみたいなものですよ」

「そうですか。分かりました」


異名に意味などない、それが分かったので良しとしましょう。てっきり、死女神は死を司る魔法でも使うのかと思っていましたから。

とはいえ、折角暗闇の魔女からいただいた名前です。大切にしていきましょう。


「……大体、私の異名だけおかしくないですか? なんですか結露って。ただの現象じゃないですか」

「あ、あはは」


そうです。結露とかいう現象を名付けられる方だっているのです。灰被り、大事にするべきですね。


「灰被り、も結露同様微妙ですが」

「……ですよね」





聖女の利用している部屋の隣にある部屋。

その部屋にある小さなテーブルを囲んで、四人は顔を合わせました。


「改めて、名乗らせてもらおうか。我は暗闇の魔女だ。普段は常世に棲んでいるのだが、たまに現世へ戯れに訪れている。それと、現世は第四人格の担当なのだが、奴は今『精神の奈落』へ落ちていてな……くふふふ。仕方なく、主人格である我が玉座に座っている。まぁ、よろしく頼む」

「??? あ、はい。メドナと言います。こちらこそ、よろしくお願いいたします」


暗闇の魔女一人に対し、聖女のわたし達が三人並んで対面しております。わたしが真ん中、右にノヴァ様、左にラージャ様が座っております。


「……要は『暗闇の魔女です。よろしくお願いします』ってことですよ」

「なるほど」


暗闇の魔女は難解な言葉を扱うらしく、こうしてラージャ様が逐一翻訳してくれるようです。ありがたい話です。


「さて、汝らがここ部屋にやって来たということは、遂に夜会へ参加する決心がついたのだな?」

「です! メンバーが三人揃ったです!」


ノヴァ様が嬉しそうに指を三本立てて言います。ここが広い場所だったなら、そのまま走りだしそうな勢いでした。


「魔女の夜会への出場には条件がある。一つ、魔女であること。二つ、三人以上の集団であること。三つ、闇の時を超えし存在であること」

「闇の……?」

「八歳以上じゃないと出られない、ってことですよ」

「なるほど。何故八歳が闇の時なんでしょう?」

「ほら、夜八時になると外真っ暗じゃないですか。闇の時=夜八時で、八歳です」

「な、なんて難解な……!?」


むむむ、暗闇の魔女の言葉の使い方は難しいですね。まるで謎解きをしている気分です。ラージャ様がいなければ、何も分からずじまいでした。


「ならば早速、悪魔の契りを施してやろう。初契約は灰被り、再契約は聖天使と結露だな。言っておくが、再契約で召喚できる悪魔は初契約よりも劣化した悪魔しか召喚できん。それでもいいな?」

「です!」

「大丈夫です」


もう灰被りで定着しているんだぁ、と諦観の境地に至りつつ、わたしは今の言葉の意味を尋ねようと隣を見ました。しかし、ラージャ様は無言で頭を振りました。

どうやら、暗号のない、混じりっけなしの言葉だったようです。


「くふふふふ。そうかそうか。よし、今から悪魔を呼び出そう。灰被りからいくぞ」

「わ、わたしからですか」

「そうだ。再契約よりも契約の方が手間取るからな。先にやってしまった方がいいだろう」

「なるほど、それなら分かりました」


不意に名前を呼ばれ、わたしは慌てて立ち上がりました。

正直、わたしがトップバッターでやるとは思っていなかったので、心の準備ができていません。

しかし、だからと言ってここで怖気づいていては、お二人に迷惑がかかってしまいます。

何をするのか分かりませんが、頑張りましょう。

わたしが自分へ向けて叱咤激励していると、隣座っていたノヴァ様も立って、わたしの手を握りました。

その顔はとても笑顔で、わたしの心を包み込んでくれるようでした。


「大丈夫です、メドナたん。ノヴァがついてるです」

「ノヴァ様……」

「怖かったらノヴァの手をギュッと握るです。そうしたら、ノヴァもギュって握り返してあげるです。これで怖いのなんて吹き飛ばすのです!」


ノヴァ様がわたしの手を力強く握ってくれました。とっても暖かくて、これ程頼もしいものはないでしょう。

自然と、わたしも握り返しておりました。ノヴァ様が嬉しそうにはにかみました。


「……ノヴァ様程ではありませんが」


すると、唯一自由だった左手も、いつの間にか握られておりました。

少し恥ずかしそうにしている、ラージャ様によって。


「私も、力になります」

「はい! お願いいたします!」


右手は無邪気で暖かい人が、左手は冷静で優しい人が繋いでくれています。

わたしの不安は、いつの間にか消え去っておりました。


「くふふふ。それが汝らの尊き絆か……」


暗闇の魔女は、わたし達を眩しそうに見ていました。多少、羨望が混じっていた気がしましたが、追及することではないでしょう。

その場から立ち上がった暗闇の魔女は、色々とごちゃごちゃしていた棚を物色し、やがて禍々しい杖を取り出しました。黒色で杖の先には赤い宝石が埋め込まれており、いかにも魔女らしいアイテムです。

