第二十三話 第二作戦:論破 <一日目>
~前回のあらすじ~
嘘ついて魔女の月を騙した。
………………<エーリ>
場所は変わらず戦士棟、三階、音楽室。授業もそろそろ終盤というところだろう。
今後の作戦をシェーナに説明し、一息ついたところだ。
「さて、ピサスを捜そう」
僕は低級・強化魔法・バキュームノーズで戦士学科の男――ピサスの匂いを辿った。
バキュームノーズは一度でも嗅いだことのある匂いを探る魔法なので、応接室前で一度嗅いでいたから利用できると思っていた。
しかし、
「……うっ! きいっ!」
「どうしたのエーリくん?」
急いで魔法を解除し、鼻をつまんだ。
「何か、ツーンとするような匂いが……汗?」
まるで玉ねぎを切っている時みたいに、目尻に涙を溜めてしまう。魔法を発動させた瞬間、ツンとする刺激臭が鼻腔を貫いたのだ。
「もしかしたら、戦士学科生だから体をたくさん動かして汗臭いのかも?」
「確かに、汗の臭いが凝縮されたような感じだったぜ」
バキュームノーズはあくまで自身の鼻を強化する魔法。あまり強烈な臭いだとこっちが酷い目に合う。よーく勉強になったよ。
「しょうがない。また向こうから来てもらうことにしよう」
「……また、私は気絶?」
「いやいや、気絶はしなくていいよ」
ちょっとむくれているシェーナを宥めつつ。
「作戦はさっき話した通りだ。シェーナにはとことん卑屈になってもらう」
「うん、分かってるわ。ちょっとからかってみただけよ」
その割には目が本気だったような気がするけどね……。
とにかく、僕は追尾魔法を発動させた。隣でシェーナが不思議そうな顔で僕を見ている。
「エーリくんって色んな魔法使えるのね~」
「ま、まぁね」
「もはや一年生の実力じゃないんじゃない?」
「……どーかなぁー」
ちょっと魔法に集中したいところなんだけど……。暇そうにしているシェーナを無下にするのも可愛そうだよね。
「そういうシェーナも、昔魔法練習していたんだよね?」
「うん。まぁ初級ばっかりだったけどね~」
「それでもすごいじゃん。魔法扱うには精神とか集中力とか使うみたいで、平均6歳だって言われているのに」
「そ、そんなことないって」
この追尾魔法は『オートサーチ』といって、一定範囲内の動くものを自動的に追尾する魔法だ。
今は授業中だ。なら、棟内で動いている人は限られてくるわけで、上手くいけばピサスを追尾できるかもしれない。てか、してくれないと困る。
「いやいや、そう謙遜しなさんなシェーナさんよ。実際誇るべきことだよ」
「ホントにやめてよ、照れるじゃない」
……三階に二人。これは僕とシェーナか。二階はなし。一階に二人。もしかしたらピサスとフレンシアかも。うーむ、できればピサスだけと会いたいんだけど、どうやらこの二人は並んで会話しているようだ。遠隔魔法で初級魔法ブチ込むと二人に気が付かれちまう。
やっぱりこっちから出向くか?
「やっぱり、シェーナには才能があるんだよ。魔法を正しく使おうとする気持ちもあるし、きっと大魔法使いにもなれるよ」
「……」
「大丈夫、シェーナは幸せの魔法を取得できるさ。だって魔法は奇跡の具現だ。シェーナにとっての奇跡が、叶わないはずがない。あんなに頑張っているシェーナを見ているから。僕が保証する」
「…………」
なら、ちょっと遠い所に隠れて二人の様子を伺おう。そして隙を見て二手に離れさせ、ピサスと交渉を行うと。そうしよう。
方針も決まった。早速シェーナに相談を――。
「………………」
あれ? どうしたんだろシェーナ。顔赤くして黙っちゃってるよ。
ふむ、あまり考えないで会話していたので、どんなことを話したのかよく覚えてない。
「シェーナ?」
「……はっ!? あ、うん! 何かな?」
……まぁ、大丈夫そうか、うん。
僕らは二つ反応がある一階へ移動することにした。長きに渡る音楽室潜伏も、ようやく幕を下ろしたのだった。
………………<メドナ>
わたしは、少女からの情報を基に、戦士棟へ訪れました。
