第二十一話 愛の羽 <一日目>
~前回のあらすじ~
前々回に続く過去バナ。
………………<シェーナ>
私は、自分の耳を疑った。
この人は一体、何を言ったのだろう? とても信じられないことを言った気がする。
呆気にとられていると、エーリくんは再びこう言った。
「だから、僕の組織に入ればいいじゃん」
満面の笑みだった。とても無邪気で、気軽な感じで、ご飯にでも誘うような調子でそう言った。
あれだけ現実を厳しく提示したエーリくんが、まるで夢のようなことを言い始めたのだ。
「組織って……エーリくん何か組織作っていたの?」
「いや。これから作る」
「これから!?」
なんて行き当たりばったりなのだろう。新規の組織はすぐ潰されてしまうと言ったのに、よくこんな堂々と言えるわね。
「もしかしてエーリくん、その場の勢いで組織作るとか言ってない?」
「多少」
「多少!?」
そこは否定して欲しかったわ! なんかすっごく不安なんだけど!
……でも、話を聞いてみたいと思った。
この人なら、この状況を打破してくれる。エーリくんの自信満々な姿を見て、そんな気がした。
「どうすればシェーナが安全に暮らせるか。さっき言った選択肢三つ以外で考えると、やっぱこれが一番手っ取り早いんだよねー」
「手っ取り早いって……何言って――」
「まぁまぁ、ちょっと聞いてよ。要は友達に魔力いっぱいあるから狙われていて、他の組織には戦力になるから狙われているんだよね?」
「そ、そうだけど」
私がおずおず答えると、エーリくんは自信たっぷりに、
「なら簡単だ」
そう言ってはにかんだ。
「友達の方は……少なくとも対処できる策がある。交渉材料がある、と言ってもいいかな。もちろん、シェーナが交渉材料じゃないよ」
「ほ、ホントに!?」
エーリくんの言葉に、私は身を乗り出した。
フォルに対する交渉材料。しかも、私以外でだ。
それは学園に私を含めた四人以外で、インペラトーレ並の魔力を持つ人がいるということだろうか?
私はそんな話聞いたことがないし、そんな人がいるなら、既に話題になっていてもおかしくないけど……。
「それって何?」
「まぁ、その内話すよ」
「今は話せないの?」
「うん」
あっさりと肯定されてしまった。
どういうことだろう。なんで今話せないのか。疑問がポンポンと頭の中に浮かんでいく。
まだ準備できていないから? 何かフォルの弱みを握っていて、それを友達の私には言えないとか? ただ単に勿体ぶっている?
まさか、最初から私には話す気がないとか……。
いやいや、止めよう。そういうネガティブな発想は身を滅ぼすだけだわ。
エーリくんが今話せないというなら、それを聞き入れよう。それが信じるということだろうから。
「でもそういう材料があるのは事実さ。それを証明はできないけど……信じてくれる?」
「……あ」
エーリくんが不安そうな顔をしていた。こんな私に、手を差し伸べようとしてくれている人を、不安がらせるなんて。
これもネガティブなことを考えたせいだわ。そう、信じようとしなかったから。
「分かった! 信じる! エーリくんのこと信じるわ!」
「そっか……。ありがと」
私達は固い握手を結んだ。何も解決してはいないけど、前向きになれた。
話に戻る。
「フォルにはエーリくんのいう交渉材料があるからいいとして、問題は他の組織だけど」
「それも問題ない。所詮戦力増強のために行動しているんだ。戦力にならないと知れば動かなくなるさ」