わたし達三人は暗闇の魔女と向かい合い、暗闇の魔女は杖を構えます。


「ここで注意だ。我が『いいぞ』と言うまで、目を開けてはならない」


初めて、暗闇の魔女が脅すような声色で、そう言いました。思わず背筋がゾクッと震えます。


「我の額の目――『悪魔の目ブラックアイ』はな、魔界と現世を繋ぐ扉の役割を持っている。つまり、瞳に映る先は魔界というわけだ。人の身で魔界なんて覗いてみると……」

「どう、なるのですか?」


暗闇の魔女は少し溜めてから、可笑しそうに、



「魂を引っ張られてしまうのだ」



と言って、くふふふと笑いました。こんなこと、冗談でも笑えません。

すぐにわたしは目は閉じ、体をできるだけリラックスした状態にしました。思ったより、心は安定しているようで、緊張は殆どありませんでした。

大丈夫、お二人が握っていてくれているのです。それに、目を瞑っていればいずれ終わるのです。怖いことなど何もありません。


「そうです。『私』がついているです!」

「はい。『オレタチ』がいますから」

「……え?」


すぐ目の前で聞こえた声に、反射的に、思わず目を開けてしまいました。

ノヴァ様が一人称に『私』を使ったこと、ラージャ様が『オレタチ』なんてありえない一人称を用いたこと、わたしの心を読んでの回答。考えればすぐに気が付いたのに。



目の前に、目がありました。



暗闇の魔女は、前髪をかき上げており、両目と額の悪魔の目ブラックアイを開いておりました。

両の目は澄んだ色をしていて、前髪で隠しているのが勿体無いと思える程です。

しかし、悪魔の目は、どこまで暗く、闇そのものもので、何かココ心ロが、ひきず、りりひっぱらられ――



『オレタチ、と、遊ぼウ?』



「見てはいけません、メドナ!」

「……! っはあっ! ら、ラージャ様ぁ」



ラージャ様に両目を手で覆われ、視界が真っ暗になりました。同時に、わたしの身に起きていた『何か』が、ピタリとおさまりました。

今までわたしは、危ない目に遭っていたような気がして、一気に鳥肌が立ちました。冷や汗も背中を伝っていきます。

まるで心が、精神が、得体の知れない邪悪なものに、飲み込まれそうになりました。身と心が引き剥がされるような……そんな感覚を味わいました。


「大丈夫ですかメドナたん!」

「はっ、はい! 何とか」


ノヴァ様が必死に手を握ってくれています。わたしはそれに応えるため、何度も握り返しました。


「……声を聞いたのですね?」

「そうです! お二人の声を聞いてわたし……!」


あの声が、お二人のはずがないのに。わたしは目を開けて確認しようとしてしまったのです。

開けてはならないと言われていましたが、開けてしまいました。

わたしは、なんと愚かなのでしょう。


「あれは悪魔の囁きです。心を読み、最適の相手の声で誘うのです。暗闇の魔女め、わざと説明を省きましたね?」

「我はちゃんと注意したぞ? 目を開けてはならないと。それが全てではないか」

「……屁理屈を」


ラージャ様と暗闇の魔女が言い争っているのを差し置いて、わたしは一人自分を責めておりました。

きっと、今のわたしは顔を真っ青にしていることでしょう。体も微かに震えていることでしょう。もしかしたら、歯をガチガチに打ち鳴らしているかもしれません。

今思うと、本当に、なんて馬鹿な真似をしたのでしょう。目を開けるなと言われていたのに、魂を引っ張られると言われていたのに。ただの自殺行為ではありませんか。

良かった。本当に良かった。わたしは、ちゃんと生きております。


「うっ、うぅっ……」


情けなくて、怖くて、安堵して……様々な感情が混ざって、涙が出てきてしまいました。

目を瞑っている上、両手は握られているので、拭うことはできません。


「……大丈夫です。ノヴァがついてるです」

「はい。私達がついていますから」


