Ⅲ
その部屋は、子供部屋のようだった。小学生低学年くらいだろうか?そのくらいの子供が使う小さな机、小さな椅子。小さなベッド。そのすべてが真新しいが、なぜかほこりにまみれている。一度も使われなかったかのように。
「ここは、あの子の部屋?いつ、家に戻ってきたの」
外を見ると、日が暮れているのか何も見えない。
彼女は、部屋の様子には何の疑問も持っていない。これが、普通なのだろう。
人の気配のない、冷たい部屋。誰も使っていないかのようなこの場所が。
「ここに、何の用だ?」
振り向くと、そこにいたのは
「あきら!」
彼女は嬉しそうに顔を輝かせると、『あきら』に抱きついた。
「やっと見つけたわ。さあ、一緒に帰りましょう」
そう言って掴んだ彼女の腕を、彼は振り払った。
「どうしたの、あきら?」
『あきら』は何も答えない。ただ、眉をしかめているだけ。
「怒っているの?そうよね、ごめんなさい。もっと早く迎えに行ければよかったんだけど、お父さんに止められていたの」
『あきら』はそれにも答えない。彼女は、何か言い様のないものを感じて言葉を続ける。
「お父さんもお祖父ちゃんも、お祖母ちゃんも、みんな止めるの」
「早く見つけなきゃならないのに、あきらはいないって」
「ここにはいない、眠っているんだ、て。だから、探すのは諦めろ、それがあの子のためだと」
「だけど、そんなの嘘よ。あの人たちは、私が嫌いなの。だから、私からあなたを引き離した」
「でも、やっと見つけた。もう離さないわ」
いつの間にか、家族への怨嗟となり、狂気を宿していた。彼女の『あきら』を見る目は、恐ろしく優しくそして、虚ろだった。
「そこまで、時間です」
彼女に水を指すようにかけられた言葉。
「何を言っているの?ここは私の家よ、何であなたなんかにそんなことを言われなくちゃいけないの?」
いつの間にそこにいたのか、『レイリ』が扉の前にたっていた。
「あなたこそ、何をおっしゃっているのですか?ここは、屋敷の中ですよ」
「何を言っているの?ここは、私の家よ!!」
叫ぶ彼女に『あきら』は、静かな声で告げた。
「ここは、俺の家だ」
「そうよ。私たちの家よ」
「ここ来る前、花を見たな。何の花だ」
『あきら』の言葉は、およそ子供のものとは思えなかった。なのに、彼女は何の疑問も感じない。彼女は素直に答える。
「そうね、あれは確か、マツムシソウ・・・」
「マツムシソウの花言葉は、不幸な恋、恵まれぬ恋、そしてわたしはすべてを失った」
「何を、いいたいの?」
「まだ気づかないのか?お前の子は『 』」
急に、音が消えた。何かをいっているのはわかる、でも内容がわからない。わかりたくない。
あの子が、あきらが存在ないなんて。