第二十二話 第一作戦:詐欺 <一日目>
~前回のあらすじ~
エーリ・アルンティーネ氏、出馬決定。
………………<エーリ>
木枯らしが吹き荒れる午前の時間。
真っ赤な外装の戦士棟音楽室にて、僕は戦士学科生と対峙していた。傍らには気絶したシェーナ。
シェーナには、僕の中級・洗脳魔法・『ダウナースペクトル』によって、訳あって気絶してもらっている。
この魔法は、脳に睡眠するように促す信号を送る光を生み出し、相手の額にぶつけて気絶させる効果がある。超至近距離で放たないと効果なし。中々使い勝手の悪い魔法である。
と、魔法について寸評している場合じゃないか。
目の前には、火魔法を使う、ウサ耳少女がいる。僕の仕掛けた罠に、釣られてやって来たのだ。
さて、作戦を開始しますか。
「ここへ何の用? ウサ耳火ダルマ」
「だーかーら、誰がウサ耳火ダルマよっ!」
敵は薄橙髪のサイドテールに、頭にはバニーガールが付けるような兎耳。スポーツ少女みたいな格好をしている。
少女の手には、魔法道具のグローブ。僅かに炎を纏っているので、いつでも対応できるよう待機しているということか。侮れないね。
「あたいはフレンシア・ガルドバルゴ! 戦士学科三年の九歳でランクはレ! ウサ耳火ダルマなんて名前で呼ばないでよね!」
自分を指差し、堂々と名乗り出た。
三年で九歳でレ、か。レはインペラトーレの一個下のランクだ。つまり相当な才能の持ち主ってことになる。てかレってなんだよレって。
フレンシアの言葉を額面通りに受け取ると、シェーナは警戒されているようだね。警戒されてないとレなんて高ランクの子を刺客として送らないだろう。恐らく、あの戦士然とした戦士学科の男も、レ並のランクを持っている可能性がある。
「あたいは名乗ったわ。あんたはなんなのよ?」
「ああ、そうだね。僕も名乗ろうか」
名乗られたら名乗り返すのが礼儀。いいだろう。
僕は右手に付けた赤色でⅠの数字が刻まれたリングを、相手に見せつけるように前へ突き出した。
「僕は戦士学科一年、コブシデ・ナッグールだ!」
全力で嘘をついた。礼儀もクソも関係ねぇ! 戦いは情報戦なんだよ!
この偽名乗り、相手はどう思うか……?
「コブシデね、覚えたわ!」
いとも簡単に信じられてしまった。逆に罪悪感が襲ってきたのだが。
「ってかあんた、学年下じゃない! 先輩にウサ耳とか言って生意気ね!」
「すんませんフレンシア先輩!」
刹那の速さでペコペコ頭を下げて平謝りした。こういうことは慣れているのさ。
僕の高速お辞儀によって、フレンシア先輩は多少呆れた顔をしていた。
「……まぁ、いいけどね。ウサ耳なのは事実だし」
「趣味ですか?」
「しゅ、趣味なわけないでしょうが!」
「すんません!」
失言してしまった。ただひたすら頭を下げよう。こういうことは以下略。
「あたいはね、ウサギベースのワーグ族とヒューマン族のハーフなの。だから中途半端にウサギ耳だけが遺伝しちゃって……」
「先輩……」
フレンシア先輩は遠い目をしていた。きっと過去にウサ耳で苦労してきたのだろう。
僕は馴れ馴れしくフレンシア先輩の肩に手を置き、
「ウサ耳……似合ってますよ」
「うるさいわね!」
怒られた。そろそろ真面目に行こうか。
「それでフレンシア先輩、何の用でここへ来たんですか?」
再びフレンシア先輩と向かい合い、会話を始めた。
「何の用って……。そりゃあたいに対する攻撃への報復よ!」
「報復?」
「ええ!」
そう言ってフレンシア先輩は、自分の頭の上を指差し、
「遠隔魔法で攻撃されたのよ! 頭の上に水ぶっかけられたわ!」
と怒り交じりに言葉を吐き出した。
そっかぁ。応接室前にブチ込んた時、先輩そこにいたのか。それは運が悪かったなぁ。
「水魔法だったから水滴がたっていてね、辿って来てみたら……ここだったのよ」
「なるほど、そういうことですか」
「……もしや、あんた?」
「い、いえいえまさか!」
訝しげな目を向ける先輩。僕は大きく手を横に振って力いっぱい否定した。
しかし、僕がどれだけ無実を主張しても、疑念は完全に拭えないだろう。
……そもそも無実じゃないということは置いておいて。
さて、ここで気絶しているシェーナの出番だ。先輩には悪いが、騙されてもらおうか。
「犯人はコイツですよ先輩!」
僕はそう言って、シェーナを指差した。
この状況、シェーナは犯人として扱われやすいだろう。何故なら、拉致という強引な手段に出ている先輩に、『シェーナが抵抗するために攻撃してきた』という勘違いをさせやすいからだ。疑わしい僕の言葉でも、先輩はシェーナが犯人だと簡単に思い込んでしまうだろう。
例えば、自分に恨みを持つ人間がいたとして、自分がそのことを知っていたとしよう。ある日自分の持ち物が壊されていたら、自然と自分を恨む人間が犯人だとは思わないかな? 実際は偶然壊れたとしてもだ。
つまり、シェーナにとって自分は敵だろうと認識している先輩は、シェーナから抵抗されたのだと思い込みやすい状況なのだ!
