第二十話 友達 <一日目>
~前回のあらすじ~
恋バナではなく過去バナ。
エーリが戦士学科に侵入した頃。
………………<メドナ>
「坊ちゃま! 坊ちゃまがいません!」
第一魔法実習館に着いてから、私は気が付きました。
わたし達の後ろをついて来ていたと思っていたエーリ坊ちゃまが、いつの間にかいなくなっていたのです。
「おー、そういやいねぇな? 迷子か?」
「ご主人が迷子って考えにくいの」
わたし達と一緒に行動していたゴブリン族のリューイ様、ノーム族のリコプル様も、坊ちゃまがいなくなったことに気が付かなかったようです。
「でもよ、あいつああ見えて五歳だろ? 学園広いし、迷うことくらいあるだろ」
「そう言えばご主人五歳だったっけ。忘れてたの……」
リューイ様もリコプル様も、失礼なことを言っていますが、その気持ちは良く分かります。
坊ちゃまは妙な頼もしさがあるというか、大人っぽいというか、包容力があるといいますか……。
でも、うっかり屋なところやお兄さんぶるところがあって、年相応の反応が可愛くて。
わたしはそんな坊ちゃまに仕えることができて幸せ者ですね。
「迷子だとしたらまずくね? 今頃ひもじい思いしているかもな」
「た、確かに」
本当に迷子ならば、坊ちゃまは寂しい思いをしていることでしょう。いくら頼もしいとはいえまだ五歳。怖いことも、不安なこともあるでしょう。
リコプル様が顔を曇らせて、ボソボソと、
「こんな寒い中の迷子。もしかしたらご主人は、もう……」
「ちょっとリコプル様! 不吉なこと言うのは止めて下さい!」
坊ちゃまのことだから、何か理由があってここまで来ていないのだと思っていましたが……本気で怖くなってきました。
三人で話していると、他のクラスメイトもやって来ました。
エルフ族のケイシー様、ワーグ族のキリコッテ様、ジャイアント族のカテマ様、ドワーフ族のヤスラ様です。皆寒さに震えながらやって来ました。
もしかしたらと思い、わたしは皆さんに尋ねることにしました。
「皆さん、エーリ坊ちゃまを見ませんでしたか?」
「エーリちゃん? うーん、見てないけど」
「ぼくも見てないや」
「……あっしも」
「ごめん、見てない」
全滅です。急速に不安が押し寄せてきます。
「やっぱりご主人は……」
「止めてください本当に!」
もうダメです。これは授業を休んででも捜しに行かないと!
もはや捜しに行くこと自体が目的になっている気がしますが、坊ちゃまのことが本気で気になります。
皆へ休む旨を伝え、わたしは走り出そうとしました。
その直前に、
「あれ? そういやシェーナもいねぇな」
という言葉が聞こえてきたのが、やけに印象的に耳へ残りました。
………………<シェーナ>
インペラトーレ。
それは入学試験において最高の成績を表す称号。レベル10。
現在、学園に三人しかいないとされ、学園の生徒の中でもトップの才能の持ち主という証明でもある。
そんなインペラトーレの四人目として、恐れ多くも私、シェーナ・エストーナが仲間入りすることになった――。
「……素晴らしい」
それは入学試験でのことだったの。
ドランソー先生に渡された魔力吸収石に、魔力を全力で込めてみたら、
「真っ二つになったか。この反応は実に久しぶりだな」
パックリと、まん丸の玉が半分に割れていた。
私は相当焦ったわ。学校の大事な備品を壊してしまったと、弁償はいくらかかるだろうかと、そんなことばかり考えていたの。
そんな私に、ドランソー先生は笑顔で肩に手を置いた。
「シェーナ君、おめでとう。君はこの学園最高の成績を叩き出した」
「最高……?」
「ああ。この反応はレベル10インペラトーレだ。君の最高の才能を最高の環境で発揮してくれたまえ」
「え……あ、はい」
「まぁ、そういう反応になるのも分かるがな。事実だよ」
「じ、事実ですか。じゃあほっぺつねっていいですか?」
「……私の頬を捻っても意味がないと思うが?」
「ああっ、失礼しました!」
最初は夢だと思ったの。
確かに小さい頃から魔法を使えていたが、自分にそんな才能があったとは。
