表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法によって飛んだ空  作者: 元祖ゆた
運営会選挙編 
27/64

第二十六話 毒舌娘 <一日目>

・出血表現ありです。

・いつもより文量があります。

~前回のあらすじ~

お城特集!


………………<エーリ>

僕が神帝の総院、風紀委院長のモデ・ミニャーに苦しめられる前に、時間を巻き戻そう。

カイズブルー城を目指し、小道を抜けた先で僕を待っていたのは、二つの塔と、それに挟まれる形で作られた城門だった。城門前には大きく深めなの川が横切っている。


「ちょっと待て坊主。そこで止まれ」

「そうだ、止まれ」


二つの小さな塔の窓から、各々男が身を乗り出して話しかけてきた。その腕には黄色のリングと赤色のリングが光る。騎士学科生と戦士学科生だ。


「ここまで来たっつーことは、坊主は神帝の入隊希望者だな?」

「希望者だな?」


僕から向かって右の塔にいる男が尋ね、左の塔の男が復唱する。仲いいなこの二人。


「まず名前を聞かせてもらおうか」

「もらおうか」

「あ、はい」


僕は戦士学科の赤色リングを装着し、『ケリ・マクル』と名乗った。

この前使った偽名である、コブシデ・ナッグールでもよかったが、魔女の月用の偽名と神帝用の偽名を分けようと考えた。

元の世界での名前、愛羽悠飛。

この世界での名前、エーリ・アルンティーネ。

平民領域での名前、ユーヒ・アイバ。

神帝での名前、ケリ・マクル。

魔女の月での名前、コブシデ・ナッグール。いつの間にか名前が五つになってしまった。これ間違えたら大変なことになるだろうなぁ。気を付けよう。


「ケリ・マクルか。よし、ケリ。これを付けて門を通れ」

「付けて通れ」

「……これは?」


右の塔の男は、服に付けるワッペンを僕に手渡した。

それは手のひらサイズで、五角形のワッペンだった。黒い鳥が羽を広げている様子が描かれている。神帝のシンボルだろうか。


「そのワッペンは神帝の一員を示すワッペンだ。それさえあればこの城門をいつでも通れる。が、なくせば二度と通れない」

「通れない」

「通行証みたいな感じ?」

「そうなるな。ワッペン自体特殊な魔法がかかっている魔法道具でな。他人のものを借りても通れないから注意な」

「注意な」

「分かった」


僕はもらったワッペンを、服の左胸の部分に付けてみた。ワッペンの裏に針が付いていて、楽に装着することができた。うん、なんか気持ちが引き締まった気がするぜ。

それにしても、こんなワッペンが魔法道具ねぇ。元の世界で言う学生証みたいだな。


「これで僕は神帝に入れたの?」

「いや、これからだ。それは神帝の一員を示すものだが、この時点ではただの通行証だ」

「通行証だ」

「そっか」


僕が納得したところで、右の塔の男が塔内へ引っ込み、同じように左の塔の男も引っ込んだ。

なんだろう? と思っていると、



ガゴゴゴゴゴゴゴッッ! 



と、耳障りな軋む音をたてながら、目の前の大きな城門がゆっくり下りてきた。

いや、倒れてきた、と表現するのが正しいか。僕の方へ門は倒れてきて、門と交差するように横切る川の上に着陸したのだ。

跳ね橋、と呼ばれるものだろう。またの名を可動橋。通行を制限するための橋で、自由に上げたり下げたりできる。

こうして、強固な城門は人を通す橋となったのだった。

これには思わず感嘆の声が漏れた。


「はぁ~。こういう作りだったのかー」

「右の塔と左の塔にスイッチがあってな。それを両方押すと橋になるのだ。まさに最新の科学だな」

「だな」

「最新……?」


僕は彼らの言葉に首をかしげた。

こんなの、最新ではないだろうに。元の世界じゃ、跳ね橋は中世の頃からあったし、今じゃ城自体観光くらいしか使われていない。

やはり、この世界の科学は異様に遅い。発達が遅すぎるんだ。これも魔法の影響としか考えられないけど。

っと、今は考えている場合じゃないな。


「さぁ、通れ希望者よ。これからちょっとした入隊試験があるから、詳しいことは向こうにいる人に聞け」

「聞け」

「了解っす」


二人の門番に許しをもらい、僕は悠々と橋を渡った。

橋を通り過ぎる瞬間、左の塔にいた男が小さな声で、


「気を付けて」


と呟いたことを、僕は聞き逃さなかった。





城門の向こうにはすぐ城内となる。以外にも城内は明るく、窓から光が届いてきて幻想的だった。

ここはホールとでも呼べばいいのだろうか。縦にも横にも奥行があって、広い空間だ。

広さの原因はもう一つ。二階が吹き抜けになっており、一階を見下ろせるギャラリーがあった。見物席みたいで、このホールを使った何か行事があるのではないかと推測できる。

ホール自体、床一面に真っ赤なカーペットが敷かれており、天井にはキャンドルがぶら下がっている。壁にはよく磨がれた長剣が幾つも飾られ、側に鎧がセットとして並んでいる。

