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魔法によって飛んだ空  作者: 元祖ゆた
魔法学校編
13/64

第十二話 入学試験

~前回のあらすじ~

上京!


それは見事な光景だった。

ロズー村から馬車で移動すること五日。途中でちょっとした村や町に寄り道しながらたどり着いたのは、ジンピューロ王国にある大都市ピレオス。

ここに僕らが通うことになる学校、アブルーニャ学園があるのだが……。


「……うはぁー」


声にならない感想しかできない程、ピレオスは凄かった。

目に入ってくるのは文化的な建築物。一目見ただけで歴史がありそうな建物ばかりが立ち並ぶ。公園、遺跡、教会、美術館……。どれも大きく、見た目が派手だ。

道路は整備されており、たくさんの人が行き交っている。さすがに信号機はないけど。

住宅も豪華だ。レンガのような石でできた高層建築物がいくつも建っている。うーん、マンションかな?

元の世界にいた頃、僕は一度も海外旅行なんてしたことがなかったが、海外のイタリアやフランスはこんな感じなんだろうなと漠然に思った。

見るもの全て、聞くもの全て、全て都会なのである。天と地……いや、そもそもロズー村と比べるのも烏滸がましい。


「これは間違いなく大都市だなぁ」

「で、ですね」


メドナも、ポカーンとした顔をしている。田舎者丸出しな僕らだった。

僕とメドナは馬車からお礼を言って下り、荷物を持って道路を歩き始めた。

思えば、しっかりした地面を歩くのは初めてかもしれない。基本的にロズー村は田んぼ道だったからね。

しばらく、人の波を避けながら歩いていると、ふと、あることに気がついた。


「そう言えば、ヒューマン族以外の種族もいっぱいいるね」


辺りを見渡す。獣人のワーグ族やパワフルなドワーフ族だけでなく、人の何倍もある巨体のジャイアント族や、悪戯好きとされるゴブリン族もヒューマン族と共に普通に歩いている。

異世界に恋焦がれていた僕としては、なんともテンションの上がる光景ではあるが。

不思議そうな顔をしていると、メドナが苦笑いをしながら説明をしてくれた。


「ヒューマン族が異種族を嫌うっていうのは、ロズー村の風習なんですよ。都市の方はこんなものです」

「えぇ!? ホント?」

「はい。悲しいことに」


ま、マジかー。ロズー村基準で考えていたから、てっきりヒューマン族と異種族は敵対しているかと思ったぜ……。


「とは言え、他の場所も妙な風習がありますからなんとも言えませんが。ロズー村は元々ヒューマン族によって開拓された土地なので、異種族への偏見が強いのは仕方のないことかもしれません。……割り切れませんが」

「なるほどねぇ」


だから領域毎に区切っているのだろう。あんなでっかい門や壁で。見るからに拒絶してますってアピールしてんのかもな。

それにしても風習か。この場合は悪習だ。悪習は、目に見えないやっかいな呪いだ。治すことができず、代々受け継がれていく病気だ。どうしようなく他人に感染し、洗脳する。

でも、どうしようもないで済ませられる問題じゃない。少しずつ、たとえ何年かかっても、花に水をやるように、薬を投与し続けなければならない。


「やはり都市の方に行くとそういう風習はなくなっていくようです」

「文化の流行り廃りが早いからだろうね。いっそロズー村は全域流民領域にしちまえばいいんだ」

「戦争が起きるでしょうね、確実に」

「おお、怖い怖い」


僕らはロズー村の今後を憂いながら、目的地へ向かう馬車に乗った。





馬車に揺れること二十分くらい。僕らはアブルーニャ学園へやって来た。

うん、やって来たのだが……。


「……は? ここが学校?」

「その……はずですが」


目の前にあるのは果てしなくでかい門。そう、門だ。誰がどう見たって門と言うだろう。白を基調とした上品な外観で見る者の目を惹きつける。観光名所にしても人気が出そうな見た目だ。

そして、門の向こうに校舎が見える。これまた品位があって見栄えがある。モノクロームで城のようにそびえ立っている。威厳すら感じる。

この門を潜れば校舎まで一直線だ。迷うことなく試験会場へ行けるだろう。案内は不要だ。

ただ、ちょっと言いたいことがある。


「僕はね、あのピレオスの景色を見てね、もうこれ以上は驚かないと思っていたんだ」

「……はい」

「でもね」

「はい」


息を吸い、肺を整えてから、言葉を吐き出した


「これはないよ!」

「ですよね!」


僕らはそう突っ込まざるを得なかった。

まず、門。くっそでかい。メッチャでかい。パリの凱旋門くらいある。学校に設けるにはデカ過ぎだろ! 限度を知れよ!