……あぁ、なんて最低なことをしているんだ僕は。後でたっぷりシェーナに謝ろう。いや、謝るだけじゃ済まない。何か美味しい食べ物も買ってあげよう。
精神的にダメージを負いながら演技を続ける。
「こいつって……! しぇ、シェーナじゃない! ……なんで気絶してるのかしら」
「? この子を知っているんですか?」
「知ってるも何も! あたいはこいつを奪――じゃなくて、スカウトしようと!」
今完全に『奪う』って言いかけたよねこの子? 怖いなぁ、武闘派は。
「スカウトですか。……なんで?」
「それはこいつがインペラトーレだからよ!」
「いえいえ、そうではなく。何にスカウトしようとしているのですか?」
僕がそう尋ねると、先輩はひと呼吸置いて、ああ、この格好じゃしょうがないわね、と言って、
「オープン!」
言葉とともに、姿を変えた。
一瞬で黒いローブを纏い、右手には黒い杖、そして頭には漆黒の魔女帽を被っていた。
一目見て分かる。その姿はどう見ても魔女だ。
「ま、まさか先輩は!」
「そうよ! あんたも知ってるでしょ?」
そう言って、先輩は身を翻してローブを揺らし、カッコイイ決めポーズを取った。
「あたいは『魔女の月』よ!」
そう言い放った。
魔女の月。
『弱肉強食』という理念を掲げる現実主義の組織。二大組織の残り一つがこの組織だ。
魔女の月は大小様々なグループによって構成されており、グループ同士の話し合いでどのグループが魔女の月を仕切るのかを決める。大抵話し合いで決まらず、グループ同士の争いになるらしい。
構成員は全員、魔女の格好をしている。それが構成員の証で、正装らしい。
それと、魔女の月は魔女と言われるだけあって、男子禁制の女だけの組織だ。
実態は……良く分からん。いつも不気味な実験をしているとしか情報がない。
とりあえず、魔女の月は神帝とは正反対の組織だ。人類平等の神帝と、弱肉強食の魔女の月。総院という絶対的中枢組織がある神帝と、グループによってトップがコロコロ変わる魔女の月。
大事なことは、この組織もシェーナの敵だということ。
「はぁー。なんかかっこいいっすねその姿」
「そっ、そうでしょ! 分かるこのかっこよさ!」
「サイコーっす!」
「でしょ! でしょ!」
褒めちぎる僕と、見せびらかす先輩。
フッ、ヨイショする役ってのも大変だぜ……。
「この通り、あたいは魔女の月の構成員。しかもあたいは現在、魔女の月を支配しているグループの副リーダーなのよ!」
「マジっすか!?」
「ふふふ、あたいの凄さに慄け! はーっはっは!」
完全に調子にのっている先輩。仁王立ちして高笑いまで始めちゃったよ。
でも、これは幸運だった。まさか自ら貴重な情報を吐き出してくれるとは思わなかったぜ。しかも副リーダーときたもんだ。
僕は、シェーナを襲いに来た二人はそれなりに位の高い者だと思っていた。一年とはいえインペラトーレだ。油断はできないだろうからね。
だから、この魔女の月・現支配グループ・副リーダーであるフレンシアを釣れたのはでかい。
「つまり先輩は、魔女の月にこの子をスカウトするために、行動したということですか?」
「そうよ。こいつのランクがインペラトーレだって聞いたからね、奪いに――ゴホン、スカウトに来たのよ!」
もう奪いに来たって言っちゃえばいいのに……。
「でも犯人だったのね。無理やりスカウトしようといたから、遠隔魔法であたいへ攻撃したのかしら? うーん、どうしよう……」
先輩は難しい顔をして、考えあぐねていた。
考えているのはシェーナの処遇だろう。彼女を味方に引き込みたいが、わざわざ離れたところから攻撃してくるくらいだ。魔女の月へ入れてから、反逆を起こされる可能性もある。
ここで、僕の出番だ。
「なるほど、そうでしたか。でも、この子スカウトするのは止めた方がいいですよ?」
「なんでよ?」
「僕より弱いからです」
そう言って、意味ありげに含み笑いをした。
