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魔法によって飛んだ空  作者: 元祖ゆた
運営会選挙編 
30/64

第二十九話 閑話その一 『幼き英雄達』

・この話は前回の続きではありません。ちょっとした外伝になります。

~前回のあらすじ~

青春ごっこ、万歳!


ジンピューロ王国にある長閑な農村のロズー村。そんな村の南西に位置する地域、流民領域。

わたし、ベルル・ナーヴォクはそこの森で生活していた。

流民領域はヒューマン族以外の種族が住むエリア。わたしはエルフ族なので、エルフが住む森に家族と共に住んでいる。今年で五年目だ。

朝、木枯らしが吹いて外は寒かったが、太陽の日差しが暖かくて清々しい気持ちになった。日課である、薪集めに家を出た。

すっかり冬支度をしている森の風景を眺める。

森はいい。四季によって色とりどりに姿を変え、美しい景色で目が養われる。空気も澄んでいて、小鳥や小動物が忙しなく走り回っているのを見ると本当に和む。


「あ、ベルルーッ!」

「おはよー」


木の陰に隠れていたリスを見ていたら、背後から声が聞こえてきた。その声にビックリしてリスは逃げてしまった。


「おいーっす! ってなんだぁ!? なんかベルル不機嫌じゃねーか?」

「そうね。あなたが来たからね」

「おれ嫌われてたの!?」

「知らなかったの? ロズー村の人口半分が、あなたのこと嫌いって言ってたわ」

「半分が敵かよ!? なんだか燃える展開だぜ!」

「そういう問題?」


頬袋いっぱいにしてたリスちゃんもっと見たかった……。

わたしはここで始めて、背後を振り返った。

今日も今日とて暑苦しい狼の少年、ライル・クリース。たてがみみたいに髪を逆立てている。リスちゃん逃亡事件の諸悪の根源。滅すべき存在。

その隣、陽気で活発なドワーフ少女、ティノ・ノーケン。褐色でポニーテールの可愛い少女。呆れた顔でライルを見ている。

二人共、小さい頃からの友達。いわゆる幼馴染。


「おはよーベルル。ちょっと機嫌悪そーじゃない?」

「おはよう、ティノ。今日もライルが元気いいから、わたしのテンション下がっちゃったのよ」

「なんでだよ! おれの元気とベルルのテンションがリンクしてんのかよ?」

「リンクだなんてキモいこと言わないで」

「本格的に酷いな!」


ガクッと肩を落とすライル。けれどこれは演技だ。仲がいいからこそ、わたしはこんなにも暴言がはけるのだ。

……まぁ、今日は普段よりキツめの暴言だけど。リスちゃんとの出会いは一期一会だから。


「今日も冴えてるわねー、ベルルは。薪集めしてるの?」

「そうよ。二人は?」

「おんなじ。ライルとは森の入口で会ったのよ」

「やっぱり朝は森で修行に限るぜ。わっはっは!」


楽しそうに笑うライルに、ニコニコ微笑んでいるティノ。つられてわたしも笑顔になった。

いつもこんな感じだ。なんとなく集まって遊び、一日が終わる。この三人でいる時が一番楽しい。

――いや、一番ではないか。ここにいない、もう一人の友達がいないと一番じゃない。


「おれも相当強くなったからな。次会ったらビックリするぜユーヒのやつ!」


ライルの言葉に、わたしは僅かに反応した。

ユーヒ・アイバ。そう、彼こそ、もう一人の友達で、わたし達の魔法の先生。


「そんなこと言って、この前年下のオーク族に負けてたじゃないのー」

「だっ! だってよ! あいつ狡いんだぜ? 初級魔法防ぐ甲冑来てたんだからよ! あんなの反則だっつーの!」

「魔法使えるあんた方が反則じゃないの? ここじゃあたし達以外に魔法使える子いないんだし」