……いや、いい。門だし、ドーンと構えていたいのは分かる。学校をアピールする上でもプラスに働くだろうし。

でもさぁ、


「学校でかくね! ナニコレ? 全部でかいよ! 校舎も、敷地も!」


そう、学校が――学園自体がでかくて広いのだ。

学校を囲む壁がずっっっっっと、遠くまで続いている。目指できない程だ。

そして学校。これまたでかい! 東京ドーム以上あるんじゃないの? 規格外だよ規格外。


「パンフレットによると、学校の敷地は一つの街くらいあるそうです」

「ま、街ね。見た感じそれぐらいあるもんね。ははは」


もう乾いた笑いしか出てこなかった。疲れたよ僕は。

メドナは驚きすぎて逆に冷静になっている模様。そりゃあんな辺鄙な土地から、こんな都会に出てきたらこういう反応になるのも仕方ないよね。

しばし休憩をして、興奮した頭を冷やしてから、僕らは守衛さんに受験票を見せて門を潜った。

敷地内は外にいた時とはまた違った空気を感じる。


「一つの街くらいの敷地面積を誇り、ほぼ学生だけが住んでいます。学校を中心に研究施設が集結しているので学園都市でもあり、だからアブルーニャ『学園』なんだそうです」

「へぇー」

「学生も多いですね。千人以上いるようです」

「もはや大学だね」

「大学……?」


疑問符を頭の上に浮かべているメドナと共に、校舎の横を歩く。

この学園は学科毎に校舎が違う。この門の目の前にある校舎は『中央棟』と言って、何か全校生徒を集める時に使用されるらしい。

中央棟を中心に、取り囲むように学科の校舎が配置されている。その内の一つ、『賢者棟』へ向かった。

賢者棟は賢者学科の使用している校舎のことだ。位置にして中央棟の北西。全体的に緑色をしていて、目が良くなりそうな配色だ。棟の入口付近に庭園があり、棟の裏には林がある模様。

かなりの時間をかけて歩き、ようやく僕らはたどり着いた。ったく、広すぎるのも厄介だ。庭園の花壇を眺めつつ、来賓入口から校舎へ入った。

受付の人に、軽い品物チェックと受験票確認をしてもらい、指定された教室へ向かう。

試験は一階の応接室で行われるらしく、名前を呼ばれるまで応接室前の椅子に座って待つらしい。面接かよ。

校内は案外普通だった。全体的に落ち着いている雰囲気だ。ブラウンを主色とし、歴史を感じさせる壁や床に、綺麗に磨かれた窓。

メドナは窓枠を指でなぞって、ホコリがないかチェックしていた。


「この窓は……すごいですね。いい仕事してますよこれ」

「お前は何もんだよ」


まぁメドナが感心する程綺麗に掃除しているってことか。ハウスクリーニングでも雇ってんのかねぇ。

そんなことを考えつつ、応接室まで歩て行くと、僕ら以外に受験に来た人が一人、椅子に座っていた。

綺麗な人だった。雰囲気的に、きっと僕より年上だろう。薄い茶髪にボブカットで柔和な女性をイメージさせる。両手を重ねてたおやかに座っている。視線は窓の外へ向いていたようだが、僕らの存在に気が付いたようだ。

僕は先手必勝(?)と思い、先に礼をして挨拶をした。


「こんにちは。キミも受験を?」


メドナも僕に続いて礼をした。すると、女性の方も礼をした。その仕草も美しい。


「こんにちは。そうよ、受験です。貴方達も……って、ここに来ている時点で受験生ですよね?」

「まぁなー」

「そうですね」


話ながら隣に座ると、女性は僕らの方に向き直った。僕らも向き直る。


「私、シェーナ・エストーナって言うの。貴方達は?」

「僕がエーリ・アルンティーネで、隣の子がメイドのメドナ」

「よろしくお願いします」

「よろしくね~」


お互いに軽い自己紹介をした。なんだか試験前とは思えない程和やかな雰囲気だ。緊張も緩和していく。


「それで、二人はどういう関係なの?」


と思ったら、ラブコメみたいな雰囲気になってしまった。メドナがそわそわしだし、横目で僕の様子を伺っている。そんな期待されても困る。


「うーん、主従関係かな」

「……」


ちょっと残念そうな顔のメドナ。いやいや、実際キミと僕の間にいかがわしい関係はないよね?