内装は賢者棟と同じようで、趣のある装飾が成されております。全体的にブラウンカラーになっており、それと重厚な雰囲気がマッチしています。
指で窓枠をなぞってみると、塵一つ付きませんでした。大切に扱われているようですね。
あまり音を立てないよう、静かに廊下を歩きます。授業中でしょうからね、人様に迷惑をかけてはいけません。
話によると、三階の北にある音楽室で坊ちゃまがいるようです。階段はどちらにあるのでしょうか。
そんなことを考えながら歩いていると、後ろから声をかけられました。
「おい、女」
「! はっ、はい! なんでしょうか!」
突然のことだったので、すごく驚いてしまいました。声も多少裏返ってしまい恥ずかしい限りです。
「む、済まん。驚かせるつもりはなかったのだが」
「い、いえ。謝られるようなことはありません。大丈夫ですので」
「そうか」
廊下を出歩いている人なんてわたしくらいだという先入観が、このようなことを招いてしまいました。次から反省して行動しないといけませんね。
わたしに声をかけてきた方は、体の大きな男の方でした。大きいとは言っても、ヒューマン族の中では、という意味ですが。着ている服の上からも、この方が鍛えた強靭な肉体を感じることができました。
「それで女。何故ここにいる」
「何故、とは?」
「お前、そのリングは賢者学科生のものだ。何故、賢者学科生が戦士棟にいるのか、という意味だ」
「なるほど、そういうことですか」
確かに、当たり前の疑問ですね。
わたしは、自分がとある少年の専属メイドであること、その少年が迷子になってしまったこと、戦士棟の音楽室で目撃したという情報を得たことを順序よく話しました。
男の方は目を細め、
「……む、それでここへ捜しにやって来たと」
「そうです」
「そうか」
わたしの話した言葉を吟味しているようでした。
もしかしてわたし、何か疑われているのでしょうか? 自分のことを客観的に考えてみます。
授業の時間に他学科の棟内を歩いているメイド……。
ええ、間違いなく怪しいです。不審者です。わたしだったら疑います。
「ほ、本当です! 本当にここに坊ちゃまがいると聞いて!」
「……」
自分の無実を証明するために、少々力んでしまいました。そのせいで、必死に誤魔化そうとしている風になってしまいました。
これには相手も無言。いよいよヤバイです。
わたしはどうしたら信じてもらえるか、足りない頭で考えます。
すると、男の方が、
「少し、こちらの質問に答えてもらっても構わないか?」
とても渋い声で、そう言いました。わたしは頷いて了承します。
この質問に答えることでわたしの無実が晴らせるのなら……いくらでも答えましょう。
「お前は魔女の月か?」
「いいえ、違います」
魔女の月……。確か運営会選挙に立候補している方の組織が、そんな名前だったと記憶しています。
「なら、魔力を込めて『オープン』と言ってみろ。魔力を込めているかどうか俺には分かる。だから、わざと込めないなんてことはしない方が身のためだ」
「オープン、ですか。分かりました」
わたしは言われた通り、オープンと言って魔力を込めてみました。ただ、何に魔力を込めればいいのか分からないので、魔力そのものが空気中へ霧散して終わりました。
その様子を腕を組んで見ていた男の方は、シロか、と小さく呟きました。
シロ……すなわち魔女の月でないことが分かってもらえたようです。ホッと胸をなでおろします。
「なるほど、分かった。では次だ。お前はシェーナ・エストーナを知っているか?」
「ええ、知っております。クラスメイトですので」
「む、そうなのか。なら、お前も一年か」
「そうですね」
わたしがクラスメイトと言った瞬間に、男の方の顔が険しくなりました。
何故ここでシェーナ様の名前が出たのでしょう? クラスメイトだということに、何か問題でもあるのでしょうか?
「シェーナ消失とクラスメイトの出現……。偶然とは思えんな」
「え? 何ですか?」
男の方が不穏なことをブツブツ呟きます。シェーナ様の消失? どういうことでしょう、もうわけが分かりません。この方は何が知りたいのでしょう?