まさに西洋の城。宮殿だ。

そして、ここでも目にすることになるのが、ワッペンと同じ絵だ。正面に堂々と飾られている。きっと、この鳥の絵が神帝の印章なのだろう。


「おー、新入りか」

「よく来たよく来た!」


僕がキョロキョロ眺めていると、暇そうに壁へ寄りかかっていた二人組がやって来た。フランクに手まで振って駆け寄る。

見た感じ、ワーグ族とハーピー族だね。多分ネズミがベースのワーグ族だろう。まん丸のお耳がとてもチャーミングだ。

ハーピー族の方は……オウム、かな? おめめとくちばしが小さく、常に首を斜めにしている。あとフクロウかもしれない。


「そうだけど……良く新入りだって分かったね」

「そんな物珍しそうに見ていたら分かるって」

「そうそう」


ネズミの人が笑いながら、僕の肩を軽く叩く。ハーピー族の人は、羽をバサバサ動かして羽を散らかした。

これは……歓迎されているととっても構わないのかな? ハーピー族の人は正直何やっているのか理解できないけれども。あと何がベースかも分からない。


「もう少しで選挙だから、このタイミングでの入隊はありがたいぜマジで。なぁ?」

「うんうん。貴重貴重」

「そっかー」


歓迎されているみたいだ。これは良かった。スパイ活動もしやすいってもんだ。


「俺らの忠実な手下が、増えるってことだからよォ」

「下僕下僕!」


……前言撤回。これは歓迎されているようだけど、僕の望む歓迎とは違うようだ。

和やかな雰囲気は一気に霧散し、ニヤニヤといやらしく笑う二人が、僕を逃さないよう囲んでいた。


「テメェは今日から俺らの手下だ。俺らに忠誠を誓い、どんなことでも命令に従うんだぜ?」

「いや、あの。入隊試験は?」

「あ? 何言ってんだテメェは。テメェみたいなチビなガキが、偉大な神帝に入れるとか思ってんじゃねーだろうな?」

「身分を弁えろ弁えろ!」


僕を馬鹿にするような顔で、嘲笑う二人組。一応、いい身分なんだけどね僕は。


「じゃあ、これが入隊試験ってわけじゃないんだね?」

「当たり前だろバーカ! テメェみたいなガキは、入る資格すらねーっつの! 神帝に票をいれるだけの存在で十分だ」

「バーカバーカ」

「……(イラッ)」


ちょっとムカついた。いや、かなりムカついた。

どうしてやろうかと考えていると、ふと、ホールの奥で数人が固まっているのが見えた。

皆怯えた表情で、顔にあざを作り、目元を青く腫れさせ、手足を包帯でグルグルに巻き、体を震わせている。明らかに満身創痍だ。彼らの目は、この二人組に向いていた。


「ねぇ、もし僕が手下になるのを断ったら?」

「ああ? そりゃもちろん――」


僕の質問に、ネズミは邪悪な笑みを浮かべ、


「言うこと聞くまで殴るに決まってんじゃねーか」


そう答えた。

よし、殴ろう。


「フンッ!」

「んじゃ、テメェはこれかあぽっぷうっ!」


思いっきり殴った。強化魔法で全身を強化、拳には風を纏わせ、ネズミの顔面をぶん殴った。予備動作なしで、最短最速で、相手の顔面に拳をぶつけたのだ。

ネズミは鼻が折れて血が噴き出し、纏った風によって切り傷が顔中に刻まれる。唇は一瞬で腫れ上がった。

続けて、


「セイッ!」

「!? ッ! っんく、あびぇぇえぇぇぇぇえええ!」


更に、殴った瞬間にエアーブレッドを発動、空気の弾丸をネズミの体に叩き込む。ネズミは無様に後方へ吹っ飛び、


「アバァッッッ!」


正面に飾られていたワッペンに、ベタッ! と張り付いた。ピクピクと、めり込んだ体を動かしているのが遠目に見える。


「……あ、あああ」


僕の隣で、オウムが恐怖に支配されたようで、怯え後ずさりながら僕を見ている。

そんなオウムに、僕はゆっくり近づき、優しく微笑んだ。


「あのワッペン、何か足りなくない? 例えば、オウムの絵とかさぁ?」

「ひっ、ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!」


オウムは盛大に悲鳴を上げて、気絶した。白目を剥いて、口から泡まで出してる。

……やってしまった。暴力に任せて、ぶっ飛ばしてしまった。

後に残ったのは、妙な達成感と淡い寂寥感だった。達成感は目の前のクズ二人をぶっ飛ばしたことで得られたもので、寂寥感は殴る瞬間にシェーナを思い出したのだ。

相手を攻撃するための魔法を一切使わないシェーナ。そのシェーナの泣き叫ぶ姿と必死な声が、脳裏にちらついた。



『なんで争わなければならないの? 魔法は相手を傷つけるためのものなの? 違うでしょ? 皆を幸せにするためのものでしょ? こんなの……こんなのおかしいわ!』



……悪いね、シェーナ。僕はシェーナのように、他人を攻撃できない――しないわけじゃないんだ。

身に降りかかる火の粉は全て払うし、中途半端な正義感に従って、自分にとっての悪というものを叩くこともある。今の二人組のような、理不尽に他人を害する悪を、僕は許せない。

