オトシモノ
僕は今日、道端でだるまを見た。
仕事に通う時に通る普通の歩道の横にあるコンクリートの壁際に、ポツンとだるまが座っていた。
そのだるまは、何かの台の上に置いているわけでもなく、飾られているわけでもない。ただ置かれていた。
僕は目にとどめたが、急いでいたから結局通りすぎた。
帰りにも、そのだるまはあった。ここは人通りが多い道だ。誰かに拾われてもおかしくはなかった。
だが、あった。
不思議と足を止めた。道端に落ちている見慣れないもの。人間はそれにひどく反応する。全身真っ赤に覆われて、人を見つめる大きな瞳。改めて見ると異質だ。そう思った。
でもそれ以上はなかった。
結局、また立ち去った。
次の日は雨だった。傘をさし、ビチャビチャと地面の水を弾きながら走っていた。
その日もだるまはあった。
だけど、そのだるまは横に倒れていた。雨のいたずらか、それとも風のいたずらか、はたまた誰かのいたずらか、そんなことを思いながら、僕は通り過ぎた。
その日、僕は全財産を失った。
帰り道、僕はうつむきながら歩いていた。
僕はだるまを見た。横に倒れているだるまを見た。
僕は足を止めた。
生気を失った僕には、そのだるまは明るく見えた。
だるまに近づき、そっとだるまを起こした。別に理由はなかった。
気になった。ただそれだけだった。
夜中に警察から電話があった。
僕は喜びながら家を飛び出した。
警察からの帰り道、僕はまたあの場所を通った。だるまがあった。
僕は不思議とだるまに近づいた。
するとだるまの背中に白い紙が貼られていたことに気づく。だるまをひっくり返してその紙を確認した。
どこかの住所が書かれていた。
調べてみると近くだった。
僕はだるまを抱えながら、その住所に向かった。
そこは神社だった。恐る恐る僕は鳥居をくぐり抜けた。
すると前から一人の女性が現れた。
僕は話しかけた。
「このだるまはあなたのものですか」と。
すると女性は微笑みながら答えた。
「届けてくれてありがとう!それ探していたの」
そう言ってくれた。僕はそのままだるまを渡した。
その後、頭を下げてそのまま帰ろうとした。
「あ。そうそう。あなたの財布、見つかってよかったね」
僕はピタッと足を止めた。そして振り返った。
そこには誰もいなかった。
僕はフッと笑い、一人神社をあとにした。
終わり