その時はただただ、これで孤児院の先生達に苦労をかけなくて済む、という安心と、魔法使いとしてやっていける、という喜びでいっぱいだった。
そう、エーリくんの言う通り、予想外の結果に驚いちゃって。自分でも不思議そうな顔していたと思う。
とにかく、すぐに付き添ってくれていた孤児院の先生に報告をして、一緒に喜びを分かち合ったわ。ここでやっていける、そういう前向きな気持ちが私の中に溢れてきて……本当に良かったと思った。
次の日、私は指定された寮へ向かった。インペラトーレ専用女子寮よ。
まるで宮殿みたいな建物でビックリしたわ。私みたいな人が住む場所じゃないって素直に思った。
そんな寮のロビーに訪れた時、私は思わぬ人と再会をした。
同じルムーン公国出身の、友達だった。
「え? フォル?」
「……シェーナ」
「嘘!? フォル!」
「シェーナ!」
姿が昔と変わっていなかったからすぐに分かった。それは相手にとっても同じだったらしい。私達は抱き合い、言葉で、態度で再開を喜んだ。女子寮のロビーが、まるで故郷のような錯覚が起きたくらいだった。
友達は私のことをずっと忘れず、いつも考えていたといった。心の支えにもなっていたという。だから、この再会はすごく嬉しいと言ってくれたの。
……私は今の今まで友達のこと忘れていたというのに。自分がすごく残酷な人だと思った。
「その……ごめん! 私、今まで自分のことで精一杯で……フォルに何もできなかった」
「それはお互い様ですよ、シェーナ。私も自分のことで一杯でしたから。落ち込んでいるシェーナに何もせず、魔法の勉強ばかりしていましたからね。それにお互い、あの時は距離を置くべきだったと思います。あんな不幸があったのですから」
「そっか……。分かった、フォルがそう言うなら」
「はい、それでいいです」
柔らかく微笑んだ友人から、昔の面影を感じることができ、そこでまた私は安心と同時に後悔をしていた。
こんなことなら、もっと早くに友人と会話すべきだったと、家族が死んで辛かったのは自分だけじゃなかったのだから。傷の舐め合いでもいいから、会話すべきだったと思った。
久しぶりに会って、テンションが上がっていた私なんだけど、そこでようやく気が付いた。
この寮に友達がいる意味を。
「そう言えば……ねぇ、フォル。ここにいるってことはもしかして?」
「貴方の予想通りですよ。私はインペラトーレです」
「本当に!? 私も!」
そう、驚くことに、友達もインペラトーレだったの。
彼女は私よりも早くここへ入学していて、現在は騎士学科四年らしい。つまり先輩にあたるのね。
「これからは毎日会えるのね!」
「そうですね」
私は嬉しかった。
魔法学校に最高位で入学できた上に、友達と再会できて、一緒の寮で暮らす……。
信じられない程の奇跡に、私は舞い上がっていた。人生は不幸と幸せの連続だ、なんて聞いたとこがあるけれど、その日の私はそのことを信じていい気がしたわ。
でも、人生っていうのはそう上手くいかないものなのね。
私は気が付くことができなかった。変わってしまった友達の本性に。
その日の夜。
私は友達に誘われて、友達の部屋にやって来た。
部屋は綺麗に掃除されていて、家具等も整頓されている。そういえば、昔から几帳面だったことを思い出し、本当にあの友達と再会したんだぁとしみじみ感動していたわ。
そこから、私達はしばらく昔話に花を咲かせ、穏やかな時間を過ごした。
懐かしいことばっかりで、ちょっと涙目になりながら会話を弾ませた。心の底から笑ったのは久しぶりだった。
何時間、話していただろう。場は暖かいを通り越して熱くなった。
そんなタイミングで、友達は真面目な顔で話を切り出した。
「ねぇ……シェーナ。貴方は何のために魔法を学んでいるのですか?」
「えっ?」
突然そんなことを言われて面食らったが、私は自分の思いを包み隠さず述べた。
「私は……幸せのために魔法を学んでいるわ」
「幸せ?」
「ええ。魔法はなんにでも使える素晴らしい力。でも、それを相手を傷つけるために使っている現実があるわ。だから私は、世界を幸せにする魔法を学びたい。そして、幸せの魔法を世界に広めていきたい。いずれ戦争がなくなることを信じて……ね」