隣を見るとシェーナも期待はずれといった顔だ。幼い二人に何を期待しているんだこの子は。

その後、シェーナは気を取り直して質問を続けた。


「じゃあ二人の出会いは?」

「僕が生まれた時には既に家に仕えてたんだ。だから生まれてすぐだね」

「お互いなんて呼び合ってるの?」

「僕は普通に呼び捨てで、メドナは坊ちゃまって呼ぶなぁ」

「初デートは?」

「えーとねぇ……って、は?」

「初キスは?」

「いやいやいや。僕らそういう関係じゃ――」

「初体験は?」

「おう、黙れや」


むむ、ついつい言葉遣いが悪くなってしまった。いかんいかん、ちょっと冷静になろう。隣で顔真っ赤にして顔を伏せるメドナを見て冷静になろう。うん、可愛い。


「週に何回やってるの?」

「質問が直接的すぎるわ! そして下品!」

「お週にお何回おやっているの?」

「言葉の前に『お』をつけても下品だよ!」


な、何言ってんだこの娘は!? こんな清純そうな顔して内面セクハラオヤジじゃないか。 お兄さんビックリしたよ。

ゴホンと咳払いをして、真面目な顔を作った。


「シェーナ、僕らは潔癖な関係なんだ。至ってクリア。それはもう手を握ることに躊躇う程に清廉潔白さ」

「そうなの? ちょっと残念」

「残念って……おいおい」

「私、恋バナしてみたかったの」


そう言ってシェーナは柔らかく微笑んだ。周囲を暖かくさせるような笑顔だった。でも、どこか陰りのある表情でもあった。

そうしてしばらく質問攻めにあっていると、シェーナが呼ばれた。僕らに手を振って応接室に入っていった。

静かになった廊下で、僕は誰に言うわけでもなく、ボソボソと、


「恋バナじゃなくて猥談じゃん」


そう呟いた。入学試験が迫る。





入室して数十分後、シェーナが出てきた。その顔は困惑していた。


「お疲れ。どうしたの?」

「あ、エーリくん。ちょっとね、予想外のことが」


シェーナは何が起こったか分からないという顔をしていた。一体応接室で何があったのか……。

気になるところではあったが、ここで長く引き止めるのは悪い。ここにいつまでもいたくないだろう。僕も高校受験の時はテストした後すぐ家に帰りたかったからね。しばらく勉強したくなくなったし。


