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魔法によって飛んだ空  作者: 元祖ゆた
魔法学校編
17/64

第十六話 聖戦 中編

思ったより長くなりそうだったので、前中後編にしました。

~前回のあらすじ~

譲れない思いが今、ぶつかるッ!


応用魔法。

基礎魔法を組み合わせて新しく生み出された属性の魔法。火、水、風、土の中から二つ組み合わせて生み出す。単純な合成では生まれず、緻密な調整が必要となる。三つ以上の組み合わせは、属性同士が互いに混ざり合わず、失敗してしまう。応用だけあって、魔法使いにとって強力な魔法となるだろう。





放課後。

賢者棟の裏にある林を抜けると、ちょっとした草原が現れる。そこに二つの組織が対峙していた。

一つは、男子連合軍。賢者学科一年の男子で構成された組織。全員で十一人。魔法を使用できるのは八人。

もう一つは、女子聖歌隊。賢者学科一年の女子で構成されている。全員で二十一人。魔法を使用できるのは十九人。

人数の差があり、魔法使いの差もあるが、種族や体格や力での差によって、戦力は互角。

この戦い、果たしてどちらに軍配が上がるのだろうか――。





「ただ闇雲に突っ込んでもダメだ。頭を使って勝つ」


草原の東に陣取った男子連合軍は、作戦会議を行っていた。全員輪になって円陣を組む形になっている。

参謀はこの僕、エーリ・アルンティーネだ。魔法を使えない設定なので、この戦に参加できない。しかし、見た目は子供、頭脳は高校生ってところを見せてやる!


「単純に人数が少ないからその分魔法使いも少ない。この差をどう埋めるか? はい、ヤスラ!」

「えっ、あ、ゴリ押し?」

「馬鹿者! それでは一生勝てないわ! ほい、ゲンジ!」

「相手の裏をかく戦略?」

「正解! 褒めて使わす」

「よっしゃ!」

「くそーっ」


問題を外して悔しがる褐色少年ヤスラ・アービーと、正解して喜ぶハーピー族のゲンジューヤ・スウダリ――通称ゲンジ。


「人が足りないから単純に責めちゃダメだ。なるべく損害を抑えた立ち回りをしないとね」

「んで新入りよ、作戦はどうすんだ?」

「そうだな……」


隣にいるゴブリン族で男子連合軍のリーダー、リューイ・ガオーカがそう促す。


「まず魔法使えない人達を知りたい。手を挙げてくれないかな?」


僕が手を挙げ、何人か手を挙げた。

て言うか、授業で魔法使えない人は五人だって判明していたか。しなくてもいい質問だったか……ん?

手を挙げた人の中に、一人気になる人がいた。


「あれ? なんでキリコッテがいるの?」


猫耳をヒクヒクさせているワーグ族のキリコッテ・ジャバッツが、男子に混じって手を挙げていたのだ。

確かに、キリコッテは僕と同じ魔法使えないグループだったけど。


「ここ男子のグループだよ? 女子の方いかなくていいの?」

「ええっ!? いやいや、あのねエーリくん」


ここでキリコッテは、恐るべきことを言い放った。



「ぼく……男の子なんだけど」

「………………………………………………………………………………………………は?」



頭が、世界が、真っ白に染まった。

何もない空間。足元が崩れていく。気怠い浮遊感に襲われ、あてもなく、ただ虚無を飛んでいく。

生もない、死もない、何もない、何も……何も。

脳は思考を止め、ただあるがままを受け取る動物と化し、沈黙の人形となる。

真実を映す世界は、嘘を含めた思いを踏みにじる。どこまでも、傍若無人に。

今、僕は試されている。世界に圧倒的絶望を与えられ、試されているんだ。

しかし、考える頭を持たない僕は、ただただ地に頭を垂れて無様に這い蹲るしかないのだ。

キリコッテは男、ただその真実に……。


「……大丈夫?」


その時だった!

キリコッテが僕の側に来て、手を差し伸べたのだ!

これだけで僕は救われた! 救われた!

世界に光が満ちた! 一筋に光が、雲間から地上へ降り注いだのだ! まさに神の所業! 神!

