告白
読んで頂ければ幸いです。
アルバートと言う少年は『叡智の森』に程近い、町の商家の家に一人息子として生を受けた。
すくすくと育っていた彼に転機が訪れたのは、彼の五歳の時であった。
この世界で子供は五歳になった年に町や村に一つはある神殿を訪れ、自身にどんなスキルが宿っているのか調べることが義務付けられていた。
そこでアルバートに告げられたスキルは『無能』、スキルが無いことが判明したのである。
アルバートの家の商家は、町ではそれなりに名の知れた家であった。それ故に彼らは、世間体を気にするあまり彼を事故と偽って森へ捨てた。
森に捨てられたアルバートは、初め状況が分からなかった。しかし、ただ漠然と親が居なくなってしまったことは分かったので彼は泣いた。
そうして泣き疲れ眠ってしまった彼を見つけたのは、この森に住む賢者と呼ばれている老人であった。
アルバートが次に目が覚めた時、彼の目の前には優しそうな顔をした老人が自分のことを覗いていた。
「気分はどうだね。
どこか具合が悪いところは有るかね?」
今自分が何処に居るか分からず、取り敢えず首を横に振ることにした。
「ここ......どこ?」
「ここは叡智の森と呼ばれとる所じゃよ。」
今にも消え入りそうな声で聞いてきたアルバートに対し、老人は極力笑顔を崩さずに答えた。
「森......
とうさん......かあさん.......」
老人の口から出た森と言う単語からどうして自分が此処にいるのか理解したアルバートは、泣き出してしまった。すると老人は、何も言わず静かにアルバートを抱き寄せた。
「すー、すー。」
「やれやれ、やっと眠ったわい。」
あれから数十分後、泣き疲れ眠りに入るまで老人はずっとアルバートを抱き続けていた。
(しかし、こんな年端もいかぬ子供が一人で森に居るとは。
森に来る様な荷物も見当たらんし、もしやこの子供......)
次にアルバートが目覚めたとき窓から差し込む日の光は弱く、赤く染まっていた。
(あれ、寝ちゃってた。
これからどうしよう、僕にはもう何も無い。)
『くー。』
悲しみにうちひしがれているにも拘らずアルバートのお腹は鳴ってしまった。
(そういえば神殿から出てから何も食べてないや。)
空腹からくる孤独感にアルバートはまたしても瞳に涙を溜始めた。
「起きたかのぉ、ほれ食事じゃ。
お主昨日から何も食べて無いだろう。」
アルバートを助けた老人は、温かな湯気が上がる器をアルバートの前に置いた。
「ありがとう、おじいちゃん......」
お礼は言ったものの、見ず知らずの老人からの食事に素直に手を付けることは、アルバートには躊躇われた。
「毒など入っとらんから遠慮せずお食べなさい。」
アルバートの間から躊躇っていることを感じた老人は、優しく諭しながら食事を促した。
「頂きます。」
アルバートはそう言うとスープに一口、口を付けた。それからは一心不乱に食事を食べ続けた。
「ご馳走さま。
ありがとうおじいちゃん、とっても美味しかったよ。」
「お粗末様、此方こそ作った甲斐があったわい。」
アルバートが見せた初めての笑顔に、老人はこれまで以上に優しい笑みをたたえた。
「そういえばまだ名前をいっとらんかったの、儂の名前はイズワードじゃ。」
「僕はアルバート。」
イズワードと名乗った老人は少し躊躇った後ゆっくり話し出した。
「それでの、お主には辛いかも知れんが何故この森に来たのだ。」
「あの.....ね、ぼくーーー」
笑顔が見えていたアルバートの顔から再び笑みが消え、そして少しずつ話し出した。
そうして全てを話終える頃には再び泣き出してしまっていた。
「そうか、よく話してくれたの。」
アルバートが話終えるとイズワードは、彼を包み込むように抱き締めた。
アルバートが泣き止むと(老人の名前)は一つの提案をしてきた。
「のうアルバート、お主が良ければここで暮らさんか?」
「えっ!?」
イズワードからの申し出は、アルバートにとって願ってもないものではあった。だが、つい数日前に両親に捨てられたばかりの彼には素直に受け止めることが出来ないでいた。
「信じられんか?