本当のお二人の声が、あんな悪魔の声とは違って、優しく穏やかで。


「本当に……ありがとうございます」


止めどなく流れる涙に、わたしは別に拭わなくてもいいか、と思ったのでした。





「『繋げ。魔界の闇より生まれし悪魔よ。人界にて新たに権限せよ』」


暗闇の魔女の詠唱で、空気が変わりました。

今、この部屋に何かがいる。しかし両目を覆っているので、それを見るすべはありません。

けれどわたしは、それがなんなのか察することができました。

悪魔、です。


「……ほう。灰被り、汝の悪魔は随分と賢そうだ。見ろこの立派な羽を。そう思わんか?」

「目を瞑っているから分からないですよ」

「そう言えばそうだったな。見てみるか?」

「冗談でも止めて下さい」

「だろうな、くふふふふ。……それでは契約に移る。いいな?」

「はい、お願いいたします」


多少、緊張が含まれた声で、わたしは答えました。

先程感じた恐怖はまだ残っていますが、お二人がついていてくれてるので、頑張ることができます。


「『結べ。悪魔の力をその身に宿せ。人の命を糧とせよ。今こそ、血の契約を』」

「……ッ!」


更なる詠唱と共に、この部屋見えない何かが渦巻きます。魔力のようにも感じるし、先程引っ張られかけた魔界の空気にも感じます。

その時です。わたしの目の前に何か――恐らく悪魔でしょう、その悪魔の気配を感じました。

無防備な私の目と鼻の先に、悪魔がいるのです。恐怖を感じないわけがありません。

先程の出来事も相まって、わたしは逃げ出したくなるのを必死に堪えました。目もしっかり閉じています。

そうやって我慢していると、わたしの中から何かが出て、悪魔と繋がったのを感じました。イメージとしては、お腹から穴が空いて鎖が飛び出し、悪魔を縛り上げた、という風な感じです。

これこそが、悪魔との契約なのでしょう。



「『血判チェック』」



暗闇の魔女の一言で、見えない空気は霧散し、元のおどろおどろしい空間に戻ったのを肌で感じました。


「再契約完了だ。もう目を開けていいぞ」

「……は、はぁぁぁ~」


精神的に疲れたわたしは思わずふらつき、


「お疲れです!」

「お疲れ様でした、メドナ」


お二人に支えられていたのでした。

わたしが落ち着くまで待ってもらい、数分してようやく、一人で歩けるようになりました。


「これでめでたく、汝は魔女となった。魔女になることで魔女魔法が扱えるようになり、自身の魔力が2ランク上昇、魔法使用時に精度上昇の効果、精神力・集中力・想像力の向上、悪魔の御加護により『闇魔法』半減、夜に全能力上昇の恩恵を受けることができる。しかし弊害として、生命力の支払い、『光魔法』二倍の被ダメージ、朝に全能力低下を受けてしまう」

「あ、えぇと、なるほど」


急いで懐から巻物と筆記用具を出し、メモをしました。

自身の魔力が2ランク上昇……つまりわたしは、レベル1バローネから、レベル3コンテ程度まで魔力が増えたということでしょう。これこそわたしが欲しかったものです。これで坊ちゃまをお守りできる方法が増えました。

次に、魔法使用時に精度上昇の効果。これはそのままの意味でしょうね。命中率や威力が良くなる感じでしょう。

精神力・集中力・想像力の向上もありがたい恩恵です。いざという時に魔法が発動しやすいということですからね。それに、魔法発動のスピードも早くなります。

悪魔の御加護により闇魔法半減ですが、闇魔法をまだ見たことがないので、これはどうとも言えません。

夜に全能力上昇は、魔女たる所以の効果と言っても過言ではないでしょう。魔女と言えば夜型ですからね。

しかし、弊害の朝に全能力低下によって、日中の授業の成績が落ちてしまうのは嫌ですね……。いや、他のプラス効果で相殺――むしろ上回っていますね。だったら気にする必要はないでしょうか。