「弱い? 何言ってんのよ。インペラトーレが弱いわけないじゃない」
「じゃあ、なんで気絶しているんですかね?」
「……ハッ! もしかしてあんたが!?」
「なーんか、怪しい動きしてたんでちょっと懲らしめたんです。あっさりやられましたよ」
やれやれ、と肩をすくめた。勝負にもならなかった、と小さい声で呟いたりもした。
これも全て、選挙で勝つためだ。済まない、シェーナ……。キミの評判を落としてしまう。
先輩は恐る恐るといった感じで、僕に尋ねてきた。
「……あんたのランクは?」
「僕はドゥーカです」
「低ッ!」
「失礼ですね先輩」
僕ことコブシデは妙にリアルなランク、レベル5ドゥーカという設定にした。
みるみる先輩の顔が困惑していく。
「それ、本当でしょうね? シェーナはただ寝てるだけじゃないの?」
「本当です。僕が嘘ついているとでも?」
「インペラトーレである彼女を倒せるとすれば同じインペラトーレ、一個下のレ、かなりギリギリでヴィチェレ。……確かに、その中にはコブシデなんて名前、聞いたことないわね」
「名前全部暗記してるんですか? すごいっすね」
「副リーダーだからね、当然よ!」
えへん、と薄い胸を張る先輩。そんな先輩に、僕は素直に感心していた。多少知恵も回るようで、ただの脳筋少女じゃなさそうだ。
でも偽名の可能性を考慮しないとは。まだまだ甘いぞ先輩。
「調べさせてもらうわ」
「どうぞ」
先輩はシェーナの下に寄り、何やら魔法を発動して調べ始めた。
見たところ、初級・観察魔法・『ボディスキャン』のようだ。
これは怪我人に使う魔法で、どのような怪我を負っているか、いつ受けたか、状態はどうか、等を調べることのできる魔法だ。
数秒魔法を発動し、先輩ははぁぁぁと大きく息を吐き出した。
「脳への干渉によって気絶しているわね」
「僕が攻撃しましたから」
「……」
しばし考えるポーズをする先輩。そして、
「……ええっ!? じゃあドゥーカのあんたにインペラトーレのシェーナが負けたっての!?」
「そうですよ。この状況が証拠です」
「そんなバカな……。じゃあ味方に入れても戦力にならないじゃない!」
「そうかもしれませんね」
愕然とした顔で、がっくり肩を落とす。どうやら、信じてもらえたようだ。
まぁ、落ち込む気持ちはよく分かるぞ先輩よ。授業をサボってまでのスカウトだもんねぇ、そら落ち込むよねぇ。キュートなウサ耳まで垂れ下がっちゃってるよ。
「はぁ……このことをリーダーに報告しないと」
「彼女の代わりに、僕が魔女の月へ入りましょうか?」
「魔女の月は女性専用よ。あんた男じゃない」
「……ここだけの話、実は女なんです」
「! ホントに!?」
「すんません嘘っす」
「嘘なの!? ちょっと信じちゃったじゃない!」
小粋なジョークも交え、先輩と和やかな会話を繰り広げた。
よしよし、なんとか作戦は成功したようだ。
魔女の月はシェーナを戦力としか見ていない。だから魔女の月でそれなりの位についている者に、『実はシェーナは弱くて戦力にならない』というアピールをするつもりだった。
その結果がこれだ。先輩がなんでも素直に信じる性格だったってのも幸運だった。予想以上の成果に体が震えるよ。
「んじゃーあたい帰るわ。あーあ、ホント無駄足よ」
「お疲れっす」
フラフラと体を左右に揺らしながら、部屋を出て行く先輩。
その途中、出入り口に差し当たった辺りで先輩は止まり、
「じゃあね、コブシデ」
と手を振って去って行った。
最後まで僕のことを疑わなかったフレンシアに罪悪感を覚えながら、シェーナを雑魚扱いしたことで自責の念に駆られていたのだった。
「……ん、うぅん」
音楽室で棚にしまわれた楽器を眺めていると、ソファに寝かせたシェーナが小さく呻いた。
どうやら起きたようだな。何世代も昔のピアノから離れ、シェーナの側へ寄った。
「あれ……私……」
