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魔法によって飛んだ空  作者: 元祖ゆた
運営会選挙編 
26/64

第二十五話 僕とメイドと城 <一日目>

~前回のあらすじ~

メドナが仲間になった!


………………<エーリ>

ジリリリリリリ、と終業のベルが鳴った。これは授業が終わったことを示す合図である。

アリア先生はようやく終わったか、といった疲れたような表情をし、持っていた巻物を片付けた。


「よーし、んじゃ今日はここまでなー。お疲れー」

「「「ありがとうございました!」」」


本日の授業が全て終了した。放課後の到来である。

早速授業で使った巻物をカバンにしまい込んでいると、天使がやって来た。

……と、思ったら猫耳ワーグ族のキリコッテだった。今日も可愛らしく、猫耳と尻尾を小刻みに震わせている。


「ねぇねぇ、エーリくん。これから二人でパフェ食べに行かない? 美味しい店見つけたんだ」

「! そ、それって……!」


心臓が止まるかと思う程の衝撃だった。頭がクラクラして、急速に喉が渇くのを感じる。

ふ、二人で、パフェだとぉぉぉぉ!? でででデートじゃねぇか! デートじゃないすっかぁ!

いつの間にか手汗がびっしょりで、頬が紅潮するのを感じる。心臓は小気味よく高鳴っている。

お、落ち着け! 深呼吸だ深呼吸! ふーっ、はーっ、ふーっ、はーっ。


「あ、ああ。うん。いいねパフェ。今超パフェ食いたかったんだぁ~! はっはー!」

「……どうしたのエーリくん。なんか調子悪い?」


キリコッテが上目遣いで僕の心配をしてくれる。それだけで僕は痺れるような感動を覚えた。

全力で腕を振って、キリコッテの言葉を否定した。


「いや、いやいやいや! むしろこれからがテンションマックス? みたいな?」

「エーリくんがいいならいいけどさ」

「うん! いい! いいよ今の僕は!」


ヤバいくらいにテンションが上がっている。久しぶりの感覚だ。そう、初めて空を飛んだ時のような、それに類する感覚が、全身を支配している。


「三度の飯よりパフェ好きなことで有名だからね僕は!」

「そうなの? 初めて知ったよー」

「それに、キリコッテと一緒だからね。いつも以上に美味しいと思うな」

「エーリくん……(赤面)」


ああ、こんな素敵な笑顔を見せてくれる天使様と一緒に、パフェを食べることができるなんて……なんて至福なんでしょうか。

これも神の思し召し。一日一善をモットーに、毎日真面目に生きてきた僕に対する祝福だろう。

せっかく神様が用意してくれた機会だ。よし! 今日の放課後はパフェ食いまくるぞー!


「さぁ、早速行くかー! じゃんじゃん食いまくる……ハッ!?」

「? どうしたのエーリくん」


キリコッテが驚いた顔で見つめる中、僕は頭を抱えたうずくまった。

不意に思い出した。僕が今置かれている状況を。

放課後デートなんてしている場合じゃなかった。これからスパイ活動しなくてはならないんだった。僕ら愛の羽が天下を取るために大切なことなのだ。

なんで! なんでこのタイミングなんだよォ! 普段の放課後も機会あっただろうに!

おお、神よ! 神は何故こんなにも理不尽なのですか! こんな過酷を与えてくるのですか……ッ!

く、くぅぅぅぅぅ! まさに苦渋の選択。デートか、データか、もちろん選ぶのは――。


「ご、ごごごめんねぇキリコッテ。やっぱり、きょ、今日は行けないやぁ……」

「なんで泣いてるの!? 大丈夫エーリくん!」

「だ、大丈夫だよぉ……、ちょっと、用事あって、パフェ、行けなくて、悔しくて……ッ!」

「今度エーリくんが暇な時誘ってよ! すぐ行くから! だからもう泣かないで、ね?」

「う、う゛ん゛」


血の涙を流して断った。後ろ髪を引かれる思いを抱えながら、僕はキリコッテと別れた。

キリコッテ……、きっとキミはこの後、僕以外の誰かを誘ってパフェ食いに行くんだろうなぁ。

そう考え、僕はまた一人、涙を流したのだった。





数十分後、僕は神帝の拠点である『カイズブルー城』を目指して歩いていた。



カイズブルー城。アブルーニャ学園内にある大きな城で、校舎等があるエリアからちょっと外れた丘の上に、堂々と建っている。

まず、城自体を囲むように丸く壁が建てられており、たった一つしかない出入り口以外からの侵入を妨げている。

その出入り口から入ると、今度は曲がりくねった小道が出現。周囲は木々が覆い、道草でもしたら迷子になること間違いなし。

道なりに進むと、ここでようやく、凛々しくそびえ立つ居城――カイズブルー城とご対面。

伝統と歴史を兼ね備え、古めかしい見た目だが、城としての強度は恐ろしい程高い。魔法に対する耐性を持ち、インペラトーレ十人の全力攻撃でも耐えてしまうという。

赤、白、灰色のレンガが綺麗に配置されており、一種の芸術と化している。優雅を体現しているといっても過言ではない。

左右に側塔が設置されている城門、切り立った城壁、周りを囲む堀、見張り台としての塔。防衛機能満載である。

要塞としての面と、芸術品としての面を併せ持つ城……それがカイズブルー城である!