自分を正当化するつもりはないし、魔法による暴力はダメだと理解している。けど……けど、僕は――。

シェーナみたいな聖母には、なれないよ。


「はぁ……ゴメンな」


どうしようもない罪悪感に襲われた僕は、その場から静かに退散した。





城内の廊下を歩いていると、後ろから話しかけられた。


「あ、あの!」

「……ん?」


振り返ると、数人の男女が僕を羨望の目で見ていた。良く見ると、さっきホールで集まって震えていた人達だ。

その中で、一番背の高い少年が話しかけてきた。その姿は全身傷だらけで、見ていて痛々しい。


「きみ、強いんだね!」

「そうかな。そうでもないよ」

「いやいや、すごいよ! 相手は風紀委院だったのに!」

「風紀委院?」


少年の口から、聞いたことのある言葉が放たれた。

風紀委『員』? いや、風紀委『院』だって? あるのかこの異世界にも。

元の世界では、風紀委員は漫画やアニメでよくある委員会の一つだった。何故か恐ろしく権力を持つ生徒会並に、学校の治安を守るものとして結構な権力を持っていたりして。現実では、風紀委員なんて存在している学校が珍しいくらいだったけどね。

僕が思案していると、少年は僕が知らなくて困っていると捉えたらしく、詳しく説明をしてくれた。


「この神帝という組織は、法王女擁する総院というトップ集団の下に、役割を持った組織が幾つもの存在するんだ」

「例えば?」

「さっきの二人組が入っていた風紀委院。風紀委院は神帝内の秩序を守り、運営会になったら学園内の治安も守るようになるんだ」

「さっきの二人は守ってるように見えなかったけどね」

「……そうだね。残念ながら」


僕らはお互いに溜息をついた。現実は、非常なものだね。


「他には、単なる戦闘員としての『体育委院』。後始末や不祥事揉み消しを行う『美化委院』。神帝内の組織に作戦や指示を出す『放送委院』。情報収集・管理を行う『図書委院』。医療のエキスパートの集まりである『保健委院』などなど」

「……」


絶句した。

え、何その組織達は。全部聞いたことあるんですが。もしかして僕は転生なんてしていなくて、ここは異世界なんかじゃなく元の世界だったりするのかな? いやいや、でも魔法ってなんだよ。

ダメだ、ちょっと混乱してきた。冷静になろう。

僕は自分の太ももをつねって痛みを感じた。痛みを感じるってことは、この世界で生きている証拠だ!

……多分ね。


「そういった色々な組織の長の集まりが、総院となるんだ」

「なるほど。つまり風紀委員長とか体育委員長なんかが入っているわけだね」

「そうだね。全部で十の組織の委院長達が集まっているんだ」

「へぇー」


ますます生徒会をイメージしてしまう。しかし、これ以上考えても答えは出ない。

うん、もう気にしないことにしよう。広大な海のように、全てを受け入れようじゃないか。


「分かった。ありがとね」

「いや、どういたしまして」


お礼を言われたからか、少年は照れながら頭をかいた。普段ならそんな動作の一つ一つが微笑ましいのだが、包帯や青あざが見るに耐えない。

ダメだ、無視できない。


「ちょっと皆、横一列に並んで」

「えっ?」


僕の突然の指示に、戸惑う彼ら。中には、何故かひきつった顔をしている者もいる。

ああ、きっと彼らはあの二人に、横一列に並ばされて何かされたんだろうな。それを思い出して顔をひきつらせているのか。

……もう一発くらい、殴ればよかったな。


「大丈夫だよ。危害は加えない」

「っ! あ、う」


僕より小さい体格――小人族の少年に、僕は優しく話しかけた。この子が一番辛そうな表情だったので、少しでも緩和しようと話しかけてみた。少年は泣きそうになりながらも、列に並んでくれた。