私が今ここまで来ているのは全てそのため。皆幸せになれば争いは起こらない。私はそう信じている。
友達は私の言葉を聞いて、僅かに微笑んだ。
「ふふ、シェーナらしい理由ですね」
「……変かな?」
「全然。素晴らしい理想です。純粋で真っ直ぐな理由で、私は好きですよ」
「そっかぁ~。ありがと」
この時、私は友達と共感できていると思っていた。
同じ境遇に立っている友達だからこそ、分かってくれていると思っていたの。
でも、違った。
「確かに、シェーナが幸せの魔法を会得し、幸せになる魔法が広まれば、世界は幸せに満たされ、争いはなくなるでしょうね」
「でしょう? だから――」
「でも、それだけじゃ足りません」
友達は重々しい表情をした。初めて見る顔だった。
「今後世界は幸せに満たされるでしょうが、幸せじゃなかった人達は救われません」
「今までに亡くなった人達ってこと?」
「そうです。過去に悲惨な死を遂げた人達が幸せにならずして、幸せの魔法とは言えません」
「フォルちゃん……」
友達の言葉は、戦争で死んでしまった家族のことを言っているのだと、すぐに気が付いたの。
「私はずっと考えていました。なんで私の家族が死ななければならなかったのか。ただ普通に暮らしていただけなのに」
「……うん、そうだね」
「だから、魔法を学びました。私の家族を生き返らせる魔法を」
「! それってフォルちゃん!」
「ええ、『禁忌魔法』です」
ここで私は、フォルちゃんの顔をちゃんと見た。
今まで気が付かなかったけど、その目は現実を見ておらず、濁って見えた。
「禁忌魔法自体は得られたんですよ。でも、魔力が足りないんです。インペラトーレの私でさえ、魔力が圧倒的に足りないんです」
「……」
「そう、学園の全生徒が一生魔法が使えなくなるくらいの魔力が必要なんです。さすが禁忌と言われるだけありますよね。アハハ!」
恐怖。
私は人生で初めて、友達に嫌悪感と恐怖感を感じた。
この友達が、これから何をしようとしているのか、言われなくても理解してしまった。
「シェーナ。私は今、学園のトップなんですよ」
「トップ?」
「そうです、トップです。とある組織のトップで、学園のトップなんですよ。この学園ではかなりの有名人なんですよ」
「ま、まさかフォルちゃん!」
「そうです。全ては理想を実現させるため。……知っていますかシェーナ。この学園は運営会選挙という選挙で全生徒から選ばれさえすれば、学園の支配権を得られるんですよ。学園にある秘密の魔法を自由に閲覧できるし、自由に法を作れるんですよ……何が言いたいか、分かりますよね」
「そんなっ!?」
友達は私に手を差し出した。それも、満面邪悪な笑みを浮かべていた。
「シェーナはインペラトーレでしたね。どうです? 一緒に幸せを掴みませんか?」
私はいつの間にか、その手を払い除け、自室にこもっていた。
怖かった。吐き気がした。あんな表情をする友達を見たくなかった。
彼女は狂ってしまったの。あの戦争によって、全てが変わってしまった。終わってしまった。
昔のように仲良くなることはもうないんだなぁって思うと、涙が出て止まらなかった。
その日からよ。私は友達に毎日勧誘されるようになったのは。
「シェーナ、何故拒絶するのです? 貴方の家族も生き返るのですよ? あの頃に戻れるのですよ?」
「でも、そのために学園の生徒を犠牲にするのよね? それじゃ戦争を起こしたボルマー王国と一緒よ! 自分達の利益のために侵略だなんて……そんなこと許せない」
「……はぁ。シェーナ、いいですか? 今、私達の目の前に幸せがあるのですよ? これを掴まずしてどうするのです?」
「だからって、他の人を犠牲にするのは良くないわ」
私達の意見はいつも対立していた。
当たり前よね。そんなこと、私が許せるわけがない。
「そうですか。どうやら私達は相容れないようですね」
「ええ、そうね」
話は終わったと、私は去る。
そんな私の背中に、友達は、