「つまり、私が戦力にならないことをアピールすればいいの?」
「そういうこと」
はぁー、と声が漏れた。
エーリくんは何も考えてないようで、しっかり熟考していたのだ。
私より幼ない子供なのに……素直にすごいと思う。
「これで二つの組織に対して解決の枠組みが用意できた。これに付け加えていけば対策となる。どうかな?」
「いいと思うわ。最終的な対策としては」
「ふむ、何か言いたげだね」
でも、まだまだ詰めが甘い。これらの作戦はあくまで『二つの組織のリーダーに無事会った時にできる策』であること。それまでの安全が一切保証されていないし、リーダーまでたどり着けるかは不明。そもそも新規の組織はすぐに潰される。生き残れる可能性なんて……ほぼない。
それに、私は、魔法で人を傷つけたくない。
「大丈夫だよ」
思考する私の目の前に、いつの間にかエーリくんがいた。両手を握られ、心臓の鼓動が早くなる。きっと、私の顔は茹でダコみたいになっていることだろう。
「キミを守るよ。絶対に」
「~~~~~ッ!」
私は何故か心がときめくのを感じたの。
全身が熱く火照り、心臓がドキドキしていて、彼の言葉が耳から離れない。たった一言で、痺れるような衝撃が走った。恥ずかしいような、嬉しいような……。
分からない。こんなに愛おしいと思う感情は一体なんだろう? 今この感情に身体を委ねたらどうなるか知りたい。委ねてみたい。
……ダメだ。今この感情に飲まれたら大変なことになる。必死に理性で振り払った。
「このエーリに任せてよ。こう見えても知恵が回る方だからね。組織をぶっ潰すとか、そういう力技にはでないさ」
「で、でも!」
「あ、そうだ。言っとくけどね、僕の組織はちょっとやそっとじゃ潰れないようにするから」
「えっ! どういう意味?」
「忘れちゃいけないのは、学園生活は六年間あるということさ。二つの組織を無事抑えられたとしても、今後何か大きなトラブルがあって潰されちゃたまんないよね?」
「それは……そうだけど?」
エーリくんはニヤリと笑っていた。何かとんでもないことを、言おうとしている気がする。
いや、これはもしかして……。
「僕としては、シェーナが卒業するまで身の安全が保たれる組織を設立したいわけですよ。それじゃ、普通に組織作って営むだけじゃ足りんよね。そうだね、僕達に手を出せないような、そんな法とか縛れたらいいんだけど」
「……ま、ままままさか!」
意図に気が付き、驚愕している私を置いて、エーリくんは淡々と、
「運営会選挙に出ようぜ。んで運営会長になって学園を牛耳ろうか!」
これまたメッチャ笑顔で、言い放ったのであった。
………………<メドナ>
「(坊ちゃまがとんでもないこと言っている気がする!)」
授業を休んで坊ちゃま捜索をしている最中、何やら天啓のようなものを感じましたが……気のせいでしょうか?
「(いやいや、そんなこと考えている場合じゃないです)」
わたしは頭を振って考えをかき消しました。
こんな薄寒い外でガタガタ震えているかもしれない坊ちゃまを見つけるまでは、無駄なことを考えないでいきましょう。その方が建設的です。
決意を新たに歩いていると、いつの間にか、わたしは西方向へ足を進めていました。
こちらにある校舎は勇者棟。勇者学科の方々が利用する校舎です。全体的に白色です。雪のように真っ白です。雪が降ったら隠れて見えなくなってしまうのではないでしょうか?