僕の世界に大地が生まれ、ただ揺蕩う存在だった僕は、二足歩行だったことを思い出した。

思考を……取り戻した! 

早速思索の海へ潜る。深くて暗い、思考の海へ。とにかく潜る。

やがて到達するのは新たな扉。まだ見ぬ世界への、扉。

僕は開ける。躊躇なく。一気に。

世界は、再び色を取り戻した――。


「……ああ、うん。大丈夫大丈夫」

「ホントに? すごい顔面蒼白だったけど」

「ちょっと衝撃的事実に失神するところだったけど大丈夫」

「大丈夫じゃないよねそれ!?」


なんか変な世界の扉開けちゃった気がするけど……問題ないだろう。うん、キリコッテは可愛い。ただそれだけだ。何も問題はない。

よーし、勝つための作戦会議を再開しますか!





………………

同刻。草原の西に陣取った女子聖歌隊は、


「全軍真正面から突撃! これで男子連合軍は終りよ!」


そう息巻くリーダーのケイシー・エナー様の元、作戦の最終確認をしております。

とはいえ、作戦とは言ってもただの突撃なのですが。


「こっちは数で勝っているからね。戦争は数! 小手先の戦法なんてねじ伏せてしまえばいいのよ!」

「い、意外と豪快なんですねケイシー様は」

「ふふっ、長年の勘がそうさせるのよ!」


エルフ族特有の耳を揺らし、そう得意げに話しました。

年はわたしとあまり変わらないはずなのに……冴え渡る勘が羨ましいです。

最終確認もすぐ終わり、皆さんは使う魔法の調整を行い始めました。わたしも一応簡単な魔法を扱えますが、使えないフリをしているので、皆さんの様子を見て回ることにしました。手伝えることがあれば良いのですが。

すると、何やら難しい顔をしている人がいました。

小さい体躯に黄緑の髪、三つ編みが魅力的なリコプル・タティーシ様です。杖を持ち、巻物を見ながら使う魔法を選んでいるようですが……。

わたしは気になったので、尋ねてみることにしました。


「リコプル様、どうかしたのですか?」

「あ、メドナちゃん」


リコプル様は思案顔を保ったまま、息を吐きました。


「リコは水魔法は得意なんだけど、最近は土魔法の調子がいいんだ。それでどっちを使おうか迷っているの」

「それは難しい問題ですね」


得意なものを活かして戦うか、好調なもので勢いのまま戦うか。正直どちらもありですね。


「うーん……あ、そうだ。良いこと思いついた」

「? 何か良い案が思いついたのですか?」

「秘策を思いついたの!」


にっしっし、と笑うリコプル様は、先程の表情とは打って変わって、とても楽しそうな表情でした。

わたしは手伝えるようなことがなさそうだと思い、その場を離れました。

再び周囲を見渡します。


「メドナちゃーん」

「シェーナ様」


すると、同じ魔法使えないグループのシェーナ様が小走りでやって来ました。

ちょっと心配そうな顔をしております。


「どうしたのですか?」

「本当に……戦うの?」

「はい、そうですが」


わたしがそう答えると、シェーナ様はより一層沈痛な顔を作りました。


「エーリくんとシェーナちゃん、あんなに仲良しなのに、いいの?」

「……いいんです」


わたしは、強く唇を噛みました。

従者が主人に牙を剥く。こんなことが許されるわけがありません。しかし、わたしは坊ちゃまの将来のために、あえて敵として立ち塞がることにしました。


「(坊ちゃまの将来はわたしが守ります!)」


普通に戦っても坊ちゃまには一生敵わないでしょう。あの方は才能の塊なので、挑むことすら敬遠してしまいます。

しかし、今この学校においては、坊ちゃまは魔法を使えることを隠して過ごしています。ただの頭が良くてカッコイイ五歳児です。そうなると、対決はわたしに分があります。

体格、経験、技量で、わたしは坊ちゃまを倒してみせます! ……倒せ、ますよね?