こうして、全部で六人が、横並びになった。よし、久しぶりにやるか。

僕は魔法陣を思い浮かべ、家宝の指輪に魔力を通し、魔法を展開させた。


「ヒーリング!」


六人の体を、赤い光が包み込む。赤は治療中のサイン。これが青く光れば治療終了だ。

初めて多人数に施す治癒魔法。魔力に関しては問題ないが、操作はちょっとおぼつかない。できるだけ均等に癒していく。


「う、うわぁ! なんだコレ!」

「きゃあ! 怖い! 怖い!」

「赤くなっちゃったぁ!」


ヒーリングをかけてあげているのに、悲鳴があがるってどういう事態だよ。何も説明していない僕が悪いけどさ。


「う、動いちゃダメだよ皆」


けれども、左右にフラフラとはしているが、隊列が乱れることはなかった。一番怯えていた小人族の子が、皆を勇気づけていたからだ。

ちょっと、心が温まった僕。

数分後、体が青く光り始めた。どうやら治癒は完了したようだ。

僕は徐ろに、目の前にいた少女の肩に手を置いた。包帯の巻かれた右肩である。


「! い、痛ッ! ……あ、あれ? 痛くない」

「ほ、本当に?」

「マジかよ」


少女の反応を見て、周囲の少年少女も、自身の怪我している場所を恐る恐る触れていた。そして、痛くないことを知ると、満面の笑みを浮かべた。


「い、痛くない! 痛くないよ!」

「なんで! すげーっ!」


キャッキャとはしゃぐ彼らを見て、魔法で幸せを与えるってこういうことなのかな、と漠然に思った。


「よし、次はキュアかけるから、また並んでくれない?」

「傷はもう治ったよ?」

「今度は中の傷を癒すんだ」

「ふーん。分かった!」


ヒーリングを見て、僕を信じてもいいと思ったのか、彼らは素直に、再び列を作ってくれた。

幸せを与え、僕も幸せをもらう。うん、やっぱり幸せの魔法って、こういうことなのかもしれないね。

その後は、手際よくキュアを全体にかけ、彼らの傷をできうる範囲で回復させた。多人数への治癒・治療魔法……いい経験になった。


「ありがとう!」

「ありがと」

「ありがとうございます!」


報酬として、子供達の笑顔と感謝の言葉をもらった。これ以上のない成果だった。

さて、これからどうするか。話によると、総院は各委院の代表だ。そんな総院の代表が法王女となるのだろうけど。

法王女に接近するには、総院に接触する必要があるんだけど……。


「あ、あの」

「お、何かな」


一番背の高い少年が、僕に話しかけてきた。そう言えば、最初に話しかけてきたのもこの少年だったか。


「神帝に入りたいんだよね、きみ」

「うん、そうだけど」

「なら、総院の会議の時に紹介してあげよっか?」

「!? ええっ!」


僕は思わず、少年の顔を凝視した。少年は頬をかきながら、


「実はおれ、音楽委院長なんだ」


そうカミングアウトしたのだった。





夕方である。季節は冬なので、日が落ち始めるのが早い。さっきまで燦々と輝いていた太陽が見る影もない。

僕は音楽委院長に連れられ、廊下を歩いていた。


「あの風紀委院二人は、入隊希望者を手下にしていじめることが、昔からよくあったらしいんだ。ただ、そのこと上手く周囲に隠していたんだ」


廊下の途中、二階への階段が現れ、上っていく。


「今日、おれがたまたまホールにやって来たら、彼らが暴力を受けていてね。助けようとしたんだけど……」

「返り討ちにあっちゃったと?」

「うん、恥ずかしながら」


二階はたくさん椅子が並んだギャラリーだ。一階の様子がよく見える。


「暴力に飽きて、次何しようか企んでいるところに、きみがやって来たんだ」

「なるほど。あいつらにしちゃ、新しい獲物が来たって思っただろうねー」

「そうだね。まさか獲物に逆に食われるとは思ってなかったと思うよ」


二階はギャラリーが二箇所にあり、それ以外は廊下だ。廊下はつながった一本の線みたいで、ぐるっと一周することができる。その間に、窓から外の景色を見ることができ、それはもう美しい景観が拝めるという。

しかし、今回は一周しないで、廊下の途中にある三階への階段を上った。


「本来、入隊試験は『管理委院』の仕事なんだけど、今日はちょっと留守でね」

「ふーん。こんな時に留守なんだ」

「管理委院は神帝に所属する生徒を管理する仕事が主なんだけど、つい昨日、間諜が紛れ込んでいたんだって」

「! へ、へぇ。要するにスパイね」

「うん、スパイだね。それで責任問題とか問われてゴタゴタしていて、留守なんだ」

「そーなんだ」


音楽委院長に見つからないよう、額の冷や汗を拭った。

スパイの僕にスパイの話をするとは……中々やるじゃないか。

階段を上りきると、たくさんの部屋が並んでいたのが目に入った。三階は各委院の専用部屋があるようだ。体育委院、美化委院、保健委院……。部屋の名前を示すプレートが目をひく。