「目ぇ覚めた?」
「あ、エーリくん」
目を擦りながら、辺りをキョロキョロ見渡すシェーナ。状況はあまり掴めてない模様。
……ふむ、タイミングとしては今かな。
「シェーナ」
「? どうしたの?」
僕はシェーナの目の前の床に正座した。そして。
「すんませんっしたーッ!!!!」
「何が!?」
思いっきり頭を床に擦り付け、土下座した。
許されざることをしてしまった僕には、こんなことしかできないけれど、できることなら全力でやる。
例えシェーナが許してくれないとしても、これだけはやらなくちゃならない。それがケジメだろう。
「? ど、どどうしたの~?」
「ホントにすんません!」
「だから何~~~!」
とりあえず、一つ目のミッションは終了した。
さて、次だ。魔女の月だったフレンシアと争っていた男、察するに神帝の構成員と、これから交渉を行おう。それが次のミッションだ。
……まぁ、その前に、訳が分からず混乱しているシェーナに、先程の出来事を包み隠さず話すミッションがあるんだけどね。
………………<メドナ>
坊ちゃまを捜して数十分。未だ行方は知れず、わたしは途方に暮れていました。
「参りましたね……」
これだけ捜していないとは……。本格的に坊ちゃまが迷子になっている可能性があります。
それか、何かトラブルに巻き込まれている可能性も否定できません。
「(あぁ、もし坊ちゃまに何かあったらわたしは……)」
ネガティブな思考によって不安が頭をもたげます。一刻も早く坊ちゃまに会いたいです。
わたしは捜索する場所を変え、戦士棟へやって来ました。この棟もまた、赤一色で見栄えがありますね。
ふと、先程見た不思議な女性を思い出しました。あの女性も鮮烈な髪色をしていました。あの方の髪色はしばらく忘れられそうにありませんね。
「(さて、ここまで来てはみたものの)」
まだ捜してみていないということで訪れたのだが、特に人もおらず、とても静かです。
授業中だから当たり前と言えば当たり前です。
せめてここら辺に人がいて、目撃情報が聞けたらいいのですが……。
と、周囲を伺っていると、偶然人を発見しました。これは千載一遇のチャンスです!
「あ、あの! すいませーんっ!」
「……ん?」
わたしはすぐ駆け寄り、通行人の前に出ました。
通行人は少女でした。健康的で、活発そうな印象を持ちました。
「この辺で子供を見ませんでしたか? 肩くらいの髪の長さで、茶髪で、碧眼の子供なんですけど」
「んー、茶髪に碧眼……あ、コブシデのことかしら」
「コブシデ?」
わたしが言葉の意味を考えていると、少女は戦士棟を指差し、
「中にいたわよ。三階の北の方にある音楽室ね」
と教えてくれました。
音楽室? 何故そんなところに坊ちゃまが? 疑問が生まれましたが、今は置いておきましょう。
とにかく、貴重な情報を教えてくれた方にお礼をしないといけません。
「そうですか。ありがとうございます」
「そ、そんなお辞儀なんてしなくていいわよ」
「いえ、本当に困っていたところでしたので、これくらいはさせてください」
「は、はぁ。分かったわ、好きにすれば?」
「ありがとうございます」
わたしは何度も深々と礼をした。この少女のおかげで無事坊ちゃまと巡り会えそうです。
「それでは、失礼します」
「……あ、ちょっと待って」
得た情報を基に、早速棟へ行こうとしたところで、少女に呼び止められました。一体何の用でしょう?
「あいつに言っといて。今度会った時一緒にお茶でもしましょうって」
「え? あ、分かりました」
「じゃあね」
少女は意味深長な言葉を残し、去っていきました。
今度お茶でもしましょう? 坊ちゃま、あの方とどういう関係なんでしょうか……?
……これはちょっと、坊ちゃまに問い詰めないといけませんね。
………………<エーリ>
「!?」
悪寒が全身を駆け巡った。すっごい嫌な予感がする! 第六感がそう告げている!