……。

…………。

………………。

以上ことが、学園案内パンフレットに書いてあった。

もう……ね。なんていうか、学園に城とかさ。


「馬鹿じゃねぇの?」


その一言に尽きる。てかもう尽きた。

一応、城が建っていることには理由がある。

昔、この辺の地域――大都市ピレオスはいくつかの貴族が土地を巡って争っていた。その際拠点として建てられたのがこのカイズブルー城なのだ。

ちなみに、似たような城がいくつか学園内に残っているらしい。

取り壊されずに残っているのは、貴族達の戦争で勝ち残ったフォルティ家とかいう大貴族が、土地ごと買い取ったからだとかなんとか。

もう、貴族半端ねぇな。いや自分も貴族だけどさ。

僕は気分が滅入りながらも、城を覆う壁伝いに歩く。地に咲く草花を鑑賞しつつ、思索する。

インペラトーレの特権は多岐に渡る。食堂での食費無料や、学園内を走る馬車の交通費無料等。他にはこんなのもある。『学園内の施設を自由に使える』。

つまり、学園内にあるこの城も、私物化してもいいのだ。ホントブッ飛んでるよねー。

というわけで、神帝の拠点であるカイズブルー城を囲む壁の出入り口に到着した。

……なんかややこしい言い回しだ。


「んー? 何の用だ?」


早速、出入り口で暇そうに草をちぎって遊んでいた見張りに、雑に声をかけられた。

これに対し僕は、自分のできうる限り全力で愛想を振りまいた。


「あの、僕神帝に入りたくてやって来たんですけど」

「あ、希望者? んじゃー通って通って」


しっしと、手で払われるように中へ入れてもらえた。

な、なんか軽いな。ってかいいのかこれで。普通ボディチェックとか魔法道具没収とかしないのかな?

もし仮に、僕が女で魔女の月だったら、敵を通すことになるし、見張りとしての意味がないような気がするけど……。

よく分からないが、僕はすんなり壁を突破して、グネグネした道を歩くことになった。

道中も特に何もなく、豊かな自然を眺めながら、お散歩気分で歩いた。

神帝、案外楽勝だなぁ。予想では敷地に入るのだけでも難しいと思っていたんだけど。こりゃ結構早く法王女に会えるかもねー。

心に余裕すら生まれ始めた今日この頃である。

しかし、まさかこの先、あんなことになるとは、この時の僕は夢にも思ってなかった――。





時刻は進んで午後八時。

………………<メドナ>

夜です。学園内はすっかり暗くなっています。カラスの鳴き声もとっくに止んでいます。

そんな夜の学園を、わたしはおっかなびっくり歩いていました。

授業で習った初級・火魔法・火の弾丸を灯り替わりにして、足下とちょっとだけ前方を照らしながら進みます。

普段だったら寮の自室にいて、明日の授業の予習や、今日の授業の復習をしているのですが。

何故、わたしが夜の学園を歩いているのか? 答えは簡単です。


「つ、着きましたか……」


魔女の月の間諜――つまりスパイとして、潜入するためなのです。

魔女の月は基本的に、夜から活動を開始します。だから、潜入するには自然と夜になるのです。


「怖かった……怖かったです」


後で坊ちゃまに褒めてもらおう、とか考えながら、目的の建築物を見上げました。

今、目の前にある建物は、魔女の月が集会に使う所で、『サタン・ジェロカス城』と言います。この学園に存在する城の中の一つで、神帝の使用しているカイズブルー城と対をなすお城です。

サタン・ジェロカス城は、円形の城に、それを正方形に囲む壁によってできています。今わたしがいるのは後者の壁です。

夜ではありますが、壁面に接した地面に魔法道具があり、常に炎を吹き出して照らしています。随分と主張の激しいお城です。

ふと、人の気を感じて、わたしは近くの木の陰に隠れました。別に悪いことは何もしていませんが、なんとなくの行動です。

すると、城への入口の門へ向かって、集団が歩いてきました。皆全身真っ黒に着飾っており、遠目で見ても不気味さを感じさせました。

夜の正装ナイトドレス』。黒いフード付きローブ、黒い杖、黒い魔女帽のセットをそう呼ぶそうです。もはや一つの魔法となっており、『オープン』と『クローズ』で自在に展開できるそうです。

また、この魔女の格好こそ魔女の月である証であり、構成員以外は使用できない魔法でもあるそうです。これを利用して、魔女の月かそうでないかを区別することもできるそうですね。

わたしは事前に入手した情報を思い出しながら、その行列を眺めました。

皆フードを深く被っているので表情は窺い知れません。そもそも辺りが暗いので、どんな顔をしているか分かりませんが。

この集団が通るまで待ちましょう、と考えていたところで、ふと思いつきました。

あんなに目深にフードを被っていては、きっと前を歩く人の背中しか見えないでしょう。

ならば、これはチャンスかもしれません。早速試してみることにしましょう。

わたしはアルンティーネの家庭教師直伝、飛足を使って集団の最後尾につきました。気付かれないか心配でしたが、魔女の集団は変わらず無言で歩くだけでした。どうやら作戦は成功したようです。


「(坊ちゃま、シェーナ様、わたし頑張ります!)」


わたしも集団の歩くスピードと歩幅に合わせ、サタン・ジェロカス城へと、足を踏み入れたのです!