「だからおれが管理委院の代わりに、きみを推薦してあげるよ。委院長権限でね」

「いいの?」

「いいよいいよ。恩人だし、きみの実力と知能ならどの組織でも活躍できそうだし、何より……」

「何より?」


部屋がどんどん通り過ぎていって、やがて一つの部屋の前に着いた。

総院、の二文字が、掲げられている。最奥の部屋だ。


「きみは、正義の心を持っている」


音楽委院長の言葉と共に、扉がゆっくりと開かれた。

視界に、部屋の全貌が入ってくる。


「……うっはぁ~」


第一声は、なんとも情けない声だった。感嘆と驚愕が混じったような感じだ。


「どう?」

「いや、すごいねこりゃ」

「だよね」


僕と音楽委院長は、二人並んでボーッと眺めた。

金、である。部屋の中金ピカだった。

部屋の中央に大きい丸テーブルがあるのだが、まずこれが金色。次に、テーブルに合わせて囲むように置かれた十個の椅子が金色。

まだまだ行くぜ。入口から見て左右の両壁が金、床が金、天井が金。トリプルゴールド。

小物が置かれた棚が金、小物も金、鏡も……いや、鏡は普通か。

とにかく、金閣寺よろしく部屋の中は金そのものだった。


「随分とまぁ、豪勢だねぇ。何故こうなったし」

「どうやら昔、ここに住んでいた魔法使いが、『金魔法』で金色に改造したみたいで」

「それが今まで残っていたというわけか」

「そうだね。せっかくだから総院の部屋として使おうと」


そりゃまぁ、こんなに煌びやかな部屋があるんだったら、使うわな。僕は勿体ないから使わないけど。

おどおどしながら中に入った。音楽委院長は誰か他の人を捜していたようだが、色々見ながら歩き回ってみても部屋の中には誰もおらず、輝かしい金だけが寂しく光っていた。


「うーん、誰もいないようだね。ここなら風紀委院長がいると思ったのに」

「? なんで風紀委院長?」

「管理委院の次に、神帝の生徒について権限を持っているのが風紀委院なんだ。こういう事態に備えてね」


音楽委院長は空笑いをしていた。まさか本当にそういう事態になるとは、といった感じか。

それにしても、一体どこのバカが、スパイとして神帝に忍び込んでバレたんだか。これから忍び込む僕がちょっとキツくなったじゃん。

僕が黙っていると、音楽委院長は僕が入れなくて不満だと捉えたらしく、慌て始めた。


「ご、ごめんね! 普段あの人、この部屋にいるのに……なんで今日に限って」

「いや、別に謝らなくてもいいけど」

「ちょっと待ってて。風紀委院長呼んでくるよ」

「あ、うん。分かったけど」

「ゴメンね、すぐ連れてくるから!」


申し訳なさそうな顔をして、両手をくっつけてゴメンと謝った。そして風のように走って行った。

そこまで急がなくてもいいのに。なんかこっちが申し訳ないんだが。


「……」


キラキラした金ピカ部屋と、残された僕。なんだろうこのどうしようもない寂しさは。

とりあえず、暇つぶしにもう一度見て回るか。そう考え、僕は部屋の中を歩き始めた。

やっぱり一つ一つが金でできている。純金、とでも言うのだろうか。一切の濁りがない金だった。

金魔法。応用魔法の一つで、十二属性の一つ。基礎魔法の火魔法と土魔法を組み合わせて生じさせる魔法で、金属を生み出す魔法だ。剣や盾等の武器の材料に使え、上手く使えば武器そのものを生み出せるようになるのが、金魔法だ。


「(……試しに作ってみるか)」


手持ち無沙汰な僕は、金魔法で剣を作ってみることにした。

思い浮かべる魔法陣は、中級・金魔法・『ソードメーカー』。指輪に意識を向け、魔力をゆっくり流し込んだ。

この魔法に必要なのは想像力。自身の想像した剣が、そのまま権限する。そのため、僕は事細かく形状を考える。

剣……何が一番カッコイイだろうか。レイピア? クレイモア? ダガー? ソードブレイカーもいいねぇ。

うん、どれもカッコイイだろうけど、日本人だったらやっぱり――。

右手に、少しずつ創造されていく。ジワジワと、まるで紙に染み込む水のように、下からできていく。

たくさん集中力を使うためか、汗が額に浮かび、耳がほんのり赤くなる。それでも僕は、剣を想像し続ける。他所に気を使わず、ただ一心に。

数分後、僕の手のひらには、一本の刀が出来上がっていた。

緩やかなカーブを描いた刀身に、手にひらにフィットして持ちやすい柄、固くて鈍器にもなりそうな鞘と、僕の考えた最強の日本刀が、完成した。

現実じゃこうも簡単に作り出すことなんてできないだろう。まさに魔法様様だ。

試しに、軽く振ってみる。重さを感じさせぬ動きで、空を軽々と切った。うん、これは充分実用的だ。

一通り素振りしてみて満足し、刀身を鞘に収めた。しかし、腰に付けるわけにもいかずに、初級・空間魔法・『アイテムポケット』を使って、目の前の空間に穴を作って刀をしまった。

アイテムポケットは自分だけが干渉できる空間を作り、そこへ物をしまいこめるという魔法だ。

うん、なんか……魔法ってやっぱズルいわ。インチキだわこんなん。


「はぁ……」


ひと呼吸し、近くの金ピカ椅子に座った。そして思った。

なんで僕、刀作ったんだっけ?