ちょっと不安になってきましたが、


「わたしが坊ちゃまが救いますよ」

「……うん、メドナちゃんがいいならいいけど」


やる気に満ちるわたしとは対照的に、シェーナ様の寂しげな姿が、何故か印象的でした。





………………

「おう、女子聖歌隊の奴らよ! 長き渡る我らの因縁、今果たそうぜ!」

「いいわねぇ! いい加減、男子連合軍が目障りだったのよ!」


リューイとケイシーの掛け合いと共に、聖戦が始まった。


「作戦開始だ! 行くぞ!」

「「「おーっ!」」」


僕の作戦の下、男子連合軍が展開されていく。二人一組でだ。

我が軍は魔法使いがたったの八人と少ない。この八人がやられると何もできずに敗北となるだろう。

だから相手の裏をかく必要がある。予想外の事態を起こし、相手をかく乱し、弱ったところに僕らの秘密兵器を投入する。

まず、かく乱するための第一手だ!


「行くぜヤスラ! せーので撃つぜ!」

「了解だリューイ! せーの!」


何故わざわざ二人一組にしたのか。その答えが草原に顕現する。


「『放て! 猛き炎の侵食を!』」

「『放て! 蒼き空の弾丸を!』」

「なっ!?」


杖を持ってバラバラに特攻してくる女子達の目の前に、リューイとヤスラが放った魔法が、混ざり合い、新たな属性魔法となって落ちた。

基礎魔法は組み合わせによって別の属性に変化する。火魔法と風魔法を組み合わせると、


「かっ、雷魔法!?」


バチッバチッ! と音を立て、稲妻が、大地へ突き刺さった。煙と焦げた匂いが辺りを漂い始める。


「な、なんであいつら応用魔法を!? まだ習ってないじゃない!」

「そもそもあんな方法で応用魔法ってできるの!?」

「どうすんのよコレ!」


あんなに意気込んで攻めてきた女子達が、急に尻込みし始めた。中には涙ぐむ女子までも現れる。

それもそのはず。賢者学科一年はまだ基礎魔法しか習っていないため、この応用魔法の効果、対処が良く分からないのだ。

人は未知を恐れる。恐怖する。それは、この異世界でも。


「すっげぇーっ! マジで応用魔法いったぜ!」

「おらの風魔法が雷に……うっはー!」


使った本人達が一番驚いているようだけど。

実は僕の合成魔法『マジックミックス』によって、二人の魔法をこっそり混ぜ合わせて生み出しているから、普通にやってもいかないんだよね。

でも、これが女子聖歌隊を混乱させる第二手となる!


「な、ならわたし達も一緒に撃つわよ!」

「分かったわ!」


バラバラだった女子達が同じように二人一組になっていく。

ふっふっふ。いいのかな? そんな簡単に集まっちゃって。これじゃ集まった所に魔法撃ってくださいって言ってるようなもんだぜ?


「『放て! 清き水の雫を!』」

「『放て! 猛き炎の侵食を!』」


女子二人組が揃って魔法を発動する。が、


「な、なんでぇ!?」

「ぶつかって消えた?」


生み出された水の塊と炎の塊は衝突し、消え去った。

属性魔法に相性というものは存在しない。火は水に弱く、風に強いということもない。あるのは魔法としての現象そのものだけである。

だから魔法は魔式の正確さと、込められた魔力の量で決まる。

授業で習った魔法なら、きっと込める魔力量を教えられているはず。そうなると女子二人の魔法は同じ威力で生み出されるはずだ。

それがこの結果。魔法同士が見事に相討ちになった。


「ひぃっ! 失敗した!」

「きゃあああ!」

「ちょっ、どうすればいいのぉ!?」


各地で上がる女子の悲鳴。完全に足が止まっている。

そこが、僕らの軍の攻め時だ!