脳が混乱してきたところで、男の方が腕組みを止めて、膝立ちをして目線を合わせてきました。
その表情は先程よりも厳しいです。
「お前、いつ来た?」
「ついさっきです。受付を通って来ましたので、詳しい時間は受付の方に聞くとよろしいかと」
「む、そうか。証拠人がいるのなら確実だな」
ふぅ、と知らずのうちに息を吐いていました。
ただ坊ちゃまを捜しに来ただけなのに、わたしは一体何に巻き込まれているのでしょう。こんなことをしている場合ではないのに。
「消失と到着時間がズレるな。なら関係はないか……?」
独り言を呟き、何かを確認しているようです。
消失、という言葉が気になります。話通りならシェーナ様はここで消失した、ということになるのでしょうけど。
この情報だけ受け取ると、消失という大事件になるのですが、これに坊ちゃまの目撃情報を混ぜてみますと……。
「(坊ちゃまがシェーナ様を消失したように見せた、つまりどこかへ隠したのでは?)」
この可能性が高そうです。坊ちゃまがわざわざ授業をサボっての迷子、それもこんな戦士棟という関係のない所です。何かワケありと考えるのが妥当でしょう。
そうなると、次に気になるのは理由です。何故坊ちゃまはシェーナ様を隠さなければならなかったのか。
鍵は、この男の方にありそうですね。
「あの、何故シェーナ様のことを?」
「……お前には関係のないことだ」
嫌そうな顔をして、そう冷たく言い放った。
この反応、シェーナ様のことは相当聞かれたくないことのようですね。誠実な理由ならば濁す必要もありませんからね。
とすると、この男はシェーナ様に何か言えないことをしようとし、それを見かけた坊ちゃまがこの男から遠ざけたと推測できます。
なら、ここでわたしが取るべき行動は……。
「シェーナ様ならここにいないと思いますが」
「……なんだと?」
ここから、坊ちゃま達を逃がすことでしょう。
出入り口は受付のある入口のみ。そして坊ちゃま達は情報通りなら三階にいることになります。
ここは入口から少し離れたところですが、男の後ろ数百メートル先に階段があり、上から下りてきた坊ちゃま達の足音等で気付かれてしまう可能性が大いにあります。
坊ちゃまのことですから、授業が終わるまでにはここを抜け出すでしょう。なら、わたしは例え坊ちゃまいないとしても、授業が終わるまでこの方を引きつけておきましょう。
それが、メイドとして主人へ尽くす忠義というものでしょう!
「消失、とおっしゃっていましたよね? それは多分、シェーナ様の魔法だと思います」
「魔法だと? それはありえない」
「何故です?」
「それならば、ここへ来る前に使って逃げればいい話だからだ」
なるほど、シェーナ様は外でこの方と会って、連れて来られたのですね。そうなると、坊ちゃまが突然消えたことにも説明がつきます。
坊ちゃまは連れ去られるシェーナ様を目撃し、無我夢中で追いかけたのでしょう。だからこんな所まで来ていたと。この線が濃厚そうです。
更に、この方の失言で超濃厚と言えるようになりましたが。
「逃げる? 何故シェーナ様が逃げる必要があるのでしょう?」
「……む!」
「もしかして、あなたはシェーナ様に何か逃げるようなことをしたのでしょうか?」
「……いや、そんなことは断じてしていない」
初めて、この方の表情が一瞬動きました。わたしの発言に動揺しているようです。
「なら、どうして逃げる、などという言葉を使ったのですか? 消失ではなく」
「ついつい出てしまっただけだ。人の揚げ足を取るものじゃないぞ」
「そうですか」
言い訳としては苦しいですね。これはもう決めてしまってもいいでしょう。
シェーナ様はこの方に追われ、それを坊ちゃまが助けて隠した、と。
さすがはエーリ坊ちゃまです。より憧れを抱いてしまいました。
わたしもメイドとして、頑張らなければ!
「では、とことん揚げ足を取らせていただきましょう。先程のあなたの発言ですが、まるでシェーナ様と一緒にいたかのように聞き取れました。それも、ここではなく別の場所で、です」
「……それがどうした?」
「『ここへ来る前に使って逃げればいい』、あなたはそう言いました。つまり、あなたは別の場所でシェーナ様と一緒にいて、シェーナ様が逃げるもしくは消失したくなるような状況だったと推測できます」
「……」
「あなたが、そういう状況を作り出したのでは?」
わたしは非難めいた目で、そう告げた。
こういう探偵役は坊ちゃまで、わたしには助手が向いていると思いますが……、今だけは探偵を名乗らせていただきましょう。
わたしの言葉に、男の方はどうしようもないといった風に、両肩を上げた。
「ふん、面白くない言いがかりだな。逆だ」
「逆、とは?」
「作り出されたのだ。ここにはいないがな、もう一人いたんだ。バカな女がな」
「女ですか」
「ああ。受付に聞けば分かる」
女……。そう言えば戦士棟付近で女の方と会いましたね。時間的、状況的にあの方でしょう。
あの方のおかげで、路頭に迷っていたわたしが、坊ちゃまの情報を得ることができたのですよね。
「俺とシェーナが話している所に、その女が突然襲いかかってきてな。散り散りにならざるを得ない状況だったんだ。だから逃げる、なんて言葉が出たのだ」
「そう、でしたか」
わたしは、言葉を詰まらせました。
確かに、証拠はありませんが、この方の言い分は通ります。授業中なのに戦士棟付近を歩いており、何故か坊ちゃまの位置を知っていた女の方についても、説明がつきます。
しかし……。
「何故、その女の方は襲いかかってきたのでしょう?」
「さあな。なんせあいつはバカな女だ。いきなり襲いかかってくる程野蛮だ」
「……」
「これで俺の疑いは晴れたか?」
男の方がやれやれと言って、再び腕を組み始めました。
女の方の本性なんて知りません。あの時初めて会ったので、知るはずがありません。
しかし、本当に野蛮だったのでしょうか? いきなり襲うなんてことをしたのでしょうか?