だがこればかりは信じて欲しい、そうとしかお主に説明できん。」
そう言うとイズワードは、アルバートの手をそっと握った。
「ぼく....ここに居て良いの?」
やがてアルバートの口から今にも消えてしまいそうな、声が聞こえた。
「勿論じゃとも、此処での暮らしかたは徐々に覚えていくがよい。
これから宜しくのアルバート。」
「宜しくね、イズワードさん。」
「これから一緒に暮らすのにイズワードは、少々固いのぉ......これからはおじいちゃんとでも読んどくれ。」
イズワードの申し出にアルバートは、満面の笑みで、
「宜しくね、おじいちゃん!」
そう答えるのであった。
△ △ △
「そうして俺は、この家でおじいちゃんと二人で暮らすようになったんだ。
後からおじいちゃんが賢者様だって聞いたときには流石に驚いたけどさ。」
「...........」
アルバートが語った自信の過去にユリウェルは言葉が見付からなかった。
『自分の両親に捨てられる』もし自分がそんなことをされたら........ユリウェルは自分では耐えられない、そう思った。
ユリウェルが黙っているとアルバートのほうから繋いでいた手を離してきた。
「あっ。」
ここでもし手を離してしまうとアルバートとの間に決して治せない何かが生まれてしまう。ユリウェルは、自分でも分からない不安感に襲われ、今度は自分からアルバートの手を取った。
「ユリー........」
アルバートはもしここでユリウェルが拒絶するならば、彼女とはこれ以上踏み込まないで過ごしていこうと考えていた。しかし彼女は拒絶しなかった。
アルバートは、彼女に出会ってから思っていたことを言う決心をすると、自分から離したユリウェルの手をもう一度握り直し、彼女の目を見て話始めた。
「ユリウェル、これから俺か話すこと真剣に考えて欲しいんだ。」
「う..うん。」
ユリウェルは、いきなり変わったアルバートの雰囲気に一瞬たじろいでしまったが、直ぐに我に帰り真剣聞く心構えに変わった。
「これからユリウェルがどうするか分からない。
でも、もし良かったら俺と一緒に居て欲しい。」
「.......」
ユリウェルが無言で黙っているなかアルバートは更に告白を続けた。
「直ぐにとは言わない、それでも少しずつでも良いから俺と家族になって欲しい。」
アルバートの一斉一代の告白に対してユリウェルは、暫くしてから話始めた。
「私、そんな家事とかあんまり出来ないから迷惑かけますよ。」
「俺と一緒に少しずつ覚えていこう。」
「私と一緒に居たら不幸になってしまいますよ。」
「俺はもうどん底を経験した、だからそんなこと恐れない。」
「.......」
「.......」
少しの沈黙のあとユリウェルは、意を決して言葉を紡いだ。
「じゃあ.....じゃあ私は....幸せになって良いんですか?」
「勿論、これから一緒に幸せになろう。」
「じゃあこれからはアルお兄ちゃん?」
「........」
唐突にユリウェル口から発せられた爆弾は、アルバートに大ダメージを与えた。
「えっと、.......あの」
言葉の出ないアルバートに、ユリウェルは初めて朗らかに笑いながら話し出した。
「ふふ、冗談ですよ。
でも、アルさんの言う通りこれから少しずつ進んでいきましょ。」
「あぁ、これから宜しくユリー。」
「はい、こちらこそ宜しくお願いしますアルさん。」
そうして俺たちは繋いだ手をもう一度強く握りあった。
これから俺たちは少しずつ家族になっていくだろう。
そして『無能で良かった。』そう思えるような人生をこれから二人で過ごしていけるようになりたい心からそう思うのだった。
読んで下さりありがとうございました。