光魔法二倍の被ダメージも、闇魔法同様見たことがないのでなんとも……。

こうなると、一番気になるのは生命力の支払い、ですね。前にノヴァ様は微量しか取られないと言ってはいましたが……実際どうなのでしょう。

考えても仕方のないことですが、頭の片隅には置いておきましょう。


「次に、魔女の掟ウィッチルールについて話そうか。魔女になった以上、これは遵守してもらおう。もし、破ってしまうと……」

「しまうと?」


わたしは、固唾を飲んで次の言葉を待ちました。暗闇の魔女は、少しいやらしく笑みを浮かべました。


「契約した悪魔に食われてしまうのだ。身も心もな。くふふふ……」

「ひ、ひぃぃ!」


なんて恐ろしいことを言うのでしょうか。わたしはすかさず自分の体を抱きしめました。

様子を見ていたノヴァ様は、ちょっと頬を染めながら、わたしに近寄ってきます。


「あぁ、怖がるメドナたんもいいですね……。もっと怖がらせてください暗闇の魔女!」

「ちょっ! 止めて下さい!」

「了解した」

「了解しなくてもいいです! ほら、掟について話すのでしょう? 聞かせてください! 今すぐに!」

「う、うむ。分かった。分かったから首を絞めるのはやめてくれ……くふ、くふふふ」


全身洗礼を持って、全力で拒否をしました。どうしても怖い話はダメなんですよね、わたし……。


「ま、守ればいいのだ守れば……くふふふ。そもそも魔女の掟は、魔女として力を得た者が悪事を働かないよう縛るために、わたしが作った魔女専用の法だ」

「そうだったのですか。でも、魔女の夜会で勝った集団が自由に法を作れるって聞きましたが?」

「その通りだ。法というものは、常に時代と共に変わるものだ。いつまでも昔の掟で縛るわけにもいかまい。だから我は、必要最低限の法だけ残し、後は夜会の勝者に好きにさせるようにしたのだ」


そう言って、暗闇の魔女は再び混沌としている棚をかき回し、一枚の紙を見つけてわたしへ手渡しました。


「その紙には最新版魔女の掟だ。良く読んでおけよ?」

「! 分かりました」


早速、わたしは読んでみることにしました。両隣から、ノヴァ様とラージャ様も覗き込みます。

紙には以下のことが書かれてありました。



<魔女の掟>

第一条:魔女の月は、魔女の組織である。加入するには、暗闇の魔女の召喚する悪魔と契約し、魔女にならなければならない。


第二条:魔女の月は、魔女の夜会によって黒魔女マレフィキウムを決めるものとする。黒魔女は、魔女の月を仕切る集団となる。


第三条:魔女の月は、黒魔女主導のもと、運営される。全ての魔女は、黒魔女の下に集う。


第四条:魔女の月は、魔女同士の争いを禁止する。ただし、魔女の夜会では争いを認める。なお、魔女以外は魔女の夜会に参加できない。


第五条:黒魔女は、魔女の夜会で敗れた組織から、魔女を自分の集団へ同意なしで引き込める。


第六条:黒魔女は、魔女の夜会で行う儀式を選ぶ権利がある。


第七条:黒魔女は、争いにおいて他集団に負けない。



……。

…………。

………………。

「なるほどなるほど」

「メドナたん、どう思ったです?」

「えーっと、ですね」


わたしは深く息を吸い込み、



「これじゃ勝てるわけないですよッ!!!」



と叫びました。大きな声を上げるのは大変はしたないので、あまりやりたくはありませんが、気持ち的にやらざるを得ませんでした。


「第一条から第四条までが我の定めた変更不可の掟で、第五条から第七条までは変更可能としている。つまり、魔女の夜会で勝利して黒魔女になれば、三つまで法を弄れるということだ。くふふふふ」

「笑い事じゃないですよ!」

「我にとっては笑い事だが?」

「それはそうですが……ッ!」


事の深刻さを知り、わたしはとうとう頭を抱えてしまいました。


「第五条、第六条はまだいいですよ。でも……第七条、『争いにおいて他集団に負けない』とか……わたし達やる前から勝てないじゃないですか……」


そう、魔女の掟は絶対。その絶対が、黒魔女である戦乙女の勝利なのです。こんなの、どうやって戦っていけばいいのでしょうか?