「魔法はユーヒとの友情の証だからな。熱い友情が反則なわけねーだろ!」

「相変わらず無茶苦茶な理論ねー」


呆れながらも綻ぶティノ。ユーヒの名前が出て、嬉しい気持ちになったのだろう。

ユーヒはどこか遠くへ引っ越してしまった。会えなくて寂しいけど、ユーヒはまた遊びに来るって言ってくれた。

……いや、別にわたしは、寂しくなんてないけど。二人が淋しいって言ってるから、のっかってるだけだし。

わたしはそんなどうでもいいことを考えていると、ティノはニヤリといたずらっぽく笑った。

なんだろう? と思っていると……。


「あ! ユーヒだ!」

「! ッ!」


ティノの指差した方を、急いで見た。しかしそこには、枯れかけたツタがぶら下がっているだけだった。

はめられた。そう思った瞬間、顔が熱くなるのを感じた。


「ふふっ! ベルルもユーヒが待ち遠しいみたいね!」

「ちっ! 違うわ! ただその……そう! ちょっとそのツタが見たかったのよ!」

「こんなツタ見たいだなんて、変な奴だなー」

「ライルはちょっと黙ってて。集中できないから。しっしっ」

「おれは害虫扱いかよ!」


ギャーギャー喚く害虫を無視して、わたしはそっぽを向いた。

まったく……ティノめ。そりゃあわたしも、ちょっとは、待ち遠しいって思わなくもないわよ。

少しだけね。少しだけ。


「無視すんなよベルルー!」

「虫? 害虫だけに無視って言いたいの?」

「寒ッ! ちょっと寒いわよライルー」

「おれじゃねぇよ!?」


今日も今日とて、騒がしい一日になりそうだ。





薪を集め終わり、二人と分かれ、家の小屋に納めたところで父さんに呼ばれた。

普段あまり話しかけてくることのない父さんからの呼び出し……。何かあるなと、わたしは確信していた。

こじんまりとした父さんの書斎。綺麗に整頓されており、いつ来客が訪れても慌てることはないだろう。

部屋の窓際のある机の前に、父さんはいた。それと……。


「あれ? 母さん?」

「そうよ、母さんよ。貴方の母親、セラでーす」

「いや知っているけれど……」


勝気な瞳で微笑んでいるのは、わたしの母さんであるセラ。昔は歴戦の戦士だったらしく、所作がいちいち堂に入っている。迂闊に間合いへ入ると腕をへし折られるとは、父さんの言だ。

そして、わたしを呼んだ張本人である父さんのアランは、青く変色した右腕を摩りながら豪快に笑っていた。


「よォ! 我が娘よ、元気か! ガハハハハ!」


父さんも昔は名のある戦士だったらしく、戦士時代に付けられた傷が、目の下にある。

一応その気になれば治せるらしいのだが、


「なんか……こういう傷あると、戦士って感じがすんだろ?」


という訳の分からない持論を述べ、放置している。きっと父さんはまだまだガキ――少年の心が抜けていないのだろう。

元戦士の夫婦の娘、それがわたしだ。貧弱なエルフ族なのに戦士とか、型破りもいいところだ。


「今日も己の肉体を虐め抜くことに精を出しているか? 娘よ!」

「わたしを父さんと一緒にしないでよ」

「俺は今日も早朝から岩山を登ってきたぞ! 魔法なしでな!」

「アホすぎ……」

「コラ! 自分の父親に対してアホとか言っちゃダメよベルル。……野猿くらいで許してあげなさい」

「ガハハハハ! アホで結構! 野猿で結構! なんせ俺は最強だからな」

「理由になってないわ……」


なんか、どっかの狼と同じようなテンションの父さんに疲れを覚えつつ、わたしは頭を振った。

昔からわたしの両親はこうなのだ。騒がしく、うるさく、妙なテンションで毎日過ごす。だから娘のわたしが、こんなに冷静で物静かになってしまったんじゃないかと思うくらいだ。