さすがにここへ坊ちゃまは来ていないでしょうね……。
そんな風に一人眺めていると、中から一人、生徒が出てきました。
その姿に、わたしは目を奪われました。
ミディアムヘアーを外にハネらせて、頭の上にはレースでできた帯状の飾り――ヘッドドレスを付けています。
服装は派手なドレス。真っ黒の衣装にリボンやレース等、が多く取り入れられています。真っ白なタイツが対照的に目に映えますね。
以上の格好だけでも相当目立ちますが、何より目を釘付けにするのは、
「(綺麗な赤髪……)」
灼熱をそのまま切り取ったかのような赤色の髪でした。見るものを焦がすような、鮮烈の色です。
恐らく女性でしょう。彼女は、悠々と真っ直ぐ歩き、惚けて突っ立っているわたしの前を通って行きました。
その間、わたしは呼吸をするのも、坊ちゃま捜索も忘れて、ただただその姿を目に焼き付けていました。
………………<シェーナ>
運営会長になる。
そんな大口を、目の前の少年が叩いた。これは無茶とか無謀とかそういう次元じゃない。
無理、だ。
「僕の作る組織の最終目標は運営会になることだ。うーむ、そうなると運営会長はシェーナの方がいいかな。インペラトーレっていう肩書きもしっくりくる」
「ッ! エーリくん、何言ってるの? 本気?」
「本気だよ。マジだ」
エーリくんの目は、真剣だった。本当に挑もうとしている。
いくらなんでもこれは止めなければ。運営会選挙に出るなんて無理だと。
しかし、説得する前に、エーリくんが動いた。
「いいか、シェーナ。ただ組織作って、どうにか二つの組織の代表と取引して、安全を得たとしてもダメなんだ。そんなのはつかの間の平和ってやつだよ」
「う、うん」
「シェーナが欲しいのは永遠の平和だ。それには、どうしたって運営会選挙に出て、運営会長になって、自分達に被害を与えられないような規則を作るしかないんだよ」
エーリくんの言うことは正論かもしれない。確かにこのままでは私達はその場凌ぎをすることになる。
でも、だからって運営会選挙だなんて……ッ!
「所詮は選挙だ。人気取って選ばれりゃいいんだから。そんな怖いことはない」
「でも、そんな簡単なことじゃないわ。何のための組織だと思ってるの? 全部自分へ票を入れされるための組織なのよ」
「ああ、そうだね」
そう言って、エーリくんは思わず前のめりになっていた私を座らせ、ふぅーと息を吐いた。
「簡単じゃないけど、可能だ」
「! ……できるの?」
「うん」
どこから自信がきているのだろうか。エーリくんは、余裕を持って頷いた。
「選挙は今日から一週間後、すなわち七日後だ。それまで手順を追って進めば、選挙前までに二つの組織のリーダーに会える。そんで、取引を持ちかけ、自分達の票を僕らに入れるよう促す」
「えぇっ! そんなこと要求するの!? できるの?」
「多分できるよ。交渉内容にもよるけどね。とにかく、任せてよ」
「……ほぼ勢いで言ってないかなエーリくん?」
「まぁ、案はあるけど上手くいくかは分からないし」
「……はぁ」
私は思わず溜息を吐いた。
だってそうでしょ? 私はここ数日一人でずっと悩んできた。誰にも相談しないで、なんとかする方法を考えてきた。何度も泣いたし、怖くて怯えていた。それを隠して生活してきた。
それなのに。
「人生なんて何が起こるか分からないものさ。転送だと思ったら転生、なんてこともあるかもしれない」
「そんなことある?」
「あるかもしれないよ? 世の中広いし」
「……そうね」
エーリくんはなんとかしようとしてくれている。私のピンチに突如現れ、全てを背負って助けてくれようとしている。
私が一人で抱え込んでいたことを、解消しようとしている。
そんなこと、許されるのだろうか? この子に全て委ねて背負わせていいのだろうか?