「そっか。合格しているといいね」

「え? ……あ、うん。そうだね。エーリくん達も頑張って」

「おう」


戸惑い中のシェーナと、手を振って別れた。未だシェーナはフラフラとしていて、廊下の先にゆっくり歩いて消えた。


「何かあったのでしょうか?」

「予想外のことがあって、理解はしているが受け入れられていない……って感じだったけど」

「さすが坊ちゃま! 人間観察もお手の物ですね!」

「へっ、よせやい」


メドナの褒め言葉が最近心地良い。最初は恐縮してばかりだったけど。

ふむ、それにしても予想外のことか。念頭に置いて試験に臨むことにしようか。

そうやって考えていると、僕の名前が呼ばれた。

メドナに行ってくるよと声をかけ、頑張ってくださいとエールを貰った。

一体何の試験をするんだろうとワクワクドキドキしながら、ノックして入室した。

応接室はまぁ、学校やドラマに良くあるコーディネートだった。対面するソファにテーブル。

そして、試験官が二人。一人は壮年の男性、もう一人は、すごく背の小さい男の子。僕より小さい。

多分、ノーム族だ。自然を愛し、自然に生きる種族。特徴は小さな体躯。小人みたいだ。

先に、壮年男性が慇懃に挨拶をした。


「初めまして。私は試験官のドランソー・レアヴォワ。こっちも同じく試験官のアン・ディシポ。受験生のエーリ・アルンティーネ君だね?」

「はい、そうです」


白い髭を蓄え、白髪交じりの焦げ茶をオールバックにしている姿は、まさにロマンスグレーだ。僕も歳をとったらこういう男になりたいものだ。


「今日はよろしく。さて、早速入学試験に移りたいのだが……エーリ君は入学試験について知っているか?」

「試験内容ならば知りませんが」

「いやそうじゃない。はは、質問内容が悪かったな」


ドランソー試験官は、ノートサイズの木の板を取り出し、白のチョークで文字を書き始めた。


「入学試験の内容ではなく、試験そのものについてだ。この入学試験は主に二つある。第一試験と第二試験だ」

「え、二回あるんですか?」

「人による、かな。第一試験は今日の試験のことで、第二試験は第一試験を落ちた者が来年に受ける試験だ」

「追試みたいな?」

「まぁ、似たようなものだ」


木の板に書かれたのは、第一試験と第二試験のことだ。要約すると、



・第一試験は本日行われる一発限りのテスト。魔法に関する実技らしい。

・第二試験は第一試験を落ちてしまった者が次の年に受ける試験。魔法に関する筆記試験。

・第一試験合格者はその成績に応じてランク付けされる。高ければ高いほど学校での特権がある。このランクは変動しない。



ってところだ。木の板に書かれた文字はもっと仰々しかったが。

気になる点がチラホラ見られるけど。


「あの、ランクとか特権って――」

「まあ待ちたまえ。聞きたいこともあるだろうが、第一試験について話してもいいかな? これを話さねばエーリ君の疑問も解消することが難しいのだ」

「は、はい。お願いします」


こんな渋い声にお願いされたら了承するに決まってる。微笑みも相まって最強だ。


「第一試験――要は今日の試験内容なのだが……これだ」


そう言って、ドランソー試験官が取り出したのは野球のボール程の石だった。綺麗な藍色をしている。


「これは魔力吸収石と言ってな、その名の通り魔力を吸収してしまう石だ。今からエーリ君には、この石に魔力を注ぎ込んでもらう」

「それが試験ですか?」

「そうだ。魔力を注ぎ込んだ際の石の変化によって合否を決める」

「分かり易いですね」

「そうだな。私としても、手間が少なくて楽ができる」


試験内容を聞いて、僕が思ったのは、考えていたより単純明快で分かり易い、だった。

もっとこう、無理難題を押し付けられるのかと思っていたが、これならば簡単だ。

きっと、素質を測るのだろう。魔法はどうしても魔力とは切っても切り離せぬ関係。その上、魔力とは生まれた瞬間に容量が決まり、それ以上伸びも縮みもしないという。魔法使いとして、魔力がたくさんあった方がいいのは言うまでもない。ならば、魔力の量こそ魔法使いとしての才能と扱うのは、間違っていないのかもしれない。

ならば、魔法に関する筆記である第二試験の存在理由は、第一試験で才能がないとされた者が、魔法使いになるために努力した結果を証明する試験。第一試験は才能を見て、第二試験は努力を見る。そういうことだろう。

石を手元で転がしながら、ドランソー試験官は一言も喋っていないアン試験官に目で合図した。するとアン試験官は、テーブルに置いてあった何も書かれていない木の板を取り、チョークで書き始めた。


「今アン君に書かせているのはランクだ。変化の度合いは十段階あり、その内のいずれかの反応によってエーリ君をランク付けさせてもらう。特権は上位のランク者がこのアブルーニャ学園内で与えられる特別な権利のことだ。例えば、学食無料とか」

