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ヒーローたちのヒーロー  作者: にのち
2. ヒーロー候補と幽霊戦隊バケレンジャー
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2.11 地獄の沙汰もアバレ次第

 俺が眠っている間にネヴァーの野望は阻止され、世界は救われた。

 その経緯について詳しく聞くつもりはなかった。

 知らんぷりすることが格好よく、綺麗な終わり方だと気取っていたからだ。

 しかし、月曜日の部活動の際、紅蓮が二時間を費やして語り尽くし、俺の脳に無理やり詰め込んだ。

 現在、自慢話開始から二時間三十分。


「……つまり、紅蓮さんがバケインフェルノに変身して、コヨミさんが合流して、オオバケブラスターを一人で担ぎ、ネヴァーをぼっこぼこにして吹っ飛ばした、と」

「てめぇは俺の二時間半をまとめてんじゃねーよ」

「俺たちの二時間半です」


 紅蓮は周囲を見回す。

 俺以外の三人は全員が苦笑いを浮かべており、紅蓮は軽く舌打ちした。


「これから面白くなるってのによぉ……」

「えぇ……?」


 俺が思わずうめき声を出すと、青柳部長が笑った。


「本当に、その後は結構面白かったよ?」

「悪の組織の首領倒した後に、どんな面白いことがあるんですか……」


 紅蓮は不貞腐れた顔をしていたが、話したくてたまらないのだろう。

 口を尖らせて、何でもないような口調でしれっと言った。


「天界と地獄の使者をぶっ飛ばしたんだよ」

「えぇっ!?」

「ネヴァーが倒された以上、バケレンジャーなんて面倒くさいもんは要らねぇだろうからな」

「それに紅蓮がバケインフェルノになったことがお互いを刺激したみたいで、本当にすぐブレスを取り上げられる勢いだったよ」

「ムカついたからぶっ飛ばしてやろうと思ったら、先にコヨミが地獄の使者をぶっ飛ばしてた」


 俺は絶句してコヨミさんに目で問いかける。

 しかし、コヨミさんは下手な口笛を吹きながら目をそらしている。


「はぁ、俺が苦労して仕組んだり戦ったのは無駄ですか……」

「昌宏君が何とかなるって言ってたから、何してもいいかなぁー、なんて」


 天界と地獄にひと泡吹かせてやろうとしたことは確かだが、暴力で解決しようなどと思ってはいない。

 結局、紅蓮もすぐに地獄に戻るつもりはないようで、コヨミさんの心配は杞憂だったことになる。

 ヒーローらしくありたい。ヒーローを続けたい。皆と一緒にいたい。

 永遠に叶えられる願いではないにしても、世界を救った翌日に消えてなくなる願いでもなかった。

 別に平和な世界にバケレンジャーがいたって、誰も咎める者はいないのだ。


「……いや、咎めた人たちをぶっ飛ばしたんでしたね」

「おう。コヨミが地獄の方を殴ったから、紅蓮はあっちって優人が言うんで俺は」

「はいはい、わかりましたから!」


 これ以上、ヒーローらしくない話は聞かなくていい。

 天界と地獄の両方を、大暴れで追い返した話なんてヒーローじゃない。

 しかし、コヨミさんまで楽しそうに、朗々とぶっ飛ばした話を続けた。


「まぁまぁ、聞いてよ。それで天界に属する者が地獄の使者を殴った責任と、地獄に属する者が天界の使者を殴った責任を巡って、論争が起こってるの」

「……ん?」

「責任を押し付け合ううちに、私も紅蓮も正式に天界や地獄に属していないという結論に達してきて、両者は地上に追放すべきだという論調になりつつあって」

「……あれ?」

「変身ブレスは回収される可能性はあるけど、紅蓮は追放処分で、私も成仏見送りが決まりそうなの」


 俺は心に引っかかるものを取り除くため、青柳部長に訊ねる。


「……青柳部長が紅蓮さんに天界側を殴れとけしかけたんですよね?」

「その方がバランス取れると思ってね」

「こうなることを予測して?」

「うん、って言ったら信じる?」


 青柳部長の眼鏡がきらーんと光ったような気がした。

 俺は溜息混じりに弱々しく笑い、はぁー、と改めて溜息をついた。

 何のためにネクロと戦って、あんなにピンチにならなくてはいけなかったのだろう。

 そこで俺はハッとして、焦りを抑えつつ確認する。


「も、もし、ネヴァーみたいのが現れたら、バケレンジャー復活ですよね?」

「どうだかなぁ。俺の変身ブレスはぶっ壊れて、インフェルノどころかレッドにすらなれねーし」

「……あぁ、まぁ、いいか」

「何だよ、文句あるのか?」

「いえ……」


 そろそろ部活の時間も終わる。

 俺が帰る準備を始めると、紅蓮が言った。


「今回は助かったぜ、ありがとな」

「別にネヴァーとは戦ってませんし、世界平和に貢献はしてないですけど」


 ネクロと戦ったことはかなり苦労したので、これは謙遜である。

 ただ、紅蓮は俺の言うことを一睨みで否定した。