あの女の方は、こう言っておりました。
『あいつに言っといて。今度会った時一緒にお茶でもしましょうって』と。
これは坊ちゃまと少なくとも会話をし、友好的な関係になったということではないでしょうか。
坊ちゃまはシェーナ様を救ったヒーロー。果たして、そんな坊ちゃまはシェーナを襲った原因と仲良くするでしょうか?
コブシデ、という言葉は気になりますが……。
やはり、怪しいのは、依然この男の方です。
「お前、シェーナはここにいないと言っていたな。何故そう言えたのだ?」
今度は、男の方が問いただしてきました。
いいでしょう。逆に利用して情報を得ることにしましょう。
「彼女は転送魔法が得意なのです。自身の体を数メートル先まで飛ばせるのです」
「む、しかしさっきも言ったが――」
「逃げる時には使えなかったのです。転送先を計算して発動しなければならないので、女の方の強襲でそんな暇がなかったのです」
「なるほど、そうか」
わたしは、ありもしない嘘をつきました。
嘘をつくということは心にきますね……。でも、ここで挫けるわけにはいきません。
「だから、戦士棟へ逃げ込んだとしても、既に転送していないのではないでしょうか?」
「そういうことか」
男の方は頷いておりました。わたしのついた嘘を信じているかは分かりませんが、いい情報を得ることができました。
この男の方は、シェーナ様をあまり知らない、ということです。
わたしがわざわざ『得意な魔法』と嘘をついたのに、否定しないあたりから、シェーナ様についてよく知らない、仲良くないと思われます。もし知っていたのなら、真っ先に否定するでしょう。
やっぱり何かおかしいです。では、決定的な一撃を与えましょう。
「シェーナ様とは、どういう関係なのですか?」
クラスメイトというわたしには、生半可な嘘は通用しませんよ。
女の方に襲われる前、この方はシェーナ様と話してしたと言っていました。一体、何を話していたのでしょう? この質問で、それが大体分かるようになりますね。
わたしの言葉に、しばらく考えるようなポーズを取り、やがてはぁ、と溜息を付きました。
「実はな、今日初めて会ったのだ」
そう告げました。
わたしは、話を聞く態勢をとりました。一言一句、聞き流さないように。
「俺はちょっとした野暮用で、中央棟へ行っていた。次の授業が始まりそうだったので急いでいたのだが……そこへシェーナが現れた」
確かにシェーナ様はわたし達より早く教室を出ていますから、つじつまは合いますね。
「シェーナは見ず知らずの俺に助けを求めた。助けて、追われているの、と」
男の声はやけに饒舌です。低い声と相まってとても聞き取りやすくて助かります。
「そこで俺は一旦落ち着け、ちゃんと一から説明してくれと頼んだ。ちゃんと聞かなければ、助けることもできないからな。……その時だ」
「女の方が、襲いかかってきたと?」
「ああ。俺は彼女を逃がすことと、馬鹿な女を足止めするのにに精一杯でな。戦士棟内へ逃げ込んだのは見たのだ」
「それで彼女を捜しているのですか」
「折角なら、最後まで話を聞き、助けになってやりたいじゃないか。だから捜している」
「なるほど、そういうことでしたか……」
一通り話を終えて、男の方は長く息を吐きました。
なるほど、そういうストーリーがあったのですね。これなら矛盾なく受け取れます。
「ああ。シェーナの魔法はことごとく効かなかったらしい」
ただ、最後に述べた言葉さえなければ、ですが。
「悔しかっただろうな。自身の魔法が通用しないと言うのは」
「……もう、結構です」
「む、そうか。分かってくれたか。これで俺の疑いも――」
「あなたはクロです。真っ黒です」
わたしは堂々とした声で、そう言い放った。
「……は? 今の話の中に、どうして」
「あなたは、ありえないことを言いました。絶対にありえないことです」
「なんだと?」
やはり、この方は何も分かっていないようですね。大方、この方がシェーナ様に襲いかかったのでしょう。