でも、内心ではそれ程このやり取りを嫌っていなかった。


「それで、どうしたのよ」


とはいえ、疲れることは否定できないので、さっさと用件を聞いて二人と遊ぼうと思った。


「おう、実はな」


父さんが机の隅に置いてあった一枚の古紙を取り、



「娘よ、学校とやらに行ってはみないか?」



と、言い放った。

少なからずわたしは驚いた。父さんがそんなことを勧めてくるなんて。

学校……。同じくらいの年の子が、知識を学ぶ場所。普通の学校なら、ロズー村から少し離れた町にあるけど。

この場合、そういう普通の学校じゃないだろう。わざわざわたしに勧めてきたということを考えると。


「魔法学校?」


それくらいしかないだろう。もはや、わたしを含めた幼馴染三人は、魔法が使えることで有名なのだから。

わたしの答えに、満面の笑みで頷く父さん。正解したようだ。


「そうだ! それもあの大都市ピレオスで一番と言われているアブルーニャ学園だ!」

「アブルーニャですって!」


冷静沈着を心がけているわたしは、その名前についつい動揺してしまった。

アブルーニャ学園。そこは全世界に名を轟かすような魔法使いを育成する本格的魔法学校だ。魔法使いなら一度は憧れる。

しかし、憧れはするが挫折する。何故なら、入学までの道のりが遠いからだ。


「お、お金! お金はどうするの!」


まずは金銭面。ただの学校とは規模が違いすぎるアブルーニャ学園は、入学金が恐ろしく高い。上流貴族じゃないとさすがに入れない。

また、入学金をクリアしたとしても、その後払わなければならない莫大な学費が待っている。

わたしのような普通の家じゃ、入学金すら絶対手が届かないはずなんだけど。


「後は試験よ! わ、わたしが突破できるなんて思えない……」


それと才能面。学園へ入学するには入学試験を通過する必要がある。聞いたところ、大抵の生徒は最初の試験で落ち、死に物狂いで勉強して二回目の試験に臨むらしい。

わたしには無理だ。自分が合格したヴィジョンが丸っきり見えない。落ちて帰ってきて両親を悲しませる光景が目に浮かぶ。

資金面、才能面で絶望的なわたしじゃ、アブルーニャ学園なんて入れるわけがない。

でも、何より。何よりは……。


「それにわたし、ここから離れたくない」


この村、領域、家から、出て行きたくない。

学園は寮制なので、寮で住むことになる。村から距離もあるし、気軽に戻ってくることもできない。

両親もそうだが、友達のライルとティノと会えなくなるのは淋しい。そして――


「(もしわたしが学園に入ったら、もうユーヒに会えないかもしれない)」


ユーヒは言っていた。必ず会いにいくと。

それはいつになるか分からないけれど、もしわたしが寮で住むことになった後で、ユーヒが来たのだとしたら……。

あの小高い丘から、離れるべきではないと思う。

わたしの意見に、父さんは仕方ないという風な顔をした。母さんはわたしがこう言うだろうと予想していたらしく、ニヤリと笑った。

何がおかしいのか、問い詰める前に母さんは言った。


「じゃあ、三人で相談してきなさいな」

「……え?」


顎をクイッと動かし、わたしに後ろを見るよう促した。指示に従うと、そこには友達二人が立っていた。

言わずもがな、ティノとライルだ。二人共笑顔で楽しそうだ。


「詳しいことはティノちゃんが知ってるだろうから。後はよろしくね、ティノちゃん」

「分かりました!」

「おら、行くぞーベルル」

「ちょっ、え、何これ?」


事情を飲み込めず困惑しているわたしを引っ張って、二人は部屋から出た。

一体、何が起きているのだろう?

連れられること数分。いつもわたし達が魔法の修行をしているあの丘へたどり着いた。

平民領域にある丘。そこに生える一本の大木。ユーヒと出会った思い出の土地。


「で、どういうこと?」


わたしは未だ纏まらない頭に手を当てながら、二人へ尋ねた。

するとライルは、多少興奮気味に答えた。


「おれ達、アブルーニャ学園入れるかもしれないんだよ!」

「……は? え、どうして?」

「報酬だよ報酬! おれ達でっかいこと成し遂げたじゃないか!」

「報酬……? って、まさか」


ライルの言う『報酬』に、わたしは覚えがあった。

そう、わたし達はつい最近、大きなことを成し遂げた。それは、流民領域内で発生した作物が荒らされる被害の解決だ。犯人の憎き害鳥を、わたし達は駆除したのだ。

――怪鳥マモン、である。

大人が手を出すには色々と問題があり、腕が立ちそうで、問題になりにくいと思われた子供のわたし達三人が、代わりにマモン退治に動いたのだ。結果、無事成功。

あの一件以来、わたし達は英雄視され、領域の皆からかなり感謝された。

……わたしとしては、功績のほとんどがユーヒなのだから、彼こそ感謝すべき対象だと思うけれど。

報酬も後ほど用意する、という話だったけれど、まさかね。


「流民領民長が、『怪鳥を倒した実力、是非ともその魔法の才能を伸ばすべきだ!』、と言っててな。それも有名な魔法教育機関で。三人共アブルーニャへ入れるよう準備してるんだとよ!」

