邂逅
初投稿緊張します
人々がスキルという不思議な力を、それぞれ一つ持っている世界。人々は、スキルの恩恵を受け繁栄を続けていた。
△ △ △
鬱蒼と木々の茂る森を、十代後半程度の少女が一人で歩いていた。
(ここまで来れば、大丈夫だよね?)
なぜ、猛獣も居るであろう森を少女が一人で歩いているのか。その様な疑問以前に少女の身に纏っている服装が奇妙なものであった。
その恰好というのは、頭の先から足先までフード付きのローブで身を包み、顔には奇妙な仮面をしている。
唯一少女であると判断出来るものは、フードからはみ出している艶のある美しい銀髪だけである。
(この森なら誰にも迷惑は掛けなくて済む。それに、もしかしたら私のスキルもなんとかなるかも。)
少女がこの森にいる理由、それは少女の持つスキルによるものだった。
『スキル暴走』それが少女に宿ったスキルであった。
△ △ △
この森に逃げてくる以前、少女は小さな村で暮らしていた。
その頃から少女は、スキルの影響で村の中では腫れ物の様に扱われていた。少女のスキルは直接触れた相手のスキルを暴走させ、気絶させてしまうと言うものであった。気絶の程度はまちまちで数分で目を覚ますものから、数日間起きない者まで居た。
それでも、両親だけは見捨てずに少女を大切に育て、少女もそれだけで幸せだった..............。
しかし、その幸せも少女が16歳を過ぎた頃に突如終わりを迎えてしまった。
両親が死んだのだ。村の近隣にある鉱山の坑道での落盤事故だった。
少女の両親以外にも、多数の村人が巻き込まれた大規模な落盤事故であった。
悲しみにくれる人々は、どこかにその悲しみを少しでも和らげるために、言い掛かりのような八つ当たりを始めた。
そう、村で腫れ物の様にされてきた少女を忌み子とし、全てを少女のせいにしたのだ..............。
少女のスキルに、その様な効果が無いことは分かっている筈なのに、彼らは自分達の行き場の無い怒りや、憤りを少女に毎日浴びせるようになったのだった。
毎日浴びせられる村人からの罵詈雑言の数々、いつしか少女は本当に自分が事故を起こしたのではないかと思うようになるほど少女の心は憔悴していた。
そうして少女は、自身のスキルを嫌い全身を覆うような服装をするようになった。そうしたのは、少女のスキルの発動条件が直に身体に触る必要があるからである。
そんなある時、森に住まう賢者の話を耳にした。話をしていたのは旅の詩人で、なんでもこの村から一月以上掛かる迷いの森という場所に『この世界の知識の大半を知る賢者がいる。』という嘘か本当か分からないような話であった。
そんな眉唾の様な話であったが、絶望に沈んでいた少女には、希望の光に感じたのであった。
すぐに少女は、旅支度を整え詩人に迷いの森の場所を聴くと、その日の内に旅に出たのだった。
△ △ △
「痛っ!」
森を歩いていた少女は、ふくらはぎ辺りに鈍い痛みを感じた。
(虫、かな?)
当然森なのであるから虫はいるだろう。少女がそう感じたのも当然であろう。しかし、刺された虫が悪かった。
「あ........れ....................?」
今まで歩いていた少女は、自分の足が動かずに縺れ、地面に倒れてしまったことに疑問を感じていた。
「かっ......、あっ.............。」
(足が動かない、声も出ない、それに前がぼやけてきた。さっ...........きのは、.............毒.............む.........し..........?)
段々と薄れていく意識の中で少女が最後に思ったことは、『これで、良かった。』という諦めと、安堵の混ざり合った感情だった。
△ △ △
「よし、今日はこんくらいにしとくか。」
森の中で軽装の少年が、数匹の野兎をロープに結わえながら今日の狩りの成果に満足していた。
少年は、訳あってこの迷いの森で暮らしている。暮らしているとはいえ、穀物や生活雑貨は町で買わなければならないので、たまに野兎などの動物を狩り、その肉や毛皮の一部をお金に買える必要があった。
「さて、帰ってさっさとこいつらを解体しちまうか。」
そんな独り言を言いながら自宅までの道を歩いていると、前方に黒い物体が現れた。
「なんだこら?って、人かよっ!」
警戒しながら近づいてみると、全身黒いローブを着ているが確かに人であることが分かった。
少年は急いで駆け寄り、うつ伏せになっていたその人物をそっと仰向けにした。
(軽いな、それにこの髪の長さ女か?)
少年は、仰向けにして一通り出血などがないかを確認した。
(出血は無いな。原因が分かんねぇし、とりあえずこのローブと仮面を外しちまうかっ!)
倒れた原因を探るため仮面を外し、その人物の素顔が露になると少年は息を呑んでしまった。
今まで仮面やローブで年齢の分からなかった人物は、少年とほぼ同い年位の少女であった。しかし、その素顔は少年の予想以上に綺麗で、可愛かった。
まるで雪のように色白な肌は、汚れを知らないほど透き通っており、少女の銀髪に良く栄えていた。目鼻立ちのハッキリとしており、唇は艶っぽくなんとも言えない色気が出ていた。目の色こそ瞳を閉じていて分からないが、黒く長いまつ毛が少女を少し大人っぽく見せていた。
少し気になったことといえば、頬が少しばかり痩けていたことである。
(..........。)
元々見えていた艶のある銀髪から、この人物がそれなりに美人ではないかと予想していた少年であったが、予想以上の少女の可愛さに少しの間呆然としていたのであった。
「少しローブの中見してもらうよ、別に厭らしいことはしないから。」
気を失っている少女に話しかけるほど少年は動揺していた。
普段から森の中という人と接しない環境で暮らし、人との会話も町での商談の時ぐらいしか経験のない少年には、ほぼ同い年のましてや今まで見たことない様な美少女との出会いで同様しない訳がなかった。
「っ!」
胸あたりで結んであったローブの紐を解き、露わになった少女の体は酷く痩せており今にも折れてしまいそうなほど腕は細かった。
(仰向けにするときも思ったがこの子痩せすぎだろ。)
少女の異常なほど痩せている体を見てしまうと、さっきまでの動揺が嘘のように消え、少女の容体を確認するため体の診察を開始した。
(この子がたまに痙攣してるところを診ると、これは毒蜘蛛の仕業かな?)
この迷いの森には、自分の巣の近くを通る生物に襲い掛かり、体を麻痺させる類の毒を相手に注入するタイプの蜘蛛がいる。
少年やこの森に住む生き物たちは、このことを熟知しておりその蜘蛛の巣にはなるべく近づかないようのしている。勿論初めてこの森に足を踏み入れた少女は、知らないことである。
(だとしたら刺されたのは足かな?)
少年が丁寧に足を診ていくと、小さな赤い発疹の様なものを発見した。
(やっぱり蜘蛛の仕業だったか。)
「よっと。」
少女を軽々と背負うと、少年は自宅に向けて歩き出した。
(とりあえず帰ったら解毒と病人食でも作るとすっかね。)
そう考えながら少年は、森の中を奥へと進んでいった。
最後まで読んで頂きありがとうございました