そもそも私の方が年上だし、年下に頼るのはどうかと――
「もう、ごちゃごちゃ考えすぎ! 単純にいこう!」
「きゃっ!」
思考がグルグルしていたところに、エーリくんが私の肩に強く手を乗せた。一瞬で考えは消え、目の前には誠実そうな顔のエーリくん。
……ああ、そうね。理性がごちゃごちゃとうるさいわ。単純に、よね。
今の素直な気持ちを、エーリくんにぶつけよう。
「助けて欲しいのなら、そう言えばいい! 助けてってさ!」
彼の言葉を聞いて、私は、
「――助けて!」
心の奥底にしまってあった本心を、ぶちまけた。
「さて、組織を作ることになったわけだけど」
「ええ」
「一番重要なことがあるよね」
「……?」
たった二人の音楽室で、第一回話し合いが行われた。
私はエーリくんに助けてもらうことにした。だけど、ただ助けられるのは嫌だから最大限協力することにした。
これだけは絶対に譲れない。
「名前だよ。組織名」
「あ~」
「リアクションうっす!」
「何事かと思ったら、そんなことだもの」
エーリくんが副リーダー兼参謀で、私がリーダー。
「なんか案あるかな?」
「……特にないわね~」
「そっかー。何かいい名前ないかなぁ……そうだ!」
理念は『世界平和』。総勢二名。
「『愛の羽』なんてどうかな? 世界に愛を届ける羽になるんだ!」
「……プッ」
「笑われた!?」
「ちょっと……恥ずかしくないかしら」
「……もしや、僕の名字って恥ずかしいのだろうか?」
「名字? アルンティーネじゃないの?」
「まぁ、そうだけどね」
その組織名は、
「でも、いいと思うわ。愛の羽」
「そっか。じゃあそうするか」
世界に愛を届ける羽になる、愛の羽。
「……ププッ」
「また笑われた!?」
「ねぇ、エーリくん。ここから移動しなくてもいいの?」
私は気になっていたことを尋ねた。私を狙って襲撃してきた二人から逃げるために、今までずっと戦士棟の音楽室に隠れていたんだけど、そろそろ向こうも諦めたんじゃないかな? 逆に長居するのは良くないんじゃ……。
すると、エーリくんは、
「うん、そうなんだけど……そろそろかな?」
何かを待っているようで、座って目を閉じている。何をしているんだろう?
さっきも何故か水魔法を発動していたようだった。何の意味があるのか、私には皆目見当もつかないわ。
私が聞こうとしたところで、エーリくんが突然目を開けて立った。
「よし。じゃあシェーナ。今から早速活動するよ!」
「ええっ!」
「しかもシェーナには大事な役目があるんだ!」
「そうなの!?」
急展開に頭が回らない! 目をグルグルさせながらエーリくんの言葉をしっかり聞く。
早速私が協力できる。自分の役目をしっかり果たして、エーリくんに貢献したい。そう思っていると、エーリくんは、
「じゃあ、ちょっと気絶しててね」
「……え?」
右手の指に小さな光を作り、その光がゆっくり私の方まで動き、おでこにぶつかった。
それと同時に、私の、意識が、消失して、いった――。
………………<エーリ>
「さて」
シェーナが気絶したのを確認し、ゆっくり立ち上がった。
低級・遠隔魔法・『ショートコントロール』。初級魔法を宙で固定し、離れた位置まで動かし、自由に撃ち込める魔法。これを使って、応接室前へ一発水魔法をブチ込んだ。
恐らく、あの二人はまだシェーナを捜しているだろう。なにせ、僕がここへ侵入した時、授業は始まっていた時間帯だった。なのに彼らは授業に出ないでシェーナを襲っていた。
つまり、サボタージュ。サボった奴が、目的の人を取り逃がしたからといって、諦めて授業に出るか? いや、出ないね。
僕だったらせめて授業が終わるまで捜す。そして取り逃がしたことを報告するかな。
だから、それを狙ってのショートコントロールだ。
恐らく、まだ応接室付近でウロウロしているだろう者に向けての攻撃。あえて水魔法にしたことで、僕らがいるここから応接室前まで水滴が落ち、道しるべとなる。
ここへ誘い込むための、罠となる。
「ここだああああああ!」
ドガアアアッ! と大きな音を立てて、音楽室のドアが蹴飛ばされた。
やって来たのは、
「ウサ耳火ダルマ!」
「誰がウサ耳火ダルマよ!」
ウサギ耳を付けた、炎の魔法使いだった。
んじゃ、始めますか。平和のための戦いを!