「なら、力づくで従わせないといけませんね」
そう、呟いた。
………………<エーリ>
たった二人だけの音楽室。シェーナのポツポツとした言葉だけが耳に響く。
悲しみを背負ったシェーナに、僕ができることと言ったら、たまに相槌を打ち、頷き、慰めることくらいだった。
何かワケがあるとは思っていたが……そうか、シェーナは戦災孤児だったのか。だからあんなにも争いごとを嫌い、魔法で戦うのを拒んでいたのか。
僕はなんとなく、聖戦の時のシェーナの姿を思い起こしていた。
「運営会選挙が近づいてきて、友達――フォルは、組織の仲間を差し向けてくるまでになりました。フォル自身が私に会いに来ることはなく」
「それでその仲間が強引に?」
「……ええ。先程のように襲ってきて、力づくでも仲間にしようとしてきて」
「なるほど、そういうことか。その、フォルという友達とは会っているの?」
「いえ、会ってないわ。そもそも寮にいないみたいで、どこか別の場所にこもって生活しているみたい」
「ふむふむ」
フォルが寮にいないってのは、きっと安全確保のためだろう。組織のボスってのは誰に恨みを買われているか分からないしね。だからこその隠遁生活だ。
シェーナに仲間を差し向けたのは、動けない自分のために動かした、そういうことだろう。
「仲間を差し向けたのは分かったけど、キミが襲われてた時二人いたよね。しかも仲違いしていたし。あれって?」
ウサ耳の炎魔法使いと、ごつい防御魔法使い。お互いにシェーナ確保が目的のはずなのに、シェーナそっちのけで争っていた。その隙に僕に取られちゃあ、本末転倒だよなー。
「片方はフォルの組織の子なんだけど、もう一人はもう一つの組織の子なの」
「奪い合いしてたのね。フォルの方は魔力のためだろうけど、もう片方は?」
「……単純に戦力として、らしいの」
「あぁ、そういう」
それであんなことになっていたのか。応接室大丈夫かなぁ? なんていらぬ心配をしている場合じゃないだろう。
とりあえず、今をなんとかしなくてはいけないようだ。
「他に組織は? 襲ってきた組織以外でさ」
「ないわ。あったとしても、戦力で負けて潰されるか取り込まれるかされてすぐ消えるの」
伊達に二大組織と言われているだけあるねぇ。新参の参入できない状況のようで。
「そういや、監視会はどうなんだ? 運営会が一生徒にそんな乱暴働いていて、許されるの?」
「監視会はあくまで運営を監視する組織なの。学園運営に直接関係ないことには基本的にスルーよ」
「そうか……」
教師の手は借りられないってことか。学生自治と言われているだけあるなぁ。
後、二大組織が幅を利かせているせいで、他の組織の手も借りられない。
一通り話を聞いて分かったが、シェーナの現状はかなりマズい。正直詰んでいると言ってもいい。
……今更だが、確かめておくか。
「フォルって子は学園の現トップ――運営会長なんだよね? それってつまり」
「うん」
シェーナは険しそうな表情で、絞り出すように声を出した。
「フォル――フォルエッタ・サンダリア・ミリアーカイズ。私の友達フォルは、組織『神帝』のリーダーであり、法王女と呼ばれているわ」
神帝。
『人類平等』という理念を掲げる理想主義の組織。二大組織の一つ。
『総院』と呼ばれる中枢の集団がいて、その総院の下に、様々な役割を持った組織が存在する。総院こそ神帝の全てと言える。
そして、その総院の頂点こそ、法王女ことフォルエッタが務めている。
ここだけ聞くと、とても素晴らしい組織に聞こえてくるが、実際は違う。
家族を生き返らせるという私利的な目的を達成するために結成された、ただ欲望を満たすための悪の組織だった。
ちなみに、神帝が今の運営会で、同じ寮のフィレ先輩はここに所属していることになる。
フィレ先輩が前に、内乱が起きてその対処に追われていた、と言っていたけど、そのおかげで学園の皆は無事でいられているのかもしれないね。
「正直に言うよシェーナ。キミはもう詰んでいる」
「ッ!」
僕の言葉に、動揺の色を隠せないシェーナ。
