国の男性
私が辺りを見回すと、馬に乗った誰かが私たちのところに向かってくる。その人は、私の目の前に来て馬から降りた。
「やあ、見かけないお嬢さん。」
「こ、こんにちは・・・」
「お嬢さん、お名前は?」
その人は細い指で私の手を取りたずねた。
見たところ、日本人ではなさそうだ。もしかしたら、ここって外国? しかし、この男性は日本語を話している。日本人、なのかな。
男性は私をまっすぐに見つめる。私が名前を言おうとすると、横山くんが口を挟んだ。
「人に名前を聞くときは、自分から名乗るのが礼儀だと思いますよ。」
今の横山くんの声は普段よりも冷たかった。男性は、横山くんをにらむように見た後、深く頭を下げた。
「僕の名前はエメライン・ローヴェル。では、あなたのお名前を教えてくださいますか。」
エメラインと名乗る男は顔を上げ、帽子を取った。話しぶりよりもずいぶんと若かった。エメラインは、色白で黄金に輝く髪を後ろで一つに束ねている。十八世紀のフランス貴族のようだ。
「わ、私は杉原美由です。」
私はぎくしゃくしながらも答えた。エメラインは私の手にキスをして微笑んだ。どういう反応をすればよいのか分からなかったので、作り笑いをした。
隣にいる横山くんの顔がこわばっている。どうしたんだろう。私は横山くんをじっと見つめた。目が合うと、横山くんは恥ずかしそうに顔をそむけた。
エメラインが私たちのやり取りを見ていたのかは分からないが、また横山くんをにらんでいた。
「君にも名前を聞いておこう。」
横山くんの眉がつり上がる。
「横山叶斗。」
横山くんはエメラインの眼を見ずに言った。
「カナート? 変な名前だな。」
エメラインが横山くんを見て笑う。
「違います。叶斗です。カナートではなく・・・」
横山くんが訂正してもエメラインは何も言わなかった。そんなこと最初から分かっている、とでも言うようにエメラインは肩をすくめた。
相変わらず、横山くんは眉を引き上げている。エメラインは不満そうに彼を見つめていた。