まったく、シェーナ様が他人へ向けて魔法を放つはずがないのに。
「あなたは知らないかもしれませんが、シェーナ様は魔法で他人を攻撃することをしません。できません。クラスメイトなら知っていて当然の情報ですよ? 赤の他人であるあなたが考えた嘘が見え見えです」
「……」
「あなたが犯したミスによって、わたしは、今までの話を信じることができなくなってしまいました。今では逆に信じています」
わたしは指で男の方を差し、
「シェーナ様を襲い、逃がしてしまったので捕らえに来た、と!」
ビシッと、宣言をしました。気分は犯人を言い当てた探偵です。
坊ちゃま、見ていますか? わたしはこんな立派になりました。探偵メイドという新たなジャンルを確立できそうです。
わたしに言い当てられた男の方は、しばらく目を瞑って黙り込んでしまいました。
言い訳でも考えているのでしょうか? それとも、口封じにわたしへ攻撃してくるでしょうか?
いつでも初級・風魔法・エアーウォールの上位互換の魔法、低級・風魔法・『エアロカーテン』を発動できるよう構えました。
わたしの腕では戦士学科の、しかも上級生の攻撃を受けきれるとは思えません。けれど、ここで立ち塞がらなければ、坊ちゃまの苦労が水の泡となってしまう可能性があります。
相手はどう来るのか――。
「……ふ、ハ、ハハハハハハハハハ!」
「ひぃっ!」
突然笑い出したのですが!?
な、なんでしょうかこれ? 狂ってしまったのでしょうか? 涙目になりながら笑っているようですが……。全くの予想外に、わたし混乱です!
一通りそうして笑っていた男の方は、妙にすっきりとした笑顔を浮かべながら話かけてきました。
戦意はまったくないようです。
「いや、やはり俺にはこういうのは向かないな!」
「は、はぁ」
「お前の言う通り、俺はシェーナを勧誘するために行動していた。これだけは信じて欲しいのだが、襲撃はしていない」
「勧誘、ですか」
「ああ」
男の方は頭をガシガシかきながら困った顔をしていた。
「上の命令で、シェーナを勧誘するために行動していたのだ。命令内容はシェーナを無理やり連れて来いとのことだ。俺は嫌だったんだが、仕方なくな。まぁ、命令を受けている以上、嫌とか言っても説得力がないけどな」
「そうだったのですか……」
上の命令というと、今度選挙に出る方からのでしょうか。何故シェーナ様を?
「やっぱりダメだな。あんなか弱い女の子を無理やり連れて行くなど、俺にはできん。そもそも無理やりというのが気に食わん」
完全に毒気が抜けたと言いますか、険しさがなくなったといいますか、とにかく、親しみやすいキャラクターになっておりました。
さっきまでのあの雰囲気は一体どうしたというのでしょう?
「安心しろクラスメイトよ。俺の力で、シェーナの安全は保証しよう」
「そ、そうですか」
「ああ。それが罪滅ぼしになるとは思わんがな」
男の方は頭を下げ、
「済まなかった」
と一言謝りました。わたしに向けてです。
わたしは、頭を上げるよう促し、
「きっと、罪滅ぼしになりますよ」
そう、言葉をかけました。
………………<エーリ>
「……ふぅ」
階段の下から四段目くらいに腰掛けていた僕は、安堵の息を吐いた。
オートサーチで二人の人物を知り、確認しに来てみれば……。
「(まさかメドナが解決しちまうとはな)」
メドナがピサスと対話し、論破していたのだ。その結果、シェーナの安全も保証された。
結果オーライではある。これで神帝、魔女の月からしばらく安全を得られたのだから。偶然の産物で、僕らの第一目標は達成されたのだ。非常に喜ばしいことだ。
しかし……、
「……結局、私の出番はないのね……作戦まで立てて、練習したのに」
「い、いや。これからあるって! きっと活躍する時来るって! 大丈夫だって!」
「どうせ私なんて気絶していただけですよ~……」
今、シェーナが卑屈になってしまっていた。
あぁ、めでたくない、めでたくない。




