異世界への扉
「横山くんは私のことなんでも知っているみたい・・・」
私はこの廊下に入って初めて口を開く。横山くんはにこやかに笑った。
「なんでも知っているわけじゃないよ。でも見てたら分かるよ。君が暗いところが苦手なことや視力いいのに強が って眼鏡かけてることくらい。」
彼は私の顔を見てまた笑う。
「美由、授業中は眼鏡ずり下げてるだろ。バレバレ。」
私はドキッとしてしまった。今の発言には違和感があったのだ。“美由”今そう言ったよね?いつもは杉原って呼ぶのに。クラスのみんなには委員長と呼ばれ、家族には美由ちゃんと呼ばれているから美由と呼ばれるのは生まれて初めてだった。
その時突然横山くんが立ち止まった。前を見ると、巨大な扉が私たちの前に立ちはだかっていたのである。
「どうする?」
横山くんは扉をまっすぐに見つめながら言った。
そもそも私は横山くんを話し合いに連れ戻すためにこの廊下に足を踏み入れたのだ。戻らなければいけない。クラスのみんなになんと言われるか・・・。しかし戻るには私の背後にある暗闇に中に入ることになる。
今は前にある事実を受け入れるべきだ。今更、戻ることなんてできない。
「行くしかないよね、前へ。」
私が力をこめて言うと、横山くんは私の手をギュツと握りしめた。
扉の上部にはステンドグラスで何かの紋章のようなものが描かれている。ステンドグラスの向こうには、光があふれていようだ。
横山くんが扉をそっと押す。彼の目は、希望に満ちて光り輝いているように見えたが、緊張や恐怖感もうかがえた。
扉の奥からまばゆいばかりの輝きが流れ込んできて・・・私たちは目を閉じた。