それは当たり前だ。僕の言葉は、死刑宣告にも等しい鋭利な言葉だからだ。
「いいかシェーナ。キミに取れる選択肢はいくつかある。一つ目は、ずっと抗い続けること。フォルともう一つの組織のボスが諦めるか、逆に返り討ちにするかの方法でね」
「む、無理よ! 今日だけでもエーリくんだ助けてくれなかったらどうなっていたか……。自分からっていうのも、勝てそうにないし、そもそも魔法で人を攻撃することなんて……できないわ」
「だろうね。だから選択肢一つ目はなしだ。なら次、選択肢二つ目だ」
僕は指を折り曲げながら数えた。シェーナも僕を習って指を折る。
「もういっそ、組織に入っちまうことだ。友達のいる神帝か、はたまた別の組織か」
「……答えるまでもないわね」
「ああ、そうだね。神帝に入ると魔力原に、ほかの組織だと戦力として駆り出されること間違いなしだ」
この時点で、絶望しかない。逃げられない、戦えない、おもちゃにされる、兵にされる……。
新規の組織に期待したいが、シェーナの言うように、二大組織によってすぐに潰されるだろう。そもそも匿ってくれるとも限らないわけで。逆に差し出してしまうかもしれない。
彼女の不幸は、ずっと続いている。
「三つ目だ。……これが一番残酷かもしれない。準備は?」
「……うん、大丈夫。何言われても、頑張る」
シェーナは拳を握り締め、耐える準備をしている。その姿がとても健気で儚く見えた。
そんな子に、僕は残酷な言葉を振り下ろした。
「三つ目は、ここから出ていくことだ」
「ッ! ……う、ぅん」
泣きそうになるのを必死に我慢するシェーナ。罪悪感が心をザクザクと刺しているのが分かる。
それでも、僕は最後まで言わなければならない。彼女のためにも。
「一番簡単で安全な手段だよ。ここから去れば誰にも手を出せない。フォルにも、他の組織にもね。でも代わりに……」
「私の夢が、ここで果たせられないってことね?」
「ああ」
ある一面では優しく、またある一面では厳しい選択肢。それが、この学園を出て行くことだ。
何にも縛られることはない。闘争も自分には関係ない。
しかし、その代償として、夢を捨てなければならない。果たせるかもしれない、夢を。
「探せばここ以外にも魔法学校はある。けれど、そこでもキミはきっと優秀者として扱われるだろうね。そしてそんな優秀者には、決まって悪いものがついてくるものだ」
「……」
「まぁ、あくまで可能性だから。ここじゃない場所でも、上手くやっていけるかもしれないね。人事で悪いんだけどさ」
「それはいいんだけど……その、私は」
シェーナは服をギュッと握り締め、
「ここで……魔法を学びたい」
そう言って、涙を流した。
シェーナはもう分かっているのだろう。取るべき選択肢が三つ目しかないことを。ここから出て行かなくれはいけないことを。
それは今まで築いた関係を捨てることと同義。ここでできた友達と、共に学ぶ機会が失われるのだ。
休み時間、クラスメイト達に囲まれて楽しそうにしていたシェーナの姿を思い出す。そんな彼女の姿は、もう、見れなくなる。
彼女の不幸まだ続くのだ。いつまで続くのだろうか。
「魔法を、学びたかった……」
僕は知っている。
他組織の二人が争っていた時、彼女は全てを諦めた顔をしていた。希望を捨て、絶望を受け入れようとする顔をしていた。
けれど、僕が現れた時、彼女は多少だが期待に満ちた顔をしていた。そんな顔を、僕は再び曇らせようとしている。
それで、いいのか?
「でも、分かってる。……グスッ、私には、もう、選択肢が……」
「……まだ、話は終わってないよ」
「? ……どういうこと?」
「不幸を断ち切る方法があるのさ」
だから僕は、四つ目の選択肢を用意する。
正直、この選択肢は僕が取りたくない。今までの自分をこれだけで否定することになりかねない。
けれど、だからって、目の前で泣いている子を見捨てる程、僕は悪人じゃないってことだ。
偽善者でもいいし、カッコつけでもいいから、助けてあげたい。
そのための、四つ目の選択肢。
「僕の組織に入ればいいじゃん」
僕の作る、新たな組織に、入ること。