結局、わたしが入っても聖女が勝つことなんて無理だったのです。負けることが決まっている争いなんて、どうしようもありません。

しかし、そんな絶望の状況であるにも関わらず、お二人共平然としておりました。

ノヴァ様が、わたしの肩を優しく抱きます。


「大丈夫です。メドナたん」

「で、でもノヴァ様」

「策があるです。ちゃんとした策が。さすがに勝機がなければノヴァも諦めてたですよ」

「そうです。私達を信じてください、メドナ」


ラージャ様もわたしの側に寄り、わたしに優しい声をかけました。

お二人の声は、慰めではない自信に満ちた声でした。

そうでした。わたしはお二人に支えられて魔女になれたのです。ならば、その策というものを信じるのがどうりでしょう。


「分かりました。お二人を信じます」

「はい! バンバン信じるです! それといつでも求婚ウエルカムなのです!」

「必ず勝利しますよ」


わたし達は互いに握手し、結束を深める結果となりました。その様子を見ていた暗闇の魔女が、憧れの目をしているのが、とても印象的に見えました。


「それでは、再契約に移ろうか。聖天使、いくぞ」

「らじゃ~です!」

「……別に覗いてもよいのだぞ?」

「絶対覗かないです!」





こうして、わたし達は無事、魔女になりました。

途中、魂が魔界へ引っ張られかけるというアクシデントもありましたが、結果的に助かったので良かったです……と思っておくことにしましょう。


「魔女の夜会は選挙の一日前、三日前、五日前の三回に分けて行われるです」

「今日が選挙まであと七日ですので、逆算して……って早速明日じゃないですか!」

「そうです。だから、メドナが来てくれて本当助かったです」

「そ、そんな能天気な……」


お二人はわたしが来なかったらどうするつもりだったのでしょう? もしかしたら最悪誰も来ず、来年まで待っていたのかもしれません。


「とにかく、明日の魔女の夜会へ出るですよ。新しく作った聖女なので、第五条は適応されないはずですから」

「『黒魔女は、魔女の夜会で敗れた組織から、魔女を自分の集団へ同意なしで引き込める』ですね。作ったばかりの組織なので、もちろん敗れていません」

「です! 準備はオーケーです!」


やる気十分といった風に、ノヴァ様はガッツポーズを作ります。ラージャ様も闘志を燃やしているようで、立ち姿からでも気迫を感じます。

そんな二人に釣られたのか、暗闇の魔女も、楽しそうに口元を歪ませておりました。


「頑張るがいい。我の立場は中立だが、半分くらいの気持ちは汝らを応援している」

「半分でも嬉しいですよ。頑張ります!」

「そうか。くふふふ」


もちろん、わたしも気合を入れていきます。聖女の勝利が愛の羽を、シェーナ様を救うことになると信じて!


「そうだ。灰被り、何か質問はないか? 汝は魔女成り立てだ。今のうちに聞きたいことがあるなら聞くが良い」

「うーん、そうですね……」


唐突にそのようなことを言われても……あ。

一つ、ありました。最初の頃に感じた疑問が。


「あの、暗闇の魔女は魔女の月の創設者なのですよね?」

「そうだが?」

「確か、あらゆる魔法が生まれ始めた時代って、かなり前でしたよね。確実に六年以上前です」

「ふむ、そうなるな」

「えーっと、暗闇の魔女は一体いつからここに? とっくに卒業しているはずなのですが……」

「……」


この学園で教員として働いているならば、魔女の月に関わることができず、監視会として働くことになります。理事会も同じです。

つまり、暗闇の魔女はずぅっと昔から、この学園に在籍していることになるのですが……?

わたしの質問に、暗闇の魔女は黙り込み、微動だにしなくなってしまいました。顎を汗が伝っているように見えるのは気のせいでしょうか?


「……あの?」

「ん、ああ。なんだ?」

「わたしの質も――」

「くぅっ!」


暗闇の魔女が突如、わたしの言葉を遮って悶え始めました。頭を抱えながらフラフラしております。

どうすればいいか戸惑っていると、急に静止し、


「……ここは……ああ、なるほど。主人格め、いきなり回線切りやがって」


と虚空に向かって話し始めました。呆然とするしかありません。


「えーと、暗闇の魔女?」

「ああ、悪いな灰被り。今主人格の奴が寝ちまったんだ。後にしてくんねーか?」

「あ、はぁ……」

「そういうことで!」


口調を変え、手を振りながら、そそくさとこの部屋を去っていきました。

いや、この部屋あなたの部屋ですよね?

置いていかれたわたしがポカーンとしていると、ノヴァ様が呆れた顔でやって来ました。


「あ~あ、また出たですよ。気にしなくていいですメドナたん」

「どういうことでしょう?」

「暗闇の魔女はメドナの推測通り、何年もこの学園に留年しているですよ」

「あ、やっぱりそうだったのですか」


それしか答えはなかったですからね。


「留年自体は気にしていないようです。むしろ、居心地がいいのか自分から留年しているくらいですから。でも……」

「いつからいたか、なんて歳のこと気にさせるようなこと言っちゃダメです。本人、かなり気にしてるみたいです」

「……なるほど」


わたしは、暗闇の魔女が去っていった扉に向かって、深く頭を下げました。

暗闇の魔女とは言っても、女性であることを忘れてはいけないということを、深く胸に刻みつけました。

~選挙まで~

一日目:愛の羽設立

二日目:『現在』

三日目:魔女の夜会一回目

四日目

五日目:魔女の夜会二回目

六日目

七日目:魔女の夜会三回目

八日目:運営会選挙


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