狐、妖怪の山を探索するその弐
守矢神社の鳥居の前で楽し気に早苗と───皐の膝の上に座ってだが───話しているルーミアを皐が小さく溜め息を吐きつつも微笑ましそうに見ながら───無意識の内だが───芋けんぴをポリポリと食べていると、境内の方から誰かがやって来た。
「早苗ー、もう掃除終わったー?」
境内の方からやって来たのは、目の様な飾りが付いた特徴的な帽子を被り、肩まで白い袖の紫色の服と紫色のスカートを身に付けた若干薄い金髪の幼女──洩矢諏訪子だった。
「あっ、諏訪子様……って、すっかり掃除の事忘れてました!?」
早苗の言葉を聞いた皐は呆れ、ルーミアはちょこんと首を傾げた。
早苗は竹箒を持って慌てながら境内付近への掃除に向かい、入れ替わるように諏訪子が皐とルーミアに近寄った。
「ルーミアと見慣れない顔だね。貴女は誰かな?」
「俺は皐、男だ。そういう幼女なあんたは?」
「誰が幼女じゃゴラァァァ!!」
諏訪子と皐のやり取りを見ていたルーミアは皐の服の裾をちょんちょんと引っ張る。
皐は怒鳴っている諏訪子に手のひらを向けると、能力でどら焼きを造り出し、ルーミアに与える。
「すっかりどら焼き好きになったな」
「エヘヘヘー」
どら焼きを笑顔で食べるルーミアを驚いた表情で見た諏訪子に皐は再び能力でどら焼きを造り出すと、諏訪子に渡す。
「ほれ、食ってみ?」
「じゃ、じゃあ……」
どら焼きを受け取った諏訪子は小さく開けて、恐る恐る一口を食べる。
「……美味しいね!」
諏訪子が驚きつつも美味しそうに言うと、ルーミアは、そうだよねー、と何故か自分の事のように喜び、皐は膝の上で喜んでいるルーミアの頭をポンポンと優しく叩く。
「そういえば、皐とルーミアは守矢神社に何の用なの?」
「此処がうちって……あんた、此処の神なのか?」
少し驚きながら訊いてくる皐に諏訪子はキョトンとした表情になる。
「あれ? 言ってなかったっけ? 私は洩矢諏訪子。此処守矢神社に祀られた神の一人だよ」
◇◆◇◆◇
事情を説明する皐の話しを聞きながらどら焼きを食べる諏訪子は、美味しそうにどら焼きの最後の一口を食べて完食する。
「なら、守矢神社の中で待ってなよ」
「いや、それはちょっと……俺、神ってのが苦手で」
「──へぇ、それは初耳だね」
諏訪子の申し出に皐が苦笑しながら答えると、突然声と同時に何かが空から皐へと落ちてきた。
皐は落ちてきている何かに対し、右腕に妖力を纏わせて何かを掴んだ。
「何で幻想になったものが集まる幻想郷にあんたが居る……八坂神奈子」
「それはそっくりそのままあんたに返すよ……皐!」
皐が声のした空へ掴んだ何か──『御柱』を投げると、投げた方からもう一本の御柱が飛んできて御柱同士が衝突して消滅し、御柱の飛んできた場所には肩まで袖まで白く、胴体の部分が赤い服に赤いスカートを身に付け、背中にしめ縄を背負った紫色の髪の女性──八坂神奈子が腕を組みながら空に浮かんでいた。
諏訪子が戸惑いながら皐と神奈子を何度も交互に見ていると、突然皐が近寄ってきて諏訪子にルーミアを無理矢理押し付けた。
「きゃっ!」
「あーうー!?」
「済まんがルーミアを預かってくれ」
皐が神奈子に振り返るのと同時に神奈子は御柱を二本を創り出し、皐目掛けて投げた。
皐は迫り来る御柱を見ながら左腕にも妖力を纏わせて、二本の御柱の先端を片手ずつ受け止めると、二本の御柱は一瞬で四つの小さくて黒っぽい茶色の御菓子に変わり、諏訪子とルーミア、そして神奈子に投げ渡す。
御菓子を受け取った神奈子は一口で食べると皐を見る目を細める。
「……相変わらず美味いな。お前の菓子は」
「今回は黒糖かりん糖だ。それに、今回の造る時の素材も良かったしな?」
神奈子の感想に皐が笑みを浮かべながら答えると、神奈子は少々呆れながら呟くように言う。
「『御菓子を造り出す程度の能力』……自身の妖力からだけでなく様々な物体から無理矢理造る(、、、、、、)事も出来る能力。見方によれば驚異的な能力と呼べるだろうね」
「訂正するなら無理矢理造る際に俺の妖力で物体の様々な力と中和させてからだが、な。てか、あんたの『乾を創造する程度の能力』とか完全に神の奇蹟と呼べるし、制限ないとか有り得ないだろ」
神奈子の言葉に皐は溜め息混じりに答えると、神奈子はキョトンとした表情をする。
「ん? どしたよ?」
「皐……お前、そんなってそんな感じだったかい?」
「そんな感じって……何が?」
皐が訳が解らないと言いたげな表情をすると、神奈子は何かを思い出すように小さく首を傾げる。
「昔のあんたはもうちょい余裕がなさそうというか、周り全てが敵みたいに警戒しまくってた気がするんだけどね……?」
「警戒しまくってた……それは多分、あんたと会ったばっかしの頃だな。何せ神様は妖怪を滅するような奴ばっかしだったし。そんな中あんな警戒しまくるような展開になったのはアイツ(、、、)のせいだ」
溜め息混じりな皐の言葉に首を傾げていた神奈子だったが、皐の言ったアイツが判ったのか盛大に溜め息をついた。
どうやら色々理解してもらえたようだ。
「……なら」
何やら決心した神奈子が空からゆっくりと降りると皐の目の前で地面に足が着き、それと同時に皐の腕を勢いよく引っ張り、皐は引っ張られた勢いで頭が神奈子の胸へと吸い込まれるように近寄っていき──
「んー!? んんんーー!!?」
「こらっ、暴れるな!」
神奈子の胸の間に頭を埋めながら突然の事でパニック状態になって暴れる皐に対し、神奈子は皐の頭を抱くように無理矢理押さえ付ける。
皐は何やら甘い香りと一緒に混じった微かな酒の香り、そして酸欠による呼吸困難で意識が途絶えた。
神奈子は皐の意識が途絶えた事を確認すると、顔を真っ赤にしながら胸に皐を埋めたまま境内へ飛んで行き、突然の展開に呆然としていた諏訪子とルーミアは慌てて境内へ走った。