「えっ、ほ、本当なの?」

「本当よ。あたしの父さんがそう言ってたんだから!」

「あー、そう言えばティノの父さんが今の流民領域長だったわね」

「そうよ。あたしは七並べというやつねー」

「七光りね、七光り」


何げにティノの家は、流民領域でも名高い家だということを思い出した。


「流民領域全員からの感謝の印として、英雄のおれらのために、資金を用意してくれるらしいんだ」

「しかも入学中の六年間資金援助してくれるのよ」

「! そんなに……」

「結構危険な任務だったからな。皆本当に感謝してるんだぜ」


ライルがしみじみと言う。多くの人に感謝されていることに、感動しているのだろう。

かくいうわたしも心が揺さぶられた。最初は嫌な役を押し付けられたなぁと思っていたけど、ユーヒと出会い、魔法を知って、結果的にすごく良かった。


「そういうわけで、お金なら何とかなりそうよ?」

「確かに……そうね」


これで資金面は解決されたということだ。

しかし、ここで安心するのはまだ早い。まだ次の壁である才能面が立ち塞が――


「入学試験があるらしいけど、あたし達なら余裕ねっ!」

「だな! なんせこの年で魔法使えてるもんな!」


あっけなく、二つ目の壁は破壊された。

の、能天気すぎるんじゃないこの二人は……。

調子に乗っている二人に、わたしは現実を突きつけることにした。


「ちょ、ちょっと待ってよ! 余裕って本気で言ってる? アブルーニャの入学試験は難しくて有名よ? それに才能がなければ無駄足に――」

「才能ならあるわよー」


わたしの言葉に、やけに自信満々で返すティノ。その表情には余裕すら感じる。

なんとなく、自信がある理由が分かるけれど、聞いてみよう。


「……なんで才能があるって言えるの?」

「ユーヒが、あたしには才能があるって言ってくれたから!」


ニッコリと笑った。すごく嬉しそうで、楽しそうだ。

やっぱりね。そう言うと思った。

前、ティノがユーヒの前で特訓した魔法を見せた時、ユーヒは『筋がある』って言っていた。その時のティノのはしゃぎっぷりったら、見ていて微笑ましさすら感じた。

それ以来、ティノは自分の腕に自信を覚え、日々精進している。ユーヒの言葉が、支えになっているのだ。

それはライルも同じ。いずれユーヒと並び立つんだって言って、毎日特訓している。

誰も彼もが、ユーヒに影響されて、支えられて頑張っている。

……もちろん、わたしも、だけど。


「こうなりゃ入るっきゃねーだろ! んでおれは最強の魔法使いになるぜ!」

「最強って、どう最強なの?」

「そりゃもう……あれだ。なんか見えない力で相手を動かして……」

「それ、ユーヒの誘導魔法じゃない。えーと名前は……なんだっけ?」

「パワーコンダクト、ね。魔法等級マジッククオリティは高級、特性魔法で新生魔法よ」

「おおーっ! さすがベルル! 伊達にユーヒの研究はしていないわね!」

「だっ、誰が研究なんか! してないわよそんなの!」


本人から聞いた知識を、そのままアウトプットしただけなのに。研究してるだなんて心外だわ。

ただ、ユーヒと同じように、見ず知らずの人を助けられるような魔法使いになりたいだけ。そのための研究よ。

……と心の中で愚痴ても仕方がない。


「もちろん入るよな? 学園!」

「……それは、でも」


確かに、一つ目の問題と二つ目の問題は解決? されたかもしれない。

でも、そうなると……分かっているのかしら、二人は。

そう思っていると、ティノがわたしの手をとった。彼女の温もりが伝わってくる。


「あたしね、成長した姿をユーヒに見せたい。だから魔法学校で勉強して、すごい魔法を手に入れたい。正直今の環境じゃこれ以上成長できないと思うの」

「それは、そうだけれど」