「おお。それはいいですね」

「ちなみに、私のオススメは大噴火定食だ」

「な、名前からして嫌な予感しかしないんですが……ッ!」


大噴火定食は置いておいて。学食無料とかパラダイスじゃないか! 高校の食堂で一番安い定食頼んでいた頃の僕に与えたい特権だ。

そうしているうちに、アン試験官が木の板を二人に見えるように持った。


「ご苦労、アン君。エーリ君、これがランクだ。さっき言った通り全部で十。上から優秀な順だ」


木の板には、以下のことが書かれていた。



レベル10:『インペラトーレ』

レベル9:『レ』

レベル8:『ヴィチェレ』

レベル7:『グランドゥーカ』

レベル6:『プリンチペ』

レベル5:『ドゥーカ』

レベル4:『マルケーゼ』

レベル3:『コンテ』

レベル2:『ヴィスコンテ』

レベル1:『バローネ』



……。

…………。

………………。

……うん。


「ちょっと何書いてるか分かりませんね」

「だろうな」


あはは、と二人で笑い合う。こんな単語だけ書かれてもねぇ。レってなんだよ。


「さすがに石がどう反応すればどのランクになるのか、というのは書けなかった。済まないね、秘密事項というやつだ」

「だから名前だけなんですね」

「まぁ、自分がどのランクにいるのかという指標になるからな。無駄というわけでもない」


そう言い、僕に石を手渡した。


「ただ念じるだけでいい。この石に意識を向け、何か体内の液体を注ぎ込む感覚で、やってみてくれ」

「……分かりました」


受け取り、右の手のひらにのせる。

思ったよりは軽い。軽いが、何か力が吸い取られているような感覚がする。この石は本物だ。

遂に始まる。僕の試験が、始まる。


「(さて、僕はこの世界で魔法使いの才能はあるのかな?)」


息を整え、一気に魔力を注ぎ込んだ。結果、



パッキャーッン、という小気味いい音と共に、石が粉々になった。粉みじんだ。



……え? 何が起きた?

手元には石だったものが砂となり、サラサラ地面へこぼれている。いくらか空中に砂が霧散している。

早かった。あっという間に粉々になったぞこれ。どうなるの? 試験の結果ってどうなの?

恐る恐る、二人の試験官を見ると、


「こ、これは……ッ!」

「……」


一人は驚き震え、もう一人は無言のまま床にへたり込んだ。

数秒間経ったのち、ドランソー試験官が僕に詰め寄ってきた。それも興奮を抑えきれずに。


「すごい! エーリ君、すごいぞ! これは過去に例を見ない結果だ! まさかナフィー帝国騎士団百人でも壊せないと言われる魔力吸収石がこうもあっさり砕け散るとは! 一秒にも満たない時間でだ!」

「は、はぁ」

「才能の塊とでも言うべきか……。エーリ君ならば魔法使いの頂点にもなれる! これはそういう結果だ。ランク付けなんて烏滸がましい!」

「そ、そっすか」


途中から、ヒートアップする試験官の言葉が何も入ってこなかった。

魔法使いの頂点、という言葉が、僕の中に響き渡っていた。

これなら憧れのベリーチェに届くのだろうか? あの太陽の魔女と肩を並べることができるだろうか?

もしかしたら、可能かも知れない。そう考えると、自然に笑みが出た。


「しかしこの結果、どうするべきか……。ランクにない結果だ」

「……特権が与えられるランクってどこからですか?」

「む? 特権はレベル8のヴィチェレからだが」

「なら、それでいいです」

「何!?」


ドランソー試験官が驚き、目を見開いた。隣のアン試験官もビックリしている。


「最低限の環境さえあれば、僕は満足ですよ。僕はランク8でお願いします」

「し、しかし……」

「お願いします」


そう言って頭を下げた。

僕の目的はあくまでベリーチェの捜索、元の世界への帰還、魔法を楽しむこと。この三つさえ満たせればそれでいい。悪目立ちはしたくない。

しばらく頭を下げていると、ドランソー試験官が息を吐いた。


「分かった、エーリ君がそう言うならそうしよう。君は第一試験でレベル8のヴィチェレだった」

「はい、そうです」

「ふ、まったく……」


ドランソー試験官はやれやれと、古紙に僕の成績を記して手渡した。


「これが合格票だ。明日、これを中央棟に持っていけば晴れて学生となる」

「おぉ、あざーっす!」


学生かぁ。僕の学生生活はまた始まる。前の世界では中途半端に高校生をやっていたが、この世界ではどうなることやら……。


「試験はこれで以上だ。お疲れ」

「ありがとうございました!」


僕は元気良く挨拶し、部屋を出ようとして、止まった。


「あ、そうだ。忘れてました」

「ん? どうかしたのかね」


僕は魔法陣を思い浮かべ、指輪に魔力を込めた。そして、


「『僕の本当の試験結果は、お二人の胸の内に秘めておいてください。誰にも言っちゃダメですよ? 約束です』」

「! あ、ああ」

「……」

「では!」


今度こそ、僕は応接室から退出した。

二人にかけた魔法は洗脳魔法『心の巣ハートライフ』。僕の言葉が胸に刻まれ、それを破ることができない魔法。ワードコーティングの上位互換魔法である。

二人には悪いが、この件が明るみになって闘争の手段や政治利用、誰かの駒になんかされたくないからね。

多少心がチクチクするのを感じながら、僕はメドナの元へ向かった。

いよいよ、学生として魔法が学べる。僕の二度目の学生生活が、始まる。

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