「ごめんなさい坊ちゃま、シェーナ様。わたし頑張れそうにありません……」


入って早速、わたしは心が折れてしまいました。

だって無理ですよ! こんな城の中調べるなんて! もうおうち帰りたいです!

わたしは再び、自身が置かれている状況を確認しました。

長くて暗い廊下。所々に設置されたキャンドルが、怪しく照らしています。床はモノクロタイルで怖さをより助長させます。等間隔に部屋があり、どの部屋からも不気味な言葉が漏れ聞こえてきます。

そんな状況にわたしは一人でいます。


「(な、なんですかこれ! ホラーハウスですか!)」


ああ、こんな恐怖味わうためにやって来たのではないはずですが……。

でもでも、こんな所でウジウジしている場合じゃありません。行動するしかありません。そう、行動するしか! 怖くない怖くない怖くない……!

そう自身を必死に鼓舞していた時のことでした。

突然、


「キエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエイ!」


という奇声が、廊下の向こうから響きました。

この声にわたしは、


「!!??!??!」


声にならないリアクションと共に、奇声の聞こえた方向と逆に走り出しました。

全力です。一生懸命全力疾走です!


「なんですかなんですか何が起きたんですかーっ!」


息も絶え絶え、足をもつれさせながらも、とにかく廊下を走って走って、進みます。

何が起きたのでしょうか? 何か狂いが生じているのではないでしょうか。

そんなこと思いながら、ふと後ろを振り返ると、


「アヒィアヒィアヒィ!」

「ッ!」


理解できない言語は喋りながら、大きな杖を振り回し、がに股でわたしを追いかけてきている魔女がいました。

なんで!? なんでわたしを追いかけてくるのですかーっ! わたしが何かあなたにしましたか!?

あっという間に流れていく景色を横目で見ながら、どこか落ち着けて隠れられる場所を探しました。


「ヒイイイイイイイイイアアアアアアアアアアアアア!」

「!? きゃああああああ!」


後ろから聞こえる恐ろしい叫び声。一刻も早く逃げないと! もし捕まったら……ああ。

坊ちゃま、わたしは今、果たして何に巻き込まれているのでしょうか? どうか解決法を教えてください。

祈りながら走っていると、わたしの思いが通じたのか、少し扉の開いた部屋が右前に見えてきました。

あそこに隠れましょう! 直感でそう思ったわたしは、エアロカーテンを発動して空気の壁を作り、一時的に魔女を足止めしました。

突然の障害に魔女は対応できず、空気に包み込まれました。その隙わたしは、無駄な動きなく軽快に部屋へ滑り込みました。

入った後はすぐ扉を閉め、エアロカーテンをかけて塞ぎました。魔女は先程のエアロカーテンに対応できてなかったので、この扉はしばらく大丈夫なはずです。


「は、はぁ~~~」


思わず床にへたりこみました。汗で前髪は額に引っ付き、息はまだまだ荒いです。

けれど、恐怖感がなくなって安心感が生まれていました。どうにか巻くことができて良かったです。

それにしても、丁度よく扉が開いていてよか――!


「……」

「……」

「……あ」


ここでわたしはようやく気が付きました。

何故扉が開いていたのか。普通、利用者がいなければ部屋の扉は閉じているものです。つまり、扉が少し開いていたということは、利用者がいることを示しているのではないでしょうか?

その利用者こそ、目の前にいる二人の魔女ではないでしょうか?


「……えーっと」


二人の内の一人、美しく長い蒼色の髪の魔女が、恐る恐る声をかけてきました。その顔は見るからに困惑していて、


「誰なの?」


もっともな質問を、されてしまいました。





時は再び放課後へ戻る。

………………<エーリ>

僕は苦しんでいた。

全身を鋭い痛みが走る。僕という個体の全て、隅から隅まで漏れなく全部が痛い。まるで雷にでも撃たれたような衝撃が襲う。


「あ、くぅっ! ああああああああ!」

「……」


焼けるような激痛が体の内側を縦横無尽に暴れまわる。今まで生きてきて経験したことのない刺激。まるで全身炎に包まれた蛇が血管内を泳いでいるような、そんな錯覚さえ感じてしまう。


「どう? 立っているのもキツいでしょ?」

「そんにゃ、ことはぁ」

「アハハ! 『そんにゃ』だって。呂律回ってないじゃない!」


目の前の女が楽しそうに笑う。対して僕は体が震え、立っているのもやっとだ。

まさに、俎板の鯉とはこのとこだ。


「さてと、もうちょっと遊びましょうか」

「……う、く」


何もできずにいる僕を前に、女はゆっくり歩み寄る。

神帝の総院、『風紀委院長』の『モデ・ミニャー』が、静かに牙を剥いた。

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