「大丈夫。あたし達は一緒よ。村から出るのは怖いかもしれない。でも、あたし達がいる」

「そうだぜ。小さい頃からの中だろ?」

「ティノ、ライル……」


わたしは恥ずかしがり屋の上に照れ屋で、引っ込み思案なところがあるけれど、彼女達と一緒なら……多分大丈夫。

二人の笑顔を見てて、そう思った。

わたしも、成長したい……!


「でも、ユーヒがここに来た時わたし達がいなかったら!」

「それなら大丈夫だぜ。この近くに露天やってる黒いテントあるだろ?」

「あの黒魔法堂とかいう不気味な店?」


夜な夜な悲鳴が聞こえてくるとかいう怪談スポットの一つだった気がする。


「そうそう。あそこの店主がユーヒと知り合いらしいんだ」

「へぇー。意外ね」


あんな不気味な場所にユーヒが立ち寄るなんて。しかも知り合い。意外と肝が座っているのかも。


「だよな。んで、店主に、『もしユーヒが来たら、ライル達は学校に通っていて、夏に帰る』って言ってくれって伝言頼んどいたんだ」

「ライルにしては気が利くじゃない!」

「だろー? なんか前にユーヒが、安産祈願のお守り探してるって言ってたの聞いててな。安産祈願のお守りっていったら、あの黒テントしかねーじゃん? だから勇気振り絞って行ったわけよ」

「怖さにビビって漏らさなかったー?」

「バッ! バカ言え! お、男のおれが、もっ、もも漏らすわけ、ねーだろ!!!」

「「……」」

「なんだよ二人してその顔!」

「ライルが漏らしたのはさておいて」

「さておくなよ! てか漏らしてねーし!」


ティノがわたしの頭を撫でた。優しく撫でられ、わたしは恥ずかしくなって俯いた。

昔からティノは、何かある度にわたしの頭を撫でてくれた。ティノの方が小さいのに。


「ユーヒに、成長したあたし達を見せよ?」


小さい子を諭すような口調で、ティノは言った。

ああ、もう。そんな口調で言われたらそんなの、断るわけがないじゃない。

わたしの心は、いつの間にか、学園へと思いを募らせていた。この二人が一緒なら、寂しくない。

待っててね、ユーヒ。いつか必ず、あなたに追いつくから。肩を並べられるような魔法使いになるから!


「でも伝言が確実に伝わるって保証はねーよな」

「そうねー。店主が留守の時に来られたんじゃ伝わらないわねー」

「「うーん」」


腕を組んで考える二人。わたしもどうにかユーヒに伝えられる方法を考え――。


「……あ」


と、そこでわたしはいいことを思いついた。


「書置きをしよう」

「書置き?」

「ええ。ユーヒに対してメッセージを残すの」

「そりゃいい案だけどよ。何に残すんだ?」


不思議そうな顔をしている二人に、わたしはとある物を指差した。

ライルはああ、と言って笑い、ティノはいい案ね、と言って手を叩いた。

これならば、滅多に人が来ないから消されることはなく、確実に伝わるはず。

早速わたし達は思い思いの伝言を書き、その場を後にした。





肌を刺すような風が吹く平民領域。住民達は体を震わせながら農業に勤しむ。

そんな領域には、人の寄り付かないちょっとした小高い丘がある。そこには大きな木が一本生えており、間近で見ると木に刻まれた文字を読み取ることができる。全部で三つ。

一つは、『親友! おれは高みを目指すことにした! 夏、ここで強くなったおれと勝負だ! ライル』。

二つは、『おひさっ! ティノよ! あたし達訳あって学校に通うことになったの! いつか一緒に、冒険に出ようね!』

そして、三つ目は、



『いつかきっと、世界を滅亡させる魔法を会得するから心配しないで』



これが照れ隠しであることに気が付くのは、世界中探しても本人除いて三人だけだろう。

次回から<二日目>です。

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