「そうじゃねぇよ。敵をぶっ飛ばして救える世界なんざ、いつだって救ってやる。俺は敵をぶっ飛ばさねぇ救い方は下手だからな。それを感謝してるってんだ」

「……まぁ、俺は紅蓮さんほど強くはないので」

「でもよ、お前もヒーローらしいと思うぜ?」


 相変わらず、地獄の狂犬の笑顔は恐ろしい。

 嬉しくて涙が出そうだ。


   + + +


 帰宅の途についた俺と野々宮を追うように、コヨミさんがふらりと現れる。

 普通に部室からついてこなかったのは、紅蓮と青柳部長に知られたくなかったのだろう。


「色々とごめん。そして、色々とありがとう」

「いや、余計なお世話でしたよ」

「でも余計なお世話されると、自分でやるよって思うでしょ、それ」

「……それですか」


 どうもコヨミさんを見ていると、助けたという実感が湧かない。

 この人は放っておいても自力で何とかしたのではないか、そう思えてならない。

 俺がそんなことを考えているとは知るはずもないコヨミさんは、朗らかな笑顔を見せる。


「そういえばさぁ、ネクロに勝ったことで何があったの?」

「……自分の持ってる情報を全部、青柳部長あたりに話せばわかると思いますよ」


 部活の際に話しすぎたので、気付かれているような気がする。

 俺は半ば自棄に言ったのだが、コヨミさんは困った顔で唸る。


「うぅ、今回のことは墓場まで持ってくつもりだから……」

「ツッコミませんよ」

「……ま、まぁ、もうちょっと自分で考えてみるよ」

「何だか仲間というわりに秘密主義ですよね」

「それでも察せるし、察せられるから仲間なんじゃない?」

「そういうもんですか」

「そう思うよ」


 意味ありげに微笑むコヨミさん。

 俺にはまだ、彼女の考えを察することはできそうになかった。

 そして、コヨミさんは現れたときと同じように、ふらりと消えた。


「……どうしたよ、野々宮」

「いや、別に?」

「やけにだんまりだったな」

「コヨミさんと話すべきことがあるんだろうな、と」


 つんとしている感じにも見えるが、それだけではなく野々宮なりの気遣いも感じる。

 野々宮の考えることなら、ある程度わかるような気がした。


「あのさ、ちょっとだけ言いたいことあるんだけどさ」

「何ですか?」

「あるんだけど、まだ言わなくてもいいか?」

「いいですよ。あと、私には新藤さんの考えてることは察せませんから」

「そうか、安心した」


 そう言いつつもお互いに何を言おうとしたか、何を言われそうになったのか、察した気がしてならない。

 これが信頼関係ができつつある状態だというのなら、仲間というのは難儀なものだ。

 俺は誤魔化すように空を見ながら言った。


「野々宮が魔法界救って、魔法少女やめても、友達はやめなくていいよな?」

「あっ、そういうことは言えるんですね」

「うだうだ悩んで悪の幹部と戦うハメになったら困るからな」

「ですね。ええ、こっちからもお願いします。最低でも一人は友達キープしておかないと」

「……寂しい魔法少女だなぁ」


 俺もクラスメイトで仲良くしているのは野々宮くらいなので、人のことは言えない。

 一応、席が近かった田中だか中田だか言う名前の男子とはよく話している。

 そういれば彼も中間テストの結果を嘆いており、実際、野々宮より嘆くべき点数だった。


「野々宮、テストの話だけどさ」

「ひゃいっ!? な、何で急にそこにっ!?」

「余裕あるうちに授業の予習とか、期末テストの対策しよう、一緒に」


 野々宮が言葉に詰まり、えー、とか、あー、とか言いながら考えている。


「是非お願いしたいのですが、ご迷惑ではありませんか?」

「一緒にやるだけだ。面倒見れるほどの頭じゃないからな」

「い、いえ、十分です。それから……」

「何だよ」

「……二人で?」


 俺の頭に色んなものが一気に降ってくるが、すべて押しのける。

 ここで会話を止めるな。気まずいだろうが。


「いや、俺の家で……違うっ、そんな顔するなっ!」

「ど、どんな顔してますか、私!」

「知るかっ!」


 一旦、落ち着こう。

 お互いにあらぬ方向に意識が向かいつつあるので、静かに夕陽を見つめる。

 横目で夕陽に照らされている野々宮の顔を見る。

 赤いなー。夕陽が。


「よし、俺が言いたいのはだな。最近、帰りが遅くて、うちのお婆ちゃんに心配かけてると思うんだ」

「あぁ、私もちょっと心当たりあります」

「それで言い訳に勉強会を使ったんだけど、実際にやろうと思ってさ」

「いいですね。普通にいい考えだと思いますよ」

「決まりだな」


 深く考えずに勢いで決定してしまった感は否めないが、とにかく決まった。

 俺と野々宮は相談し、今週は様子を見て、来週の火曜日から勉強会の開催することを取り決めた。

 果たして、今週、何の様子を見るのか。

 その辺りはお互いに察していたので、何も言わないことにした。

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