「満足したの?」

「!?」


刀を作ることになったきっかけを考えようとしたところに、突如声をかけられた。

今まで気配一つしなかったこの空間に、人がいたのだ。

一体、いつからいた?


「アンタ、何してんの?」

「あ、いや。ちょっと人を待っていて」

「嘘ね。嘘嘘」


そいつは女だった。紫色の髪を内側にカールさせ、整った顔筋に冷たい目をしている。全体的にきっちりした服を着ている。まだ幼いが、将来は美人さんになるだろうことが予想できる。


「いやいや、本当に人を待っていてるんだけど」

「人を待っている人が、剣なんて作るの?」

「そ、それは暇つぶしに」

「あんな熱心に暇つぶししていたの?」

「むぐぐ……」


痛い。非常に痛いところを見られていたようだ。魔法に集中し過ぎて、女に気付けなかったのか。痛恨のミスだ。

女の目はどこまでも冷たい。完全に僕へ敵意を向けている。

いざとなったらこの女の記憶を消すしかないか、そんなことを企てていたところだった。

なんでもできるという油断が、地獄を招いた。


「アンタみたいな『クソガキ』、嫌いなのよね」

「嫌いって、そんなこ……と……うっ! かはッ!」


女の言葉に反論しようとしたところだった。突如、息が詰まり、体が熱くなってきた。

それと共に、痛みが、全身を蝕み始める。じくじくと何か刃物で刺されたような痛みが、広がっていく。


「が、い、痛ぁ! ぐぅぅぁ!」

「アハハ! いいわねその声。もっと聞かせてよ」


僕は痛みで立っていることもできず、床へうずくまった。

それに合わせて女は、僕の側にしゃがんで小さく呟く。


「この、『小便臭ぇチビ』が」

「!? あ、あああああああああああッッッ!」


声が聞こえた途端、全身を襲う刺激は激痛へと変わっていた。

叫ばずにはいられない。叫んで叫んで、意識を逸らさなければ痛みを感じてしまう!

クソッ! こんな状況じゃ、魔法陣なんて考えられねぇっ! 集中が乱れる!

僕が必死に痛みに耐えていると、女が薄く笑った。


「ウチはモデ・ミニャー。神帝で総院の一人。風紀委院長よ」

「くぅっ! お、お前が、風紀、委院……あっ、ぎいいいいいいい!」

「あんま喋んない方がいいわよ」


うっとりした顔で、僕の痛がる様子を見ている女――モデ。こいつ、間違いなくドSだ!

なんなんだこれ! なんの魔法だ? いつだ? いつ魔法で攻撃された?

……言葉か? あの悪口か?

かっ、がああああああああ! ダメだ、考えがまとまんない! 痛くて痛くて痛くて!

ジタバタもがく僕を見て、モデは言った。



「ウチの異名は、『毒舌』よ。どう? ウチのとっておきの毒は?」



僕が何か言う前に、モデは再び暴言をはいた。それを聞いた時、僕は今までより強烈な痛みに襲われたのだった。





目の前には相変わらずモデがいる。楽しそうな顔で、椅子に座っている。

僕はと言うと、思考が痛みで常に乱され、芋虫のように地面を転げまわっている。


「さて、アンタには聞きたいことがいーっぱいあるから、正直に答えてね? じゃないと……」


そう言ってモデはニヤリと笑って、


「致死性の毒、ぶち込むから。『ホラ吹き坊主』が」

「!? ッッッ!!!」


声にならない痛みが、ガンガン襲いかかる。

これまでモデの攻撃をくらって、さすがの僕も魔法の正体に気が付いた。

こいつの魔法は毒魔法で、きっと言葉に毒を含めて僕に浴びせたのだろう。まさに毒舌、というやつだ。

ビリビリして震える体を抱きながら、魔法陣を必死に思い描こうとするが、


「(くぅッ! 陣がブレて……正確に、作れない!)」


集中して思い浮かべようとすると、どうしても痛みが響いてきてイメージが歪む。

魔法が、使えない。


「あぁん、いいわねアンタの顔。子供とは思えない程凛々しくて、男臭さがある叫びね」

「う、うるせぇ……」

「あら、まだ耐えるのね」


プルプル震えながらだが、僕はゆっくり立ち上がった。生まれたての小鹿みたいに、足腰が頼りない。


「そんな無理して立ち上がらなくてもいいのに」

「屈するわけには、いかないから……ッ!」

「……へぇ」


面白そうな顔を浮かべるモデ。どう料理しようか、そんな気分で僕を見ているようだ。

僕は僕で、この状況を乗り切るための方法を簡単に考えた。だから無理して、モデの前に立ち上がった。

アイテムポケットという魔法は、実は言葉一つで展開できる。それを使い、さっき作った刀を出して、こいつを切ろうと考えた。

雑だ。かなり雑な作戦だ。痛すぎて、思考までも麻痺してやがる。

でも、やるしか……やるしかないだろ!