「『放て! 清き水の雫を!』」

「『放て! 猛き炎の侵食を!』」


「『放て! 清き水の雫を!』」

「『放て! 蒼き空の弾丸を!』」


ある場所では霧が発生して視界を奪い、またある場所では地面が氷ついて足を奪う。

応用魔法が、基礎魔法を蹂躙していた。全部僕の仕業というのがちょっと辛いけど。ま、今のところバレていないからオーケー。


「も、もうやだ!」

「ひゃあ! こ、降参」


女子聖歌隊の中で脱落者が現れ始める。両手を挙げ、降参のポーズ。

ジワジワと、男子連合軍が侵食していく。


「はっはーっ! 『放て! 猛き炎の侵食を!』」

「おらおら! 『放て! 蒼き空の弾丸を!』」

「いやあああああああ!」

「止めてぇ!」


調子に乗った男子達に攻められる女子達……。なんか、問題のある光景だなコレ。

そんなことを思っていた時だった。


「皆、怯まないで! 所詮は基礎魔法の組み合わせよ。魔法の成績が上なあたし達なら、基礎魔法だけでも対処できるわ!」


女子聖歌隊のリーダーが女子達を叱咤する。とても凛とした声で、闘志に満ち溢れている。

リーダーは土魔法の『土の壁』を目の前に作り、常に正面を守るように展開させた。

これは突撃してくるなぁ。なら、今こそ秘密兵器投入だ。

僕は側にいるゲンジに指示を任せ、こっそりその場から離れた。

この戦争は陣地を奪えば勝ちじゃない。ただの殲滅戦なのだ。全員倒さなければ終わらない。

とはいえ一人残さず倒すのは大変だ。こっちには色々と足りないからね。

だから僕は見ていた。密かに魔法を使いながら、混乱させる第一手、第二手に怯えず立ち向かう女子を。

そして、その子は現れた。今突撃しようとしているリーダー女子。


「(何も全員倒さなくていい。皆の希望、リーダーを叩けば自然と組織は崩壊する!)」


草原から林へ戻り、女子聖歌隊の裏へ回ろうと走る。懸命に。

僕がいない間は応用魔法が出なくなってしまうから、基礎魔法で各個撃破を指示させたけど……成績じゃ劣ってるらしいからな男子は。女子が減ったとはいえ、急がないとそのままリーダーのリューイがやられて大惨事に――。

と、思考を巡らせていると、林の中で女子聖歌隊の一人と会ってしまった。遭遇してしまった。


「……メドナか」

「これ以上は進ませないですよ、坊ちゃま」


我が専属メイドのメドナだった。その目は真剣だ。僕を倒そうとしている目だ。

……なるほど。メドナにも何か譲れぬものがあって、女子聖歌隊に所属しているのだろう。面白い。

しかし、メドナは分かっているのだろうか? ここは林、人の目がない空間だ。ここならば僕も普通に魔法を使えるということを。


「今なら見逃してあげるよメドナ。分かってるでしょ?」


僕は、今なら魔法を使えるんだよ、という意味も込めて、そう言った。

すると、メドナはそれが分かっていたようで、


「ええ。分かっています。だから……」


自信満々の顔で、こう言った。


「全力で、歯向かいます!」


次の瞬間、あちこちの木の陰から女子が現れた。その数九人。

しかも、皆この聖戦の脱落者だ。


「(クッ! 四方八方に……さすがにこれだけいてバラバラだと誤魔化すのに時間がかかる! その上皆脱落者だ。戦いに敗れた者へ、攻撃することができるか……ッ!)」


唯一の救いは、僕がこの九人に攻撃されることがないということ。降参したのもそうだし、こんなの見れば分かる。もう戦う気なんてなさそうだ。ただ指示されたからボーッとこの様子を見ているだけなのだ。

そう、ボーッと見ている――つまり人目ができてしまっている。

メドナめ……最初からこれを狙っていたな? 僕が動き出すのに合わせて配置したのか。さすが僕のメイドだ。後で褒めてあげよう。


「なるほど、格闘戦がお望みかメドナ! 同じ家庭教師から授かった技、ここで争うか!」

「そうですね。そうしましょう! ……と言いたいところですが、ちょっとわたしに坊ちゃまが倒せるのか不安ですので」

「え? おいおい!」


メドナの後方から、ノーム族の少女が、杖を持って現れた。


「ご主人、頭良いんだって? なら、ご主人を倒せば乱れが生じるのかな?」

「二人がかりは卑怯ではありますが、お許し下さい坊ちゃま!」


ちょっ、ちょっと! こんなの聞いていないんだけど!?

狼狽する主人に戦いを挑むメイドと女魔法使い。聖戦はゆっくりと、収束へと向かっていく……!

次回で最後です。

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