シェーナが隣で心配そうに顔を覗き込んだ。
「どうしたのエーリくん。顔色が悪いけど」
「あぁ、いや。心配いらないよ。ちょっと息切れと動機が激しいだけさ」
「それ全然心配いらなくないよ!?」
原因不明の体調不良にちょっぴり元気がなくなりつつも、頬を叩いて自身を鼓舞した。
シェーナには全部話した。一から十まで漏れなく話した。嫌われること覚悟だったのだが、シェーナは、
「つまり、戦わずして治めたっていうことね?」
「うん、会話で済んだけど」
「ならいいわ。むしろその方が良い」
「……あれ? 怒らないの?」
「怒らないわよ。和平的に争いを治めてくれたのだから。そもそも、私には怒る権利なんてないわ」
と言って、寂しげに笑った。
戦争の傷は、相当深いようだ。シェーナは戦いそのものを拒絶し、完全なる平和を求めている。
当たり前だ。家族を争いで失ったんだ。戦うことを忌避するのは当然の行動と言える。平和は何よりいいことだ。
しかし、シェーナは分かっているのだろうか? この世界は――。
いや、今は考えなくていいか。
「よーし、それじゃ次に進もう」
「次って、ピサスくんとの交渉?」
「ピサス……?」
「魔女の月の――フレンシアちゃん? フレンシアちゃんと戦ってたもう一人の男よ」
「あー、あいつピサスって言うんだ。よく知ってたね」
「知る人は知る有名人なのよ。神帝の総院メンバーだし」
「へぇー」
音楽室にて次なる作戦を立てる僕とシェーナ。フレンシアの様子から、しばらく魔女の月が襲ってくることはないだろう。
となると、残るは神帝だ。この組織を抑えるところから始まる。
「まず大事なのは身の保証だ。選挙まで襲われることがなくなれば、安心して選挙に臨めるし、リーダーとの交渉もしやすくなるだろう」
「ほ、本当に選挙に出るのね……」
「もちろん。立候補はシェーナでね」
「私!?」
僕の言葉に後ずさり、驚きの表情を見せた。
「前にも言ったと思うんだけどねー。この組織は僕が作るけど、リーダーはシェーナだ。そして、立候補するのもシェーナだ」
「そ、それ本気なの?」
「本気さ」
真面目な顔でシェーナの説得しにかかる。声色も通常より低めで。
「今のところ、立候補は二人だ。一人は神帝のリーダーでキミの友達、フォルエッタ。もう一人は魔女の月のリーダー。二人共インペラトーレだ。なら愛の羽としても、インペラトーレをリーダーとして選挙に臨んだほうがいいじゃん?」
「それはそうだけど……」
「何か不満?」
「私、リーダーって器じゃないし。人前に出るの恥ずかしいし、それに」
両指を合わせ、もじもじしながら、控えめに意見を主張するシェーナ。
見るからに適当な理由を付けようとしているな? まぁ、目立つのってなんとなく嫌だろうし気持ちは分かる。
しかし、そうしなければシェーナはこの学園で生き残れない。
「んもー。そんなこと言ってたら無限に考えられるじゃんか。大丈夫、僕が全力でサポートするからさ」
「……うん、分かったわ」
「よしよし」
不承不承だったが、了解してくれようだ。シェーナ自身も分かっているようだが、言葉を吐き出しておきたかったのだろう。多分。
「話を戻すよ。とにかく、今すぐにでも安全が欲しい。突然襲われて拉致られるっていうのが一番最悪だ」
「そっ、そうね~」
シェーナが肩をブルっと震わせる。あの時の、応接室前での出来事を思い出してしまったのだろう。この様子じゃ、しばらく夢にも出てきそうだな。
「魔女の月については、しばらく安全だと思う。だから後は神帝だ」
「神帝はどうするの? 魔女の月は単純な戦力だったから、何とか出来たと思うんだけれど」
「そうだねぇ。魔力だからねぇ」
魔力はその人のそのもので、いくら嘘を並べ立てても、ランクが魔力の高さを示してしまう。神帝への交渉は慎重に行わないといけない。
「魔女の月ではキミは雑魚になってもらった。不本意だろうけど」
「別に不本意ではないけれど、そうね」
「神帝では……そうだね」
僕は数秒考える仕草をとって、
「じゃあ、卑屈になってもらおうか」
そう申し出たのだった。