「ぁ、お、おおお――」

「『調子のってんじゃないわよ』」

「おおお! ぉッ!」

「アハハ! 今何しようとしたの?」


全身を鋭い痛みが走る。僕という個体の全て、隅から隅まで漏れなく全部が痛い。まるで雷にでも撃たれたような衝撃が襲う。


「あ、くぅっ! ああああああああ!」

「……」


焼けるような激痛が体の内側を縦横無尽に暴れまわる。今まで生きてきて経験したことのない刺激。まるで全身炎に包まれた蛇が血管内を泳いでいるような、そんな錯覚さえ感じてしまう。


「どう? 立っているのもキツいでしょ?」

「そんにゃ、ことはぁ」

「アハハ! 『そんにゃ』だって。呂律回ってないじゃない!」


目の前の女が楽しそうに笑う。対して僕は体が震え、立っているのもやっとだ。

まさに、俎板の鯉とはこのとこだ。


「さてと、もうちょっと遊びましょうか」

「……う、く」


何もできずにいる僕を前に、女はゆっくり歩み寄る。

呂律さえ回らない今、どうやってこの状況を乗り切れと言うんだ!

僕は久しぶりに、恐怖した。赤ん坊の頃、ブラックドラゴンと出会った時の恐怖を思い出した。

死ぬ。死んじゃう。死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ。

あ、あああああああ! 痛い痛い痛い痛いっつーのおおおおおお!!!!!!!!!!!

その時だった。



ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!



と、天井をぶち抜いて何かが落ちた。

それは目に見えないもので、何か巨大なもので、大きな丸テーブルをぶっ壊した。

それだけに留まらず、二階の廊下もぶっ壊し、一階のホールもぶっ壊した。あらゆる物を壊していった。

わずか数秒。何かが落ちたところには、何も残ってはいなかった。


「……は? え、何これ?」


呆然とするモデ。僕も、目の前の光景に呆けた。

その間、痛みも忘れて。


「……オープン」

「! あ! ぐふぅ!」


僕は刀を呼び戻し、鞘に収まったままで思いっきり振った。吸い込まれるように、モデの腹へ叩きつけられる。

モデは体をくの字に曲げて吹っ飛び、そのままさっき空いた穴へ落ちていった。

助ける気も起きず、追いかける気も起きず、僕はその場へへたり込んだ。

危なかった。本当に危なかった。死ぬかと思った。涙が出る程――いや、出ない程痛かった。

荒い呼吸を整え、汗を拭った頃には、毒が抜けて痛みがなくなり、魔法が使えるようになっていた。それと同時に、思考力も回復していった。

あの現象、どうみてもあれは……翼竜落としメテオフォールだよな。はは、ブラックドラゴンとの対決を思い出した時、無意識下で一緒に魔法陣を浮かべたようだ。多分、そんな感じだろう。何故翼竜落としが発動したのかよく分からない。

とにかく、助かった。ただそれだけだと思った。





「よお、クソ女」

「あら、『クソガキ』」

「悪いけど、それは対策済みだよ」


あの後、慌ててやって来た音楽委院長と合流し、一階まで下りてきた。

すると、モデは全身骨折しながらも、しぶとく生きていた。

毒対策で中級・毒魔法・『ポイズンバース』を発動させておいてよかった。これは毒に対し、逆に体内で同じ毒を作って毒同士混ぜてしまい、両方の毒を無害にしてしまう魔法だ。以毒制毒。毒をもって毒を制す、というやつだ。


「音楽委院長と一緒にいるってことは……待ち人はホントだったのね」

「ああ。そうだよ」

「酷いよモデさん! 入隊希望者に毒浴びせるなんて!」

「……悪かったわよ」


モデは倒れた柱の上で、仰向けに倒れて動けないようだ。たまに指先をピクピク動かしている。


「この子が優秀だったからいいものの……あんなことしたら毒死しちゃうよ! ちゃんと反省して!」

「分かってるわよ。反省してるわ。それよりも」

「謝って」

「後で謝るから、今は――」

「謝って!」

「……分かったわよ」


はぁ、とモデはぎこちなく溜息をついて、僕を見上げた。


「『死ね』」

「お前が死ね」


僕らは互いに暴言をはきあった。性根の腐った女だな、コイツ。

音楽委院長は呆れた顔でモデを見ていた。やがて諦めたような顔をし、首を横に振った。


「はぁ、もういい。風紀委院副長に頼もう」

「可能なの?」

「うん。彼なら誠実だし、ちゃんと話聞いてくれるよ」

「分かった」


副長か。音楽委院長が言うんだ、きっといい人なのだろう。期待大だ。

僕らはその場から去ろうとした。


「ま、待ちなさいよ!」


すると、モデは必死な声を上げた。骨が折れているのに無理して声を出したからか、その表情が苦痛に歪んでいる。


「じょ、冗談よ。ちゃんと謝るから、ウチをヒーリングして!」


ブルブルと震えながら、情けなく呻いている。

そんなモデを見て、音楽委院長は僕を見た。


「……だってさ。どうする?」

「うーん、そうだねぇ」


僕はわざと、いやらしく笑った。それを見た音楽委院長は、笑みをこぼしながら、


「あ、それさっきの二人組風紀委院の真似?」

「そう。似てる?」

「ちょっとだけね。あいつらはもっと下衆かったよ」


あはははは、と互いに笑い合う。なんて言うか、僕らは精神的に疲れているのかもしれない。だからこんなくだらないことで笑ってしまうのかも。

そんなのんきな僕らの様子を見て、モデは再び声を荒げた。


「早く、早く治してよ! 全身痛いのよぉ!」

「へぇー、それはいい機会だ。僕はそれ以上に苦しんだからねぇ。他人の痛みを知るチャンスじゃん」

「そ、そんなぁ……」


モデは絶望した顔をしている。涙目になり、血を滲ませた手を小刻みに震わせている。

……いい感じだ。それじゃ、この辺で交渉といきますか。


「ねぇ、治して欲しい?」

「! それはもちろんよ!」

「じゃあ、まず謝ってもらわないとね。勘違いで瀕死にさせたんだからさ」

「ッ! ……わ、分かったわ」


キッ! と僕を睨みつけながら、幾つか涙を零し、モデは唇をパクパクさせ、


「……ご、ご、ごめ、ごめんなさい」


と静かに呟いた。

……ふむ。誠意がまったくないな。僕を射殺そうとしている目だ。こんなのは謝罪とは言わない。

でも、まぁいいか。丁度いいし。


「おー。やればできんじゃん」

「じゃ、じゃあ早くヒーリングを」

「は? 謝れば許してもらえると思ってんの?」

「……え?」


僕は更に悪い顔をした。きっと、人生で今が一番とびっきり下衆い。自信を持って言えるぜ。


「あんな目に合わせてさ、言葉一つで許してもらえると思った? 悪いけど、僕は一生キミを恨むよ」

「そ、そんな! 『嘘つき』!」

「嘘なんてついてないんだけど。そんなに世間は甘くない」


惨めに倒れているモデの側に行ってしゃがみ、間近で顔を見た。

強がっているが、全身を蝕む痛みによって、時折顔を辛そうにしかめる。

そんな彼女の耳元に、僕は口を近づけた。そしてボソボソ呟くように話しかける。


「僕がキミを許すことは一生ないけど、助けてやってもいいよ?」

「くうっ! 何が……ッ! ……また、嘘を!」

「いや、今度は本当さ。とある条件を飲んでくれれば、回復させてあげるよ」

「……ほ、本当に? 本当の本当に?」

「本当さ。わざわざ耳元で話してやってるんだ。ちょっとは察してくれ」


痛みで精神がまともに働かない今、僕は悪魔の囁きの如く語る。


「まず、『キミは僕に逆うな。命令だ』」

「! な、なんで、なんですって」


モデの言葉の先を折って話を続ける。既に洗脳魔法である心の巣ハートライフが、発動している。僕が強調して言ったことを、彼女は守らざるを得なくなる。


「次だ。『今日あったことは誰にも伝えるな』。あと『これから起こることに関しても伝えるな』。とにかく『僕の不利益になることは何もするな』。分かったかい?」

「な、なな、何よなんなのよ!」


言葉がモデの精神に刷り込まれていく。刻まれていく。

これはまるで、言葉による毒だ。僕の言葉が毒として、彼女の心を、脳を、侵食していく。

よーく味わえばいい。他人に与えた毒の恐ろしさを、その身にね。


「じゃあ最後だ。これで終わりだよ」


そう言って、僕は少しタメを作り、こう言った。



「『法王女について、全て洗いざらい教えろ』」



とびっきりの毒を、ぶち込んでやった。

……ははは。これじゃ僕の方がどう見たって悪役だ。音楽委院長は、僕には正義の心があるとか言っていたけど、これでもそう思うのかな? 思わないよ普通。

だからシェーナ、キミみたいな聖母には、僕はやっぱりなれないや。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